55 ナーラ
「その耳は?」
ライトが目に入った耳を指さしながら聞く
「オデ、ドワーフだ、でも火も土もづがえね
村も襲われで、今は、奴隷だ」
そう言って首輪と鎖を見せ、簡単に身の上話をしてくれる。
彼女の名前はナーラ、士族名もあるそうだが、名乗りたくなく、
ドワーフとしては土と火の属性が無いので鍛冶屋ができなく、役立たずらしい。
緩い主人で村とダンジョン周辺からは離れられないが、
週に一回、稼ぎを集める以外は自由行動。
身体は小さいが22歳でここのキャリアをもう4年もやっているそうだ。
ただ、身体が小さいので中々雇ってもらえないらしい。
「ドワーフって初めて見たヨ」
「僕も」
「オデ、オメがマジッグバッグさ、料理入れでるの見だ
オメ達、ホンドはつえーだろ、オデ、役にだつがら雇っでぐで」
ナーラの目は真剣だった。
ライトは周囲の仲間を見回すと、皆、ライトがどうするか見ている。
「ご飯食べよう!」
「まあ、そうよね」「ライトらしいヨ」
「ナーラ、美味しいご飯の宿かお店知ってる?」
「知っでる、だだ、オデ、入れね・・・」
ラナはそう言って薄汚れたローブの裾をつまみ上げる。
「じゃあ、クリン」
ライトが予告もなしに洗浄魔法を使う。
ナーラの頭の上から小さな水流が巻き起こり、徐々に下がりながら身体と衣服の汚れを落としていく。
水流が下から上がる時に、ローブと貫頭衣が巻き上げられる、
刹那、ライトは目隠しされ、
ライトとナーラの間にはリータが立ち塞がっていた。
そうして、ナーラは肌着を付けていなかったのはライトの知るところとならなかった。
ヨークが自分のバックから肌着を出しリータに渡す。
リータはクリンが終わったナーラを木の陰に移し、
ローブを脱がして代わりに自分のローブを着させ肌着を付けさせる。
「いいわよ、行きましょ」
準備ができたようだ。
「ナーラ、どっち?」
ライトが道案内を頼むとナーラが歩き出す。
その足取りは力強く、俊敏だが、見た目は小動物がトコトコ歩いているように見えてしまう。
「ごごだ」
しばらくしてナーラが立ち止まり店の看板を指さす。
【ブッチャーショップ・リンドン】
そう書かれた看板の下に大きな骨付き肉のレリーフが飾られていた。
「うわー!良いお店!」
まだ、看板を見ただけなのに、ライトのテンションは爆上がりのようで、店内に突撃していく。
店に入ってすぐ右側にショーケースが設置してあり、その中には様々なブロック分けされた肉が綺麗に並べられていて、その前に値札が掛かれている。
ライトが綺麗な肉を食い入るように見ていると店員らしき女性が声を掛けてくる。
「食事ですか?買取ですか?」
「食事、お願いします!この肉、食べられるんですか?」
ライトが肉達を指さしながら腕を左右に振って確認する。
「はい、もちろん。いかようにも料理いたします」
笑顔で店員が答え、席に進めてくれる。
トゥトはすでにいなかったので5人でテーブルを囲い、ライトがオーダーする。
「あそこのお肉、全部、3人前づつ!お任せで!」
入り口のショーケースを指さすが、10種類くらいあったはずだ。
「ライト、多いヨ」「主、さすがにそれは」
「大丈夫!」
ライトは元気よくサムズアップする。
「ライド、オデ、酒・・・」
ナーラが遠慮がちに言うが目がランランとしている。
ライトは頷いて了承を示すと
「火酒あっが?」
店員はライトの方を目で確認するとライトは頷く。
後で知ることとなるが火酒は一杯銀貨5枚で、とても奴隷が口にできるものではなかった。
ナーラの笑顔が弾け、幸せそうな顔をしている。
ライトはその表情に親近感を覚えた。
「あと、エール3とブドウジュース1お願いします」
ライトがメンバーの飲み物を注文する。
飲み物が提供される時に、女性店員と一緒にコックコートを着たおばさんがテーブルに来てライトを一瞥し、
「坊や、味の好き嫌いはあるかい?」
「ないよ!」
ライトが元気よく応える。
「ふん、ちょっと待ってな」
ドスドスと足音を立てておばさんは裏に下がっていった。
提供された火酒のジョッキをマジマジと見ているナーラの容姿はテーブルの中で一番幼く見える。
ドワーフは成長に人の倍くらいの年月がかかるらしい。
ナーラはしばらく火酒と向き合っていたが、ジョッキに口を付けると一気に呷る。
ガンっとテーブルをジョッキで叩き
「プッハァー!ウッメー!」
と店内に響き渡るほどの声を上げる。
見た目、幼女の見事なまでの飲みっぷりと甲高い声の響きは店内に笑顔となんらかの熱量をもたらした。
ライトもその様子と声を見入っていた。
がそれを破ったのは運ばれてきた料理たちだった。
最初に冷製の2皿が運ばれてきた。
肉のミンチにしたものにタレと少量の香味野菜が混ぜられた独特な皿
外側が焼かれ、中が赤身の薄切り肉が綺麗に並べられ、何かフルーツのソースが掛けられた皿
ちゃんと取り皿も用意されており、皆、手を伸ばして料理を取る。
ナーラを含めて、遠慮するものはいなかった。
肉のミンチは少し甘辛い味付けで肉自体は噛むととろけるようになくなっていき、香味野菜の残り香が口の中をスッキリと保ってくれ、次々と口に運んでいたらあっという間に取り分けた肉が消えてなくなってしまった。
逆に赤身肉の薄切りはしっかりとした触感があり、嚙むと野性味が感じられ、それをフルーティーなソースが中和してくれて食べやすい。
料理を食べていたら、視界の端でナーラがジョッキを傾け、空のジョッキを手に哀愁を漂わせていた。
ライトは遠慮せずお替りしていいといったが、ナーラは次は自分の金で飲むといって辞退してエールを頼んだ。
その後も料理は次々と運ばれてきたが到着と同時に取り分けられ、たちまち消費されていた。
全ての料理を平らげた後でさっきのコックコートのおばさんが来て
「どれが一番美味かった?」
とライトに聞いてきた。
「全部、一番美味かった!」
ライトの答えに
「・・・ふん、またおいで」
それだけ言って、今度は足音を立てずに戻って行った。
「お会計は金貨2枚銀貨5枚です」
「ひょひゃー」
ヨークが奇妙な声を上げていたが、ヨークだけアルコールは飲んでいない。
ライトは財布から金貨と銀貨を取り出して支払いをする。
店の外に出てしばらく歩いていると、ナーラが急に立ち止まってライトに振り返り、手を取る。
「アリガド、ライド」
山吹色の目がライトを見つめている
「オデ、村がおぞわれてがら、初めで、火酒を飲んだんだ・・・」
「オデ、生きでで、いがっだーぁ」
山吹色の瞳が涙で震えているが、ライトを見上げることでそれを堪えている。
ナーラは振り返り、それ以上喋ることはなく、宿屋に案内してくれた。
山吹色のナーティアルが夜空に美しく輝く夜だった。




