52 ラルシーカ
冬の身体を刺すような風が日ましに柔らかく感じられ、日差しの暖かさが春の足音を運んでくる。
色褪せ寂しかった平原が少しづつ色付き始める。
ラルシーカのダンジョンに向かうのはDKとスカウトのトゥトの5人。
乗合馬車は基本、宿屋がある町や村を経由しながら進んで行く。
利用客はほぼほぼ、冒険者か商人である。
今回の馬車での移動ではベテラン商人のカルガが同乗していた。
「可愛い嬢ちゃんたちと一緒でおじさん嬉しいよ」
「「「・・・・」」」
嬢ちゃんたちは塩対応である。
理由は・・・それどころではないからで、
現在の彼女たちの内情はライトとの関係にそのほとんどが集約されている。
自分が強くなることももちろん大事なのだが、
強くなる結果、ライトと一緒にいれることがより重要であり、
そこに一生懸命で一杯一杯なのかもしれない。
「何の商売してるんですか?」
ライトがカルガに聞いている。
「ラルシーカのダンジョンでは肉に関するドロップが多いのでそれを仕入れてカインズの富裕層に売りに行くことがメインだ」
「肉?なんの肉ですか?」
「いろいろだが、オーク肉がメインだラルシーカには低層からオークが多く出現し
深層へ行くにつれて質の高いオーク肉がドロップする」
「オーク肉・・・」
ライトが既に食べたことのない肉に想いを馳せている。
「ああ、大きいブロックは俺の体重より重いぜ」
カルガの見た目は中肉中背の中年なので結構な食いでがありそうだ。
「それ以外にもミノや大型の鳥系のモンスターも肉をドロップするぜ、全部は持ち帰れないので俺はオーク肉専門だがな」
ライトにとっては最高の情報だ。
「早く、オーク肉、食べたいな」
色気より食い気なのはライトの家庭事情により仕方がない。
そして、この年代の男女関係ではやはり女子の成長の方が心身ともに早い。
さらに、ライトは同世代の中でも奥手の方なのかもしれない。
「ライト、最近の魔力はどうだ?」
珍しくトゥトが聞いてくる。
「最近は魔力をたくさん消費することが少ないから魔力量はあんまり増えてないと思う。
その分、魔力循環をたくさんしてるから魔力操作が前よりも上手くなったよ」
毎日のように女性陣の各オーダーに応えているので、
以前より繊細な魔力操作ができるようになったのは間違いない。
「威力はどうだ?」
「うん・・・」
ライトはそう言って白い杖を出し、何もない空に向けて構える。
「ホワイトレイ」
ライトが唱えると杖の魔石の部分に光が集まり、それが放出され、
馬車の荷台から白い光の筋が虚空へと消えていく。
「威力はサンダーボルトより強いけど、真っ直ぐしか飛ばないし、一発づつしか撃てないし、
放つまでの時間がかかるんだよね」
ライトは少し困り顔をトゥトに向ける。
「サンダーボルトが便利すぎるからな」
トゥトは一応そう返すが、贅沢な悩みとしか思えない。
馬車での移動も問題なく終わり、ラルシーカに到着する。
ラルシーカのダンジョンは町の近くにあった。
コルフェのダンジョンは人気がなかったので近くに村しかなかったが、
ラルシーカのダンジョンには小さいながらギルドの出張所があり、
それに付随するように、武器屋、宿屋、飲み屋なのが点在していた。
町に到達したのが昼過ぎだったので、ダンジョンの下見をする予定だったが、
馬車の降り場から大きな屋台が見えた。
そして、屋台にはたくさんのオーク料理が並んでいて、すでに香ばしい匂いを漂わせていた。
「わぁー!」
ライトが声を上げる。
そこには、串焼きはもちろん、クリーム煮込み、柔らか揚げ、衣焼き・・・・・
「これは仕方ないわね・・・」「だヨね・・・」「並ぶか・・・」
女性陣は善くしたもので、スムーズに事が運ぶ。
各々、売り場に並び、すぐに買えるだけ買い、ライトの元に持ち寄る。
「あ、ありがとう・・・」
予想外の女性陣の動きにライトは少し困惑気味だが、
それだけ女性陣によるライトの理解度が上がったことの結果だった。
だが、ライトの目はキラキラだった。
山のように盛られた美味しそうな料理たちのどれから食べようか目移りする。
「食べよう!」
ライトはそう言って串焼きに手を伸ばし、頬張る。
1本目は塩焼きのようだ。
皮脂身赤身の3層の肉は噛むと程よい弾力があり、層によって食感と味の違いを楽しめる。
塩と何らかのスパイスが肉の味を引き出し、脂を旨味に変える。
女性陣もライトが出した皿に好きな料理を取り食べ始めていた。
「揚げたの思ったより美味しいわね」「クリーム煮が暖まって美味しいヨ」「全部うまーぃ」
ライトも一通り食べ終え満足する。
トゥトは離れた場所でエールを立ち飲みしていたので、ライトは近づいて声を掛ける。
「トゥトはオーク肉好きじゃないの?」
「ああ、昔は食ったがな」
それ以上は応えない。
ライトは余った料理をマジックバックに入れて、辺りを見回し、他の屋台も確認しておく。
ダンジョンから出た時に買い忘れないように。
日が傾きかけたころ、ダンジョンの入り口に到着する。
入り口付近のゲートはダンジョンから上がってくる人たちで多少込んでいたが、
入る分にはスムーズだった。
リータ以外のメンバーはダンジョン踏破経験があることがギルドカードに記載してあったので、ゲートの職員に驚かれた。
「若いのに大したものだな、肉の恵みが多きことを」
そう言って送り出してくれる。
リータは踏破の記載はないがこのダンジョンは問題なく入れるようだ。
「踏破記載なくても入れるんだね?」
ライトの問に
「ここは低層でもオーク狩りができるから輸送専門も認められている
マジックバックがない場合、1匹目で大きな肉がでるとそれで戻る嵌めになるからな」
トゥトがそう言ってゲートの外側を指さす。
そこにはバックパックを背負ったいかにも荷物持ち風な人たちがいた。
「マジックバックがなかったら大変だったんだね」
ライトはそう言ってマイバックに手をかざす。
「ああ、計画が根本から変わる、食い物を背負って歩くだけでもお前は苦労しただろう」
「絶対そうだヨ」
「荷物の大半が食糧ね」
ヨークとリータの言葉に多少、皮肉が籠っている感じがする。




