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51 新たな

「ヨーク、ありがとう」

「ん?」

「ライトと2人の時間を作ってくれて」

「なんもないヨ」

ヨークはそう言うがいくら私でもそれくらいは解る。

「でも、楽しかったみたいだね」

「うん、思ったよりも」

ヨーク視点でもリータの顔が柔らかくなったように見える。

「それならよかったヨ」

そう言ったヨークは笑顔だったが、ほんの少しだけ寂しそうな顔をした、そんな気がする。


借り・・・だわ。借りが増えていくばっかりね。



買い物から戻って来て部屋で遠征の準備をしていたヨークにリータが話しかけにいったのだった。


「でも、ライトの買い物って・・・」

「そうなんだヨ、ほっとくとどんどん買っちゃうっていうか」

「お金、大丈夫なのかしら」

「それは大丈夫だヨ、多分。普通のD級冒険者よりも稼いでるみたいだから」

「そう、さすがライトね」

リータが嬉しそうに言う。

「そうなんだヨね」


ヨークの同年代はおろか、少し上の年代でもそんな稼ぎがいい人をヨークは知らない。


「やっぱり、凄い魔法使いさんだヨ」

「やっぱり?」

「初めて会った時にそういったんだヨ、そしたら冒険者になって2日目だって言われたヨ」

ヨークは思い出し笑いをする。

簡単に3人組に絡まれた話をして、

「僕は男だから女を守るって」

「ライトらしいわ」

「だヨねー」

2人で笑い合う。


楽しそうに話をしている2人を見てライトが入ってこようとする。

「何の話?」

「なんでもないヨ」

「女の子の話に入ってきちゃだめよ、ライト」

ヨークは口を押え、リータは腕組みをして、何故か入れてもらえない。


遠征の準備は買い物が終わればライトはもうやることがない。



ライトがソファーに座り暇そうにするとケリーが近づいてきて、

「主・・・」

「ん・魔力循環?」

ケリーがコクコクと頷く。

このところ、ケリーはライトの暇を見つけては積極的に魔力循環を頼んでいた。

最年長で冒険者ランクは一番高いのに、DK内での実力ランクは断トツで最下位なので後の2人もこころなしかケリーを優先してくれているきらいがある。


「属性は?」

「最初は火を少し、あとで無は長めにお願いします」

「わかった」


空いている床に布を敷き、胡坐をかいて手を繋ぎ目を瞑る。

「きつかったら言ってね」

「了解」


ライトの握るケリーの左手が急に熱くなる。

それでも初めて火を通してもらった時に比べると耐えられるが、

熱が肩を伝わり胸に届いた瞬間に全身から一気に汗が噴き出る。

「くっ・・」

耐えていたつもりだが、少し声が漏れてしまった。


属性に適正がなくても、その属性の魔法を使えないわけではないとフェイが言っていた。

もう一度フェイに詳しく聞くと、テスターに反応しないだけで全くないわけではないらしい。

なのでケリーはライトに火属性の魔力循環をお願いしてみたところ、使えるようになったが、

最初は心身ともに結構、負担がかかった。



ライトはケリーの手から汗が流れ落ちているのを感じ

「これくらいにしとく?」

「もう少し・・・」

「じゃあ、あと少しだけ」

もう既にケリーが握るライトの手にはかなりの力が込められていたがライトもそれを黙って我慢する。


やがて、ケリーの手がプルプルと震えてきたのでライトは魔力循環を止めて手を放す。


「ぷはぁー、ハァーハァー・・・」

ケリーは滝のように汗を長し、肩で息をしている。

ライトはジョッキに冷えた井戸水の入った革袋から水を注ぎケリーに差し出すが、

ケリーはそれを受け取らず、肩で息をしたまま目を瞑り、手を組む。

時より肩や足先がビクっと跳ねるが、

体内の火の魔力の動きを感じているようだ。


「あまり、無理しないようにね」

ケリーは流れる汗をそのままにゆっくり頷く。


熱気で部屋の温度と湿度が上がるがそのことを指摘するものはいない。


「あ・・・」

ケリーが気の抜けた声を上げる。

自分の意思とは無関係に魔力循環を止めたからだ。

恐らく、ライトの『無理をしないように』が命令と捉えられそれに抵触したのだろう。


ハァーっと大きく息を吐き頭を振って、

ライトが置いてくれたジョッキを手に取り一気に飲み干し、部屋を見回してライトを探す。


そうすると、ライトの手を取っているヨークと目が合う。

(そうはいかないヨ)とヨークが目で言っている気がした。


ケリーは無言で立ち上がり、敷いてあった布と干している綺麗な布を持って外の井戸へと向かう。



ヨークは1人がけのソファーを向かい合うように移動して、先にソファーに座っているライトの手を再び握って言う。

「無属性をいつもの量で長ーくだヨ」

「わかった」

ライトが目を閉じるのを確認して少しその顔を見てからヨークも目を閉じる。

本当は✖✖してしまいたいが、我慢する。


そんな他のことを考えていると、ライトに握られた左手がビクリと反応してしまう。



左手の指先からソレはヨークの体内に入ってくる

ゾワゾワっとソレが通過した部分の外皮に鳥肌が立つのがわかる

撫でられた神経がその信号を背中、首、頭から足先まで駆け巡る

その触覚に反応してヨークの全身が強張り、結果としてヨークの身体がピクンっと跳ねる


「・・・・っ」

ヨークは息を止め、奥歯を噛み、声が漏れないように耐える。


そして、ソレが魔臓に到達すると、全身を駆け巡る信号がさらに増え、

加えて肌が撫でられてる感覚が、体内の全体に広がっていく


ヨークの身体はもう一段硬く強張り、足先の指にまでギュッと力が籠められる


背中からお尻に掛けてドッと汗が吹き出し、二の腕や太腿には鳥肌が立つ



魔力の流れ方も感覚の伝わり方も当然個人差がある。

味覚や聴覚に差があるように、神経器官の発達にも差異があるのだから当然である

ヨークの場合は触覚器官が人よりも鋭敏なのかもしれない


ライトも幾人かに魔力循環することになったのでそのことが少しは理解できるようになってきたので

ヨークに対し気遣いのつもりで弱くしたり、早くやめると必ず

「もっとだヨ」「もう一度だヨ」

とやり直しを要求される。


結局はヨークがその言葉を言えなくなるくらい疲労するまで魔力循環することになるのだが

ヨークの要望なので仕方がない。

多分、以前フェイが『この後仕事にならない』と言っていた状態である。


今もヨークはライトの閉じた目の前で必死にソレに贖い耐えているかと思うと

心が痛い部分がある。


ライトがふと目を開けると


色白の肌を上気させ恍惚とした表情で目頭に涙を貯め、口をハクハクしているヨークの姿が飛び込んできた。

飛び込んできてしまった。


ライトの心に感じたことのない感情が湧いてくる・・・


その感情に従いヨークに流す魔力量を少し増やす


「ヒャ・・・・ハァ・・・ァァ」

ヨークの身体が跳ね、小刻みに震えている。


魔力量をもとに戻しても

「ハァ・・・ハァ・・・ン」

ヨークの呼吸は荒いままで身体のあちこちがピクピクとしている。


ライトはもう一度、今度は魔力量をさらに増やす


・・・・・・

・・・・・・・・・


ライトは数度、その工程を繰り返し、ようやくヨークがライトの手を放す。


ヨークはソファーで放心状態で身体を投げ出すように伸びていて、時折、ビクンと体を跳ねさせる。

ライトは心配になり、ヨークに寄り添い手を握りジットリと汗をかいている額に手を当てる。

ピクっと身体が反応するが、ヨークが小さい声で

「ありがと、ライト」

と言って瞳を閉じた。


ヨークの唇が軽く開いていて、ライトはその柔らかな唇から目が離せない。


スッチュッ

ヨークの唇にキスをする。


「・・・んん」

唇の間からヨークの声が漏れ、全身がピクっピクっと跳ねている。



唇を離すと何かが暴走しそうなライトに、いつの間にか近くにいたリータが手を引き振り向かせる。


リータの顔が赤い。


「わ・・・・わたしも」


リータはそう言って、空いている手をライトの背中から首に回し、瞳を閉じて、唇を奪う。


ライトは息を飲み、リータの真っ赤な顔を至近距離で見ていたが・・・

唇の感覚に身を委ねる。


唇にリータの熱と想いが伝わってくる気がする。


それは長く続いた。


数年分の想いがリータの中で反芻する。


ライトが旅立ってから、

デカブツから守られたとき、

違う、たぶん、もっと前から・・・


リータが唇を離し

「・・・スキ」

ライトの反応を待たず、また、唇を塞ぐ。


唇が離れライトが目を開けるとリータの目と合う。

「ライト・・・スキ」

そして、再び唇が塞がれる。

その時にリータの閉じた瞳から涙がこぼれた。


その綺麗な涙がライトにリータが女性であることを気づかせる。


姉弟のようだった、隣に住む理不尽な姉。

そうじゃない関係性が求められていることをようやく知ることができたライトだった。

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