47 学び
「主、怖かったよ~」
ケリーが泣き止んで喋れるようになった。
怖くても逃げない。
ライトはケリーが、乗り越えられたとなんとなく思った。
大き目の魔石を回収し台座に出ている宝箱を開けると金貨が数枚と銀貨がたくさん入っていた。
「今回は石はなかったヨ」
ヨークがコインを回収しながら報告してくれる。
「今日は遅いからここで野営したらどうだ?」
トゥトが提案してくれる。
「ボス部屋は安全なの?」
「部屋内にいるうちはリポップはしない、人が多いダンジョンではマナー違反なんだが、
ここまでくる冒険者はいないだろう」
「じゃあ、今日はここで野営しよう」
「わかったヨ、ダンジョンでも野営ってするんだね」
「ああ、大きいダンジョンでは10日以上潜るときもあるからな」
野営と言ってもライトがテントと食事をマジックバックから出してクリンをすればほとんど終わりである。
食事も終わり、ライトは物思いにふける。
「ダンジョンの意思・・・・」
ライトが思慮の目をしながら言うとヨークが聞く
「ライトは何て言われたの?」
「力を何に使うのかって聞かれて、ドラゴンを倒したいって言ったら
その力は強大で100も1000も命を奪うかもしれないって言われて・・・」
「うん」
「悪いことには使わないって言ったんだけど」
「うん」
「善悪ってなんだって聞かれた」
「なんか・・・難しいね」
「うん、僕は答えられなかったから、教えてっていったら、善も悪もないって言われた」
「よくわからないヨ」
「僕もわからないっていったら学べって言われた」
「学べ・・・か。
ダンジョンには人の残留思念が溜まっていって、それが意思になるんじゃないかって言われてる」
「残留思念?」
「死んだ人の魂とか考え方とかだな、ここは古いダンジョンだから、教会の関係者や学者、学院の先生とかの犠牲者がいるのかもしれないが、本当のところはわからない」
「なんかちょっと怖いヨ」
ヨークは背中がゾクリとした。
「善も悪もないってどういうこと?」
ライトがトゥトの方を見て問う。
「俺の解釈で言うなら、ライトは鳥やホーンラビットを捕って食べるだろ」
「うん」
「それは悪いことか?」
「そう思ったことはないけど・・・」
トゥトが一度頷いて
「ゴブリンやオークが人を襲うのは悪か?」
「それは悪だヨ」
ヨークが答える。
トゥトがもう一度頷いて
「ホーンラビットから人を見たらどうだ?」
「ホーンラビットから・・・・善悪は見方が違うだけってこと」
ライトの答えにトゥトが頷く。
「エルフやドワーフ、獣人、魔族、そして人を一番殺しているのは人だ」
ヨークがビクっとし、ライトが目を見開き、ケリーが武器の手入れの手を止め、顎を引き耳を傾ける。
「・・・・なんでそんなことをするの?」
「生きるため、食べるため、守るため、子供を育てるためだな
お前の村は飢えたことは無いのか?」
「・・・うん」
「幸せなことだな、世界には常に飢えている国や人がいる」
「うちの村ではあった・・・」
ケリーが俯きぽつりと語りだした。
「わたしが子供の頃、大雨で収穫の大半がパァ。
ひもじい思いをした。
隣村はもっと酷くて畑が全滅に近かったらしい、そして、争いになった。
それ以来、村の大人の男を何人か見なくなって
隣村はなくなった」
「11年前、シーナ川下流域か?」
「ああ、それだ、だから飢えるのはまっぴらだ」
「僕は飢えたことなんかない・・・・」
「わたしもない・・・かな」
ウチはいつも食事を何よりも大切にしている。
そして、父さんはよくお祈りをしていた。
父さんの言葉、一言一句、覚えている。
「世の中には様々な悪意や不幸が転がっている
それがいつ自分に降りかかるかわからない
父さんが守れる範囲は全力を尽くすが
手が届かないときは母さんとティファは男のお前が守るんだぞ」
ライトが口ずさんだ。
「ライト・・・」
「僕は父さんに守られていたんだ」
「アカマット村は開拓村だろ?」
「うん」
「開拓する前は人のものではなかったが、先にそこにいたモノからすれば」
「・・・うん」
「全て奪われたことになる
それをエルフやドワーフにもやったのさ
それどころか、未だにやっている」
「・・・・」
誰も声がでない。
「それのデカいのが戦争だ」
「戦争・・・」
ライトが呟く。
「どうだ、少しは学びになったか?」
「うん、ありがとう、トゥト」
「ああ、じゃあ、俺は先に休む」
そう言ってテントに入って行った。
ライトの頭の中ではいろいろなものが渦巻いていた。
アカマット村が他国の兵士に蹂躙されていることや
全く知らないエルフの小さな村が人に襲われていることが
頭から離れない。
自分がホーンラビットを狩るように
妹のティファがオークに追われ、狩られていることに重なる。
もし、村が襲われたら、自分の魔法が胸を貫くのは人になる。
善も悪もない・・・・
生きるため、食べるため、守るため、子供を育てるため
暗い、得も言われぬ恐怖にライトの心が苛まれる。
ライトが自分の肩を抱き震えていた。
ヨークは何も言わず、それを包むように抱きしめて、夜は更けていく。




