41 炎の八つ当たり
「初めてしてもらった時は・・・
一日中・・・身体の中と外、頭の中から足の先まで
・・・・ずっと撫でられてる感じがしたヨ」
ヨークのその表情と言葉に
フェイとケリーが思わず身悶えする。
「最近はちゃんと無属性の魔力を流すようになってくれたから
最初の頃に比べると大分楽になったんだヨ」
紅潮した両頬を両手で押さえながらヨークが恥ずかしそうに言う。
「ギルマスも極上だぜって言ってたっスね」
フェイがジト目でライトを見ると、
ライトは困った表情で固まっていた。
「僕はもう魔力循環しないほうがいいのかな」
ヤバいを否定と捉えたライトには事の全容がわかっていないようだ。
「そうじゃないっス、全然、そうじゃないんスけど・・・」
フェイが否定というかライトを擁護したいのだが、言葉が出てこない。
「私はたくさんしてもらいたい」
「私もだヨ」
手を上げて言うケリーにつられて勢いよく言ってからまたヨークが顔を押さえている。
「私からの提案はパーティーメンバー以外にはやたらと魔力循環しないほうがいいっスね、
いろんな意味で・・・」
「わかりました、気を付けます」
「誰かほかに魔力循環した相手はいるっスか?」
「あとは・・・妹のティファと隣のリータくらいです」
「妹さんとお隣さんっスね、回数はどうっスか?」
「ティファには数回、リータにはほぼ毎日です」
ライトは天井に視線をさまよわせ、思い出しながら言う。
「「「毎日~!」」」
女性3人の声がそろった。
「リータはいつも理不尽で僕に拒否権はなかったので、でも、最初の頃は全然、魔力を動かせなかったから魔力量はちょっとだけです。
妹はほとんど反応なかったです」
ガシっ
ライトの手が掴まれる。
そして引っ張られていく。
掴んでいるのはヨークだ。
フェイの部屋(魔法部署)から出て、ギルドの2階の個室がある方へ連れていかれ、
空き部屋の個室のドアを開き中へと押し込められた。
「そこに座ってライト」
ソファーを差しライトに向かって言うヨークからは未だかつてない圧のようなものがでている。
「・・・はい」
「リータって誰?」
立ったまま顔を近づけてヨークが聴いてくる。
「隣に住む狩人の娘です」
「歳は?」
「ヨークと同じ13歳です」
「どれくらい魔力循環してたの?」
「ご、5年くらい・・・です」
ヨークが一瞬、息を飲み、続ける。
「魔力循環してどうだった?」
「・・・リータはいつも我慢してるか何かに耐えてる感じだった」
「それで」
ヨークの声が震えている。
「リータが辛そうだったり耐えきれなくなったらやめるんだけど・・」
「う・・ん」
「リータがもう一度よ、まだよって何回も・・・やらされた」
「・・・・」
ヨークの尋問が途絶える。
手をきつく握り俯いて肩を震わせていたが
やがて
ポタポタッ
握られていた手に涙が落ちてきた。
「ヨーク?」
「ライトのバカ・・・・ライトなんか嫌い」
バタンッ
ヨークが部屋から飛び出していく。
「ヨーク!」
ライトは名を呼んで手を伸ばすが、足が動かなかった。
嫌いの一言がライトの身体からエネルギーを奪ったかのように力が入らない。
「主、追いかけた方がいい」
部屋の外で様子を窺っていたケリーが部屋を覗き込んで心配そうに言うが、
ライトは伸ばした手を握り追いかけることができなかった。
冒険者ギルドから駆け出し、どこに向かっているのかもわからず、
やみくもに足の向くままに走っている。
この半年での身体能力は当人が思ったよりも著しく成長していて、
走力もその類に漏れることはなかった。
どのくらい走ったか・・・
息が続かなくなり、木に手をついて、ヨークが荒い呼吸を繰り返す。
走っているときに心に浮かんできたことは
ショックを受けた。
5年も魔力循環をする相手がいたことが・・・
ライトがケリーやフェイと魔力循環をするだけでも、ヨークの心は穏やかならざるくらい波たったが
頭で考えて必要なことだと自分を説得していた。
その考えが霧散するほどライトは他の女の子と魔力循環をしていた。
信じられない、意味がわからない・・・・
でもそれは過去の事だ。ライトも頼まれれば嫌とは言わないだろう。
ヨークは何とか飲み込もうとするが・・・
「もう一度ヨ、まだヨって・・・」
それは自分が言いたくても言えなかったこと・・・
それをライトに言える相手がいたこと。
ライトが自分に無理をさせないように気遣ってくれてることは理解している。
先に進むのを怖がっている自分がいることもわかっている。
「バカは私だヨ・・・」
自分でも初めて知る自分の嫉妬や弱さ。
何もわかっていない。事あるごとにそれを痛感するヨークであった。
チク。
「ツゥ」
右の太腿に痛みが走る。
見るとそこには針のようなものが刺さっている。
「たしかにバカだね、ハッハー」
声の方に振り向くと銀髪、つり目で長身細身の女が笑い顔でヨークを見ていた。
そして、女の背後にはいつぞやの3人組の顔が見えた。
ヨークの警戒心が真っ赤に染まり心臓が早鐘を打つ。
「お前、ヨークだろ、ライトのパーティーの?」
ヨークは応えず、太腿の針を抜く。
傷口がジクジクと痛み、普通の刺し傷とは違う感覚だけはわかった。
「親分、こいつで間違いないです」
3人組のリーダー格だった男が親分と呼ばれた女に報告している。
「前にこいつらが世話になったそうだね~」
女は腕を組み、方眉を上げながら笑みを深める。
ヨークは腰に吊るしてあるメイスを右手に構える。
「メイスなんか持ってアタイ等とやろってーのかい?」
ヨークは咄嗟に判断し詠唱中に間合いを詰められると4人は倒しきれない、
身体強化を使って打って出ると決めた。
「お前等!こいつの踏み込みはスピードがあるから気を付けな!」
その雰囲気を察したのか親分が警戒の指示をだす。
「くっ」
ヨークが出鼻を挫かれて奥歯を噛むが、右足に痺れのようなものを感じた。
デブがナイフを小柄な男がショートソードを構えながら左回りにジリジリと間合いを詰めてくる。
ヨークの正面には親分とリーダー格の男がショートソードを抜いている。
ヨークは身体強化を使い正面のリーダー格の男の足を目掛けてメイスを振るうが右足の踏ん張りがきかず、体が右に流れていく。
男は予想以上のスピードに腰が引けショートソードの攻撃は繰り出せない。
代わりに親分が男の影から隠していた吹矢でヨークの顔目掛けて矢を吹く。
ヨークは体が崩れながらも咄嗟に顔の前に左手を出して、振り返り、体勢を立て直す。
しかし、ヨークの左手首と肘の間に針が刺さっていた。
ヨークはすぐに針を抜いてそれを捨てるが、
その痛みがヨークの自分への怒りに火がつき、顔が笑ってくる。
「ちょうどいい痛み、目が覚めるヨ
ちょうどむしゃくしゃしてたから、どたまかち割るヨ」
左手の傷を舐めながらヨークの気配が変わる。
メイスを引きずりながらゆっくりゆらゆらと近づいてくる。
その迫力に3人組は気圧され後手を引く。
ヨークの動きに先ほどのスピードはないが気迫と殺気の籠ったメイスの一撃が地面を叩く。
ボゴッ。
頭に当たれば文字通り命はない。
その一振りで流れが変わる。
狩るものから狩られるものへ
「5年ってなにヨ~」
ボゴッ。
「私にエッチなことしたくせに!」
ガゴッ
「私以外に何人も魔力循環して~」
ボゴゴッ
ヨークのメイスは空を切るも殺傷能力は十二分に込められている。
「小娘になにビビってんだよ!」
親分の声にリーダー格の男が反撃にでる。
ヨークのゆっくりの攻撃を躱してショートソードで横薙ぎを繰り出すが、
その攻撃に対してだけは身体強化を使って躱され、
殺気の籠った一撃で振り終わりの腕を狙われる。
「ライトのバカーー!」
ゴツッ
メイスは手首にヒットしてショートソードは叩き落され男の両手首があらぬ方向を向いている。




