39 出会いと別れと
「お母さん、これ、今回の報酬の半分だヨ」
そう言って母に金貨を5枚渡す。
「ヨーク、お前、これ・・・」
アリーシャが金貨を見て少しオロオロしヨークを見る。
衛兵だった父の給金が週銀貨3枚、職務上亡くなったので今は週銀貨2枚支給されている。
なので、ヨークの家では金貨にお目にかかる機会はあまりない。
アリーシャにしてみれば
まさか、娘が冒険者になって金貨を稼いでくるとは夢にも思っていなかっただろう。
本当はあと60枚の借金分の金貨20枚あるのだが、とても言い出せる雰囲気ではない。
「ライトさんになんてお礼を言っていいのやら、ヨーク、ちゃんと尽くすんだよ」
「うん、わかってるヨ、お母さん」
昨日は夜遅くにトマテ亭に泊まり、今日は遠征帰りなので1日休みとなった。
ヨークは当初、一旦は家に帰り、お金を渡して無事を報告してゆっくりするはずだったが、
あの主従を放置してゆっくりなどできるはずもない。
ヨークと別れて2人は療養所に行って、午後からはギルドで鍛錬するらしいので、
ヨークはなるべく早く合流したい。
ヨークはパーティーの現状を話し、今後はパーティー3人で宿泊することが増えるかもしれないことを母親に説明した。
「じゃあ、私、いくヨ」
「がんばっといで」
落ち着きなく家を飛び出していく娘を心配の顔で見送る母親であった。
「俺たちの命があるのはライトさんたちのおかげです、本当にありがとうございます」
「ありがとうございます」
病床のドルトとユーフィがライトに頭を下げる。
「自分もリーダーとして、感謝しています」
隣のケリーも頭を下げる。
「いえ、トゥトの的確な判断と指示があったからです、僕はただ、無我夢中で」
そう言ってライトは手を振って否定する。
「そうは言っても、ほとんどのゴブリンとボスは主が倒したんだぜ」
「まあ、そうだけど・・・」
「私はもう、諦めていました、ああ、もう、このまま死ぬんだなって、そしたら、突然、ゴブリンたちに穴が開いたかと思うと倒れていきましたから」
初めて、ちゃんとユーフィと会話をしたかもしれない。
「僕はトゥトの指示通り動いただけですよ」
ライトは謙遜ではなく本当にそう思っている。
「今、思い返しても、主の魔法は凄かった。ゴブリンたちを瞬殺だぜ」
ケリーが左手を伸ばしてライトの真似をする。
そんな穏やかな会話がしばらく続いたが、話題が今後の事に移っていく。
「借金のことは気にするな、リーダーのわたしが責任を持って払う」
「お前1人に背負わせるわけにはいかないだろ」
「ドルトが回復しても2人の稼ぎじゃたかが知れてるし、私たちがご一緒したら足でまといにしかならないわ」
「いや、ダイナアサルトは解散する。お前たちはディアナに帰れ。
ユーフィやドルトをもうあんな目に合わせたくない。
落ち着いてもしまた冒険者がやりたかったら戻ってこい。
これがリーダーとしてのわたしの最後の決断だ」
元々、ダイナアサルトはディアナ村の仲間で脳筋姉御のケリーを心配して2人が付いて来てくれたところがあった。
脳筋だけあってパーティーのダメージディーラーでもあるケリーが抜けたらパーティーで稼いていくのは大変だろう。
そして、あんな目のところで2人は反対する言葉がでてこない。
「それに、わたしは、主に仕えることが、なんだか嬉しいんだよ」
「・・・・なんか、すみません」
「ケリーをよろしくおねがいします」
ユーフィとドルトがまたライトに向かって頭を下げる。
結局、ダイナアサルトは解散になり、ドルトの槍とユーフィの杖とローブなど数点の装備をライトが金貨10枚で買取、2人はケリーの借金返済に充てようとしたがケリーがこれを固辞した。
「冒険者を辞めるなら装備より金の方が必要だろ、田舎に帰って再出発の足しにしてくれ」
がケリーの言葉である。
ドルトの傷はもうすっかり治っていて、出血が多かったので入所したが、問題なければ、明日には退所できるらしい。
「わたしはもう、主の奴隷だ、お前たちに会う自由は本当はない、これで最後だ、達者で暮らしてくれ」
「わかった、お前もな」
「お2人の出会いに幸多からんことを」
3人なりの別れかたらしい。
ライトはあまり、人の別れに出会う機会がなかったのでよくわからないが、
なぜか、これは良かった気がする。
別れをすました2人はギルドへと向かう。
「あいつら、たぶん、結婚するな。お前らこそ幸せになりやがれってんだ」
道中、ケリーが小声でそんな独り言をつぶやいていた。
D級冒険者にまでなれば、田舎に帰っても衛兵や狩人としても例え畑仕事をしてもそれなり以上には活躍できるはず、などとケリーがライトに教えてくれた。
ギルドに着くと入り口の前でヨークに呼び止められる。
ヨークはホーンラビットの串焼きを袋に入れ抱えていた。
ギルドには自由に使えるテーブルが何セットも置いてありそのうちの一つに3人で座り串焼きを食べる。
「昼ごはんありがとう、ヨーク」
「頂きます、奥方」
「まだ、食べてなくて良かったヨ」
食事をしながらライトはケリーに今までの冒険者稼業を聞いてみた。
ケリーが言うにはほぼほぼ、できるクエストを受けてお金を稼ぐのルーティンらしい。
修練場をつかったのはF級のころに数度あったくらいだそうだ。
「じゃあ、今日は大修練場で修練しよう」
「ライトの提案に2人は頷く」
大修練場で改めてケリーの装備を見てみる。
ケリーは16歳で男性の平均身長程度なのでライトからは大柄に見える。
背にはトゥーハンデッドソードを背負い左手にはガントレット、体には鎖帷子に胸当てが付いている。
そして、手には少し痛々しい布が巻かれていた。
「得意技は踏み込んでの突きと下段横薙ぎです」
「とりあえず、手合わせしてみよう」
ライトはこういうときは怖いもの知らずである。
流石に真剣では練習にならないので木剣での手合わせになるが
ケリーのトゥーハンデッドソードの長さの木剣はなかったので仕方なく一番長い木剣を手に取る。
ビュッ
「かりー」
ケリーが木剣を一振りし漏らすが長さも幅もない木剣なので当然のこと。
ライトも自分のショートソードなみの木剣を持って対峙する。
「主は魔法使いじゃないんですか?」
あまり様になっていないライトの姿を見てケリーが質問する。
「トゥトが魔法使いでもある程度は近接戦闘できないと話にならないって言うんでダンジョンクリアーまではファイターなんだ」
「了解、じゃあいきますか」
ケリーがそう言って剣を横薙ぎに振る。
ライトはバックステップで躱しながら剣を振り上げ着地と同時に踏み込んで振り下ろしを放つ。
ケリーの剣も横薙ぎから止まることなく上段に回り振り下ろされて木剣どうしがぶつかる。
ガゴッ
大修練場に響き渡る音がする。
基本、中級以上の冒険者は修練場になどこないのでここにいるのはGFE級の初級冒険者がほとんどである。
なので2人の戦いは注目されていた。
ただ、体格的には大人と子供なのでケリーにライトがあしらわれている感じだ。
「じゃあ、ちょっと使うね」
ライトがそう言うと、急に空気が変わる。
ケリーもその緊張感を感じ取り、慎重に構えを取る。
ガッ
ケリーが正眼に構えていた木剣に衝撃が走る。
そこにはライトの横薙ぎの木剣が既に当たっていた。
風のようにケリーの横を何かが通り抜けていったので反射的にそちらに向き直り直後、
ガッ
また、木剣が叩かれる。
「ちょ、ちょっと」
ケリーがそう言って手を上げたのでライトが止まり、
「どうかした?」
不思議そうに聞いてきた。
「ちょっと使うってなにを?」
「身体強化だよ」
「アレでちょっと・・・?」
「わたしは全開で使ってやっとアレくらいだヨ」
「奥方・・・も?」
ケリーの言葉に2人が頷く。
「ちょっと2人の修練を見せてもらってもいいですか?」
「もちろん」「いいヨ」
そう言ってライトとヨークが向かい合い、
「わたしはメイス使うヨ、どうせライトには当たらないから」
ドゴッ
ヨークがそう言ったと同時にライトが居た地面にメイスがめり込んでいた。
そのヨーク目掛けてライトが木剣を横薙ぎで振る。
ヨークはメイスを引きながら背中のシールドでライトの木剣を受けながら反動でメイスを振るう。
ビューッ
メイスがしなりを上げて風を切る。
ケリーも周囲もしばらく無言で2人の修練を見ていた。
「わたしも田舎に帰った方がよかったかも」
ケリーがそう独り言ちた。




