閑話 チジェク売りの少女
わたしはマーサ、そう呼ばれている
年はよくわからない
気づいたら裏路地で生活していた。
ゴミをあさったり、露店の果物をパクったりしてなんとか生きてきたけど、
もうそれも限界。
2日も何も食べれてない。
ああ、わたしも、もうすぐ、裏路地で片付けられた子たちみたいになるんだ・・・
お腹が空きすぎて真っ直ぐ歩けない。
ドスドスドス・・・
後ろからそんな音がするけど、振り返る余力もなくて、
なんとか避けようと道の端に動こうとしたらふらついて膝から崩れ落ちちゃったのと同時に
ドスドスドス、すぐ横をそう音を立てて、右手と右足を一緒に動かしてるヘンは男の子が歩いていった。
「キャッ」
わたしが小さく悲鳴を上げたら、そのヘンな男の子は立ち止まって辺りをキョロキョロ見回し、
わたしを見つけて近づいてきた。
「ごめんなさい!ぼく、ぶつかっちゃった?怪我してない」
わたしはびっくりして首をフルフルと振っていたら
その男の子はわたしの膝が赤くなってるのを見て
そこに手を当てて聞いてきた。
「怪我しちゃった?痛くない」
「す、すこし、、ダィジョ、ブ」
「そか・・・」
その男の子はそう言いながら膝には手を置いたまま、
もう片方の手を自分のバックに突っ込んだ。
そして、引き抜かれた手にはバックより大きなざるが握られていた。
??・・・意味がわからず、ぼーと見ていたら、その男の子はざるの上に果物をどんどんと置いていく。
「今日採ったチジェクだよ、よかったら食べて」
笑顔でそう言って立ち上がった頃には指の数では全然足りないチジェクが山積みにされていた。
手を当てられていた膝も痛みが引き赤みもなくなっていた。
「じゃあ、ぼく、行くから」
そう言ってヘンな男の子はドスドスと右手と右足をそろえて立ち去って行った。
キョトンとして残されたわたしはふと、目の前に山のようにあるチジェクの真っ赤な実に
震える手をなんとか伸ばし、
それを手に取ると必死に皮ごと貪りついた。
皮は苦かったけど、
中の柔らかな果肉から甘い果汁が溢れ出し口の中を満たしながら喉を通ってお腹に入っていく。
おいしすぎる・・・
舌も喉も指先まで・・・震えるほど。
身体全部がそう言っているかのよう。
息をするのも忘れて
無我夢中で次から次へと両手でチジェクを掴んで口に運ぶ・・・
「アラアラ、美味しそうね、私にも分けて頂戴」
いつのまにかおばちゃんがざるを差し挟んでしゃがみ込んでこちらを見ていた。
わたしは反応することができず、両手に食べかけのチジェクを持ったまま固まって
そのおばちゃんを凝視してしまった。
おばちゃんはわたしの姿を見てまた
「アラアラ」
そう言って自分のもっている小さな籠に銅貨を3枚入れてざるの前に置いた。
「銅貨3枚でその実を3個頂いてよろしいかしら?」
おばちゃんは丁寧にそう言って笑顔でこちらを見てくる。
わたしは意味も良くわからずコクコクと頷くとこしかできなかった。
「じゃあ、商談成立ね」
そう言っておばちゃんは赤いチジャクを3個持って立ち上がり去って行った。
「わしも貰おうか」
今度はおっさんがそう言って大き目の銅貨をジャリンと籠に入れて
チジャクの実を5~6個持っていった。
気が付いたら、夕暮れの街は家路を急ぐ人で道がごった返していた。
そんな中、何個目かもうわからないチジェクをわたしはほうばる。
おいしい。。
今まで食べたどんなモノよりもおいしい。。
勝手に頬が緩んでくる。
体に力が戻ってくる。
ジャリン、ジャリン・・・
籠に銅貨が投げ込まれる度にざるのチジェクが減っていく。
籠には数え切れない銅貨。
逆にざるには残り2個のチジェク。
バッと両手でそのチジェクを掴み自分の方に手繰り寄せる。
それを見ていたおじさんが残念そうに首を振り立ち去って行った。
わたしはその残った2個の実と銅貨の入った籠をよく見て考えた。
あの男の子は今日採ったチジェクって言ってた。
明日、わたしもこの実を、おいしいチジェクを取ってこよう。
そして、いつかちゃんとお礼を言おう。
「命をありがとう」




