閑話 副ギルド長の苦労
私はレオン・クレマチス
カインズの冒険者ギルドの副ギルド長です
有能な上司に憧れてこのカインズへの転属を申し込んだ過去の自分よ、
貴方は若かった。
貴方も有能だったのかもしれないが、
情報を綿密に精査する能力は少しだけ劣る部分があったことを認めてもよいかもしれません。
器の大きさは認めます。言うならば規格外。それが器だけの話ならよかったのですが・・・
未知との遭遇、一方通行、放火魔、手綱の切れた暴れ獣・・・
・・・・私にどうしろと
何度そう思ったか。
どうにか自分なりの取扱説明書を完成させるのに費やした2年の歳月は
自分の常識をかなり打ち破られ、
結果、自身の成長に繋がったと自負しています。
なりの副ギルド長の立場が安定してきたころのある日、
若い冒険者から不穏な相談を受ける。
「それでは今日はこれで結構です。進展がありしだいご連絡さしあげます。
本日はご協力ありがとうございました」
事情聴取が終わり話を切り上げて上司に報告。
「で?」
報告書を渡しながら簡素に返す。
「素行の悪い3人組が縄張りを主張してたかりの類ですね」
ギルド長は無言で頷く。
「内々で信頼のおける冒険者に調査依頼を出すよう手配しました。
ただ、被害者を救った新人が知らない魔法を行使したようなのです」
隻眼が鋭くなり
「どんな?」
短く問われる。
「当人はサンダーボルトと言っていました」
「ふ~ん、雷か聞いたことないね」
そう言いながら顎で続きを促す。
「3人組に威嚇で放ったそうですが、その際に木を貫通したそうです」
ピクっと僅かにギルド長の巨体が身じろぎをし。
「ふかしじゃないのかい?」
目を細め訝しむように問いただす。
「いえ、被害者の目撃情報とも一致しています」
「なんて?」
「当人は魔法使いに教えてもらったそうです」
「で」
「しばらくはこの街に滞在するそうです
悪い子ではなさそうなのですが、村育ちなので要、注意かと」
「トゥトに頼むか・・・」
「手配しておきます」
2日後、件の少年が魔力測定に来ました。
フェイが慌てて駆け込んできます。
結果は測定不能。
自分がギルド職員になってから初めての事例です。
「ちょっと行ってくる」
巨体が動く。
もちろん、要、監視です。
「極上だぜー」
ザバーン。
フェイに”やれ”のサインを出し早期消火活動。
「熱いっス、マスター」
「てんめぇー」
と言いながらマスターはフェイを睨むとフェイは視線をこちらに向ける。
「マスター」
「いや、これは・・・・」
「前回もやり過ぎたの一言で修練場の壁に穴を開けたことを覚えてますか?」
「え、あ、・・はい」
事なきを得て回収。
「ありゃ、何だ?」
「当ギルドの新人です」
「道理が合わねぇ」
「どういうことでしょうか?」
「貴族が優秀な魔法使いを家庭教師付けて英才教育してもああはならねぇ」
「それほどですか・・・」
「ああ、底が見えなかった。魔力量は、そのうちアタイを越えるわ」
スッ、無意識に息を吞む。
紅蓮の巨壁、火の玉サイクロプスを越える??
「天才風って感じでもねぇし、解せねぇ」
マスターが考える目をする。
修練場の場を移し、的を用意する。
「穿てサンダーボルト」
バシュッ
閃光が放たれ鎧を貫通し土台をなぎ倒して部屋の壁に穴を開ける。
(なんだこの威力は・・・)
「どうだい?」
「E級以下は・・・D級でも初見では対応できる者のほうが少ないかと」
「だろうね」
(控え目に言ったが、B級の自分でも初見で対応できたか怪しい・・・)
「ライトは何発くらい今のを放てるんだい?」
「数えきれないくらい」
マスターがフーっと長めに息を吐き両手を広げて首を左右に振る。
「ライトはそいつを人に向けて撃ったことは無いんだよな?」
「人に当てたことはないけど、こないだ3人組の間の木に向けて撃ちました」
「当てなくてよかったよ」
マスターがやや思案しこちらに問うてきます。
「いけるかい副ギルド長殿?」
マスターの含みのある物言いはしっかりと確認しろと言う意味でしょう。
頷きを返します。
(見立てとしては防御結界を4枚重ねくらいでしょうか)
「じゃあライト、こんどはアレ(レオン)に向かって今のを撃ってみな」
「・・・いいの?」
「ああ、責任はアタイが取るさ」
左手をこちらに向けた途端、少年から余裕が消える。
(人に向けて撃ったことがないようですね、善良な少年です)
「それでも撃ってみな」
膝までガクガクと震え少年の緊張度が増す。
(少年の葛藤の大きさが伝わってきます)
「どうしたライト、そんなんじゃ誰も守れやしないよ!」
(来ます!
守る・・・それが彼のキーワードのようですね
既に多めの6枚の防御結界を展開してあります)
「穿てサンダーボルト」
さっきよりさらに太い閃光がライトの左手から放た。
(ちょ、威力・・・)
瞬間、防御結界を張り増す。
バギャァァーーーン
多重結界の3層は瞬時に弾け飛び、4,5,6枚目が次々に割れる。
ギリギリ7枚目は張り終えたと同時に割れ
プロテクションの付与された手袋がサンダーボルトの威力と拮抗して掌側が燃え尽きる。
辺りが白煙に包まれ、視界が遮られる。
フーっと息が漏れる。
(あ、危なかった・・・)
煙が晴れ視界が回復すると同時に非難の声を上げる。
「あの煽り方は無いでしょう!マスター!!普通は段階を上げて少しずつ・・・」
(少年はまだ不安定なために威力にムラがでるようですが、、)
「で何層だい?」
「・・・8層です」
(手袋のプロテクション込みです)
破れた手袋をマジックバックにしまいながら、そう返答します。
「そうかい、なるほどね」
「なんの話?」
ライトさんがマスターに質問してます。
「お前が砕いた多重結界の枚数だよ」
「多重結界を8層」
「ああ、防御結界を重ねたもんさ。威力だけで言ったらB級上位だね」
(全力のベストショットだったらどれだけの威力を出すのだろう・・・)
底知れぬ震えを感じます。
「対人戦はどんな練習をしていたんだい」
こちらを顎で指しながらマルディローズのその言葉と行動に今度は反応する。
「ホーンラビットを狙う感じで撃ってみてください」
「わかりました」
ライトさんの素直な返事に安堵して、防御結界を展開しつつ横移動を開始する。
それを見てライトさんは左手を構え魔法を放ってきます。
緊張も震えもなく放たれたサンダーボルトはこちらの到達地点を的確に捉えていますが
防御結界を正対ではなく斜めに構えることで後方に弾いた。
「スゲー」
ライトさんの声が漏れ聞こえます。
やはり、正対せずに斜めに弾くのが効率的ですね。
「感心してないでドンドン撃ちな、ウサギが逃げるよ」
「はい」
パシュ、パシュ、パシュ、パシュ、、、、
正確な射撃ですね。
威力が弱いので対応できますが、
全弾、先ほどの威力で放てるとしたら・・・
「おっと」
直線的な攻撃の中に一発の曲線的な攻撃が撃ち込まれたのを寸でで跳躍でかわす。
「おお、カッケー」
ライトさんは何故か歓喜の声を上げている。
(嫌な予感しかしませんね)
ババババ、、、
ライトさんが詠唱もなしにサンダーボルトを放ちまくってくる。
「ちょ、ちょっと、」
直線、曲線、速度差による多面攻撃・・・
急に捌くのが難しくなった。
無言で見ていたマスターが指を一本立てたのが視界に入った瞬間、
反射的にファイアーボールをライトさんに向け無詠唱で放っていた。
攻撃に集中しているライトさんは全く反応できない。
刹那白い影がライトさんとファイアーボールの間に立って手を広げる。
ボフッ。
ライトさんは口を開けて手を伸ばすことしかできず、
ヨークさんはライトさんをかばうように身を晒し、
ファイアーボールは、マスターが素手で握りつぶしました。
「嬢ちゃん、いやヨーク、無理をしちゃいけないよ」
その言葉を聞いてヨークさんがその場にへたり込む。
「ヨークのバカ!」
ヨークさんの身体がビクンっと震えその場がしんとなります。
ライトさんは今度はマスターを睨み
「なんで、、、」
マスターは微動だにせずライトさんを凝視しています。
「落ち着いたらアタイの部屋においで」
そう言い残し扉に向かうマスターに続いて部屋をでます。
バタン
コツコツと階段を登る足音だけが響き、
1階を過ぎ、2階の手前で
「なあ」
マスターから声が掛けられます。
「はい」
「伝説級武器を持った新人のマニュアルってあるのかい?」
「あるわけないじゃないですか!」
「だよな」
フーっと2人で息を吐きギルドマスターの部屋に入っていきました。
2人を無事に活躍できる冒険者にすること・・・それは
超、難題です。
手袋=金貨2枚也




