25 現実と
「多重結界を8層」
「ああ、防御結界を重ねたもんさ。威力だけで言ったらB級上位だね」
ライトの独り言のようなつぶやきをマルディローズが拾い現状を教えてくれる。
ライトはただひたすらに初めて見たムーのサンダーボルトを目指して追いかけていた。
もちろんまだそれには遠く及ばない。
ただ、いつかアレを撃てると信じて疑うことなく5年間修練を積んできた。
そんなライトの内情はつゆ知らず周囲は戦慄を覚える。
冒険者ギルドに登録して数日の12歳の少年がB級上位の威力の魔法を放ったその事実。
「対人戦はどんな練習をしていたんだい」
そう言ってまたレオンに顎を向ける。
ライトが目を丸くしてマルディローズの隻眼を見上げる。
今度はレオンが機先を制して発言する。
「ホーンラビットを狙う感じで撃ってみてください」
「わかりました」
ライトはレオンの言葉に反応して返事をする。
レオンは軽く横にスライドするように移動する。
それを見てライトは左手を構えレオンの動きを予想して魔法を放つ。
緊張も震えもなくいつも通り放たれたサンダーボルトはレオンの到達地点を捉えていたが
防御結界を正対ではなく斜めに構えることで後方に弾かれた。
「スゲー」
思わずライトが声をだす。
魔法を弾くレオンがかっこよかったようだ。
「感心してないでドンドン撃ちな、ウサギが逃げるよ」
「はい」
パシュ、パシュ、パシュ、パシュ、、、、
前後左右、軽いステップと防御結界で攻撃を捌くレオンに向け
ライトは連発で魔法を放つ中にカーブする魔法も織り交ぜる。
「おっと」
そう言って一瞬、虚を突かれながらも大きく飛んで問題なさげにレオンが対応する。
「おお、カッケー」
ライトは今までにない体験に嬉しくなってさらに魔法を連発する。
ババババ、、、
もはや詠唱もなしにサンダーボルトを放ちまくる。
「ちょ、ちょっと、」
さすがのレオンも手数の多さに捌き切るのが難しくなっている。
無言で見ていたマルディローズが指を一本立てる。
レオンはそのサインを見逃さず防御結界を展開させながら1発だけ反撃のファイアーボールを放つ。
攻撃に集中しているライトは全く反応できない。
刹那白い影がライトとファイアーボールの間に立って手を広げる。
ボフッ。
ライトは口を開けて手を伸ばすことしかできず、
ヨークはライトをかばうように身を晒し、
ファイアーボールはマルディローズが素手で握りつぶした。
「嬢ちゃん、いやヨーク、無理をしちゃいけないよ」
左手から黒い煙を立ち上げさせながらマルディローズがヨークに振り返る。
その言葉を聞いてヨークがその場にへたり込む。
ライトはヨークに駆け寄り肩を掴み。
「ヨークのバカ!」
自分でも驚くくらい大きな声が出た。
ヨークの身体がビクンっと震えその場がしんとなる。
ライトは今度はマルディローズを睨み
「なんで、、、」
そこまで声を出して微動だにしないマルディローズを見て
状況が飲み込めてきた。
レオンもゆっくりと歩み寄ってきて様子を見ている。
肩をプルプルと震わせて拳をきつく握り色々な感情がライトの中で渦巻いていた。
ヨークは座った姿勢のままライトを見ている。
「落ち着いたらアタイの部屋においで」
それだけ言い残しマルディローズとレオンは部屋を出ていった。
バタン
扉が閉まり2人を静寂が包む。
ライトは歯を食いしばって耐えていたがとうとう涙が溢れてきた。
立っていられず三角座りの恰好で膝に顔を埋めて泣き出した。
ヨークはそんなライトの傍に近寄りその頭を抱きしめる。
一瞬、ライトが息を吞むが涙は止まらない。
どれだけの時間が過ぎたか。
ヨークはずっとライトの頭を撫でてくれていた。
ライトの頭の中は色々な言葉や感情がグルグルしていたが少しずつその渦が収まっていった頃。
「ごめんなさい。ヨーク」
なんとか絞り出すようにいうライトに
「いいんだヨ」
ヨークが優しくそれだけ返す
「僕は守るって言ったのに全然守れなかった」
悔しく情けない自分を顧みる。
「もう守ってもらってるヨ」
ヨークの言葉は優しい
その言葉でライトはやっと顔を上げヨークを見た。
「ひどい顔」
ヨークが微笑む
ライトはスンッと鼻をすすりマジックバックから布を取り出して洪水状態の顔拭こうとしたら
ヨークに布をひったくられる。
ヨークはひったくった布でライトの顔を拭いながら口を開く。
「わたしね、ライトにあった時から守られているヨ
3人組から助け出してくれて
ライトに手を引かれてから
その前までと
こころの色が全然変わったんだヨ」
ヨークは思い出すようにゆっくりと語る
「その前まではわたしのこころは暗く冷たい感じの色だったんだヨ
でもライトと出会ってから
わたしのこころの色は明るくあったかくなったんだヨ」
ゴシゴシと顔をこすられ洪水状態が解除されて布が顔から外れた時にライトが反論する
「僕はなんにもしてないよ」
その言葉を聞いてもヨークの表情は変わらない。
「ん、ライトがどうしたとかこうしたとかじゃないヨ
わたしのこころは変わったし
お母さんと弟も元気に明るくなったんだヨ
だから、わたしはライトに守られてます」
「でも、僕をかばってファイアーボールにヨークがぶつかるのは嫌だよ」
「わたしは多分、同じだヨ
体が勝手に動いたし
そのことに後悔や不安がないもん
もし、次に同じことがあっても多分体が勝手に動いちゃうヨ
だから、
ライトはそうならないように強くなってね」
ヨークが布は膝の上に置いて、ライトの手を握りながら言う。
「わたし、マルディローズさんが言ったこととさっきの事が凄く
わたしたちのことを想ってくれてるって繋がったんだヨ」
「僕はまだよくわからない」
「嬉し、ライトでもわからないことがあるんだ」
今日一番の笑顔でヨークが笑い、続ける
「先輩冒険者のお姉さんがちゃんとライトに教えてあげるヨ」
ライトは既視感を感じ少しモヤモヤする。
強いと思っていたライトの弱い部分を見て
ヨークは自分がライトに対してできることや与えることがあること
同じ目線で学び成長できることがヨークは嬉しい。




