99 敵なのかな?
「戦争を止めるなら、ご飯も食べられるよ!」
「ご飯なんかで聖戦が止まるわけないわ」
ソシアが無情の目でライトを見るが、
「ソシアにはコレ!」
そう言ってすかさず、マジックバックからクレプを一切れ取り出し、ソシアの眼前に突き付ける。
ソシアは余りに突然だったので反応出来ず、眼前のクレプとの僅かな距離で固まっている。
そして、ソシアの鼻腔にバナジと黒クリームの甘い香りが流れ込んできた。
グゥー。
ソシアの本能が反応してしまう。
無意識でお腹に手が行き、スゥーっと鼻から息を吸う。
鼻腔をくすぐっていた感覚が更に脳を刺激し、それは口内に反応を促した。
ソシアの口内に何処からともなく涎が溢れ、舌が味覚を求めて敏感になって・・・
口を開き、目の前のクレプを頬張る。
甘く柔らかい刺激が口内に広がり、舌の要求を、そして、脳の要求を満たしていく。
パリン・・・
ソシアの脳内で何かが砕け、
ソシアの目が大きく見開かれ、金の瞳に感情の揺らぎが感じられた。
ソシアは震える両手でライトの手ごと掴み、2口3口とクレプにかぶり付き味わっていく。
ライトはそっとクレプをソシアに渡し、食べる様子を見ている。
パクパク、パクパク、ごっくん。
あっという間にソシアはクレプを完食し、自分の手に何もなくなったことに気づき、
今度は悲しそうな顔をした・・・その眼前に次のクレプが差し出される。
それは、ケモモの白クリームのクレプだった。
ソシアは今度はライトの目をやや俯きながら覗き込んだが、ライトは黙って頷くと、
ソシアは花が咲いた様な嬉しそうな表情を浮かべ、ライトの手からクレプを受け取る。
「こいつがこんな表情をするなんてな・・・・」
アドルファが驚き、オースは目を見開いてソシアを見ている。
「パロディンのおじさん達にはね~」
ライトがマジックバックから何かを取り出そうとしたところ、
「いや、俺は食い物よりも武力を所望する」
「武力?」
「ライトの魔法を見せてやるが良い、森にはライトの仲間とリンカーナの近衛もおる」
「そいつは重畳だ」
そう言って、アドルファは開けている荒地に向けて歩き出す。
ライトはアドルファに着いて行き、馬車から少し離れた場所でアドルファがライトと対峙する。
ライトはマジックバックから白い杖を取り出し、誰も居ない丘に向けて杖をかざし、
「ホワイト・レイ!」
光魔法を詠唱する。
ライトの杖の魔石部分からライトの身長の2倍くらいの光の帯が丘に向かって伸び、そのまま丘を貫通して、虚空の彼方へと飛んで行った。
続けて、ライトは左手を伸ばし、指を握り込み、丘に狙いを定めて詠唱する。
「穿て、サンダーボルト!」
ライトの左手から5筋の光が伸び穴の開いた丘に向かう。
その5筋は直進するものもあれば、左右にカーブするもの、速いものと遅いものと別れ、丘に着弾すると、
更に5条の穴が新たに開けられた。
「・・・・・・やるな、小僧・・・」
「ライト・・・殿はどれくらいそれらの魔法を放てるのだ?」
アドルファがぎこちなく笑い、オースがライトに聞いてきた。
「数え切れないくらい」
「防げるか、ソシア?」
クレプを食べ終わって、指を舐めながら様子を見ていたソシアにアドルファが聞く。
「最初の1,2発くらい?それも私がいる所に撃ってくれればね」
ソシアが手を広げて首を振りながら答えた。
「そのまま戦ったとしても、全滅か壊滅必至だな・・・
その上、紅流星のオカリナと近衛・・・小僧の仲間」
アドルファが独り言のように呟いて、ライトに歩み寄り、
「小僧、なぜ、戦わず、話に来た?」
「戦いたくないし、どうして戦争するか聞きたかったから」
「有無を言わず、遠間から魔法を叩き込めば良かろう」
「そんなことはしないよ」
「俺達は敵だぞ」
「敵なのかな?」
「どういうことだ?」
ライトは以前ケリーの隣村に飢饉が起き、戦いになった話をして、
戦わないで話し合い、ご飯が食べられたら解決すると思ったと自分の意見を述べた。
それを聞いたアドルファがオースの前に跪き、恭しく首を垂れ、
「オース殿下」
「何かね?聖騎士長」
「この戦、我等の敗北です」
「私も・・・そう思う」
こうして、ゴルドヴェルナ聖教国の行軍は終了した。




