87 したためる
食べ終わるころを見計らって王様が話を切り出す。
「戦争のことはどこまで知ってるんだ?」
「ゴルドヴェルナ聖教国がエミドラル公国の辺境を飲み込んだってとこまでです」
食べ終わっているライトが返答する。
「そうか。その後、聖教国の連中は略奪して二手に別れた」
「一方は南下しもう一方は退却したか?」
オカリナが予測を口にするが、
「いや、南西に向かった」
「く、狂信者か・・・数は?」
オカリナの顔色が曇る。
「公国に攻め込んだ時が約4万、南下したのが1万、南西に向かったのが3万だ」
南には獣人のセェヘ・ニューベーメンがあり、
南西にはエルフが住むハイドランドがある。
「しかし、奴らは着の身着のままで食糧も略奪分しかない、
それでハイドランドまで辿り着けるのか?」
「狂信者の考えなど知れるか!」
「帝国はどう動くの?」
ヨークが王様に聞く、もう、冒険者風で通すようだ。
「帝国は今回は動かない。準備はするがな」
そう言って、ルーベントが窓の外を指さす。
そこには大量の袋が積みあがっている。
「帝国が攻められてるわけじゃないからな」
ケリーが確認のように言う。
ルーベントが頷いて、
「そうだ、だから、ウチから食いもん運んで様子見だ」
「肝心の攻め込まれたエミドラル公国は?」
続けて、ヨークがルーベントに聞く。
「動きは鈍い、辺境を掠め取られたが辺境領以外の貴族が自領が攻め込まれたわけでもないのにおいそれと兵は出さない」
「略奪もできんしな」
「うむ、むしろ、公国内での領土争いがあるかもしれん」
「何よそれ!公国はまとまりがないの?」
リータが強い口調で不愉快そうに言う。
「あるかないかで言えばないな。
帝国は皇帝がいて、王国は王がいる。
公国は身分の高い貴族が治めることになっているが、利害関係でしか動かない。
どちらかというと、足の引っ張り合いをしていることの方が多いな。
大戦後、大きな争いもない時勢が続いた、貴族義務を重んじている公国貴族がどれほど残っているか」
「戦乱に向かう道理だ」
オカリナの言葉にヨークが頷いてから、
「リンカーナ王国がかなりまともな国に思えるヨ」
「お褒めに預かり恐悦至極」
ルーベントが右手を伸ばし、左手を胸に当て、ヨークに対して貴族風の礼の姿勢を取る。
「ちょ、ちょ、王様!」
ヨークはどこでもいじられキャラのようだ。
「オカリナはどうするの?」
ライトのその言葉を聞いて、オカリナは改めてルーベントに向き直る。
それに合わせてルーベントの三白眼がオカリナを見返す。
しばらく、2人は全く動かず、目だけで会話を交わしているかのようにライトには見えた。
先に動いたのはオカリナで、自らのマジックバックから薬瓶を2本取り出し、テーブルに置く。
「エルフの飲み薬か?」
オカリナが無言で頷く。
「欲しいが今はいらん」
そう言ってルーベントは受け取らない。
「そうか、邪魔をした」
そう言って立ち上がろうとしたオカリナをルーベントが制する。
「エルフともあろう者が慌てるな」
その言葉を聞いてオカリナは座りなおす。
「近衛兵100を貸そう、我が国に出せるのはそれが精いっぱいだ
何せ、我が国には近衛しかおらんからな」
「返せる当てがない」
「飢えた民兵如き、何万いようが易々とやられはしまい。
落ち着いたら戻してくれればよい」
「それで、当方からは何を?」
「物はいらん、紙だ」
「紙?」
ヨークの口から疑問が漏れる。
「ああ、今後とも我が国と友好を継続すと紅流星のオカリナの署名だ」
「そんなもん、何の価値がある!」
「あるヨ!リンカーナ王国の保身だヨ!」
「見識の深きこと、感服いたしまする」
ルーベントがヨークをからかう。
「・・・・何故だ?」
「実績だヨ。150年間、リンカーナ王国では周辺国と争いが起こってない」
「正解だヨーク。帝国はエルフに王宮を焼かれた過去があるからなエルフと友好的なリンカーナに対し無体な扱いはできない」
「それに、まだ戦争になったわけでもないのに食糧を提供してくれる味方にわざわざ兵を割く意味もないヨ」
「そうだ、逆に戦乱が長期化するほうが軍事力がない我が国にはデメリットになる。
なら、今、出せるだけ出すだけだ」
ヒューゥ
リータが口笛を吹き、得物を仕留めた時のように手を上げる。
ルーベントもそれに応える様に手をあげた。
「・・・なんか、王様、ギルマスと同じ匂いがするヨ」
「うん、僕もそう思った」
「ハッハーそれは誉め言葉だな」
「判った、したためよう」
オカリナは全てを納得した表情ではなさそうだが、そう言った。
「僕もしたためる!」
ライトが手を上げながら言う。
全員がライトの顔を見る。
「お前、わかって言ってるのか?」
「オカリナや他のエルフを守るんだよ」
「人を殺すことになるんだぞ」
「大丈夫!それよりも王様」
ライトは口元に手を添えて内緒話の恰好をするとルーベントは耳を傾ける。
「何だ?」
「ゴニョニョ・・・・・・・大丈夫?」
「・・・・ハッハッハーーー!良いだろう、ライト!ケツはもってやる!」
リンカーナの王、ルーベントが豪快に笑った。




