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86 謁見!?

カーネーションという町があった。

町ができる以前から野にはカーネーションの花が咲き誇っていて、人々の心に潤いと人情を育んだ。


赤いカーネーションは母への愛

白いカーネーションはあなたへの愛

ピンクのカーネーションは感謝

黄色いカーネーションは友情


送る相手への花言葉が帝国民に広く受け入れられ、カーネーションは花の町として観光名所にもなっていた。


大戦の終焉に帝国王宮が焼かれ、帝国が分裂した。


エルフ狩りや獣人、人、ドワーフの奴隷狩りで利益を得ていた門閥貴族、

宗教上、他神教を許容できない教会が離散していき、

帝国の国力は衰退し混乱の時代は数十年続いた。


帝国の存亡を憂いだ賢兄カズスが争うことなく弟に王位を譲り、カーネーション以南を農業中心の食糧生産国とし帝国を支える為に独立を宣言する。

その時に帝国の復活を願い『リンカーネーション』を忘れぬ為に国名をリンカーナと名付け、王都をリンカーとし、自らをカズス・リンカーネーションとした。


「これがこの国の生い立ちだヨ」

ヨークが本の一部を読み聞かせてくれる。

「夢見がちな優男であったがな」

ヨークがギョっとした目でオカリナを見るが

「軍隊を近衛のみとし、冒険者を重用したのもかの王だ」

と続けた。

「それで問題があった時はエルフが助力するってなったんだね」

ライトの言葉にオカリナが満足そうに頷く。


「独自の軍隊を持たないから、租税が安くなるし、帝国への食糧輸出も多くできるヨ」

「だから、近隣で戦争が起こるとこうなるわけだ」

ケリーが外の様子を指さしながら言う。


「そろそろつくわよ」

馬車の前方の小窓からリータが箱馬車の中に告げる。


窓から前方を見ると大きな屋敷が聳え立っていた。



ライトはおろか、DK全員が見た中で、当然一番大きな建物だったので思わず見上げてしまう。

「うわー!でっかい!」

ライトが感想を漏らす。


白い石造りに青い屋根、いくつもの窓。

それが背景の青い空によって浮かび上がるように見えている。

手前の庭園の緑は綺麗に刈り込まれ、色分けされた花が配置されている。


「綺麗なお庭だヨ」

「あれは近衛兵かな、強そうですよ主」


すっかりおのぼりさんである。

王宮に近づいたのでオカリナが擬態を解く。


門の入り口も随行してくれている衛兵さんの敬礼一発で通してもらえ、

スムーズに王宮前で停車する。


リータが御者席から飛び降り、ライトは内側から扉を開け、やはり飛び降りた。


入り口の立つ衛兵は見て見ぬふりをしてくれているが、到底、行儀がいい行動ではない。


数人の衛兵は、綺麗に揃えて槍を立てている。

その真ん中に燕尾服を身にまとった初老の男性とメイドが立っている。


オカリナが馬車を降りようとすると、老紳士が速足で近づき、手を差し伸べてエスコートする。

全員が馬車から降りると入り口前に並ばされて、その前に立つ老紳士が右腕を胸の前で折り、恭しく頭を下げて言う。


「ようこそおいでくださいました。オカリナ様とご一同様、陛下に成り代わり歓迎いたします」

「出迎えを感謝いたす。して、謁見はどうなるか?」

「早急にお通しせよとの命にあります」

「え!私たちも?」

ヨークが反射的に言ってしまうが、

「左様でございます」

老紳士が朗らかな笑顔で応える。

「どどど、どうしヨ」

ヨークだけが狼狽し自分の身嗜みをオロオロと見回しているが

「陛下はいつも民のそのままの姿での謁見をお望みですので、そのままお進みくださいませ」

「ヨークよ、衣装など些事だ、気にするでない」

オカリナはそういうが

「声が掛かるまで頭を上げてはいけない、声が掛かるまで喋ってはいけない、目を見てはいけない・・・・」

ヨークは何やら呪文のように呟いている。


「ではこちらへどうぞ」

老紳士がそう言うと、メイドが大きな扉を開き、その中へと進んで行く。

オカリナがそれに続き、リータ、ケリーがついていくが、ヨークは何かを指折り数えていて、みんなが動いたことに気づいていない。

ライトはそんなヨークの手を握って王宮の中に入って行く。

「あ、ライト」

「大丈夫だよ、ヨーク。みんないるから」

その言葉を聞いて、俯いていた顔を上げ、ライトと歩調を合わせて王宮の中を歩く。

ライトは

「うわー、すげー」

と声を上げながらキョロキョロしている、

ヨークは辛うじて前をみて歩いているが、ドキドキは止まりそうもなかった。


開け放たれた大きな扉を幾つか通り過ぎて、一度曲がり、少し小さい通路といっても何人も並んで歩けるほど広いのだが、その通路の先のギルドの個室の3倍程度の小部屋に王様が居た。

椅子に座っているので、背丈はわからないが豪奢な銀髪に鋭い三白眼。ガッチリとした体形に腕も足も太い。髭も蓄えているのでわかりづらいが、見た感じでは20代後半に見える。


玉座ではなく、歓談する為の部屋なのか、

テーブルがあり、段差もないので、座っている王様の方が頭が低い。


「ひゃ!、頭さげなくちゃ・・・」

慌てて言うヨークに

「よいよい、気にするでない」

王様は優しくヨークに言って、手を一振りすると、扉の前の衛兵を残して、老紳士やメイドは退出していく。


「適当に、座るがよい」

オカリナが頷き、ライトたちに目配せをすると、みんなが椅子に座る。

目の前のテーブルには、水やワイン、恐らく、エールの入ったジョッキ、パンや摘まめる軽食が並べられていた。


王様は座ったまま、両手をオカリナに差し出し、

「ルーベント・リンカーネーションだ、良くぞいらした、古き友よ」

オカリナはその手を取り、

「オカリナ・ラグアマランサス。盟友の子孫と再会でき、光栄に思う」

「その方等も、馬車の旅に疲れもあろう、楽にしてくれ」

王様はライト達にも視線と手振りでテーブルの物を進め、自らもワイングラスを少し上げてそれを飲む。

「心遣い、感謝する」

オカリナも同じようにグラスを上げて口を付ける。

ライトたちはそれを見て、各々好きな物に手を伸ばし飲み、食べ始める。


「叔母は変わりないか?」

「叔母?とはどなたでしょう?」

ヨークが疑問に思い聞き返す。

「名乗ってないのか、まあ、あの人らしい・・・マルディローズ・リンカーネーションだ」

「えええええぇぇぇ」

やっと落ち着いてきたヨークの心臓がまた、飛び跳ねる。

他のDKの3人はどこ吹く風と、軽食をパクついていたが、ヨークの驚きの声でようやく、会話に気を向ける。

「どうしたの?ヨーク」

「マママ・・マル・・・・・・ギルマスが王様の叔母さんなんだって!」

「そうなんだ」

ライトは平然とそう応える。

後の二人は興味なさそうに食事に戻る。

「ハッハッハ、こいつは大したものだな、王や王族よりも目の前の飯の方がよいわな」

王様が大仰に笑う。

「陛下、大変申し訳ございません!」

「構わぬ、ヨークも楽にいたせ」

「ほら、ヨークこれ美味しいよ」

ヨークの気も知らずにライトがスクランブルエッグとベーコンの皿をヨークにすすめる。

ライトの言葉が王様の言葉を遮ってないかハラハラしたが、

ヨークはライトの目を見て、大きく一度、深呼吸をして、その皿の料理を食べ始めた。

ライトはヨークのその姿を見て、自分の料理に戻って行く。


「私も、叔母の元で冒険者をしたこともあるので、この場では冒険者の流儀で良いぞ、

まあ、ヨーク以外は最初からそうであったがな」

王様はそう言ってもう一度大仰に笑うのであった。

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