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生きた花たち  作者: 雪の花
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愛に咲くー4 ヴィクトリアの生活

ヴィクトリアは密かに領主館を出てから、一週間ほどでこの海辺の町に辿り着いた。大きな貿易船が出入りする町には仕事がたくさんある。食堂のお給仕として働き、食堂の屋根裏に住み、夜は刺繍の内職をして稼いでいた。そんな中、自分の体調の変化に気づいた。私は妊娠している、ウォルターの子を身ごもっている。

お腹が目立ち始めると、食堂の女将から辞めて欲しいと申し出があった。

「あんたは働き者で良い人なんだが、私生児となるとこの店の体裁も悪くなるからね。複雑な事情があるんだろうけど・・・あたしらも変な商売やってるんじゃないかって疑われる可能性もあるし・・・すまないねえ。これ、ちょっとだけど今月分に上乗せしといたよ。元気で頑張りなよ」

「今までお世話になりました。ありがとうございます」

ヴィクトリアは、これで一気に職と住まいを失くしてしまった。これからどうしょうと、不安が拭えない。産み月まで三か月足らず。お金はどうにかなるだろう。だが、住む所は?野宿をするわけにもいかない。波止場で海を見ていると、頭上でカモメがうるさく鳴いている。

「お嬢さん」

声をかけてきたのは、裕福そうな老紳士だ。

「どうしたのかね?行くところがないなら、どうだろうか?私の妾にならないか?」

ヴィクトリアは吐き気がした。それをぐぐっと飲み込み、答えた。

「いいえ、他人様のお世話になることはできません」

「ほほう!えらく強がっておるのう、途方に暮れているのはお見通しじゃ。まあ、よい。何かあったら、あの丘の上の豪邸に来なさい。力になろう、美しいお嬢さん」

ヴィクトリアは寒気がした。老紳士が去った後も、悪寒が止まらなかった。

夕方近くになると、更にひどくなった。荒くれ者が道を塞いだり、悪態をつくのだ。ヴィクトリアはやむを得ず、近くの教会に助けを求めた。

牧師は優しく迎え入れ、あなたが落ち着くまでいても良いと言ってくれた。ヴィクトリアは、住まいを提供してもらう代わりに、畑仕事と食事を作ることにした。

産み月になると、生まれた子はどうするのかと牧師がしつこく聞いてくるようになった。なんなら、里子に出してはどうだろうかと、里親との仲介は私がしょうと提案をしてきた。

たぶん、仲介料を取るつもりであることは分かっていた。

ヴィクトリアはここも、もう潮時だと思った。

夜更けに教会を後にした。行く当てなど全くないが、これまでなんとかやって来れた。



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