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生きた花たち  作者: 雪の花
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愛に咲くー3 義理の姉弟

月日は瞬く間に流れて、三年が過ぎていた。

領内で平穏に幸せに暮らしていたヴィクトリア夫妻だが、まだ子どもが授からなかった。結婚適齢期はとっくに過ぎてからの結婚だったため、周りの者もあえては口にしなかった。

ところが、近隣諸国の様子は変化していて、三年前の戦の燻りがどこで発火してもおかしくないような雰囲気が漂っていた。

「近いうちに父と共に出陣となるだろう」

「そんな・・・。また、あのような暗い時期が続くのでしょうか?」

「今回は終結が早いかもしれぬが、先はわからぬなあ。母上、弟、皆のものを頼む」

「はい。心得ております」

「そなたがいれば、私も安心して戦地へ赴ける」

ウォルターはヴィクトリアを優しく抱き寄せた。


数日後、都より使者が来た。先の戦での功績を認められ、ウォルターは伯爵となった。その続きは国境への出兵依頼だった。領内の騎士を集め、ウォルターは国境を目指して出発していった。

領内が手薄になるため、ローレンスが呼び戻されることとなった。

ヴィクトリアは薬が大量に必要になると予測し、薬草取りに毎日森へ出掛けた。


湖水の森でのこと。

湖のほとりで若い男女が言い争っている声が聞こえてきた。

「そうじゃない・・・理解してくれとは言わないが・・・」

「結局・・・結論は・・・なんでしょう!」

会話は途切れ途切れに聞こえ、話の内容はよく分からなかった。男性は後ろを向いていて定かではないが、湖に映った影がローレンスのように見える。こちらを向いている女性はとても可愛らしく、可憐なひなげしのような人だった。あの子がローレンスの初恋の相手だと、ヴィクトリアは直感的にそう思った。

と、女性がローレンスに抱きつき、ローレンスはそれを振りほどこうとはしない。ヴィクトリアはこれ以上は見てはいけないと振り返り、元来た道へと戻った。野山を駆け巡り、籠いっぱいの野草を持って、館の玄関ホールに足を踏み入れると、ローレンスが待っていた。

「ヴィクトリア、久しぶりだね。湖水の森にいただろ?」

「あ、ごめんなさい。偶然に通りかかって・・・。ローレンスも大人だから、私は何も言うことはないわ」

「・・・ああ・・・そうだね。これからよろしく頼むよ。領民のため、家族のため、協力しょう」

「ええ、わかった。長旅で疲れているでしょうから、もうお休みくださいね」

「おやすみ、ヴィクトリア」

「おやすみなさい」


それからはローレンスは男性に剣や弓の訓練をし、ヴィクトリアは女性や子どもと畑を耕し、作物を育て、薬草を煎じたり、乾燥させたりと多忙を極めた。二か月ほど過ぎた頃、国境から早馬がやって来た。使者は義母の前でこう告げた。

「勇猛果敢なるウォルター伯爵は、国境に攻め込んで来た合同軍を返り討ちにし、自らは重傷を負いながらも最後まで指揮をとり、昨日、駐屯地のテントで息を引き取りました。また、御夫君は奇襲をかけられ、行方不明となりました。家督の相続については、七日以内にローレンス殿が引き継ぐようにとの伝言です」

訃報を聞いたばかりで、後継者の話とはとても辛いことだが、戦乱の中では致し方ないと言えばそうであろう。義母は気丈に耐えて、使者を労い、帰した。

ヴィクトリアは深夜に義母の部屋に呼ばれた。話の内容はヴィクトリアにも分かっていた。

「ローレンスが家督を継ぎます。そうなると、あなたはローレンスの妻になることになります。心の準備はできていますか?」

「お母様・・・少し時間をください」

「そうね、まだ悲しむ間もなかったわね」

そう声をかけられて、ヴィクトリアは泣き崩れた。そんなヴィクトリアの手を握り締め、義母もまた啜り泣いた。二人は明け方まで泣いては語り、語っては泣いた。

ヴィクトリアは義母が眠りにつくまで付き添い、そうして自室に戻った。

「もう、あの方はいない。戻って来ないのね」

考えることはたくさんある。だけど、今、大切なのはローレンスの心だと思った。私は彼の幸せのために決断しなければならない。






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