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生きた花たち  作者: 雪の花
21/21

愛に咲くー21 ヴィクターの結婚

ローレンスの辿り着いたところ


息子ヴィクターの結婚式で撮った家族写真は、ローレンスの宝物だ。

ゴシック様式で建てられた壮麗な教会の前で、新郎新婦を中心に、右側に私と妻、左側に母、そして家人たちが周りを囲んでいる。中でも白薔薇で髪を飾りウェディングドレスを着た朝露のごとき花嫁が微笑み、彼女の肩に手を回し、隣で微笑み返すヴィクターの堂々たる燕尾服姿、二人の間には確固たる愛がある。

ローレンスは繋ぐ愛を得たのかもしれない。そう思えるのは、ヴィクターの結婚式に参列し、彼の満面の笑みを見たから。

ヴィクターは幼い頃からの遊び相手を最愛の妻として迎えた。二人には何のしがらみもなく、お互いの気持ちだけで結婚した。彼らはいま、愛の花を盛大に咲かせている。それはローレンスの最大の希望(のぞみ)であり、生きがいだった。


だが、ローレンスの横に並ぶコリンヌがこの時、こう思っていたことをローレンスは知らない。彼女は姉のヴィクトリアを懐かしく思い出し、こう心の中で呟いた。

「私のプリンスチャーミングは、どんなに時が経とうとも本当に一途だわ・・・嫉妬するほどに・・・」

私自身が選択した相手そして人生だけれど、どこか空しいと思うの。心から誰かに愛されたかったと。

ローレンスが見つめているヴィクターの中に、ヴィクトリアの存在を感じずにはいられない。

では、幸せではないかと言われれば、最初の結婚よりもはるかに幸せだ。ローレンスは優しいし、大切にしてくれているのは分かる。

人間とは欲張りなものだ。自分が好きであればあるほど、相手の真実の愛が欲しいと思ってしまう。それは制度やしきたり、世論とは全く関係なく欲するものだ。

自分の人生に花を咲かせるために、自ずと欲する感情なのだと!



月日は経て、スコット領に久方ぶりに厳粛な教会の鐘が鳴り響いた。その鐘の音はたなびくように、領内を流れていった。

兄は『聖なる騎士』と敬われ、本人は『偉大なる領主』と領民から慕われたローレンスの死。人は病や老い死から、永遠に逃れることはできない。彼もそうだ。


寝台に横たわるローレンスに付き添うコリンヌ、領内で最高齢となったソフィア、ヴィクターとその妻と三人の孫たち。最後を看取った者たちへ、彼は言葉を残さなかった。ただ、優しくニコリと笑い、去って行った。

コリンヌは彼の臨終の際に、愛する夫からの何がしかの言葉を欲した。彼の(こころ)で聞かなければ、永遠に私への愛があったのかどうか分からないことになる。彼と結婚して、この地を共に治め、喜びも悲しみも苦しみも分かち合ってきた。

なのにだ・・・彼は・・・一言の言葉さえ交わさず行ってしまった・・・。彼女は、ひどい喪失感におそわれた。何もかもが空しく感じられ、これまでの人生も本当は空虚、幻影・・・これが真実の姿だったのだと思うほどに・・・。そんな彼女の心を救ったのは、ソフィアとヴィクター一家だった。

彼女の心は年月を重ねるごとに、『過去のことを考えるのはよそう、今あるものに感謝し、心穏やかに暮らしていこう』、そう変化していった。


そうしてソフィアを見送り、孫たちの成人や結婚を祝い、コリンヌ自身も縫物やレース編みに精をだしていたが、彼女も老衰で最後の時を迎えていた。多くの人の労りの言葉を聞き、今、傍らにいるのはヴィクターだけとなった。

「ヴィクター・・・幸せ?」

「ええ、幸せです。僕の幸せは、みんなに伝わっていると思います。僕自身が妻が子どもたちが幸せだからこそ、スコット領も幸せになれると」

「そうね・・・あなたは自分の心を素直に相手に伝える・・・よいこと・・・」

「あなたは幸せでしたか?」

「わたしは・・・」

そこでコリンヌの言葉は終わった。


ヴィクターは、繋いだ義母(はは)の手がゆるゆると青白く冷たくなってゆくのを、全身を震わせながら感じていた。

コリンヌの魂はそんなヴィクターを包み込み、神の国への迎えを待った。私を迎えに来るのはお母様、お父様?それともヴィクトリア?もしかすると・・・誰も来ないのではないか・・・。


と・・・遥か上空から降りて来る黒い人影・・・。

迎えに来たのは・・・ローレンスだった。


ローレンスは煌びやかな黄金色に輝く『偉大なる領主』の冠を被り、漆黒の長いローブを身に纏い、彼女の前に現れた。お日様のように微笑み、そっと手を差し出し、彼女の手を取り、身体ごと引き寄せた。


「ローレンス、あなたが来てくれるなんて・・・思いもしなかった・・・」


「君を愛しているからね」


「・・・。そうね・・・考えてみれば、あなたはいつも私の盾になって愛を以って守ってくれた・・・今頃気づくなんて・・・」

ローレンスを見つめる()全体が熱くなっていく。涙でぼやけてゆく彼の姿、彼女の心に映し出される走馬灯。


「君が僕の愛の言葉を待っていたのをあの世で知った。僕が初めてときめいた相手は、コリンヌ、君の太陽女神(たいようしん)のような笑顔だったことも言わずにいた。ごめん、遅くなってしまったね。来世はあなたのもとへ迷わずに行く、二人で最も美しい愛の花を咲かせよう!他の誰でもない君だけを愛している・・・」

「私も・・・私もあなたを心から愛しています・・・きっと、約束ですよ・・・」


コリンヌの白いネグリジェは婚礼衣装のようにも見え、黒装束のローレンスにしっかりと抱かれ、彼女は彼の胸に手を添え、そっと目を閉じた。ローレンスは彼女の清らかな顔を見つめて、目を細めた。

二人は色とりどりの美しい傘の波を飛び越え、青い空に白い雲を宿した虹色に輝く湖を渡り、青々とした山脈を越え、純白の雲間を突き抜けて、この世をあまねくおおう広大な天の光の中へと昇って行った。




                  完

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