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生きた花たち  作者: 雪の花
20/21

愛に咲くー20 ローレンスの愛

ローレンスはコリンヌへの想い、恋愛、結婚について考えていた。

成り行きとは言え、こんなに話をするようになるとは!ローレンスとコリンヌは(よしみ)を結んだのは間違いない。この事はローレンスにとって意外な出来事だった。

だが、深入りするってことは、コリンヌを悪循環の渦の中へ引き込むのではないかと、一歩踏み出すことを躊躇している。なにせ、僕は関わった人たちを・・・。いや、こういう不吉な言葉を吐くのはやめよう、心の中だけに収めておこう。


僕のヴィクトリアへの愛も本物なのかどうなのかとさえ思う事件(こと)もあり、迷宮入りした感じはある。恋に落ちたと思った瞬間の相手はコリンヌで、その後、思い続けた相手はヴィクトリアなのだから。

しかし、僕が好きだったのは、やはり奥ゆかしく皆に配慮していたヴィクトリアで、もっとも気の合う親友と呼べるのがコリンヌだとローレンスは自分の心に言い聞かせた。

彼女は僕に『過去を語れ』、そう言っているように感じている。だが、僕は語りたくない、秘密にしておきたいことだってある。男には秘密にしておきたいことがたくさんある。それも永遠にだ。だから、それを知ろうとしないでくれ!言ってしまったら、僕が僕でいられなくなるんだ。君だってそうじゃないのか?


ローレンスの心は定まらずに、のろのろとクリスマスを過ぎ、春を迎えていた。


と、サヴィアン本家に一大事が起きた。家督相続した甥が、博打に熱中してしまい、破産したのだ。あのように栄華を誇ったサヴィアン家がだ。

逃げ出した甥ならず、コリンヌにも養父母や親戚中の追及の手は伸びてきた。コリンヌの養育の仕方が悪かったというのだ。やってきた一同を、ローレンスは一蹴し、彼女への非難を跳ね返した。

そのことがローレンスに決断をさせた。

コリンヌと結婚しょう!僕が守れるものならば、力の限り守り抜こうと!


憔悴していたコリンヌは、何かと世話を焼き、細やかな気遣いをしてくれるローレンスに心が傾いていった。守ることはあっても、守られることに慣れていない彼女は、何の憂いもなく、ローレンスに守られている自分に驚いた。自分が守られることによって、相手にどう思われるか、周りがどんな反応を示すのか?いつも気にしていた、今までの自分がいたのにだ。心底不思議だった。


早朝ではなく、銀色の月夜、庭園の池に月が映え、黄金色(こがねいろ)の虫の音が聞こえる晩に呼び出されたコリンヌは、ローレンスが決意したことを悟っていた。

ならば、流れに乗ってみようと思った。愁いがないとは言えないが、ローレンスがこの人だと思えばこそ、自分から手放すことはやめにしよう。

木立の間から、さやさやと葉擦れの音が風に時を刻む。ローレンスは、彼女の顔が雲の影から現れるのを待っていた。黒い髪、白い額、弓なりの眉、通った鼻、蕾のような口が次第に見えてきた。終着点のつぶらな瞳に吸い込まれそうになった。

「あなたが私のそばにいてくれたら、これからの人生は何も怖くないし、君にも怖い思いはさせない。だから、結婚して欲しい」

これがローレンスの、この時の精一杯のプロポーズだった。

「そうね、私も同意見よ。あなたからの結婚の申し出を受け入れます」

ほんのりと紅く染まった頬が、彼女をより一層愛らしくみせていた。ローレンスからの抱擁はなかったが、薬指にスコット家に代々伝わる婚約指輪が嵌められた。


自宅でガーデンパーティー形式の簡素な結婚式を挙げ、ソフィアやヴィクターが大喜びしたことは嬉しい事だった。ヴィクターのことに関しては、これまで少し控え目に関わっていたコリンヌだったが、母という立場に立って、深く関わっていくことを決めた。

スコット領は富んでいく、そうなるとローレンスを唆そうとする輩が五万といるわけで、共同経営者の意識を以って積極的に参加していくコリンヌ。

それをよく思わない者はでてくる。ローレンスに、尻に敷かれているだの、支配権を握られているだの、女のくせにとか、通りや社交の場で彼女の行く手を塞ぐなどなど、彼女に対して批判的な言動が見られることがよくあった。しかし、ローレンスの態度はそのような人々を全く相手にせず、コリンヌを丁重に扱うと一貫していた。

コリンヌとローレンスの間には、揺るぎない信頼が芽生え、本当の夫婦になるかどうかの瀬戸際にきていた。


ある夜、ローレンスの寝室のドアを叩いたのは、コリンヌだった。返事がないが、鍵はかかっていない、彼女は一線を越えて踏み出した。

近づいてみないと分からないこともあると、二人は感じた。近づいてこそ得られる感情というものがあることも知った。


平坦ではない人生という名の道のりを二人で歩き始め、時にはぶつかり、時には癒し合い、長い年月を過ごした。

かなり経ってからローレンスが実はヴィクトリアのことが好きだったんだと告白した時に、コリンヌはやはりそうだったのかと思った。自分を見る時の目が、どこか私の中にいる誰かをみているような気がしていたからだ。

それが確信に変わった時、コリンヌは一方では失望し、もう一方では彼の私への新しい言葉を期待した。

女性は愛の言葉が自分に降り注ぐことで、耳の器官に柔らかく入ってゆくものを感じ、心で納得することができる生き物なのだ。だが、彼は一向に口にしょうとはしない。だからといって、彼以上に自分の胸が早鐘を打つような、慈しみたいと思うような相手はいない、。ローレンスの本当の気持ちが分からぬまま・・・コリンヌの日常は続いて行った。


自分がヴィクトリアのことが好きだったと言えた時、ローレンスは少しだけ心の重みが取れた気がしていた。それはヴィクトリアのことが遠い記憶となったことを意味していた。

今、自分の側にいて欲しいのはコリンヌ以外にいない。彼女も同じ気持ちだと思っているからこそ、僕の愛情をきちんと感じ取ってくれていると思うからこそ、言葉での愛情表現をあえてしないのだ。そこに絆があると、男の理論でローレンスは生きていた。


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