表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生きた花たち  作者: 雪の花
2/21

愛に咲くー2 ウォルターとヴィクトリアの結婚

『家族制度を守るため、以下のように規定する。家長が亡くなった時、長男が家長となる。家長となった長男が亡くなった場合は次男が継ぐ。だが、先の家長が婚姻しておれば、その未亡人を妻とすること。娘しかいない場合は婿をとり、同じく先の家長の婿を夫とすること』



クリスマスが近づくと、貧しい者も豊かな者も、どの家も大忙し。

樅木を森の中から切り倒す、あるいは市場で買い、家の中に立てる。伝統的な代々家に受け継がれる飾りを飾りつけ、数日前に焼いたジンジャークッキーを吊るす。七面鳥にスパイスを詰め、暖炉で時間をかけて焼く。夏に収穫したスグリの実で作ったスグリ酒をガラスの酒器に移す。クリスマスのための衣服を陰干し、形を整え、来る日を待つ。女の子にとって、クリスマスのドレスはワクワクドキドキ心躍るもの。普段の簡素なドレスとは違い、レースやリボンをふんだんに使い、色も形も自由、夢見る少女たちには特別なものだった。ヴィクトリアも例外なく、毎年クリスマスのドレスを着るのを心待ちにしていた。


村一番の美少女だったヴィクトリアは、収穫祭のダンスパーティーで領主の息子ウォルターに見初められ、婚約した。だが、すぐに近隣諸国で大戦が勃発し、ウォルターは騎士として出陣した。すぐに終戦するかのようにみえた戦は10年以上にわたり、やっと決着がつき、ヴィクトリアとウォルターが結婚したのは、彼女が25歳彼が28歳の時だった。

教会での結婚式をすませ、領主館の大広間で家族や家臣、召使いに会ったのは夜半。


「ローレンス、私の妻のヴィクトリア。ヴィクトリア、こちらが弟のローレンスだ」

ヴィクトリアは、ウォルターの弟ローレンスに、この時初めて会った。17歳の少年はまだあどけなく、いたずらっ子の印象が強かった。

「ローレンス、これからどうぞよろしく」

ヴィクトリアが右手を差し出した。ところが、ローレンスは手を後ろに回して、出す気配がない。察したヴィクトリアは、左手に持っていた扇子を右手に持ち替えた。

「お姉さんと呼ばなきゃいけないの?」

「いえ、ヴィクトリアでも構わないわ」

「そうだな・・・少しずつ慣れて、おいおい仲良くなっていけばいいさ」

ワルツの音楽が流れてきた。

ウォルターはヴィクトリアの手を取り、広間の中心に進み、ステップを踏んだ。それを合図に、招待客も踊りだし、広間はごった返した。

「ローレンスには嫌われてるみたい」

「まだ、子どもだ。それにローレンスには初恋の子がいるらしい。多感な時期だから、そっとしておこう」

「そうだったのね。初恋かあ、どんなお嬢さんなのか、知りたいわ」

「まあ、私にも言わないくらいだから・・・言わないだろうねえ」

「ううむ、手ごわそうね」

ヴィクトリアはウォルターに向かって微笑んだ。


零時を過ぎた頃、招待客も帰宅し、新婚夫婦は部屋に入り、領主館に静寂が訪れた。

「うっ・・うっ・・く・・・」

暗い廊下の片隅で泣く人影があった。ひとしきり泣いた後、彼は馬小屋へと走って行った。




翌朝、ウォルター夫妻が食堂室に行くと、すでに両親は席に着き、ローレンスの姿はなかった。

「父上、ローレンスは?」

「ああ、本人の希望で寄宿学校へ入った。早朝に出発した。お前とヴィクトリアに宜しくとのことだ」

「私に挨拶もなくですか?それは急でしたね」

「お前に会えば、決心が揺らぐと思ったのかもしれんぞ」

「そうですね、休みには帰ってくると?」

「さあ、帰る時は連絡すると言っておったな、そうであろう?」

父は隣の母の顔色を見た。しかし、母は硬い表情を崩さなかった。

ヴィクトリアは小声で囁いた。

「お母様は、戸惑っていらっしゃるのよ。今はあまり聞くべきではないわ」









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ