愛に咲くー15 遺されたノート
遺されたノートはマントン寄宿学校で使用していたものだ。学校指定のもので僕も持っていたし、ユリンも・・・。数学に哲学、歴史、所狭しとアルターの字で小さくぎっしりと注釈が書き込まれていた。大切に使われた、そのノートの最後のページに浮かび上がった文字は・・・。
私は世を愛さなかった
世も私を・・・
赤い薔薇の棘が私の行く手に無限に広がり
白き足はずくりずくりと刺された
それでも歩き続けた
人の言葉に惑わされ、翻弄されながらも
幾ばくかの真を信じた
裏切られるたびに心は悲鳴をあげた
だがそれは口をついて出ることはなかった
私は世を愛さなかった
世も私を・・・
私はこの上なく世を愛したかった
美しいこの地球を愛で
心麗しき人と語り、笑い合いたかった
だが色んな邪念が言葉を飲み込ませてしまう
これ以上傷つくのが怖いのだ
世を遠目で見ている私に愛は降り注がないのだろうか・・・
私が愛さなければ・・・世は私を愛してくれないのだろうか・・・
人の口に戸は立てられぬ
ならば・・・
貝のように口を閉ざしてしまう私のような者がいること
それを心のどこかで理解してくれ
でなければ・・・
私の心は血を流し続けるのだから
これは、バイロンの詩集にある『私は世を愛さなかった』に自分を置き換えて書かれたものであろう。
アルターの詩はここで終わっており、その下にこう引用されていた。
『 私は世を愛さなかった、世もまた私をー
所詮、敵ならばいさぎよく袂を別とう
だが私は信じたい、彼らには裏切られたが
真実ある言葉、欺きえぬ希望があり
めぐみ深く、過失の穴をつくらぬ美徳があると
また、人の悲しみを心から悲しむものもおり
一人か二人かは、見かけと変わらぬものもあり
善とは名ばかりでなく、幸福とは夢でない、と。 』
引用:バイロン詩集 訳 阿部知二 新潮文庫 1951年
(注:「穴」の字は正式には旧漢字の難しいものが記されていたが、探せなかったため、常用漢字を用いました)
「アルター君って人は・・・・。君こそ生きて、人生に大輪の花を存分に咲かせるべき人だった。そうして、僕に仲間に、その心情を語って欲しかった・・・」




