愛に咲くー14 ローレンスの真心
ローレンスはスコット領の隣のトリデスタン領に来ていた。ここには、アルターの実家がある。
真冬の雪嵐の中、馬車を走らせて、着いた時はクリスマスシーズンだった。村の広場にはクリスマスマーケットが開かれ、たくさんの樅木、クリスマス用の品物が並んでいた。まだ、陽は落ちていないため、人はまばらだった。
ローレンスは、クリスマスマーケットで買い物をするヴィクトリアを思い出していた。本当は夜に開催される舞踏会へも行きたかった、盛装した彼女はどんなに美しいだろうと、どんなに思いを巡らしたことだろう。だが、年齢がそれを遮り、夢の中で彼女を想像するしかなかった。
広場を抜けて、牧草地へと足を運び、丘の麓にあるアルターの家まで来た。ローレンスはその家を見て、立ち止まった。家は荒んで、ドアの前には腐った野菜が投げ捨てられていた。
「これはいったいどういうことだ?」
急ぎ足で家まで行き、扉をノックした。辺りを見回しながら、おもむろに出てきたのは老人で生気がなかった。
「どなたですかな?」
「アルターの・・・」
と、ローレンスが言い終わらない内に、扉は閉められた。
「もう、息子はおらん。死んでしもうた。なのに、まだ何かあるんかい?」
「あ、いえ、何か勘違いをされている。私はアルターのマントン寄宿学校の友人です」
少しだけ間があって、扉はまた開いた。
「息子の友人ですと?わしは聞いたこともないが、今更なんのようじゃ?おぬしも文句を言いに来たのか?」
「文句ですって!僕はアルターのお墓参りに来たんです」
「そうでしたか・・・。息子にそんな友人がいたとは・・・」
「あの・・・アルターについて、お話を伺ってもよろしいでしょうか?」
「ああ、汚いとこだがお入りください」
本宅の棟続きに大きな牛舎がいくつも建っており、かなり手広く酪農をしているようだが・・・覇気がないのが気になったローレンスだった。
リビングには大きな食卓があり、10数人は座れそうだ。そこに老いた母親と適齢期の息子たちが三人いた。みな相当疲れているように見えた。
「私はマントン寄宿学校の友人でローレンスと言います。この度はご愁傷様でした。寂しくなったことと思います」
「はっ!寂しくなんかないさ、アルターは俺たちに枷を残して死んだんだから」
一番年長らしき息子がそう言った。
「いったい、それはどういう意味ですか?私に話せることでしたら、是非とも伺いたい」
母親は止めようとしたが、長男は話し始めた。
身重の女性を助けたことで、アルターの人生が狂ってしまったこと。最終的には村人から村八分にされ、家族全員が未だ誹りを受け続けていること。
ローレンスは話を聞き終わり、その女性について、家族にいくつかの質問をしてから、それがヴィクトリアのことだと確信した。
「ああ、そうだったんですね。彼女はここにいたんですね・・・。その女性は僕が探していた義姉のヴィクトリアです」
全員が目をむき出しにして、ローレンスを見た。そして、長男がローレンスに掴みかかった。父親がそれを止めて、彼の肩を叩いた。
「もう、すんだことじゃ。それにローレンス君を責めても仕方がなかろう」
「アルターは良いやつです!弱っていた僕の面倒をよく見てくれて、僕にとっては兄のような存在でした。決して村の皆さんが思っているような奴ではありませんし、ご家族も彼をもっと誇りに思ってください。アルターのために、私に一仕事させてください」
ローレンスはそう頼みこんだ。
日が暮れると、クリスマスマーケットは電灯の灯りで明るく光り、仕事を終えた人々が家族で買い物へやって来て、ごった返している。
広場の中心には、大道芸人用に少しだけ何もない空間が空いている。そこに立札を立て、ローレンスは演説をするかのごとく、大声で話し始めた。
「みなさん、聞いてください!僕は、この隣のスコット領の領主で伯爵のローレンスと言います。実は皆さんに私の友人アルターについて、お話がしたいのです。彼がいま、皆さんからどう思われているのか承知しています。ですが、それは真実ではありません。誰かが作った創作話です。実際の彼は優しくて面倒見の良い紳士なんです。いなくなった女性はヴィクトリアと言い、私の義理の姉。私たち家族は、彼女をずっと探していた。心優しいアルターが身重の彼女のお世話してくれ、本当に感謝しています。そして、彼女はわが家を目指していた途中、陣痛がきてしまい、出産で命を落としたのです。これが真実です。彼は罪人などではありません、彼は本当に正直で素晴らしい人なんです!」
と、何度も繰り返した。
村人は入れ替わり立ち替わり、話を聞いては去って行った。
離れた所から聞いていた家族は、ローレンスが話す度に心の枷がどんどん溶かされていくようで、今更ながらアルターをもっと信じて理解してあげればよかったと涙した。
その日は遅くなったため、家族が・・・アルターの家が別にあるので、そこへ是非とも泊まっていって欲しいと言う。
ランタンの灯りを携え、アルターの父親と丘ひとつ越えた先のアルターの家へと向かった。その家をランタンの灯りで右に左に照らし、見えた家はアルターの家らしいとローレンスは思った。素朴で暮らしやすそうな家だと。
「何か不自由がありましたら、母屋まで来て下さい」
「はい、あの・・・家の中を見て回っても良いでしょうか?」
「ああ、好きにしてください。欲しいものがありましたら、形見としてお持ちくださっても構いません」
「そうですか。ありがとうございます」
「いえ、感謝するのは私達どものほうです。あなたのような友人がいたこと、アルターは幸せだった。では、これで、また明日」
次の日、アルターのお墓に案内され、ローレンスは百合の花を捧げ、冥福を祈った。君がこんなに辛い状況だったとは知らなったよ・・・なのに・・・僕に遺した最後の言葉は・・・僕を気遣っていた。
『ごめんよ、ローレンス。お前を巻き込んでしまった』
「アルター、君の名誉は回復したよ。これで少しは安らかに眠ってくれるだろうか・・・」
僕にできることは、これしか思い浮かばなかった。
ふと頭を上げると、季節外れの紋白蝶がひらりひらりと飛んでいる。ローレンスは、はっとして思い出した。そうだ、アルターの机の引き出しにあったノートの詩、あれは君の|真意を語るものだった。
「アルター、あれを僕にくれないか?」
紋白蝶が、ちょこんとローレンスの肩に止まった。
その後、アルターの家に野菜を投げたり、陰口を言う人はいなくなった。と、母親が手紙をくれた。
「ほんとうに、ありがとうございました」
そう感謝の言葉で締めくくられていた。




