表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生きた花たち  作者: 雪の花
14/21

愛に咲くー14 ローレンスの真心

ローレンスはスコット領の隣のトリデスタン領に来ていた。ここには、アルターの実家がある。

真冬の雪嵐の中、馬車を走らせて、着いた時はクリスマスシーズンだった。村の広場にはクリスマスマーケットが開かれ、たくさんの樅木、クリスマス用の品物が並んでいた。まだ、陽は落ちていないため、人はまばらだった。

ローレンスは、クリスマスマーケットで買い物をするヴィクトリアを思い出していた。本当は夜に開催される舞踏会へも行きたかった、盛装した彼女はどんなに美しいだろうと、どんなに思いを巡らしたことだろう。だが、年齢がそれを遮り、夢の中で彼女を想像するしかなかった。


広場を抜けて、牧草地へと足を運び、丘の麓にあるアルターの家まで来た。ローレンスはその家を見て、立ち止まった。家は荒んで、ドアの前には腐った野菜が投げ捨てられていた。

「これはいったいどういうことだ?」

急ぎ足で家まで行き、扉をノックした。辺りを見回しながら、おもむろに出てきたのは老人で生気がなかった。

「どなたですかな?」

「アルターの・・・」

と、ローレンスが言い終わらない内に、扉は閉められた。

「もう、息子はおらん。死んでしもうた。なのに、まだ何かあるんかい?」

「あ、いえ、何か勘違いをされている。私はアルターのマントン寄宿学校の友人です」

少しだけ間があって、扉はまた開いた。

「息子の友人ですと?わしは聞いたこともないが、今更なんのようじゃ?おぬしも文句を言いに来たのか?」

「文句ですって!僕はアルターのお墓参りに来たんです」

「そうでしたか・・・。息子にそんな友人がいたとは・・・」

「あの・・・アルターについて、お話を伺ってもよろしいでしょうか?」

「ああ、汚いとこだがお入りください」

本宅の棟続きに大きな牛舎がいくつも建っており、かなり手広く酪農をしているようだが・・・覇気がないのが気になったローレンスだった。

リビングには大きな食卓があり、10数人は座れそうだ。そこに老いた母親と適齢期の息子たちが三人いた。みな相当疲れているように見えた。

「私はマントン寄宿学校の友人でローレンスと言います。この度はご愁傷様でした。寂しくなったことと思います」

「はっ!寂しくなんかないさ、アルターは俺たちに枷を残して死んだんだから」

一番年長らしき息子がそう言った。

「いったい、それはどういう意味ですか?私に話せることでしたら、是非とも伺いたい」

母親は止めようとしたが、長男は話し始めた。

身重の女性を助けたことで、アルターの人生が狂ってしまったこと。最終的には村人から村八分にされ、家族全員が未だ誹りを受け続けていること。

ローレンスは話を聞き終わり、その女性について、家族にいくつかの質問をしてから、それがヴィクトリアのことだと確信した。

「ああ、そうだったんですね。彼女はここにいたんですね・・・。その女性は僕が探していた義姉のヴィクトリアです」

全員が目をむき出しにして、ローレンスを見た。そして、長男がローレンスに掴みかかった。父親がそれを止めて、彼の肩を叩いた。

「もう、すんだことじゃ。それにローレンス君を責めても仕方がなかろう」


「アルターは良いやつです!弱っていた僕の面倒をよく見てくれて、僕にとっては兄のような存在でした。決して村の皆さんが思っているような奴ではありませんし、ご家族も彼をもっと誇りに思ってください。アルターのために、私に一仕事させてください」

ローレンスはそう頼みこんだ。


日が暮れると、クリスマスマーケットは電灯の灯りで明るく光り、仕事を終えた人々が家族で買い物へやって来て、ごった返している。

広場の中心には、大道芸人用に少しだけ何もない空間が空いている。そこに立札を立て、ローレンスは演説をするかのごとく、大声で話し始めた。


「みなさん、聞いてください!僕は、この隣のスコット領の領主で伯爵のローレンスと言います。実は皆さんに私の友人アルターについて、お話がしたいのです。彼がいま、皆さんからどう思われているのか承知しています。ですが、それは真実ではありません。誰かが作った創作話です。実際の彼は優しくて面倒見の良い紳士なんです。いなくなった女性はヴィクトリアと言い、私の義理の姉。私たち家族は、彼女をずっと探していた。心優しいアルターが身重の彼女のお世話してくれ、本当に感謝しています。そして、彼女はわが家を目指していた途中、陣痛がきてしまい、出産で命を落としたのです。これが真実です。彼は罪人(つみびと)などではありません、彼は本当に正直で素晴らしい人なんです!」

と、何度も繰り返した。


村人は入れ替わり立ち替わり、話を聞いては去って行った。

離れた所から聞いていた家族は、ローレンスが話す度に心の枷がどんどん溶かされていくようで、今更ながらアルターをもっと信じて理解してあげればよかったと涙した。

その日は遅くなったため、家族が・・・アルターの家が別にあるので、そこへ是非とも泊まっていって欲しいと言う。

ランタンの灯りを携え、アルターの父親と丘ひとつ越えた先のアルターの家へと向かった。その家をランタンの灯りで右に左に照らし、見えた家はアルターの家らしいとローレンスは思った。素朴で暮らしやすそうな家だと。

「何か不自由がありましたら、母屋まで来て下さい」

「はい、あの・・・家の中を見て回っても良いでしょうか?」

「ああ、好きにしてください。欲しいものがありましたら、形見としてお持ちくださっても構いません」

「そうですか。ありがとうございます」

「いえ、感謝するのは私達どものほうです。あなたのような友人がいたこと、アルターは幸せだった。では、これで、また明日」


次の日、アルターのお墓に案内され、ローレンスは百合の花を捧げ、冥福を祈った。君がこんなに辛い状況だったとは知らなったよ・・・なのに・・・僕に遺した最後の言葉は・・・僕を気遣っていた。

『ごめんよ、ローレンス。お前を巻き込んでしまった』


「アルター、君の名誉は回復したよ。これで少しは安らかに眠ってくれるだろうか・・・」

僕にできることは、これしか思い浮かばなかった。


ふと頭を上げると、季節外れの紋白蝶がひらりひらりと飛んでいる。ローレンスは、はっとして思い出した。そうだ、アルターの机の引き出しにあったノートの詩、あれは君の|真意(こころのうち)を語るものだった。

「アルター、あれを僕にくれないか?」

紋白蝶が、ちょこんとローレンスの肩に止まった。


その後、アルターの家に野菜を投げたり、陰口を言う人はいなくなった。と、母親が手紙をくれた。

「ほんとうに、ありがとうございました」

そう感謝の言葉で締めくくられていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ