愛に咲くー13 ユリンの報告書
ローレンスの所にアルターの訃報が届いたのは、ヴィクトリアの葬儀から一月ほど経った日のこと。
またしてもローレンスは大切な人を失った。
訃報を読んだ時、アルターに手紙ではなく、会いに行って面と向かって話をすればよかったと悔やんだ。今思えば、あの手紙は、君に全部責任転嫁してしまっていたね。
訃報の入った封筒には、あと数枚の便せんが入っており、それは見覚えのあるもの。自分が出したアルターへの手紙だった。くしゃくしゃで、ところどころに涙の跡のようなシミがみえる。
便せんの一番最後の余白に、乱れた文字で・・・こんなことが書かれていた。
『ごめんよ、ローレンス。お前を巻き込んでしまった』
それから数日後、調査会社から、依頼していたユリンについての報告があった。封を開けるのは躊躇われた。彼女は、もうすでに亡くなっている、彼女の墓を荒らすような行為ではないかと思うのだ。
だが・・・ローレンスにとって、ユリンの死はとても衝撃的なことで、自分が遺体を運び、両親へと引き渡した。その時の彼女に対する両親の態度が解せなった。母親ですら、彼女を見ても涙さえ見せず、父親に関して言えば、とても事務的で感情の揺れが見られなかったから。
アルターや寄宿学校の生徒、先生の話では、深窓の令嬢として育ったと聞いていた。
それならば・・・自分が事情を話した際に、彼らから烈火の如く責められるのは覚悟の上だった。だが、短時間で物事は進み、ローレンスは予定していた日数よりも格段に早く帰ることができた。
ユリンには何か事情があるのだと思うと、それを知りたいと言う気持ちが抑えられず、ローレンスは調査会社に身辺調査を依頼したのだ。
ユリン・キャラウェイについての報告書
キャラウェイ家は、現国王の弟のパリス公爵が家督を継いだ名門中の名門。奥方は後添えで、ユリンの生母ではない。生母は産後の肥立ちが思わしくなく、実の妹に我が子を託し、亡くなった。ユリン殿本人が、この事実を知っていたかは不明です。
12年後に弟を妊娠した義母はユリンを警戒し、周囲の環境がガラリと変わったようです。それまで公爵家の後継者として蝶よ花よと敬われた彼女に、突然、父親から寄宿学校への入学が告げられた。表向きの理由は、後継者としての知識と教養を学ばせるためとなっていた。だが、本当は、ユリンの自分勝手な性格を両親が心配したことと、この時すでに公爵家の跡取りは男子が生まれれば、その子になることが決定していたからであると、召使い達からの聞き込みで分かりました。
ユリンが出立した後に生まれ、これまで5年間一度も里帰りを許されなかった為、弟の存在を知ったのはごく最近だったようです。
彼女は父親に手紙で、『寄宿学校を出たら、家に帰りたい!』と申し出ていたようですが、返事は過酷なものでした。『寄宿学校を卒業したら、結婚しない限りは、北方の古式ゆかしい修道院へ行くことが決まっている』と、代理弁護士を通して、彼女の要望を一蹴した。この時に、家督継承のことと弟のことが明かされたと思われます。
以上が私が調査したものの報告の全てです。
何か、他にお心に掛かることがありましたら、ご連絡下さい。
ウィレム調査会社
代表 ウィレム・バコット
報告書を読んだローレンスは、最後に話した時のことを思い返していた。そうだ、あの気迫は切羽詰まった環境に置かれたが故の執着だったのだと。ユリンは未来がとても不安だったのだろう。
だからこそ、私との結婚を望み、どうにかして私を手に入れようと、なんでもあげるなどと思いつく限りのことを言ったのだろう。だが、それらの権利はもう・・・すべて弟に渡ると知っていても・・・。
全てを持っていた者が、全てを失ったとしたら、それはどれだけの苦しみだろうか。せめて両親の愛か友人の助けがあれば、彼女はこんなに苦しまずにすんだであろう。
アルターにユリン、ヴィクトリア、もっと彼ら自身を知ろうとしていたらと、とても後悔している。そうしていれば、君たちの死を阻めたかもしれないと思う。君たちも僕を信じて、心の内を話してくれていたらと思うのだ。微力ながら・・・何か力になれたと思う。
弱音を吐いて助けを求めてくれていたら・・・。
兄、父、ユリン、ヴィクトリア、アルターと、どれだけ自分は親しい人を失わなければいけないのだろう、僕がなにか大それた罪を過去世で犯したのではないかと思うほどだ。
彼は『大事な人を失い続ける者』として、己が運命を呪った。僕に関わった人は死んでゆく、これからもそうなのだろうか?ならば、人とこれ以降、近しくするのは止めておこう。これは、ローレンスなりの予防策であった。このローレンスの固い決意を崩す者は現れるのか?
(注:この頃まだまだ医術が発達しておらず、出産の前後で亡くなる母親や子どもが多かった。だから、出産はかなり危険で注意が必要であった。)




