表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生きた花たち  作者: 雪の花
1/21

愛に咲くー1 身重の女

ピンクグレージュの絵の具を流したような夜。

この夜が特別かどうかは分からないが、パタパタと星が瞬き、遥か遠くの灰色の山頂には純白の満月が輝く。

そびえ立つ二本の柊の木には深緑色の星型の葉が生い茂り、赤い実がたわわに実っている。


盛りを過ぎた女は大きなお腹を麻で出来た簡素なドレスで隠し、目深に被っていたフード付きコートをするりと脱ぎ棄てた。お腹を少しだけ擦り、近くにあった柊の木の枝にレースのついた生成り色の産着をかける。縫い目はお世辞にも美しいとは言えないが、見ているだけで心がほんわりと温かくなる。夜更けに縫い、この産着を着た我が子を幾度、想像しただろうか・・・。


先の戦で夫を亡くした身、生むときも独り。横で手を握る人も、背中ごと抱きしめてくれる人もいない。孤独と言えば孤独、だが、私の中にしっかりと息づいている命は、愛の結晶。

寂しい時辛い時、お腹に手を当てれば「ここにいるよ」と、いつも勇気づけてくれた。


「ううう・・・」

満月がかすんで見える。柊の木にしがみつき、木の皮に爪が食い込んでゆく。あらん限りの力でいきみ、我が子を産み落とす。

すると突風が吹き、赤い実がぽとぽとと地面に散った。柊の実なのか、私の血なのか、我が子の血なのか・・・銀色の土は赤く染まる。


「おぎゃあー」

大きな声で泣く、目鼻に夫の面影を残す元気な男の子。目から涙が滴る。

「この子の前途に幸多かれ」そう、一心に祈る。

震える指で産着を着せると、乳を求めて泣き始める。白い乳房を出し、乳を与えるのはこれきりだろう・・・。

己は分かるのだ、己の運命が・・・。

「幸多かれ・・・さちおおかれ・・・私の願いはただそれだけ・・・・」



星は消え、月はうっすらと影を残すのみ。辺りは日の出を待つばかり。

「ワンワンワン!」

刺繡の施された服を着たビーグル犬が吠え立てる。

「どうした?キャスパー」

後からやって来た紳士は尋ねる。


柊の木の下に座り、パタパタと尻尾を振るキャスパーの近くまでやってくる。目の前に広がった光景に、彼の心はどくどくと脈打ち、足が後ずさった。

「なんと・・・・」

聖母のように微笑んでいる青白い女と、女の胸元で満足げに安らかに眠る桃色の頬の赤ん坊。

ルビーの粒が散りばめられた一幅の聖母子像のようであった。


紳士は女の顔に見覚えがあり、しばらくの間じっと見つめていた。

「ややっ!義姉上ではないか・・・」

紳士の名は「ローレンス」、横たわる女の名は「ヴィクトリア」、彼の兄の名は聖なる騎士と言われた「ウオルター・スコット伯爵」名誉の死を遂げたその名を知らぬ者はいなかった。


「ヴィクトリア、どうして・・・こんなことに・・・なぜ私を頼ってくれなかったのか・・・」











評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ