女騎士と魔法使い
「国を救ってほしい?」
「はい。私の祖国は今、流行病により滅亡の危機にあります。魔法使いである貴方なら、我が祖国を救えるはずです」
「ふーん…まあ、別に構わないけど。対価は?」
「お金ならいくらでも」
「僕はお金なんかに興味はないよ」
私は少し困った。
「お金以外に、払えるものがあるでしょうか」
「そうだなぁ。例えば…」
魔法使い様は、私を見つめてこう言った。
「君自身、とか」
「は…?」
「女騎士なんて辞めて、僕の恋人になるというなら考えてあげてもいいよ」
ここで断ってしまうなら、私のプライドは守られる。しかし、病に倒れた王太子殿下や国民達を見殺しにすることになる。
私の答えなんて、最初から決まっていた。
「私などで良いのなら」
「…へぇ」
魔法使い様は、私の答えが意外だったらしく驚いた表情。
「いいよ、それなら君の祖国は救ってあげよう。ものはついでだ。大陸全土から流行病を消してしまおうか」
「そんなことまで出来るのですか」
「もちろん。だって魔法使いだもの」
さも当然のように言う魔法使い様は、正直言ってとても心強い。
「おはようございます、アモン様。朝ですよ」
「んー…まだ眠い…ルクスリアも一緒に寝ようよー」
「昼夜逆転の生活は良くないです。朝は起きましょう。そして夜は寝ましょう。ということで、はい!とっとと起きる」
「うー…」
魔法使い様ことアモン様を叩き起こす。恋人とは名ばかりで、実際にはお世話係になっている私。でも、慣れてしまえば案外楽しい。
ダメな主人を少しずつ矯正していくのは、やりがいを感じるのだ。
「はい、水を張った桶と清潔なタオルです。さあ、顔を洗って」
「はーい」
「今日の着替えはこちらにおいておきますね」
「ありがとう」
彼は私に甘えつつも言うことは聞いてくれる。
「さあ、今日も朝からストレッチと筋トレを始めますよ」
「逃げていい?」
「ダメです。さあ、ご一緒に!」
「やだぁ」
なんだかんだでちゃんと自堕落な生活を矯正しようとする私について来て、私を手放さない辺りアモン様も大概だと思う。
最初はどうなることかと思ったが、今ではアモン様の世話をする生活に幸せも感じることもある。
騎士を辞めたのはとても残念だけれど、騎士を辞めても剣の稽古は続けられるし。
「ルクスリア」
「はい、アモン様」
「お昼を食べたら、膝枕してね」
「アモン様が、今日の分のお薬の調合を終わらせられたらいいですよ」
「頑張るよ」
アモン様は普段、錬金術で薬を調合してお金を稼ぐ。私はそんなアモン様にやる気を出させるのがお仕事のようなもの。
「ルクスリア、ずっとそばにいてね」
「はい、アモン様」
アモン様は天涯孤独の身の上らしい。やや私に依存気味なのもそのせいだろう。何をしてあげられるわけでもないが、せめて私は彼を愛していこうと思う。