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8 新スキルとオリジナルスキル

 ナギは森の中で黒狼の群れと戦闘を繰り広げていた。


「よっと!」


 背後から襲いかかってきた漆黒の狼の攻撃を見切って軽くサイドステップするだけで避ける。


 空振りして目の前を通り過ぎる黒狼に向かって<風刃>を素早く放つと、目の端で絶命しているのを確認しつつ、横から突進してきた黒狼にタイミングを合わせて<風弾>を叩き込んだ。もろに顔面に食らった狼は吹っ飛んでそのまま息絶える。


 次々と仲間がやられて激昂したのか、大きな唸り声を上げて二体の敵が走り寄ってきた。ナギは少し立ち位置をずらして狼たちが一直線に重なるように調節し、それから無造作に<風刃>を放ってまとめて両断する。


 その後も次々と襲ってくる黒狼たちを葬っていくと、最後に三体がこちらを囲むようにして飛びかかってきた。先程、二体同時に殺されたことから学習したのか、お互い距離をとっての同時攻撃である。


 そんな不利な状況にもナギは冷静さを失わず後ろに下がりながら<風爆>を前方の空間で炸裂させた。三体の黒狼は突如発生した暴風によりばらばらに吹き飛んでいく。最初は着弾した場所でしか効果を発揮できなかった<風爆>も今では自分の意思で自由に操作することができる。


 早めに下がっていたことで<風爆>の影響をたいして受けなかったナギは、体勢を崩している右の一体に<風刃>を投げつつ中央にいた黒狼に素早く接近して剣で首を撥ねてあっという間に二体を片付けた。


 そして最後に残っていた一体が分が悪いと見て慌てて逃げ去るも、ナギはそちらに向かってこれまでで一番魔力がこもった<風弾>を撃つ。込めた魔力量が多いほど威力・スピードとも上がる星霊術は高速で飛翔して逃げた黒狼を撃ち抜いたのであった。


 十体近くいた敵を全滅させたナギは剣を肩に担ぎつつ軽く息を吐く。


「やっと終わったか。今のところはなんとか戦えてるな」


 寝床にしていた場所から旅立って早一週間。これまで魔物とは何度も遭遇して幾度も戦闘を経験してきた。はじめはぎこちなかったナギの戦いも今ではだんだん慣れてきてだいぶ落ち着いて動けるようになってきている。もともと剣術を習っていた経験があったとはいえ、やはり実戦に勝る修行はないということなのかもしれない。


 これまで黒狼の他にエンカウントしたのは、子供ほどの体格で醜悪な顔をしたゴブリン、豚頭のオークなどである。あとは野生の獣である熊などもいたがこちらから手を出さなければ襲ってくることはなかった。ゴブリンやオークは身体能力や知能が特に高いわけでもないので油断しなければ問題はない。


 ちなみにゴブリンやオークと呼んでいるが本当の名前は知らない。ただいかにもな風体をしているので間違ってはいないと思う。


 今のところ一番厄介なのは黒狼が群れで襲ってきた場合である。漆黒の毛並みに隠密行動を得意とする彼らは森の暗がりから音もなく襲いかかって獲物を仕留める生粋のハンターだ。もし不意を突かれたり、数が十体を超えるとしんどくなってくる。魔物の中では一番俊敏で連携してくることもあるのでかなり厄介なのだ。


 先程の戦闘でも接近してくる敵を捌くのが少し遅れてひやりとする場面が何度かあった。数が多い場合は星霊術で牽制したり森の木々をブラインドに使ったりと工夫しながら戦っているとはいえ限界というものがある。


「敵を一気に殲滅できれば楽なんだけどな」


 敵をあっさり貫通できるまでに強化した<風刃>や<風弾>も単発でしか発動できないので、工夫しなければ複数の敵をまとめて倒すことができない。だから基本的には根気良く一体一体倒していくしかないのだ。


「それに俺の扱う星霊術には防御系のスキルがないから、接近されるとぎりぎりで回避するか剣で迎撃するしかないんだよな」


 接近された場合はだいたい紙一重で避けたりすれ違いざまに剣で攻撃したりがセオリーとなっている。少しでも判断を誤れば身体に噛み付かれてしまうのでけっこう命懸けだったりする。


 あれこれ考えながら森の中を進むと小さな川が見えてきた。大自然を流れるだけあって透明度が高くとてもきれいな水だ。今日の探索で見つけておいたもので、ついでにこの近くにゴンズの木があるのでそこを本日の寝床にする予定である。寝床を確保してから食料探しをしていた時に黒狼の群れとかち合ってしまったのだ。


 しばらく周辺の気配を探っていたナギは何もいないことを確認すると背負っていたリュックサックを地面に下ろす。そして素早く服を脱いで上半身裸になり、リュックの中からタオルを取り出すと水に浸して拭き始めた。


「あー、気持ちいいー」


 戦闘で汗をかいたので余計水の冷たさが心地よく感じる。身体を拭いた後に顔を豪快に洗うと頭がすっきりとしてくる。


 何度か冷水で顔を洗ってほっとすると自然と頭の中はまた戦闘のことを考え始めた。


「何か新しい星霊術でも覚えられればいいんだけど、そこら辺はどうなってるんだろうな」


 星霊術は最初からあった三種類のスキルだけしかまだ使えない。そもそも星霊術に関してほとんど知識がないも同然なのだ。その辺りを管理者の少女や契約星霊であるアルギュロスから聞き出す前に時間切れで転移してしまったのである。






 それからまた森を彷徨うこと数日後、ナギの脳裏に天啓といってもいい閃きが唐突に舞い降りた。


「スキルがなければ自分で新しいスキルを作ればいいじゃん」


 森の中でナギは思わずぽんと手の平を拳で打つ。これまでは三つのスキルをいかに強化することばかり考えてきたわけだが、それらをもっと工夫できないかと考えたのだ。正確には完全に新しいスキルを創造するわけではなく本来とは違う使い方をするのだ。


 ここでヒントとなったのが先程終わったオーク達との戦闘である。ナギが水辺で休憩していていると、どこかで拾ったらしい錆びた武器や防具を装備したオークの集団がわらわらと集まってきたので、一度距離を取るために<風爆>で蹴散らしつつ自らも風に乗って後方に下がったのだ。これは複数の敵と戦う際によく使う手で、この方法をもっと移動に特化して使えないかと考えたのである。


 具体的には足の裏で<風爆>を炸裂させ、その爆発的な勢いに乗って瞬時にある程度の距離を移動するというものだ。これが実現できればこれからの戦闘がかなり楽になるに違いない。実際にはそう簡単にはいかないだろうが試してみる価値はある。


「少しずつ威力を高めていこうか。まずはこれくらいで――おおっ!?」


 両足の下に風爆を発動させると思っていたよりも威力があったようでナギは勢いよく斜めに飛び上がる。その姿はまるでバネ仕掛けの人形のようであった。結局、そのまま何メートルも空中を飛んで最後は顔面から茂みの中に突っ込んだ。


 しばらくして、ナギはうんざりとした表情をしながら草を掻き分けて茂みから出る。


「まったく酷い目に遭ったぜ……」


 服や髪の毛についた葉っぱを落としながら嘆息する。ただ手で顔をちゃんとガードしていたのと、落下した先が茂みだったお陰でほとんど怪我を負わずにすんだのは不幸中の幸いであった。


 気を取り直して再びトライしてみる。今度は慎重に慎重を重ねると威力が弱すぎてほとんど身体が動かなかった。どうやらビビリすぎたらしい。


 魔力を調整しながら三度試してみると、数メートルほど平行に移動できたものの着地が難しく大きくバランスを崩してしまった。戦闘中なら致命的な隙になるかもしれない。


「使いこなせるようになるには時間がかかりそうだな」


 どうやら考えてたよりも難易度が高そうだと悟り、これまで同様、地道に修練を重ねていくしかないとナギは覚悟を決めるのであった。






 新たな移動法を試しはじめてから何日か経った頃、ナギはこの森に飛ばされてから何度目かになる黒狼の群れと交戦していた。今回はいつものように敵に発見されてから応戦するのとは違いこちらから戦いを挑んだのだ。目的は<瞬脚>と名付けたナギ考案のスキルを用いた戦闘を行うことである。


 敵の数は三十匹前後とこれまでで最大であった。文字通り四方八方から飛びかかってくる敵に対してナギは<瞬脚>を発動させて余裕で回避する。一瞬で移動したナギを見失った敵に星霊術を叩き込んで確実に数を減らしていく。


 しばらくすると何体もの黒狼が退路を断つかのごとくナギの周りを取り込むように襲いかかってきた。以前なら<風爆>による自爆戦法くらいしかこの窮地を脱する方法はなかっただろう。


 しかし、新たに覚えた移動術によって敵の隙間を縫うようにその囲いから出ると、ナギが忽然と消えたため敵同士がぶつかって混乱しているところに星霊術をしこたま撃ち込んで殲滅した。


 そんな事を繰り返していると三十体近くいた狼の群れはいつの間にか壊滅していたのだった。ピンチらしいピンチもなかった完全勝利である。


「使えるなこのスキルは」


 森の中に死屍累々と横たわっている魔物を見てナギは<瞬脚>の有用性を確認する。このスキルの移動距離は最大十メートルほどで、それ以上となると足への負担が大きく着地が難しくなる。だが、高速移動できるようになったことで今までのような際どい回避をせずにすむので戦闘がだいぶ安定してきたのは大きな進歩だ。


 戦闘に自信を得てきたナギは意気揚々と探索を再開するのであった。






 それからも毎日のように戦闘があったものの黒狼をはじめとした魔物達はもはやナギの敵ではなかった。戦闘にかかる時間も短くなり、そのお陰で以前よりも探索に割ける時間が増え、一日に移動する距離をだいぶ稼げるようになったと思う。ただ、森を脱出する手がかりは残念ながらまだ見つかっていない。


 そんな中、一日に一回は確認するようにしていたステータスウィンドウに変化があったのだ。


 ☆ ☆ ☆


【名前】 天堂那樹

【性別】 男

【年齢】 17

【クラス】 星霊術士 10338/17951 / 剣術士

【契約星霊】 風と雷の星霊アルギュロス(シンクロレベル1)

【スキル】 言語理解・ステータス閲覧・風耐性1・雷耐性1・風刃・風弾・風爆・雷撃

【オリジナルスキル】 瞬脚

【その他】 管理者の加護


 ☆ ☆ ☆


「おお! 新しいスキルがきた! しかも初めての雷のスキル!」


 スキルの欄に<雷撃>というスキル名が追加されていたのを見て思わずテンションが上がる。


 さっそく試してみると、手の平から青白く発光する電流が幾重にも迸ってそのまま空間を流れていった。これならスタンガンのように魔物を感電させて無力化できるかもしれない。


 ただ、どうして新しいスキルが増えたのかはよく分からなかった。おそらく星霊術には習熟度みたいのが存在していて、それがある程度上がると新しいスキルを覚えられるのかもしれないが推測の域を出ない。


 あとクラスの欄にある謎の数字も地味に増えていたので、この辺はいずれ街を発見できれば調べてみようと思う。


 そして、ステータスウィンドウにオリジナルスキルの項目を新たに設けてみた。管理者の説明どおり、ある程度なら自分でいじることができるらしい。


 新たなスキルを覚えて戦術の幅が広がるとナギが喜んでいると、他にも使い道がありそうだと思い当たって近場にある川へと向かった。


「上手くいってくれよ」


 川の中に少しだけ手を浸して<雷撃>を発動させると、電流が川を伝い水中で拡散していったのだ。感電しないようにすぐに手を引っ込める。


 しばらくすると川が泡立ち水面に何匹もの気絶した魚が腹を見せた状態で浮かんできたのであった。


「よし、成功だな」


 剣の柄を使って浮かんだ魚を回収しながらナギは予想通りの結果に笑みを浮かべる。そこまで深みのある川ではなかったので底にいる魚にもちゃんと攻撃が届いたようだ。


 魚を回収し終えると、次は枯葉やら枝を探して一箇所に積み上げる。そして指の間に発生させた<雷撃>を慎重に近づけると火が着いて徐々に燃え広がっていったのだった。


 火が十分に大きくなるとナギは枝に魚を刺して焚き火のすぐそばの地面に突き立てた。しばらく待ってからよく火が通ったのを確認すると魚に思いきりかぶりつく。


「うまい! 魚ってこんなに美味しかったか?」


 調味料も何もかかっていない適当に焼いただけの魚だが久々の味と食感に感動する。この世界に来てからずっと果実と木の実しか食べていないのだから仕方ないのかもしれない。もう何ヵ月も食べていなかったような気さえする。


 まだ足りないとばかりにナギは回収した魚を次々と焼いて食べていくとあっという間に無くなってしまった。


「思わず夢中で食べてしまったな。火を熾せるようになったし、今度は他の食材も試してみるか」


 ナギは満足そうにお腹をさすりながら今後の食生活について考える。やはり肉を焼いて食べたいが、果たして魔物を食べていいものか悩む。少なくともゴブリンやオークは体臭がきついし外見からしても食べる気がしない。というかそもそも解体の技術がないので野生の動物でも食べるのに難儀しそうだ。


 ともあれ脱出の目処が立たない中で食事がこれまでよりも改善されそうなのはポジティブな要素である。延々と森の中を歩いていると脱出できるか疑念が出てきて不安が首をもたげてくるのだ。


 それに、新たなスキルを得て戦闘面でも余裕が出てきたので、後は脱出するだけだとナギは意気込むのであった。

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