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17 中央図書館

 翌朝、ナギは割り当てられた二階の客間でぐっすりと眠った後にシオンと朝食をとっていた。アマネは仕事があるらしく朝早くに家を出たらしい。セントリース議会の議員なのだから多忙なのだろう。


 朝食を食べ終えた後はセントリースの街を歩いてみることにした。アマネが紹介してくれる商会は明日の午前中にアポイントが取れたのでそれまでは基本的に暇なのだ。それに、街のことを全く知らないので土地勘を養う意味でもぶらりと散策して周辺だけでも把握しておきたい。


 最終的にはシオンが教えてくれたセントリース中央図書館に足を運ぶつもりだ。街にいくつかある一般的な図書館よりも膨大かつ貴重な書物が保管されているそうで、ナギが気になっていた星霊術やその他の知識について調べてみるつもりである。身分証を持たなくともアマネが昨晩書いてくれた紹介状を見せれば問題なく入館できるようだ。


「さてと……そんじゃあ行くか」


 自室で身なりを整えてからリュックサックを背負う。服はアマネが用意してくれたもので、シンプルだが質のよい外用のシャツとズボンだ。


 階段を降りて玄関に向かうと、ちょうど自室を出てきたシオンが背後から階段を降りてくる気配がした。


「今から出かけるの? とにかく迷子にならないよう気をつけなさいよ。あと知らない人についていかないように。それとお昼には一度家に戻りなさいよ」


「だから俺を子供扱いするなっての――」


 うんざりした表情で振り返ったナギは目の前の光景を見て思わず動きを止めた。


「……なによ?」


「あ……いや、お前こそ何なんだよ、その格好は」


 ぽかんと口を開けるナギの前にはなぜか制服姿のシオンが立っていたのだ。紺色のセーラー服に、胸元にはオシャレなスクールリボンがついていて、日本でも十分通用するデザインである。背中にはリュックを背負っており、どこからどう見ても女子高生にしか見えない。


「何って、これから学校だから制服に着替えただけよ。あんたの世界では珍しい格好だったりするの?」


「いや、逆だ。見慣れすぎた格好だから驚かされたというか、シオンがセーラー服を着てるのが衝撃的だったというか」


 まだ衝撃が収まらないなか、まじまじと女子高生バージョンのシオンを見つめる。いつものポニーテールと制服の組み合わせがよく似合っており、膝上ほどの長さのスカートからは健康的な足が伸びていて、よく磨かれた黒いローファーを履いていた。


「しかし驚いたな。俺のいた世界の学生と同じような格好だからな」


「そうなの? けっこう昔からこのタイプの制服らしいけど、もしかしたらあんたと同じ『渡り人』が制服のデザインに関わってたりしてね」


 たまたまデザインが似通っていただけかもしれないがその可能性は大いにありそうだ。確認されていないだけで『渡り人』はこちらの世界にけっこう迷い込んでいるのかもしれない。


「というか学生だったのか……」


「言ってなかったっけ? 街の東にある高等学校に通ってるの」


 シオンは学生と冒険者稼業を両立しており、主に放課後や週末の休日に冒険者の仕事をこなしているそうだ。ちなみに一週間が七日だったり、一年が十二カ月で構成されていたりと暦は地球とほぼ同じであった。


「シオンお嬢様、そろそろ家を出ませんと遅刻してしまいますよ」


「もうこんな時間じゃない! あんたもふらふらと変な場所に入り込まないようにしなさいよ!」


「分かった分かった。それじゃあな」


 二人はヘレナに見送られながら家の門をくぐり、それぞれ別の方向へと歩き出したのだった。






「はー、本当に広い街だよな」


 きょろきょろとおのぼりさんのごとく周囲を見回しながらナギは街の中を歩いていた。手元にはセントリースの簡易地図がある。適当に歩いていたら本当に迷子になりそうなのでヘレナが用意してくれたのだ。


 ナギは地図に目を落としてセントリース市街の大雑把な地理を確認する。街は中央地区とそれぞれ東西南北の街区に分かれていて、更にその中が小さなエリアで区切られているようだ。


 エルフォード家の屋敷は中央寄りの北地区にあり、この辺は高級住宅街の一角にあたる。他には冒険者ギルドの建物などがあった。目的のセントリース中央図書館は名前にもあるとおり中央地区にある。


(そういえば、シオンのやつ街の東にある学校に通っているとか言ってたけど時間に間に合うのか? なにかしらの交通手段があるのかもしれないけど)


 大都市なので家のある北地区から東地区まではけっこう距離がある。東地区のどこにあるのかは知らないが徒歩だとそれなりに時間がかかりそうだ。


 住宅街を南に進んで中央地区に入るとがらりと雰囲気が変わった。背の高い建物が増えて、道を歩いている人間もきっちりとした服装をしている人間が増えた気がする。この地区は行政機関が集中しているので役所関係の人間が多いのだろう。


 少し迷いながらも地図を確認しながら歩いているとようやく図書館らしき建物が見えてきた。全体的にグレーの色をした長方形の建物で周囲には樹木や植物が植えられている。壁面に並んだガラスでできた大きな窓が太陽の光を反射してきらきらと輝いていた。セントリースで一番大きな図書館だけあって敷地面積も含めるとけっこうな広さだ。


 正面玄関で警備していた人間に紹介状を見せると問題なく図書館の中に入れてもらえた。わずかに目を見開いて驚いていたように見えたが、おそらくナギのような若者がアマネの紹介状を携えていたことに驚いたのだろう。


 玄関からエントランスを進むとずらっと長い本棚がいくつも並んでいるのが見えた。地元にあった図書館よりもずっと広そうだ。


 入り口近くにあった総合インフォメーションのような場所で職員に目的の書物がどこにあるのか教えてもらう。図書館は一階、二階、地下一階、地下二階の四層構造になっているそうで、地力で探していたら時間がかかりそうだ。


 ナギははじめにクラスに関する本が並んでいる場所に向かい星霊術士について調べてみることにした。


「……ここらのはずなんだけど……ああ、これだな」


 本棚の中に目当ての本を見つけて取り出す。<言語理解>のお陰で現地の文字もすらすらと読むことができる。


 厚みのある本をぱらぱらとめくり星霊術士の項目を探して目を通す。まずは基本的な部分からおさらいも兼ねて読んでいった。


・星霊術士の資質は先天的なもので後から修行などで身につけられるものではない。

・星霊術士の資質を持つ者は少ない。

・星霊と契約することで星霊術を行使することができる。

・契約するためには星霊に認められる必要がある。もっともポピュラーな方法としては戦って倒すことで力を示すことである。ただし、星霊は気まぐれなので必ずしも契約できるとは限らない。

・星霊と邂逅すること自体が少ない。


 この辺りはだいたいこれまでに聞いたとおりである。星霊との出会いが少ない上に必ず契約できる保証もないので、ただでさえ少ない星霊術の素質持ちが他のクラスを選んでしまい、結果、現役の冒険者であるシオンでも星霊術士を見たことがほとんどないのだ。


 ナギは本を更に読み進める。今度は主に星霊に関する情報だ。


・星霊はその名のとおり星(自然)から生まれた意思ある存在(霊体)である。

・星霊の格は等級で表され、最も高い一等級から七等級まである。ただし、一等級の星霊は歴史上でも発見された例がほとんどない。

・星霊には火、土、水、風の四大元素をはじめとして様々な種類が確認されている。


 これもまた既に把握している部分ばかりだ。そして改めて思ったのは一等級であるアルギュロスと契約できたのは非常に幸運だったということである。


 その後も興味深く読ませてもらったが、いくつか新しい情報も入手した。ステータスの中でよく分からなかった部分である。


・星霊と契約するための条件の一つに契約値と魔力容量の関係がある。


 契約値とは星霊と契約するために必要な魔力値のことである。例えばある星霊術士が千の魔力容量を持っていたとしても、これから星霊と契約するために必要な契約値が千五百だった場合は契約不可となる。この数値は星霊の格が上がるほど高くなり、高位の星霊ともなれば並みの魔力容量の持ち主では契約できない。あと魔力は数値化して計測できるらしい。


(なるほどな。あの謎の数字はこれを意味してたのか)


 現在ステータスに記載されている『10338/18002』という数字の謎が解けた。分母がナギの魔力容量で分子がアルギュロスの契約値を示しているようだ。アルギュロスとの契約に必要な数値は一万を超えており、魔力容量の半分以上を使用している。仮にも一等級の星霊なので相当な数値なのだろう。


(アルギュロスが言ってた「資格」というのはこれのことだったのかもな。ということはやっぱり俺の魔力容量は多いのか?)


 シオンもナギの魔力が並外れているようなことを言っていた。いつか機会があれば専用の道具を使ってちゃんと計測してみるのもいい。


(もし星霊と契約できるチャンスがあったら、魔力容量の残量を見ながら慎重に考えるべきなかもな)


 等級に関係なく自分にとって有益な能力を持った星霊と契約するのが望ましい。もっとも星霊と運良く出会えればの話なのでなかなか難しそうだ。


・星霊術は理解度が進めばシンクロレベルが上がる。


 二つ目に判明したのがシンクロレベルに関してだ。星霊術ではスキルの習熟具合が上がることで契約星霊に対する理解が進みシンクロレベルが上昇する。そうなればより強力かつ多彩なスキルを覚えることができるようになる。


 現在、アルギュロスに関してはシンクロレベル1で、使用できる四つのスキルを更に鍛えていけばレベル2に上がれるのかもしれない。


 また、シンクロレベルがどこまで上昇するかは星霊の等級による。最高位の一等級であればレベルが最大で七まで上がる。最も下の七等級ならレベルは一しか上がらず、たいしたスキルを使うことはできない。


 一等級→レベル7

 二等級→レベル6

 三等級→レベル5

    ・

    ・

    ・

 七等級→レベル1


 このように等級が上の方ほどシンクロレベルの最大値も上がり、それだけ強力なスキルを得られるようになるわけだ。


 星霊術士の情報にあらかた目を通したナギは他にも気になっている項目を調べることにしたのだった。

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