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暗殺令嬢は標的の王太子に溺愛される~欲しいのは愛ではなく、あなたのお命です~  作者: 葵 すみれ


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25/41

25.本当の想い

 王太子宮に与えられている部屋に戻ると、アイリスは自己嫌悪に沈む。

 己を抑えられなくなり、王子であるジョナスに危害を加えてしまったのだ。不敬罪、暴行罪といった罪状がアイリスの頭に浮かぶ。

 レオナルドがジョナスに暴力を振るったのとは、わけが違う。レオナルドは王太子だが、アイリスはただの子爵令嬢でしかないのだ。


「結局、聞き出すこともできなかったし……」


 アイリスは盛大なため息を吐き出す。

 王妃とフォーサイス家の事件に関わりがあるという、とても興味深い話は聞けたが、詳細は不明だ。

 まともに情報は得られず、王子相手に乱暴して逃げてくるという結果で、間抜けな役立たずにも程がある。


「どうしてしまったというの……」


 目的のことを考えるなら、ジョナスの誘いを受けるべきだった。

 いっとき体を差し出すだけで、気になっている情報を聞けるのだ。もしかしたら、もっと知らない発見があったかもしれない。

 損失は少なく、利益は大きい。ためらうようなことではなかったはずだ。


 しかし、どうしても我慢できなかった。

 ジョナスに対して好悪の感情はこれといってなかったが、触れられたときの嫌悪感は耐えがたがった。


「もし、あれがレオナルドさまだったら……」


 触れてきたのがレオナルドで、その先を望まれたら、アイリスは応じていただろう。

 それも、目的のためにと我慢して受け入れるのではなく、むしろ喜んで身を任せていたかもしれない。


「……私は何を」


 はっとして、アイリスは己の顔を両手で覆う。

 何を考えていたのだと、羞恥心で頬が熱くなる。


「い……いえ、これは、かりそめとはいえ恋人という立場だからで……」


 アイリスは一人でぶつぶつと言い訳を呟く。

 誰も聞く者のいない言葉は、尻すぼみに消えていった。


「違う……本当は、レオナルドさまのこと……」


 俯きながら、アイリスはぎゅっと拳を握り締める。

 もともと、アイリスがフォーサイス家にいた頃、憧れを抱いていた相手なのだ。

 それがかつての想像を超えて、毎日愛を囁かれていれば、いくら演技とわかっているとはいえ、心が傾いてしまう。

 一緒に過ごす時間が心地よく、このままでいたいという思いは、日増しに強くなっていた。


「お姉さまの仇なのに……好きになってはいけないのに……」


 弱々しく握られた拳に、ぽとりと涙がこぼれ落ちる。

 姉ジゼルを手にかけたとは、レオナルドから直接聞いたのだ。仇であることは、疑いようがない。


「でも……もしかしたら……」


 何故ジゼルを手にかけたかの理由は聞いていない。

 王妃の功績となった反乱未遂や、王妃とフォーサイス侯爵夫人の関係、そしてアイリスが洗脳を受けている可能性など、いくつもの疑問も出てきた。

 ジゼルが殺された背景は、いったい何なのか。


「……レオナルドさまに、お尋ねしてみよう」


 いくら一人で考えたところで答えは出ない。それならば、レオナルドから聞き出すしかない。

 さらなる絶望に叩き落されるかもしれないことが恐ろしく、アイリスの拳が微かに震える。


「大丈夫よ……悪い結果だったとしても、気持ちの問題だけで、状況が変わるわけじゃないもの……」


 ジゼルを殺したことに納得できるような理由がなかったとしても、置かれている状況が変わるわけではない。

 レオナルドは、カトリーナに道筋を示すまで生きている必要があると言っていた。

 まだ十二歳の彼女は嫁ぐとしても、まだ先だろう。それまでは、アイリスもレオナルドの命を保留にしておける。


「このまま何も知らず、利用されるだけなのは……もう嫌よ」


 目的を果たせるのなら、駒として利用されても構わないと思っていた。何も考えなければ、それ以上傷付くこともないだろうとも。

 だが、たとえ結末が変わらないのだとしても、苦しむことになるのだとしても、本当のことを知りたい。

 アイリスは決意をこめて、俯いていた顔を上げた。




 ところが、レオナルドと話す機会はなかなか訪れなかった。

 レオナルドは忙しいらしく、ほとんど王城に行ったきりだ。王太子宮に帰ってきても、すぐにまた王城に引き返してしまう。


「アイリス、すまないな。まだ当分、忙しそうだ」


 王城との行き来の中、わずかな時間でレオナルドはアイリスの部屋を訪れる。

 後ろには秘書官が付き従っていて、隙間を縫ってアイリスに会いに来たことがありありとしていた。


「いいえ……お体にお気を付けて……」


 時間がない上に、他人がいるような状況では、話を切り出せない。アイリスは焦燥感を抱えながら、無力に微笑むだけだ。

 レオナルドが去っていくのを見送り、ただ待つことしかできない。


 しかも、先日アイリスがレオナルドの手に身をすくませて以来、触れようとしてこないのだ。

 もしかしてレオナルドを傷付けてしまったのかと、アイリスは心が痛む。

 身をすくませてしまったのは、衝撃的な出来事があって混乱していたからで、レオナルドに触れられるのが嫌なわけではないとも、伝えられていない。


 それでも、わざわざアイリスに会いに来てくれるのだから、嫌われてはいないのだろう。

 ただ、もしかしたら溺愛しているという演技のためかもしれない。そう思うと、アイリスは胸が苦しくなる。

 だからといって何もできることなどなく、今はレオナルドの仕事が落ち着くのを待つしかない。


「王妃から、お茶の誘い……?」


 そのようなとき、王妃からの呼び出しがあったのだ。

 お茶の誘いとあるが、何らかの企みの駒として、指令が下されるのだろう。

 それとも、ジョナスへの暴力に対するお咎めだろうか。

 うまくいかない状況下での、憂鬱な誘いだ。アイリスはうんざりしながらも、断ることなどできず、支度をするしかなかった。

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