表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/98

予期せぬ邂逅

 黒々とした眼窩(がんか)には眼球こそ存在しないものの、明らかに色艶を失くし弛んだ顔面ごと首から無理矢理に捻じって此方に向けていた。


 血流が急速に勢いを増す。

 心臓が何度も収縮し、激しい鼓動と共に鈍い痛みを生み出す。


「ひ、……っ! きゃああああああああーっ!」


 呆然自失となったのもややあって我に返り湧き上がる恐怖のままに絶叫したのも、合わせて一秒に満たない程度であっただろう。

 が、魔物が落下の兆しを見せたために、もうその場から飛びのいて避ける事は不可能だと本能が告げる。


 時の流れが遅くなった。

 否、追い込まれ極限状態になったが故の、凄まじい脳の回転がそう錯覚させる。


 上空から襲われた場合、素人にでも出来る防御や反撃は何か。

 咄嗟(とっさ)にアカリは膝を立てて姿勢を低くし、骨をゾンビめがけて突き上げた。


 先程までアカリの頭部が存在した虚空を土気色の腕が勢いよく空振り、振り抜いた腕に伴い沿った背中に、骨の先が激突する。


 持ちこたえれば背中を貫いたり背骨を破壊できるかもしれないが、アカリ自身が衝撃に耐えられなければ意味がない。


 よって追撃は諦め、自らの膝や腕に負荷がかかりきる前に横に倒れて衝撃を逃がす。

 自分が横倒しになる傍ら、敵が壁に全身をしたたかに打ちつけるのを視野の片隅で確認し、すぐさま起き上がる。


 アカリの中にはガストは動きが鈍いものという偏見があったのだが、どうも思ったよりは早い――というか、並の人間よりよほど俊敏(しゅんびん)に思えた。

 襲撃直後とは異なり今度は至近距離にいるため、態勢を整える前に襲われれば終わりだ。


 なら、この一瞬で決定打を加えなくてはならない。

 アカリは骨頭という斜めに生えた丸い突起をゾンビの首に引っ掛けるようにして、骨を横凪ぎに振り抜いた。


 見事に命中し、手に伝わる衝撃。

 肺の空気が押し出されたために喉が鳴ったのだろう、ガストの微かな呻き声。

 思わず痺れて武器を取り落とすも、確かに頚椎(けいつい)を破壊した衝撃があった。


 実際あらぬ方向に首が折れたゾンビは床に倒れ伏し、再び動き出す気配は感じられなかった。


「よしっ! 案外やれば出来る、あたし!」


 全てが咄嗟の判断だったが、こうして勝利を収める事が出来た。

 達成感と高揚、喜色が表情から隠せない。

 だが冒険の喜びに浸っている暇はなく、急いでエルフと獣人を追わねばならないのだ。


 未だに少し痺れる腕を叱咤(しった)しつつ、絵面は最悪ながらも命を託す武器を拾い上げて廊下の奥に向き直る。


 すると、すぐ側に立つ二人分の人影が視界に飛び込んで来た。


 突如回転する世界、全身に走る鈍い痛み。

 頭部が瞬時に熱くなり、妙に強く脈を感じた。


 どくどくと煩いのは脈動なのか、横倒しになった世界を端から埋め尽くす赤黒い液体なのか。


 周りに気を配る余裕までは持てなかったアカリは、うっかり零してしまった悲鳴もあり、いつの間にか増援を許してしまっていたようだ。



 霞む視界に再び動く影を捉えたところで、アカリの意識は深い闇に沈んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ