みどり
結局、それから一分程度で視界の中に扉を捉える事になった。
眼前には、半開きの巨大な扉。
縦に接ぎ合わされた木材の継ぎ目がどことなく、檻を思わせて閉塞感を漂わせる。
他にも何か模様らしき影が見えるも、今それを細かく観察している時間の余裕はない。
隙間――と言ってもアカリ一人なら余裕で通れる程度に開いているのだが、そこから先を覗き込んでみた。
今回は今までより道が細いらしく、白い壁面が視界の両端に映り込む。
こうなると左右に進めばまだ扉がありそうだが、入口と同じように開きっぱなしにされていたのなら、この先に進むという選択は恐らく間違っていないだろう。
未だに目的の人物も敵も姿を現さない暗い廊下に、一歩踏み出す。
通り過ぎた扉は逡巡の後、そのまま半開きにしておく事にした。
施錠が出来るかは定かではないが、封鎖される可能性や来た道が確認出来ない不安を考えるとこのままにしておく方が妥当だと思えたのである。
「一体どこまで進んだんだろう……ここからは急がないとまずいかもなぁ」
目的の二人も手探りで進んでいる筈だが、そもそもの距離が開いているのだ。
どこかでは急がなくてはならない以上、手遅れになる前に早く手を打つのが最善であると思われる。
覚悟を決め、アカリは早足で歩き出した。
視界内には規則的に扉が立ち並び、数個過ぎれば合間の壁面に絵画の存在が伺える。
黴やら何やらの汚れでもはや元の色も判別しづらくなっているが、色の境目を辿れば辛うじてそれが人面を描いたものであると判断できた。
それがランタンの光だけで照らされているのだから、この上なく不気味に映る。
「……?」
それらを数個見送った後、不意に視線を感じた気がして振り返る。
今しがた通り過ぎたばかりの男女すら解らない溶けた顔面は、変わらず闇色の虚空を眺めていた。
「流石にホラーゲームのやりすぎかぁー……」
ホラー系の作品において、絵画の目が動いて此方を追ってくるのはよくある展開に思える。
まあ考えてみれば、この世界を舞台にした例の小説にはそんな描写は一切なかったのだが、先に見かけたのが人骨であるが故に、どうしても思考が恐怖に向かいがちなのである。
まさに落ち武者は薄の穂にも怖ず、というヤツだ。
「……それにしても本当、二人に追いつかないなぁ……これもう、危険だけど走るしかないかも?」
作中でアデルが城を抜けたのが夕刻に差し掛かるくらいだったので、まだ時間的には多少余裕がある筈だ。
が、すれ違い等の事故が起こる可能性や距離感がだいぶ未知数である事を加味すると、果たして本当に猶予はあるのだろうか。
――一度深呼吸して落ち着いたら、意を決して走り出そう。
決心して、すっと肺に空気を吸い込む。
そうする事で胸が反り、気持ちと共に視線もまた上に向く。
向いて、
天井を埋め尽くす蔦にへばりつき、静かに此方を凝視する人影と目が合った。