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休息

 †


「――シオンッ!? 今なんか一瞬視界が揺れてなかった!?」


「ふふ、大した事ではないのだよ。それより彼をどうするか……他者同様に眠らせるかね?」


 投擲された剣が命中した際、衝撃で世界が揺れたのをアカリは見逃していなかった。

 故意か否か、シオンが負傷に視線を向けないためどの程度深いかが全く想像出来ず心配が募るばかりである。


 だが、今は彼が言ったようにアデルを完全に鎮圧化しなければ再び暴れ出すかもしれない。

 完全な詠唱を伴う精度の高い催眠の呪文を施して貰うべきか逡巡(しゅんじゅん)していると、何やらアデルが地に膝をつけたまま俯きブツブツと呟いている事に気が付き、シオンと共にアカリも振り返る。


 アカリは反射的に自分の身体でも振り返ったため、まるで違う方角を振り向いたのが間抜けに映り内心少し恥ずかしくなった。


「……あ、れ……俺は……? フィル、……肩……? 今、……」


 彼は俯き地面に視線を向けたままではあるが、その眼差しには幾許かの光が戻っているように見える。


 ふむ、と唸り多少思案した後、シオンがアデルの傍らで彼と同様に膝をつき姿勢を低くした。


「アデル殿。シオンだ、私の声が聴こえているかね?」


「……あ? シオン? 何でここに……つーか、剣の……姿は、どうした?」


 シオンの事はアカリと再会した際に説明済である。

 記憶も混濁しておらず会話も問題なく成立した事から(かんが)みるに、どうやらアデルにかかった術は解けかかっているらしい。


「アカリ殿、どうやら彼は術が解け始めているようだ。眠らせる必要は無いように思えるのだが」


「みたいだね、良かった……」


 状況がまだよく把握できていないアデルが怪訝そうにシオンを見遣り、姿が隠されているアカリの行方を探して周囲に視線を巡らせる。


「ああ、失礼。アカリ殿は姿を隠させて貰っているのだよ。……さて、君も幻惑から開放されたなら、彼女の視界も一度戻してみるかね」


 アカリに対する偽装(ディスガイズ)を解除するついでに視界共有も解いたらしく、不意に少女の視界が切り替わり間近にいた筈のアデルが少し離れた位置に一瞬で移動した(ように錯覚した)。


 彼もシオンも正常に見えているので、アデル同様にアカリも幻術の効果から開放されたらしい。

 肉体と視点が乖離した状態から舞い戻ってみると、改めて直前までの不便さを実感させられた。


「あ、もう元通りみたい。ありがとうシオン……」


 二人に歩み寄って真っ先に目が向くのは悪魔の肩口に出来た裂傷。

 フェネシア城で確かフィルも似たような位置を負傷していたなと思い返し、アデルが急に正気に戻った理由を何となく察した。

 腕が動かせない程の深手ではないらしいが、彼の服装からはまともな防具の一つも見て取れないためこのまま戦わせて大丈夫なものかと不安になってくる。


「礼には及ばないのだよ。……さて、これからどうしたものかね。全員が正気になったのなら、一度ここで身体を休めていくかね。まだ殆どの人々が見つかっていないのが気がかりだが、だからといって何処に居るかも解るまい」


 この場に居ない仲間であるフィルの事が真っ先に頭に浮かんだが――シオンの言う通り、急いだからといって上手く見つけられるとは限らない。

 それに、シオンは負傷し残る二人も少なからず消耗していた。

 姿の見えないエルフへの心配が募るばかりだが、だからこそ冷静になり十分な休息をとるべきだろう、とこの場の全員が判断した様子。


「うん、そうした方がよさそうだね。今が何時か解らないけど、結局あれから眠れてないし……」


 今の時刻は深夜くらいだろうか。

 夜就寝する前に()()なってしまったため、それを踏まえても一度仮眠をとるため、三人は見張りと仮眠の順序を相談し始めた。



 †



 相談の結果、シオン、アデル、アカリの順に仮眠をとる事になった。

 本当なら二人と一人に分かれた方が短時間で済むのだろうが、もし他の部屋のように幻惑の術を使う敵が現れた場合、見張りの一人が術中に()まれば一瞬で全滅の危機に陥る事になる。


 時間を計る道具を持ち合わせていないが、この迷宮では絶えず南瓜の歌や演奏が聴こえている。

 よって大雑把だが、一人分の仮眠時間は歌が十回繰り返すまでという事になった。



「まさか再会当日にこんな事になるなんてな」


「本当それ……と言ってもあたし、何か外から見て違和感があったから来たんだよね。そう思うと何かが起きるのは必然だったのかな?」


「そういやそんな事言ってたな。……俺達からすれば世界の時が止まってた実感なんかまるでねえんだけど、結局誰のせいで時間が進みだしたんだ?」


 アカリもアデルも部屋の片隅で羽を器用に折り畳んで横たわるシオンを一瞥するも、彼もまた原因となった者が誰か知らないという話だった。


「つーか、アイツ生きてるか? 寝息も聴こえねぇし肌色もゾンビみてぇだし死んでんじゃねぇの?」


「あーうん……大丈夫……多分。肌は元からああだし……フィルとかもかなり色白だけど、もうなんか傾向が違うよね。主に健康そうかどうかが」


 肌の白さの比較対象として話題に出してから、この場にいない一人に思いを馳せた。

 隣に腰掛けたアデルもまた目を伏せたため、恐らくは同じ心境なのだろう。


「……無事だといいね」


「……ああ……」


 気まずい沈黙に耐えかね、咄嗟に話題を変える事を試みるアカリ。


「そ、そういえばシオンの視点で戦いを見てたけど、二人ともすっごい動きが速くてびっくりしたよ。あんなの絶対あたしには出来ない」


 ぴく、とアデルの猫耳が微かに動く。

 数秒押し黙っていたが、彼はやがて深い嘆息と共に肩を落とした。


「……何か俺、アイツに負けたのがすげぇ堪えてるらしい……」


 アイツとは言わずもがな、現在睡眠中の悪魔の事である。

 ふと見ると耳が前に垂れており、申し訳ないと思いつつもちょっと可愛いと思ってしまう。


「あー、それは仕方ないんじゃない? あたしが見てきた中の少人数の話になるけど、やっぱりずば抜けて強いんだと思うし。剣の姿の時に戦い方を教えてくれたりしたけど、もうセンスからして違ったし」


 視点共有時の戦闘において、元々の素早さもさる事ながらシオンには相手の先を読む事で的確な攻撃を繰り返していた――という印象をアカリは受けていた。


「……まだ駆け出しだからってのは解ってんだけどよ、明らかに体格も腕力でも劣ってる、それも本職の戦士でもねえ奴に負けるとか……」

 

 沈む猫耳にうっかり気を取られてしまっていたが、どうも言葉以上に(こた)えている様子である。

 どうしたものかと悩むが、相手は下手にその場しのぎの慰めを並べ立てる事を望むようなタイプではないだろうと思い直し、アカリの思うままを語る事にした。


「やっぱり世の中には天才とか秀才とかゴロゴロいるし仕方ないんじゃないかな。……凡人とか駆け出しがそれに並ぶには、やっぱり経験を積んだり色々学んだりするしかないと思う」


 前方を見据えながら、時折アデルの方を一瞥する。

 彼はやや下向きに視線を固定し、沈黙したまま何かを考えている様子だ。


「だからさ、敗北してもまだ生きてるならそれはありがたいチャンスなんじゃないかな。悔しさとか後悔とか、次はこんな思いしたくないって気持ちが貪欲に学んだり努力したりする力になるの」


 ここまで何も喋らなかったアデルだが、ここに来て緩慢にアカリの方を見遣る。


「……相変わらず前向きだよな、故郷じゃ友達ゼロの嫌われ者って未だに信じらんねぇ」


「あっちには異世界の仲間みたいな大切な人もいないし。こんな考えになれるのはアデルやフィル、それにシオンがいてくれるからだよ」


 ごく自然に表情が緩み、アデル、それから背後のシオンを振り返る。


 シオンはいつの間にか直立していた。


 ――一拍の後、残る二人が驚愕のあまり硬直。

 反応に満足したのか、愉快そうに(やじり)型の尻尾が揺れる。


「ふふふ……仲睦まじく語らう時間は短く感じるものさ。どうやらもう交代の時間のようなのだよ」


「おま……いつの間に……やっぱアンデッドか何かだろ……」


 いつ起きたのか、完全に気配が感じられなかった。

 つくづく心臓に悪いと思いながらも、時間が来たなら今度はアデルが仮眠を取らねばならない。

 彼とシオンが入れ替わる形となり、アカリは再び二人体制での見張りについた。 

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