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作戦会議

 ワインセラーでの休憩がてら、今度はアカリの身の上話や今後について話しながら、フィルとアデルの所持していた保存食とアカリの所持していた飴玉を食べていた。


 アカリが食した保存食は干し肉とドライフルーツであり、品名だけなら現代日本(カルールクリス)にも存在する代物だ。

 だが、味付けは良く言えば素朴――まあ、有体(ありてい)に言えば原始的である。


 塩と砂糖は使っているものの、要するにそれだけで単調であり味も非常に濃かった。


 対して、アカリの持ってきた飴玉は二人の感想が真っ二つに分かれる。


「はあ……やはり美味しいですねぇ。本物のワインとは違いますが、これはこれで」


「そうか? 何か変な酸味があるし、ぶっちゃけ普通の飴のが美味くねえ?」


 やはり普段から飲酒の習慣があるからなのか、フィルのみがワイン味の飴玉に高評価を出していた。

 提供した身としては嬉しい返事だが、残念ながらアカリの味覚はアデルの方に近いのである――という事実をありのまま言葉にした。


「あー……あたしも実はアデルと同意見かなー。普通の葡萄飴の方が美味しいよね」


 頷きあうアカリとアデルを見遣り、フィルは少し得意げである。


「大人になればこの良さも解りますよ、ふふ……。さて、それはさておき。本当に僕が全部頂いていいんですね?」


 彼の手元には残り全て、少なくともまだ十粒以上は中身の飴が残っているだろう不織布の袋が手渡されていた。

 ちょっと摘まんでみて、硬さを確かめている様子だ。


「いいのいいの、フィルが一番適任だろうし。それより、全員仮眠し終わったらこのまま奥の階段から上に上がって、騎士棟を目指すので間違いなかったよね」


 アカリは未だ袋をふにふにと両手で揉んでいるフィルと、胡座(あぐら)をかいて腕を組んでいるアデルを交互に見比べながら、地下に落下する前に目指していた方角を指差す。


 今後の方針を決める際にざっとワインセラー内の探索をしたのだが、上の階に続く階段は二つ存在した。

 一つは三人が元いた方向、本館の方に繋がる階段であった。

 アカリが指定したのはその逆側に位置する階段で、こちらは目指していた方角からすると騎士棟に繋がっている筈だった。


「渡り廊下の真下にワインセラーがあるようですね」


 城の入口から見て二つ目の階段がワインセラーに繋がっているようだった。

 なら最初に見た手前側の階段から地下に行くとどんな部屋があるのか――とゲーム感覚で気にしてしまうアカリであったが、ガストキングが小説内でそこから這い上がってきた事を思い出して即座に好奇心を鎮圧させる。


「外で待ち伏せされてる可能性もゼロじゃないけど、どこから行ってもどうせ危険があるなら、まずは一番近くてワインセラーに逃げ込める階段からだよね」


「で、騎士棟二階の渡り廊下付近で遭遇した場合のみワインセラーに叩き落とす作戦を狙うが、その場合も深追いはしねえし奥を目指すのは変わらねえと」


 アデルが確認した内容は、彼自身が一度提案した作戦に一部だけ基づいている。

 アルコールの類が苦手ならそのまま落として戦うという案だったのだが、大穴の側にはもうあまり樽が残っていない上、菌糸が集中している箇所に狙って落とすなどまず不可能という事で断念した。


 深追いしないというのも、うまく落下させても戦いにくくさせる程度で、その後致命傷を負わせる手立てが無いからだった。


「聖酒ももう残っていませんし、それだけでは恐らく倒せない事を考えると……やはり見つけるしかないでしょうしね」


 何を、とは言うまでもない。

 貴族の部屋から出て以来探し続けている魔剣パイロープだ。


 どう転んでも最終的には対峙して戦闘になる事を考えれば、剣の入手は不可欠だろう。


「で。もしも使えなかったり、そもそも無かったりしたら」


「いよいよアデルが最初に言ったように、ワインセラーに叩き落として機動力を落とさせて死ぬ気で戦うしか無いでしょうね。遠くで遭遇したらそれも諦めますが」


 フィルは軽い調子で笑っていたが、実際にそうなった場面を想像するだけで冷や汗ものだ。

 だが、城が封鎖されている以上逃げたところで見つかるのは時間の問題だ。

 それならば時間経過と共に消耗してしまう前に戦うしかなくなるという話である。


「悪夢じゃねぇかよ……」


「もう一周回って笑えてきますよね」


 入り交じる嘆息と苦笑。

 剣のある部屋の特定も出来ておらず、状況は悪いと言うより他はない。

 が、それでも進むしかないのだ。


「じゃあ、交代で仮眠取ったら出発だね」


 アカリの一声に三人は頷き合い、まずは一番消耗しているアデルから身体を休めることになった。

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