優曇華
ぼくは冒険に出る。いつか鏡色のカメレオンが言っていた、優曇華の花を探すんだ。
さて、探すといっても、どこから探したらいいのでしょう。花というからには、お花屋さんに売っているかもしれません。行ってみましょう。
「優曇華の花ありますか」
「うどん? うどんの花はないけど、きれいなバラならあるよ。何色がいい?」
「バラはいりません。優曇華の花がどこにあるか、知りませんか」
「うどんげの花は知らないなあ。そばの花なら白くてかわいいけどね」
困りました。優曇華の花は、お花屋さんでさえ知らないようです。でも鏡色のカメレオンが嘘をつくわけがないので、探せばきっと見つかるはずです。
「優曇華の花ありますか」
「八百屋に花はないね」
「優曇華の花ありますか」
「うちはパン屋だよ」
「優曇華の花ありますか」
「求めるから手に入らない」
「でも、探さなければ見つからないということもあるでしょう」
「探す前からそれはそこにある」
「探しているときに限って見つからないこともよくあります」
「執着は人を盲目にする」
「どうすれば執着をやめられますか」
「求めるから手に入らない」
お花がお花屋さんでばかり売っているとは限りません。それにあのお花屋さん、お花屋さんなのに、タンポポも売っていないようでした。もしかしたら、バラ専門のお花屋さんなのかもしれません。
ぼくは優曇華の花を売っているお店を探した。八百屋さんに、パン屋さんに、魚屋さん。求めるから手に入らないらしい。それにしても、変わった魚屋さんだったな。
優曇華の花を売っているお店は見つかりません。弱りました。おっと、向こうから誰か歩いてきます。誰でしょう。おやおや、鏡色のカメレオンではありませんか。
「君は優曇華の花を探しているんだね」
「どうして知っているの」
「僕は鏡色だからね。君が映るのさ」
「ふうん」
「優曇華の花は見つかったかね」
「見つからないよ。知っているくせに」
「どうして優曇華の花を探しているんだい」
「とってもとっても大切な人に、贈りたいんだ。それは、優曇華の花じゃないとだめなんだよ」
「ほう。それはまたどうして」
「だって、優曇華の花は三千年に一度しか咲かないんだ。そんなものを見られたら、しあわせじゃないか」
「君は、三千年に一度しか咲かない花を見られることをしあわせだと考えているんだね」
「それはそうさ。違うの?」
「ありがたいことではあるだろうさ。それに、そういうことをしあわせだと考えて生きている人間は多い」
「本当のしあわせってなんだろう」
「僕は鏡色だよ。君が映るんだ」
鏡色のカメレオンは帰ってゆきました。鏡色のカメレオンは、いつも話の途中だと思うところで不意に帰ってしまいます。
でも、不思議と嫌な気持ちはしません。それは今日も同じでした。
「探し物は見つかったの?」
包み込むように、優しい声が聞こえます。
「うん」
優曇華の花、ここに咲いてた。