1人目の女
武田昇平の自宅はごく普通の一軒家だ。
お金持ちでも、貧乏でもない、ごくごく普通の暮らしぶりという感じだ。
ピンボーン
「はい どちらさまでしょうか」
インターホンを押すと、かぼそい女性の声が聞こえた。
「私、蓮見と申しますが、武田昇平さんの事で、お尋ねしたい事があって伺いました。」
「えっ?父の事ですか?」
しばらくの沈黙の後、
「お待ちください」と言ってインターホンが切れた。
中から出てきたのは、20代後半であろうか、大人しそうな女性だった。
「父の事でしたら、私からお話するような事は何もないんですが…」
「突然押し掛けてすいません。私は怪しい者ではありません。」
名刺を差し出すと、
「探偵さんがどうして父の事を?」
俺は不思議な依頼メールの事を話した。
「貴女は昇平さんの娘さんですか?私にメールを送ったのは、貴女ではないようですね。」
「はい、美紀と申します。私はメールなどしていません。父の事は全て警察にお任せしていますから。ただ…」
「ただなんでしょうか」
「あっ、こんなところで立ち話もなんですので、どうぞお上がり下さい。」
リビングに通され、お茶を入れながら、彼女は一息ついて話し始めた。
「私には父がそんなことをするなんて思えないんです。子供の頃からお金を粗末に使うなと、厳しくしつけられてきました。その父が会社のお金を使い込むだなんて…」
彼女は涙ぐみながら話した。
「失礼ですがお母様は?」
「母は何年も前に他界し、父と二人暮らしです。母がなくなってからも、父は変わらす毎日仕事に出ていました。たまに仕事で帰りが遅くなる事がありましたが、部下の書類待ちで残業なんだと笑っていました。」
彼女は話しながら、リビングの棚にある、家族写真を見つめた。
そこには笑顔で写る3人の写真が置いてあった。
どこにでもある幸せなごく普通の家庭のようだ。
「美紀さん、私はお父様の無実を証明してほしいと依頼されてこちらに伺いました。依頼人がどなたか今は分かっていませんが、色々御協力をお願いすると思いますがよろしいでしょうか?」
「依頼人が誰かなんて私には関係ありません。父の無実を証明して下さるなら何でも協力します。どうか父を探して下さい。お願いします。」