*
学校に着くと、二階に上がる。
月ノさんとは、同じクラスだ。
「おはよう、麻耶!」
教室に入ると、すぐ彼女に声をかける女子達。
月ノさんは人気者だ。
明るくて、優しい人だから。
いつも彼女の周りには必ず誰かいて、その周りだけ少し輝いて見えた。
「よっ!戒、ま〜た月ノの事見てんだな!」
「そんなわけないだろ、幸。」
こいつは、小学校からの幼馴染。
サチ、と書いてコウと呼ぶ。
中々いい名前だな、と昔から思っている。
僕の名前なんて、そのままのカイだ。
2文字は呼びやすいけど、もうちょっといい名前があったのでは、と思う。
例えば、ヤスとか…。
うん、僕には合わないかな。
と、いうか。
今更、名前に文句なんて言えないんだけどね。
「そういえば、最近物騒だよな。」
幸がふとそんな話を振ってきた。
「まぁ、そうだな。」
「お前の母ちゃん、大丈夫なのか?」
彼は、心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。
幸は僕の家族の事情を知っている。
だから、心配して良く家にくる。
一応、母さんは家に帰ってはくるのだ。
しかし、顔は合わせないし話さない。
たまに夜勤とかで、病院に泊まったりもしているから尚更会わないのだ。
「連絡、取ってないんだろ。お前のことだから。」
「その通り、流石。なんでもお見通しだな。」
そう言った瞬間、軽く頭を殴られた。
そして、彼はひとつ溜息を吐いて言った。
「本当、戒は優しいのか馬鹿なのか分かんねぇな。全く。」
と、少し呆れたように話す幸。
「少なくとも、幸よりかは頭はいいぞ。」
「そういう問題じゃねぇよ、馬鹿。」
楽しそうに笑う幸だったが、急に真面目な顔をして言った。
「何かあれば、相談する。誰でもいいんだ。家族とか、俺を頼れ。わかったか?」
「…あぁ、分かってる。」
僕の言葉を聞いて、幸は溜息をまたついたがいつも通りの僕の様子に安心しているようだった。