十字路国家の思惑 北
十字路同盟、学校に通う者なら全員この言葉をを知っている。
教科書にも出てくる有名な言葉だ。
世界で初めて複数神話での同盟だからだ。
ギリシャ、ケルト、マヤ、北欧の4つの神話が手を取り合い他の国々を襲ったのだ。
この同盟がなければ今でももう少し国が残っていただろう。
この同盟は50年前に東の国によって破棄された。
しかし、異なる神話での共存やその滅した国の数から今だに教科書に乗ったり他の国で考察され続けている。
そんな十字路同盟の北のマヤ神話のイシュタムを神とする国ドレスデンの話をしよう。
ドレスデンは自殺の女神を信仰する国である。
こう言われると自殺が多いように思えるがそんなことはない。
自殺の女神を信仰するからこそ生きる大事さを理解している。
いやしかし自殺が多いのもまた事実だ。
神の血の能力で自殺したときに限り、ある程度の願いを叶えることができるのだ。
願いの効果は一般的には、血の濃さとどれだけ信仰しているかとその人の人生によって変わると言われている。
これにプラスアルファスキルや職業で上乗せするのだ。
この能力を持つため病気や事故で死ぬことが確定してしまった時は、出来るだけ自分の手で自分を殺すのだ。
だが、死ぬときの願いに瀕死の見知らぬ人を回復させたりする場合もあり、長命な者が多い国でもある。
死に最も敏感な国で死に一切の抵抗のない国、それがドレスデンだ。
そんなドレスデンの上層部に一報が届いた。
「全員集まったようね」
「「「「ハッ」」」」
そこには6人の人がいる。
少し他よりも高い場所に2つの王座がありそこには2人の年齢が離れた女性がいる。
片方は20代くらいでもう片方は40〜50代に見える。
両方に共通するのがその恐ろしいほどの肌の白さと首にある縄のような痣だ。
その痣は白い肌にくっきりと現れており、そこに縄があるように錯覚させられる。
下にいる4人はそこまでパッとするわけではないが特徴は伝えておこう。
薄い青髪のメガネをかけた青年、普通よりはがたいのいい白髪の壮年、紫の髪にパーマをかけている60代くらいの女性、茶髪と黒髪が混ざっている髪を腰ほどまで伸ばした30代くらいの女性。
全員可もなく不可もなくな顔をしており、超絶なイケメンや美女というわけではないがそれなりの顔をしている。
「皆も知っているでしょうけど、カーディナルが死んだわ」
王女がそういった。
姫は何も言わずに黙っている。
「はい、それは分かっています。で何を死に望んだのですか?」
青髪がそう聞いた。
「望んだものは国の未来の映像そして見えたのはアレイオスの兵に殺される民と狂ったように笑うあなたの姿よ」
そう言って指を刺されたのは青髪だ。
アレイオスというのは十字路国家の東に位置する国だ。
「僕ですか?」
「ああ、何があったのか詳しいことはカーディナルの死の祝福を使ってなお分からなかったわ。不確定な未来ではあるがそれでも警戒してほしい」
「特にロドニーは身の回りだったりをしっかり守ってくださいね」
「はい分かりました姫、用心しておきます」
姫が初めて口を開いた。
ロドニーという男を心配しているようだ。
「王女様、具体的に今後どうしますか?」
「具体的にというと?」
「具体的にアキレウスへの対応ですよ」
白髪の人が王女に聞いた。
「ふむ、今は今まで通り互いに国家としては不干渉でいこうと思っているわ」
「了解しました。では我々がそれぞれアキレウスの対策を練れば良いのですね」
「そういうことになるわ」
その確認をすると一礼をしてから白髪が出て行った。
それに続き女性2人そしてロドニーと呼ばれた男が出て行った。
「この国の未来は変わるでしょうか、お母さま」
「変わるかもしれないし変われないかもしれない、だけど最善は尽くすわ」
「はい、お母さま」
2人の女性は知っている。
未来の変え方を知っている。
命の使い方を知っている。
4大貴族は部屋から出るとすぐに違う場所に集まった。
何のため?
それはある理由により王が領地を治めることが得意とは言えないからだ。
だから4大貴族が東西南北の全ての領地を代理で納めている。
王が治めることをしない国というのは別に珍しくないが、王が領地を一切持たない国はこの国をおいてないだろう。
そんな国だからこそ貴族同士の連携は重要で、一丸となって国を守らないければいけない。
「東のアレイオスが攻めてくるなら俺かあんたの所だろうな」
会議は全員が揃うとすぐに始まり、すぐにアレイオスへの話になった。
東の大貴族のリナルディが南の大貴族のエバールに向かってそういった。
英雄
それは圧倒的な存在で1つの国に代々継がれている、最強の魂だ。
ドレスデンにも当然『英雄』は存在する。
運び手トロプが。
トロプの能力は普通ではない。
この世界に数少ない魂を操ることのできる人間だ。
魂操作はスキルとして獲得することが普通できない。
なぜか?それは魂の存在があるかどうか、魂関連のスキルを持っていないやつからしたら不確定だからだ。
そんな不確定なものを触ろうと操ろうと必死に努力しても、結局触れなければ意味がない。
しかも触れてスキルを獲得したらさらにこのスキルを使う者が少ない理由がわかる。
弱いのだ。
そもそも、魂を触れた所で何ができるわけでもないし、熟練度を上げて相手の魂に干渉できるようになっても相手に目立った外傷があるわけじゃない。
相当熟練度を上げたら暗殺者向きになるかもしれないが、それなら普通の暗殺系をとっ方が強い。
そんなゴミスキルをなぜ取るものがいるのか、それは極めれば他のスキルにない戦い方ができるからだ。
相当な変人がひたすらこのスキルを鍛え上げ知る人ぞ知る暗殺者になったり、何か衝撃的な出来事によってこの力を宿したものが英雄に勝るとも劣らない強さを手に入れたり、この力を使える魔物の変異体が生まれて大厄災となったり。
ケースは被ることはほぼないがそれでも極めた時の強さはわかるはずだ。
半端な状態で戦いに勝つためには相当な技術がいるだろう、だが極めれたらそいつの力は英雄に届く。
そんなスキルだ。
そして神代の時代に神から直接この力を渡されたトロプは、今も技を磨き続けている。
魂への攻撃は基本的に弱い、その代わりに相手の物理的な防御力を完全に無視できるのが特徴だ。
そしてその攻撃の威力はトロプにも当てはまる。
しかし、トロプは他の者の魂を一時的に吸収する技を持っている。
これにより、一時的にだがトロプの攻撃力は上昇する。
魂を貯めておき一気にそれを解放すればその攻撃力は攻撃型の英雄に匹敵しかねない。
それだけ強力なのだ。
そんな彼女は今、国外にて魔物狩りをしていた。
「あ〜、暇だわ。まじで暇」
ドレスデンの近くにある草原でそう嘆いているのは英雄トロプだ。
英雄はその生まれながらの熟練度によって基本的にレベル差があろうと負けることはない。
しかもこんな時代だ。
そもそも今のトロプのレベルを超える魔物が現れるのも稀だ。
最近は歴史的に見ても多い方だがそれでもトロプにとっては今が暇なのだ。
だがその退屈もすぐに終わった。
「トロプ様!国王より言伝があります」
トロプは基本的に城にいない。
暇が嫌いなトロプはいつも面白いことを探している。
だからトロプにわいつも1人の近衛がいる。
そいつは用事がある時にトロプに伝えるのだ。
トロプは口の端を吊り上げた。
何か面白い事が起こると予感したからだ。
「魔物が現れたのか?」
トロプは歓喜に満ちた声でそういった。
しかし答えはトロプの予想を裏切った。
「いえ違います」
「え!じゃあなんなのさ?」
「トロプ様、お忘れですか。今日は合同訓練ですよ」
その言葉を聞いたトロプは鳥のように軽やかな足取りで城に直帰したのだ。
「王様!合同訓練しに帰ったぞ」
トロプはメイド達に止められながら城の接客室に入った。
そこには見慣れた国王と十指の英雄が1人キビトがいた。
十指の英雄の中では珍しく神代の時代からの英雄ではない。
神代の少し後人と人との戦いが盛んになった時期に英雄になった。
四元素火・風・水・土を操るキビトの技は英雄クラスでないと近づくことすら許さない。
「ハア、あなたは全く。キビト殿あれがわたくしの国の英雄トロプ。実力こそ強いものの少々礼がなっておりませねがお許しを」
「ははは、いいよそれぐらい。むしろ好ましいよ。内の国の王様と一緒だしね」
キビトは気さくな態度だった。
キビトの格好は失礼かも知れないが蛮族のようだった。
ムキムキの上半身をほぼ露わにして、上には獣皮で作ったであろうマントと4つの骨を飾ったネックレス、下半身はズボンのようなものだがどこか旧時代的な雰囲気がある。
細部を見ると耳には宝石のピアスをつけているので最近と言えば最近なのかも知れない。
普通の人とそれを一回り小さくしたようなサイズ感で顔はどちらかというと中性的だ。
だが見るものが見ればわかる。
その目には幾つもの死戦を潜り抜けたであろう覇気と野生の猛獣のような鋭さがあった。
トロプは正直ゾクゾクした。
英雄という都合上基本的に自分よりも強いと実感できるものに出会うことはない。
だが今目の前にいる男は一体一タイマンでの戦いならこっちが負ける自信がある。
そんな相手だった。
「ハア、トロプ待ちきれないようね。キビト殿お願いします」
「オーケー、じゃあいこうかトロプ君戦場は国の外でいいかな?」
「ハイ!すぐにやりましょう」
初対面のはずなのにそこには中の良い先輩後輩の礼があってでも友情のある、そんな関係に見えたのだ。
「ハア」
王女は悩んだ。
自分にできることはないかと。
自分は政治はできない、軍を上手く扱うこともできない。
それはわかっている。
王家の血筋は死ぬことで強力な能力を発揮することも知っている。
だが、だからこそ少しでも国の為に何かをしたいと悩むのだ。
死以外でも国の役に立つことを考え続けだが1人では思いつかない。
彼女は「よし!」と掛け声をあげながら立ち上がった。
この国で彼女が一番聡明だと信じるものの場所に向かう為に。
「さあ!早速戦いますか!」
「ハイ!そうしましょう!」
そう言うと2人は距離を取った。
ここは国の近くの草原だ。
なんの変哲もない草原だが、この周りに人が入ってこないように衛兵が、衛兵を守る為に魔術師が、魔術師の補助をする冒険者がここにいる。
英雄同士の対決で被害を出させないのは不可能だ。
だが被害を最小限に抑える為に万全の準備をする。
2人は静かに見つめ合う。
トロプは自身の英雄器を構えた。
英雄器とわ、英雄が神より与えられた神器だ。
普通の神器とわ違い、英雄本人にしか操れず、凡庸性よりも個性を突き詰めた品だ。
トロプの英雄器は2つの姿を持つ英雄器だ。
1つは竪琴型になり魂を天に召させる状態だ。
死んだものの近くで音を奏でそしてその魂の力を少しだけ借りるのだ。
生きているものからも少しだけ借りるが死んだものよりも少ない。
人体に支障が出ないレベルだ。
もう1つは鞭状になって問答無用で周りの死んだもの魂を吸収して、当たった者の魂を傷つける。
肉体ではなく魂に作用する武器だ。
そしてこの武器の最大の特徴は魂の蓄積だ。
この蓄積された魂を使って相手にダメージ、自身の強化など様々なことに使える。
ある種凡庸性が高く、使い手による武器だ。
トロプは英雄器を鞭状にして構えた。
キビトはアイテムボックスから杖を取り出した。
最初に動いたのはトロプだった。
キビトまでの最短ルートを走る。
だが、そう簡単に近づけるわけがなく直ぐに幾つもの魔法が発動した。
発動した魔法は全て風の低域魔法だ。
向かい風とトラップと風の刃無詠唱で放たれる魔法は1つ1つ上手く噛み合っている。
向かい風で風の刃を加速させ、トラップを走って抜けられなくする。
対するトロプは自分の鞭の持ち手を少し弄ると、鞭が変形して先が機械の手のような形になった。
キビトもこれには驚いた。
そして、後ろに下がりつつ防御魔法を展開している。
トロプは鞭を地面の先に放った。
そして鞭の先が地面に着くと、鞭の先が地面を掴み物凄い速さでトロプを移動させた。
神器の改良など普通は無理だ。
だがこの鞭の先は改良によって付けられたものだ。
ではどうやってそんなことをしたのか、それは先代から先先先代までの王女が死の時に神器強化を願ったからだ。
強力なドレスデンの能力を使って強化したのだ。
強化のされ方は立体起動及び高速移動を可能にするというものだ。
まあ問題点は尋常じゃないほど体幹を必要とすることぐらいだ。
そしてトロプはそれによって一気に距離を詰めていくトロプにキビトは攻撃魔法を放つ。
火・水・地・風の4つの属性を持つ魔法が放たれる。
トロプは鞭を普通の状態に戻し高速で空を叩いた。
その鞭が魔法の核を破壊し、魔法を破壊した。
英雄は毎回強さにムラがある。
それはなぜか?
英雄は熟練度こそ引き継ぐがしかし、自身で積み上げた努力の部分は変わる。
ゲームで言うPSだ。
そして今代の英雄が極めたPSは核を見ること、魔法や人、魔物を問わずそいつの大事な部分、核を見つけることを極めたのだ。
そして今そのPSによって魔法が破壊された。
だが、キビトは冷静に魔法で防御をして魔法により距離を取る。
トロプもなんとか追いつこうと動くが魔法による移動の速度を超えれない。
そしてキビトは移動の手を緩めずに攻勢に出た。
距離は一定の距離を保ったまま攻撃を仕掛ける。
トロプは魔法破壊しつつ距離を詰める為に鞭を切り替え移動する。
両者ダメージを負わずこの状態が続く。
両者実力は拮抗している、遠目から見ていた誰もがそう思った。
いや、トロプもそう思っていた。
だがその予想は最も簡単に覆された。
キビトが魔法を発動した。
さっきまでの4・5位回の魔法ではない。
魔法の最高峰10位回魔法ウィンド・エンペラー・ウィン、風の大穴だ。
魔法はイメージだ。
この魔法でキビトがイメージしたのは風が吸い込みブラックホールのようなものではない。
風が噴き出す大穴だ。
キビトとトロプの真上にその大穴はできた。
そして大穴から台風も可愛く見えるような風が吹く。
キビトは慈善に用意していたであろう魔法でその場を退避した。
そしてトロプはなぜか長さの変わっている鞭を使い範囲から紙一重で出た。
だがギリギリだった為地面に吹いた風がそのままトロプに当たり吹き飛ばされそうになっている。
鞭を強く握ってなんとか飛ばないが、風はまだまだ吹き荒れる。
その状態で数分経つと魔法が消えた。
「マジの戦闘なならもう死んでるぞ?」
「マジじゃないから逃げなかったんですよ」
「それにしても、お前の武器は色々なギミックが付いているな」
「まあ後付けですけどね」
「後付けだろうと最初から付いていようと強ければ問題ないじゃん」
「それもそうかもですね」
一旦小休憩が入った戦いはまた始まった。
さっき以上にキビトは間合いをしっかり取っている。
なぜならトロプの武器の長さが変わると知ったから、どのタイミングで近づいてくるかわかったもんじゃない。
トロプは長さを変えて移動に緩急をつけ無駄な攻撃は迎撃せず攻撃を避けて近づいていく。
距離は少しづつ縮まっていく。
一定の距離になったその時トロプが仕掛けた。
長さを最大にした鞭を使い一気に近づいた。
だがキビトは準備していたであろう魔法で一気に距離を離す。
だがそれを地面から外したトロプの鞭が捕らえた。
魔法で逃げようとしたが英雄器を破壊するには魔法の威力が全然足りない。
本日2度目の近接戦が始まった。
キビトは鞭を外すための魔法を唱えたがもう遅い、この距離まで近づけば肉弾戦も鞭での攻撃も可能だ。
トロプは鞭を使って一気に攻撃を仕掛けた。
だが、それを先の更に2倍以上の魔法発動で完封しそして反撃した。
「少しだけ本気出してやるよ」
そう言って笑ったキビトの顔は無邪気でまるで子供がおもちゃを手にしたような満開の笑みだった。
だがトロプにはそれが悪魔の笑顔のように思えた。
数段階上がった攻撃に反撃する余裕はなく魔法破壊を全力で繰り返す。
だがそれでも魔法は止まらない。
手の届く距離にいるはずなのに一向に手は届かず、距離が離れる錯覚にまで陥る。
そしてそこに更なる絶望が覆い被さる。
「楽しませてくれたお礼にこの技をあげるよ」
魔法が発動した。
エンペラー・アナクシメネス・カット
それは風の魔法だ。
それは空間の魔法だ。
その魔法は次元を切り裂いた。
ただ真っ直ぐ止まることなく切り裂いた。
英雄器の合間を縫って放たれたこの魔法は強靭な肉体と強力な防具を身に纏ったトロプの足を豆腐のように切り裂いた。
あの後近くにいた護衛や冒険者がトロプの治療、地形の復元をしてから又離れていった。
トロプとキビトは自身の得意な分野を両者に教えながら雑談をした。
足を切り裂かれたというのにトロプは気にした様子がなく、楽しそうにキビトと訓練していた。
そして今キビトも帰った後の王室、そこには姫姿はなく王女とトロプが向かい合っている。
「トロプ、キビトはどれくらいの強さだったかしら?」
「僕よりも強いですね確実に、まあでも戦場での戦いなら余力が有りで勝てるぐらいだと思います」
トロプはそのスキルにより死が渦巻く場所にいればいるほど強くなる。
その特性を活かしたら勝てると断言する。
その程度の相手だったのか?
王女はそう頭を回して考えた。
「ですが、それはさっき僕と戦った時に全力の5割以上出していたならの話です」
「5割?半分しか出していないはずないでしょう。貴方も本気だったのに」
「僕はそもそも一対一が強い英雄ではありませんし、おそらく相手は英雄器を使っていません」
「まあ本気を出していない可能性はわかったけど、じゃあ貴方の体感ではあれは何割ぐらいの強さだったの?」
「残念ながら5割出してるか出していないかぐらいかと」
「それはやはり危険ね」
「まあ戦場では何が起こるかわかりませんから。では失礼します」
トロプは静かにその場を退席した。
残った王女は自分の首をソッと撫でた。




