決意
会議室には今、11の椅子が並べられそして皆それに座っていた。
10人は俺たちダンジョンメンバー、もう一つもみなさんのご想像通りさっきまで気絶していた犬人だ。
プリセスは俺たちがバカな事をしていても怒る事はほとんどない。
なのにさっきはラムに向かって怒っていた。
よほどのことがあったのだろう。
それを俺たちは息を飲んで聞くつもりだった。
だが、今か今か待っているのにいつになっても話が始まらないのだ。
なぜだ?
「なあなんで会議?はじめねえの」
今きっとほとんどの思っていたことをポチが聞いてくれた。
「そんなの、ゴースがはじめないからに決まってるじゃない」
えっ?
「むしろ俺たちが聞きたいぐらいだな、なぜゴースがはじめないのか」
ええ~
俺とポチとカナデ以外はその理由で納得していたようだ。
フクロウが笑っているが、あいつは両方の考えを把握していたのだろう。
なんで俺が言わないと始まらないのか、なぞだがまあいい。
理由が分かったし始めようか。
「それじゃあ、プリセスが言っていた緊急事態とやらの会議を始めようか」
「ええ、そうしましょう」
やっと始まったかと言う空気と、なんでこんなに時間がかかったんだ?という疑問の空気が満ちていた。
しかも後者の空気は俺に向けられていた。
いや、俺悪くないよね。
なんで俺が始めの合図をしなきゃならないんだよ!
意味分からんは!
まあいいや、それよりも今は会議に集中だな。
「今回の議題は私たちが持って帰ってきた犬人の子供についてよ」
「こんなちんちくりんが問題なのか?」
「ちんちくりんじゃねえし!」
ずっと黙っていた犬人の少年がマストの一言に反応した。
さっきまで萎縮していたのに、罵倒されると反応とはまだまだ子供だな。
「この子が問題では無いのだけども、この子の周りの環境が問題なのよ」
「なんだ?そこにはダンジョンを攻略するやつでもいるのか?」
「違うわ、この子の集落が今危険なのよ」
頭にはてなを俺は浮かべた。
てか他のやつも浮かべてるだろう。
だって、なんでこの犬人の集落が危険だからって俺たちまで危険になるんだ?
「その集落が人の国に襲われそうで、その集落と国の間に私たちのダンジョンがあるとかですか?」
「ハイル途中まではあってるは、その集落が人の国に襲われそうなのは合ってるの、でもこの案件はわたくしたちに直接危険があるわけじゃないの」
「じゃあなんで問題なんだよ~」
「助けるかどうかが問題なのよ!」
助ける?なんでとポチ以外は思った。
そうポチとカナデ以外は思ったのだ。
まあ想像ですけど。
きっとポチとカナデはなんで逆に助けないんだ?と思っているに違いない。
「助けるメリットが僕にはわからないんだけど、そこはどうなのプリセス?」
そうそこなんだよ。
今の俺たちは人情なんかで動けるほど余裕はない。
それはプリセスもわかってるはずだし、プリセスがそんなことで動くとも思えない。
さあさあ、提示するメリットは何かな?
「そう、たしかにメリットが無いように見えるわ。でもあるのよねメリット。戦力の状況と労働力の確保っていうメリットがあるのよね」
そういうことね。
獣人なんて何に使うんだ?って思っていたがよくよく考えてみるとたしかに使えるな。
自分の階層の魔物と全然違うから考えてもなかったな。
てか、獣人をダンジョンエネミーとして使うダンジョンとかなかったもんな。
だって獣人は魔物じゃなくて亜人だしな。
裏切られたらひとたまりもないしな。
だけど、この世界では人と亜人は敵対してるんだもんな。
ゲーム時代にはありえない戦力だな。
だが、それがまた面白い。
ゲーム時代じゃできなかった事をするか、いいね。
「俺は賛成かな」
「俺もだぜ」
「我もその意見に賛同しよう」
「私もサンセーイ」
「・・好きにして・・」
「どっちでもいいかな〜」
このまま賛成で終わるかと思われた会議は3人の意見で長引くことが決定した。
「反対ですね」
「反対だな」
「私も反対だ」
ポチとカナデがエッて顔をした。
まあこうなるだろうと思ってたけどな。
これは結構危険なんだよな。
相手の戦力にもよるだろうが、到底今の俺たちが勝てる相手だとは思えない。
今の俺たちはビギナーなのだから当然だ。
数でも個でも負けているだろう。
助けて隠れてもおそらく見つかる。
人間の多種族への憎悪は思いのほか強かった。
きっとやつらは血眼になってで獣人を探すだろう。
「危険すぎますよね。数人ぐらいならいいかも知れませんが、全員は到底承服できません」
「でもかわいそうじゃん」
「いつまでゲーム気分でいるつもりですか?ここは僕たちの新しい現実ですよ?死んだらそこで終了なんですよ」
「それでも助けを求めてるのに見殺しにするのはないだろう!」
「誰でも助けるような愚か者はただの馬鹿かただの偽善者ですよ、ポチ」
「それでも・・」
これはどう考えてもシャドーが正しい。
俺たちが死ぬかも知れないし危険すぎる。
まあおそらくシャドーは、もう一つ懸念していることがあるようだが。
まあ全体的に全て理性的に見ているのではない。
ていうか、シャドーだって助けたはずなんだ。
だけど仲間を守るために強い言い方をして悪役をかってでているのだろう。
「シャドーの言う通りこれは危険だし、メリットよりもはるかにリスクの方が大きいは、ならばそのリスクを減らしましょう!」
さっきよりも大きいはてなが俺たちの頭上に産まれた気がした。
んなもんどうやって減らすんだよ?
「どうやってそんなことするつもりなんですか?」
「ダンジョンに相手を誘い込み城で迎え撃つわ」
「たしかに多少のことはできるでしょうが、所詮召喚したばかり・・・、そう言うことですか」
どういうことだよ。
こんな城、戦闘では意味ないだろ?
「貴方達この城のすごさを知らないようね。まあここまで攻め込まれたことないから仕方ないけど」
「この城って機能性抜群だけど戦闘に意味あんのか?」
そうそう、この城たしかに日常の面では非常に大助かりなのだが、戦闘で使えるというイメージはないな。
「この城はね最終防衛線なのよ」
「そりゃあここにダンジョンコアがあるからな」
「たしかにそういう意味もあるけどそれだけじゃないのよ」
「じゃあどういう意味なんだよ?」
俺とカナデとポチとラムとハイルはキョトンとしている。
フクロウとストームは興味なさげに、マストとシャドーはもうこの後の展開が読めているようだ。
そしてプリセスは嬉しそうな顔で言った。
「この城はねわたくしの集大成よ。全ての階層の技術を応用したトラップが施されているわ!」
「「「「「おお!」」」」」
5人がハモった。
いや思いのほかすごかったのだから当然っちゃ当然なのだが。
俺たちの階層の特殊能力は結構多彩だ。
それをすべて応用した罠となるとなかなか面白そうだ。
「なら、襲撃に勝てる可能性も出てきたな」
「ええ、これがあるなら僕としてもまあ否定はしませんけど、でもいいんですか?」
「なにがだ?」
「今からあなた達がやろうとしていることは人殺しですよ」
ああ、やっぱり気づいてなかったのか。
ポチもカナデもいやシャドーとマストとフクロウ以外はみんな絶句している。
きっとさっきまでは、やっぱりゲーム気分でどこか現実味がなかったのだろう。
それともただの善意でやっていたのかも知れない。
どちらにせよこれはいつか言う必要があっただろう。
今からやろうとしていて俺たちがこれから行うのはまごうことなく人殺しなのだ。
俺たちは亜人に魔物になろうとも元は人間なのだ。
そして、俺たちは安全な時代に生まれて殺しとは無縁に育ってきた日本人だ。
そんなやつらが殺人を平然と出来るはずがない。
だけど、生き残るためにはするしかない。
最初は皆ゲーム感覚でこっちに来たんだろう。
俺だってそうだ。
だけど、直ぐに気づいた。
俺たちが生き残るためには人を殺さないといけないと言うことを、誰かを守るために誰かを殺さないといけないと言うことを。
殺さずに逃げ隠れすることも出来るかもしれない。
だけど、そんなことを許すほど甘い世界なのだろうか?
俺にはそうは見えなかった。
地球の人間の歴史はひどく醜い者だと思う、甘くなんてない世界だと思う。
だけどあっちの世界のほうが幾分かましだろう。
あっちには平和がある。
永遠の平和が無かったとしても平和は確かに存在する。
だがこちらにはそれはおそらくない。
人を亜人を殺して殺されていかないと俺たちに安息は訪れない。
そんな世界でこんなにやさしいやつらが生きていけるのか、それが今から判別されるのだ。
俺は残念ながら人を殺してもなんとも思わなかった。
俺はクソ人間だと言うことはもうすでに証明できている。
お前たちが無理だと言うなら俺はお前たちを守る。
どれだけ命を壊してもだ。
だけどもしお前たちも俺と一緒の世界に来るなら、来てくれるなら一緒にどこまでも堕ちよう。
地球の外道でも俺たちは生きよう。
その意思は俺にはある。
カナデとポチは本当に辛そうだな。
カナデはいつも元気で活発で明るいやつだ。
ポチはどこまでもまっすぐで優しいやつだから。
お前たちが選んでくれこれからの生き方を。
俺は何も言わなかったし、言えなかった。
いう必要も無かった。
これは俺が介入していい話ではない。
それぞれの中で決着をつけるべき話なのだ。
「ちなみに僕はもう殺してますからね」
そうなのだ。
シャドーは一番最初に殺した男だ。
俺たちが町に行くことになって「ならお金が必要ですね」と言ってすぐにお金を調達してきた。
近くにいた商人を殺して。
人の死をなんとも思っていないなんてことは絶対にない、だが、シャドーは躊躇いも無く人を殺した。
これは地球ではくずと呼ばれてもおかしくない行為だ。
しかし、この世界に来た者達にとって人を殺せるという能力は強力な能力になる。
もしもの時は俺とシャドーの二人で他のやつらを守らないといけないな。
そう思って俺は下を向いた。
あいつらが悲しい顔を見たくなかったから。
だけど、やっぱり俺は前を見た。
俺が目を背けたらだめだと思ったから。
そこには悲しい顔があった。
でも、俺のように下を向いている顔は無かった。
前を向いていた。
そこで俺は悟った。
俺が思っていたよりも彼らは幾分も強かった。
そうだよな。
俺が一番知っているはずだったんだ。
こいつらの心の強さもを。
「シャドー、おまえの予想は外れたな」
「そうですね。僕の深読みだったようですね。まあ、それぐらいじゃないとこの世界では通用しないでしょうけどね」
「確かにそうかもな」
俺たちは笑った。
まだ、あいつらの答えは聞いてない。
だけど、もはやそれは無用だろう。
むしろ聞くほうが野暮と言うものだ。
それならば今すべきはそこではない。
「プリセスこのダンジョンの防衛についての会議をはじめるぞ!」
「ええそうね、わたくしの最高傑作について話しましょう」




