戦闘
ポチによる獣人の追跡をしていると断末魔の叫び声が聞こえた。
俺たちは確認をとるよりも早く声の聞こえた方向に走った。
その方向に少し進むと見えた。
あのチームが獣人を囲んで殴り蹴っている光景を。
酷い光景だ。
ポチが止めに入ろうというよりしたところを俺とプリセスで止めて思った。
ハイルは怒っているようだが、今の俺たちの状態がわかっているのだろう。
俺たちじゃあいつらには勝てない。
一対一でも勝てるか分からない相手なのに、相手は5人でこっちは4人しかも戦えるのは3人だ。
しかもあのチームから俺たちが亜人を掻っ攫って逃げ切れたとしても次は俺たちが魔物だということがバレるだろう。
バレてべつに悪いことがあるわけじゃない。
だが、町には二度と入れないだろう。
ポチも冷静になったようでなんとか飛び出さずに堪えてくれてる。
こうやって見ている今も、獣人は命乞いをしている「助けて」とそれを嘲笑うように、殺さないように指を切ったり、体を蹴ったりしている。
「ゴース行かせてくれ!」
「だめだ、今の俺たちじゃ行っても勝てない」
「だからって見捨てるのか!」
あいつらには聞こえないような小さな声だが、なぜか俺には叫んでいるように聞こえる。
ポチの助けたいという気持ちも痛いほど俺にはわかる。
だが俺たちにどうしろというんだ。
非力で力のない俺たちには眺めるという選択肢以外は用意されていない。
それが弱肉強食の世界なのだ。
弱い者は虐げられ強い者が生き残る。
そうやって世界は回っていく。
そのルールに背ける者もまた強者なのだ。
俺らは力のない傍観者なのだ。
見ているしかできない、傍観者なのだ。
獣人が俺たちの方を見た。
その目は確かに訴えかけていた。
「助けてくれ」と
「ゴース、ごめん」
俺がその言葉の意味に気づくのは1秒にも満たない間だった。
だけどその一瞬でポチは首輪を外し飛び出した。
レベルの低いポチがあいつらに勝つには首輪を取るしかなかったといえるだろう。
俺たちダンジョンは明確にメリットとデメリットが存在する。
メリットは言わずもながらダンジョンという存在すべてだ。
強力なメリットの裏には強力なデメリットが存在する。
その1つがダンジョン外でも経験値の入手不可だ。
俺は魂を肉体に変換するから別だが他のやつはそうではない。
今の俺たちはみんな揃ってレベル1なのだ。
初心者にもほどがある。
そんな俺たちが勝てるはずない。
なのにあいつは飛び出した。
本当に愚かで馬鹿だと思う。
どうしようもなくあいつは馬鹿で愚かで、カッコいいやつなんだ。
だけどあいつはやっぱり馬鹿だ。
きっと「ゴース、ごめん」は俺を置いて行ってくれという意味も含まれているのだろう。
だけどなポチ、俺たちがお前を見捨てるわけがないだろう。
お前が俺たちの忠告を聞いたうえでその行動をとるのなら俺たちはお前についていくさ。
俺たちはそれぞれの道を進む、だけど俺たちはそれぞれの道の横にいる。
後ろでも前でもない横にいる。
一緒に進んでいく。
これからもそれは変わらない。
だから、無謀と分かっていようと俺たちは飛び出した。
「うん、そっちはどうでしたか?こっちにはゴミしかなかったですよ?」
笑顔でそう聞いてくる相手に俺は小さな声でつぶやいた。
「ソウル・クラッシュ」
青白い球が相手に向かって飛んで行った。
それを開戦の合図としてハイルとポチが相手に向かって走った。
動揺している相手に先制攻撃を食らわす。
初心者が上級者に少しでも近ずくための方法、不意打ちだ。
初期の上級者と下級者があまり離れていない時期に、一大ブームとなった「下克上」の時に一番使われたシンプルで強い戦術だ。
まさか自分がするとは思っていなかったな。
プリセスが指輪による強化を施そうとした時に俺はそれを制して、俺の作戦を秘密裏に練習していた思念伝達で伝えた。
「魔石・・・装備・・俺に・・・強化」
ふっ、まだまだ鍛錬が足らないようで意味のわからない文になったな。
だがそんな事はいま問題じゃない。
おそらくこれで伝わった。
俺はそう信じて日頃からポケットに入れてる俺の魔石を取り出した。
「もう、どうなっても知らないわよ」
プリセスがそう叫ぶと俺の体が飛躍的に強化されたのがわかった。
そして俺は一度はまだまだ使えないと諦めた魔石を装備した。
神様からのギフトを受け取り自分の装備をそれぞれが貰った。
なのでせっかくなのでここで装備しようという話になった。
プリセスなどのアクセサリー系は簡単に装備した。
武器や防具系統はハイルは魔防具なので容易に装備したのだが、ストームは重すぎる銃を持ち上げることが出来ずにギブアップ、シャドーはなんとか装備できたが従来のように自在に操るどころかむしろ振り回されていた。
アクセサリー型でもラムは自分の装備に封印されていた剣の中でも、最強の二本を取り出して装備しようとして同じことをしていた。
その最強の二本はラムがゲーム時代サブの武器として使っていた剣でメザイヤとディザスターだ。
それぞれが魔力を込めるとその量に対応した光、闇の大きな刀身が現れる剣だ。
魔力量によって長さを変えれるため間合いを取り放題の強力な剣だ。
しかもこの剣は、2つを揃えるとくっついて2つの属性が混ざった刀身が出現する。
この状態のこの剣は恐ろしく強力で流石に遠距離まではいかないが中近距離の相手は防戦一方にされる。
なぜって?刀身が伸び縮みするせいでこっちは間合いが取れないからだ。
近ずくことも、逃げることもできないその剣は相手に絶望を与えた。
そして最後に俺が、魔石を装備することになった。
魔石を装備するとき結構綺麗に俺の体が光るのが理由だ。
「前みたいにつけるために何分もかけないでくださいね〜」
「二度目でそんなことするか!」
「え〜でもゴースさんですしね〜」
「うっさいわ!」
「そんなことをしてないで早く装備しなさい!」
「「ご、ごめんなさい」」
俺とシャドーが少し遊んでいるとプリセスに怒られてしまった。
そこで周りからドッと笑いが起きた。
俺はこの気を逃さず装備した。
「いくぞ!装備!」
すると俺の体から七色の光が生まれそしてそれが俺を飲み込んだ。
光は前以上に鮮やかで繊細で多彩な光だったらしく皆、息を飲んだという。
しかし、そこからは地獄だ。
俺は急に叫び声をあげたという。
それは悲痛な叫びだった。
その時ふとあいつらの頭には、ゲーム時代流れていた可笑しな噂を思い出したという。
ステータスには限界値というものが設けられていた。
これは耐久力によって多少上乗せされるが根本はレベルによって増えるものだ。
どっかの馬鹿がこれを超えるステータス加算をしたらしい。
その馬鹿はシステムのロックが無効になるほどの痛みを受けて現実でも救急搬送されたとか。
システムのロックが外されるなんて馬鹿げている、と笑ってはいた。
けど、もしそれが現実になったら?
システムのロックなんてそもそもないこの世界でその痛みを味わったらいったいどうなるのだろう?
もしかしたらそれがいま起きているのかもしれない!
その時やっと彼らは現実を理解した。
いま目の前で起きている惨事を。
「魔石を外せゴース!」
その時の俺は急速に体が作り変えられる感覚と、吐き気を催すなんて生易しいような誰かの感情と、永遠に続くかと思えるような体を中からえぐられる痛みに苛まれていた。
急に親友の声が聞こえると思い、無我夢中で俺はメニューを操作した。
メニュー画面は見ていない。
ただ、感覚だけでメニューを操作した。
そうすることしかできなかった。
外すと同時に俺は解放された。
周りのやつらがホッとしているのが分かった。
「おいおい、大丈夫か?ゴース」
「大丈夫って言っていいのか分からないけど、大丈夫だと思う」
「あの噂が本当だったなんて驚きね」
俺の心配は一瞬にして消え去った。
まあ、確かに大丈夫と言いましたけどね、無茶苦茶痛かったんだからなマジで。
まあ口には出さないけど。
「ていうか、さっきのは本当に噂のことなのか?」
「ふむ、確かに確実に噂の体現だとは言えないな」
「だろ?もっと違う何かかも知れねえだろ」
「じゃあ、ポチあなたに何か他の候補があるっていうのかしら?」
「いや〜、ないですね、はい」
ポチの意見も悪いわけじゃないが今の状況をまどろっこしくするだけなのだろう。
最悪を想定しないのは馬鹿者だが、可能性ばかりを問い詰めるのも愚か者だ。
これは科学じゃないのだから、可能性を追い求める必要はないだろうな。
ていうか噂って何?
なんか僕がいないところで話が進んでるんですけど?
「・・昔、ながれてた・・限界値についての噂・・」
俺が分かってないのを気づいたのかフクロウが教えてくれた。
昔、ながれてた限界値についての噂か〜。
ああ、限界値を超えるステータスを手に入れるとシステムのロックを超える痛みがくるってやつか。
確かにステータス欄に限界値の表示があるな。
でも何で魔石をつけただけで限界値を超えたんだ?
普通に考えてそんなことにはならないだろう。
ゲーム時代に魔石を付けた時なんてむしろステータスが下がったってのに。
いや、待て下がったてことはその魔石の状態に肉体が(俺の場合精神だが)変化したということだろ?
てことは、魔石を付けようとして俺の体はゲーム時代のステータスになろうとしてたってことか。
そりゃあレベル1の限界値なんて優に超えるだろ。
そう簡単に6年間の成長と同等になるわけないしな。
どうしたもんかなこの魔石。
「ハア、せめて魔石の能力だけでも手に入れられないかなぁ」
『告、マスターの先ほど装備しようとした魔石の能力はもうすでにマスターに定着しております』
ここにいる全員がど肝を抜かれた。
急に中心にあるダンジョンコアが喋り出したらそりゃあ驚く。
ていうかやっぱり現実になってからダンジョンコアの主張が増したな。
まあ今はそれよりも
「俺の体に魔石の能力が定着したってどいうこと?」
『解、魔石を取り込もうとしたことでマスターの体が急速の変化し、魔石に対応しようとした結果です』
ああ、あの感覚はやっぱり体が作りかえられてたのね、いや〜それなら頑張った甲斐があったなってちょっとだけ思えるわ。
まあ、割に合わないけどな。
「そういえば、俺があのまま魔石を取り込もうとしてたらどうなってたんだ?」
『解、約75%の確率でマスターの肉体と精神が崩壊します。約15%の確率でマスターの肉体のみが崩壊し精神だけが残ります。約10%の確率でマスターの精神が崩壊して肉体のみが理性なき魔物として残ります』
「俺がゲーム時代のステータスになる可能性はやっぱりないのか〜」
そりゃあそうだよな、ワンチャンあるかも⁉︎と思ったが現実はそんなに甘くないってことだな。
『告、そうとも言い切れません。魔石を完全に取り込む可能性も少なからずあります』
「へ〜、どれくらい?」
『・・・』
こいつ、マジでどうなってんの、まさかダンジョンコアに気を使われる時が来ようとは思ってなかったわ。
おそらくテレビとかでも見ない、本当に意味がわからないぐらい0が多い数値なのだろう。
「まあでもこれを何回も試したら手取り早く強くなれそうだよな〜」
俺は冗談半分でそう言ったら周りから睨まれた。
それはそれは怖い顔で。
全員がマジの顔だった。
「ゴース、それマジで言ってるの?それとも冗談?ハハ、どっちにしてもタチが悪いな、そう思いませんかゴースさん?」
ええ、皆なんでそんな怒ってるのふつうに怖い。
ていうか無茶苦茶怖い。
「ハア、何言っても無駄よ。こいつは自分のことを大切なんて思っていないんだから」
いやいや、そんなことないよ⁉︎
俺、自分のこと大好きだぜ、ナルシストとまでいかないけど結構やりたいようにやってると思うんだけど。
「・・周りの、気持ち、分かってない・・」
周りの気持ちが分かってない?
いやこの状況すら俺的には意味不明なんですけども。
「あのなゴース、ここにいる俺を含めた全員がお前の悲鳴なんて聞きたくないし、お前に悲鳴なんてあげて欲しくないんだよ」
ああ、そういうことね。
少し俺もここにきて夢ごごちだったのかも知れないな。
俺だってお前らが自分を犠牲にしてでも強くなりたいなんて思わないからな。
「悪かったな、確かにそうだわ。自分を犠牲にはしません、ここに誓います!」
皆が納得したようで何よりだ。
と言っても魔石を使わないとは俺は言ってないんだよね。
フクロウは俺にジト目を向けているがまあ大丈夫だろ。
使うとしても命の危機が訪れた時ぐらいだろうしな。
そんな状況すぐには来ないだろう。
ハハ、あれがフラグだったのかもな。
まさか一週間でこんなことが起こるとは。
俺はなかなかのフラグ建築士だな。
さて、魔石のせいで頭が真っ白になりそうだし、体がクソほど痛いな。
前より多少マシではあるが泣きそうだ。
さっさと撃って終わらせよう。
他の魔法とは違う魂魔法だけが持つ特殊な特性ってなんだと思う?
「ナイト」
それは、魔力を使わず自分の精神力もしくは魂を削って魔法を発動することだ。
ということは、普通の魔法は魔力を込めた量で威力も増加する。
「ソウル」
魂魔法は精神力が強ければ強いほど、魂が強ければ強いほど威力が増加する。
俺はゴースト、精神体の魔物だ。
そして俺の魔石は魂の量と質でレベルが上がる。
戦うことに集中していた犬と龍は焦ったようにその場から退いた。
「クラッシュ」
今の俺はゲーム時代と同等の力を持っている。
あいつらじゃ耐えられない。
死ね、消えろ。我らのように。
犬と龍が避けたみたいだな。
もう一発撃っとくか。
いやどうせならもっと殺そう。
近くに国があったはずだ。
この痛みも、照りつける光もまた心地いい。
嬉しいな、楽しいなぁ。
「ゴース早く魔石を取りなさい」
俺は吹き飛びかけていた意識を気合いで戻して魔石を外した。
なんだか魔石を装備した後は夢を見ているみたいだったな。
自分を外から見ているような、幽体離脱したみたいに体から自分がいなくなり、代わりに入った誰かを見ているような。
変な感覚だった。
痛みこそあんまりだったけど、嫌な感じだ。
「第2位界の呪文でも一瞬ね、さすがゲーム時代のステータスだわ」
「ていうか、言ってくれよ。危うく俺らまで抜け殻になってたぞ」
「そうよ、確かに全力だったけどもうちょっと私たちに気を使いなさい」
「まあまあ、勝ったんだしいいじゃん。結果オーライだって」
「そういうことにしといてやるよ」
「しといてやるってなんだよ」
何かを忘れている気がするがまあいいや。
それより今は仲間との時間を大切にしないとな。
「私たち、何か忘れてないかしら?」
「ああそれ、俺も思ってた」
「確かにこの口に何かが詰まっているような感覚は」
「いやどういう感覚だよ。何かを忘れてるのとなんも関係ないわ」
結局俺たちはそれすらも笑い話にする。
いや、してしまうところだった。
「どうしたポチ何か考え事か?」
「いや、なんか大事なことを忘れてるような気がしてな」
「そういう時は一回周りを見渡してみるといいかもよ、案外そこら辺にヒントは落ちてるからな」
そういうと俺とポチだけじゃなく、プリセスとハイルも周りを見渡した。
そして4人は同じ位置で目を止めた。
そこには死にかけで泡を吹いている、ポチと同じ犬人の子供がいた。




