桜の妖精
待ち合わせしていた公園に着いた
「ここに来たのは何年ぶりになるかな」
ひとりごちたボクは見つける
満開の桜吹雪を背景にして
こちらを振り返った君は
僕の中では、間違いなく、桜の妖精だった
苺ミルク色のワンピースに
ふわふわで焦げ茶色の長い髪が
風に吹かれて花びらと遊んでいる
気まぐれな桜の妖精を捕まえて
これからずっと側にいると誓った
「我が儘な君を愛している」
「そんな物好きはボクしかいない」
折を見てそっと囁き続けた
長い髪より短い方が似合うと言って
思い切り雰囲気を変えさせた時の
胸の内から溢れだした暗い歓びは
身体の疲れを忘れさせる力があった
毎日の生活が狂わせていく
妖精に対する感情は洪水のように
この身から溢れて止まらなくなった
いつの間にか気づいた時には
妖精は人間の女になっていた
知恵を持ち、表裏を使い分ける
ボクの一番苦手で嫌いな生き物
なんで変わってしまったんだ
こんなに愛を、ボクの全てを
一つ残らず捧げていたんだよ
いや、妖精なんてものは
最初からどこにもいなかったんだ
ボクが見ていたのは
理想を投影しただけの幻影
最初からそこにいたのは
ただの人間の女だったんだ
「さようなら、ボクの桜の妖精」