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第八話

晴れ渡った青空の下、周りを囲んでいる壁以外になにも無い第一練習場の中心に、沢山の生徒が一点を囲むように集まっていた。


「よし!! 次の生徒、前へ!!」


実戦授業の担当であるマリア先生が凛とした声で叫ぶ。 すると一人の男子生徒が中心に向かって歩き出し、そしてもう一人女子生徒、ルナ・バンラルクも中心に向かって歩き出した。


(ルナすゎぁぁあん!!!頑張ってぇぇぇえ!!)


(女神様ーー!!今日も美しいーー!!!!)


(あの男、ルナさんにケガさしたら殺す!!!!)


ルナの登場に男子生徒たちが地面を震わすほどの大声で叫ぶ。 それを冷たい目で見ている女子生徒たち。 ルナはうざったそうにため息をついている。


「一応確認のためにもう一度だけ説明しておく。 この練習場は特殊な加工がしてあって、ここで戦っても大ケガをしないようになっている。 だから降伏、または気絶をした時点で試合終了とする。 それでは二人とも準備はいいか?」


マリアにそう言われて、ルナは大きな杖を一回クルッと回して構え、男子生徒は普通に剣を構える。ちなみに杖は武器として魔法を使ったときに威力を上げるという効果のものがほとんどである。


「(武器からしてルナさんは中、遠距離から魔法で攻めてくるはず。 なら開始と同時に前にでて接近戦に持ち込む!! )」


ルナが杖を持っているのを確かめた男子生徒は、あらかたルナの戦闘スタイルを予想する。そして第一練習場を静寂が包み込んだ。






「始め!!」


ダッ!!!!


「えっ!!?」


マリアの合図と同時に前へ走ったのは男子生徒、ではなくルナだった。 強く地面を蹴って突っ込んできたルナに、対戦相手の男子生徒は思わず驚きの声をあげてしまった。


「もしかして武器が杖だから接近はしてこないとでも思ったの? 甘いわ、大甘よ!!」


「くっ!!」


男子生徒は焦っていたせいか、ルナが接近するのを簡単に許してしまう。 そしてルナはしゃがみ込んで蹴り足払いをする。 男子生徒はジャンプして辛うじて避けるが、体勢を崩してしまった。


「し、しまっ―――!?」


ドンッ!!


隙ができた男子生徒の腹にルナの後ろ回し蹴りが綺麗にきまる。 男子生徒はお腹を押さえながら呻き声をあげてうずくまる。


「どう?降参する?」


「くっ!!」


バッ!!


ルナに話しかけられた男子生徒は痛みをこらえながらもとっさに距離をとる。 しかし男子生徒はすぐにこの行動が間違いだということに気づいた。


「あら、私から距離をとっても大丈夫なの? 『フレイムショット』!!」


ルナが杖を構えて魔法を唱えると、リンゴほどの大きさの火の玉が速いスピードで男子生徒に飛んでいく。


バンッ!!


そしてその火の玉はそのまま男子生徒の右膝に当たる。 男子生徒は衝撃により地面に片膝をついてしまう。 しかしルナはそんなのお構いなしにフレイムショットを撃ち続ける。


バンッ! バンッ! バンッ! バンッ!


「そこまで!! 勝者、ルナ!!」


そして数発の火の玉が男子生徒に直撃したところでマリアが試合を終了させる。 男子生徒は目をクルクルさせながら気絶していた。


オォーー!!


試合を見ていた生徒たちから感心の声があがる。 ルナの圧倒的な勝利にそこにいる生徒たちみんなが称賛した。


「(あのルナという生徒、対戦相手もこの中ではなかなか強かったにもかかわらず余裕の勝利。 こいつならキールとも良い勝負をするかもしれんな。) 次の生徒、前へ!!」


まだ興奮冷めやらぬ中、続いて二人の生徒たちが中心へ集まる。 ルナは悠々とシンクがいるところへ歩いていった。そんな勇ましいルナの姿を見て、カインは漆黒の目を輝かせていた。


「カハハ、やっぱり俺の目に狂いはなかった。 ルナ・バンラルク、いつか絶対に戦ってもうぜ!!」












時間は過ぎていき、実戦授業もあと5分で終了となった。 そしてたった今、最後から二番目の組の模擬戦が終わったところである。


「これで最後だな。 生徒、前へ!!」


「や、やっと終わりか。 もう足が痺れて限界だ…………んっ? サジのやつ、最後だったのか。」


そろそろ正座していたカインの足が限界に近づいてきたとき、中心へと集まったのはグローブをはめたサジと、小さい杖を持った男子生徒。 そしてなぜかサジの対戦相手の男子生徒はニヤニヤと笑みを浮かべている。


「さて、サジの実力は見たこと無いからな。 どれほどのものか見せてもらうぜ。 そしてあとからぶん殴る。」


まだサジに裏切られた事を根に持っているカインは拳を握り締めながらも、サジの戦いぶりに少しの期待を抱いていた。


「そんな期待しないほうがいいわよ。」


すると突然、カインの横側から声が聞こえてきた。カインは声がした方へ振り向くと、そこには腰に手をあてているルナと、いつものニッコリとした笑顔のシンクが立っていた。


「期待するなってどういうことだ?」


ルナの言った意味が分からずにカインは直接ルナに問いかける。


「見てたらわかるわよ。 黙って見てなさい。」


しかしルナはすぐに理解できるといった感じで、ただサジたちの試合が始まるのを待っていた。カインもすぐにサジのいる方へと目線を移して、マリアが開始の合図を出すのを待ちわびる。


「始めい!!」


そしてサジと男子生徒の準備が整ったのを見て、マリアが試合開始の合図をした。 まず最初に仕掛けたのはサジだった。


「うおりゃ!!」


接近したサジがハイキックを繰り出す。 そのスピードは中々のもので、ルナの蹴りよりも若干速いように感じる。しかし男子生徒は身をかがめて紙一重でそれを避ける。 サジはさらに攻撃を繰り出そうとしたが、男子生徒が後ろに下がったので、結局空振りに終わってしまった。


「『ファイヤー』!!」


そして距離をとった男子生徒が小さな杖を構えて魔法を放つ。 だがいつかルナが放ったものより小さく、威力が無いように見える。 それを見てカインはつぶやく。


「あれくらいなら魔法で相殺だな。サジも相手が弱くてラッキーだったな。」


ボンッ!!


「!!!?」


しかしカインの予想に反して、男子生徒の放った魔法はそのままサジに直撃する。 男子生徒はいやらしい笑みを浮かべながらドンドンと魔法を放つ。


「な、なんであれくらいの魔法を…………」


「だから言ったでしょ。 期待するなって。」


明らかに動揺しながら試合をジッと見つめるカインに、ルナが少し冷めたように話しかける。 そしてカインは。


「なんでサジは魔法を使わないんだ……?」


「サジはね、魔法を使わないんじゃない。 使えないんだよ。」


カインの小さく呟いたように言った疑問に、いつもの笑みを消したシンクが答える。 その間にもサジは魔法をくらい続けている。


「使えない?どういうことだ?」


「この辺りじゃ結構有名な話よ。上位貴族の子供であるにも関わらず、一切魔法が使えない。つまりサジはいわゆる……」


そしてルナが話していく最中、既に限界を超えたサジの体がゆっくりと倒れていく。









ドサッ


「落ちこぼれなのよ。」


ルナが最後の言葉を発すると同時に、サジの体が重々しい音を立てながら地面と接触する。 サジは気絶したのか、一切動く気配が無い。そんなサジの様子を対戦相手の男子生徒は、まるで楽しんでいるかのように笑って見ていた。


「そこまで!!」


そしてマリアの試合終了を告げる声が響く。 カインは倒れたままのサジをただジッと見つめていた。












「…………ん?」



サジが目を覚ますと、最初に白い天井が映ってきた。さらに自分の額に濡れたタオルが置いてあった。 そして寝ている感触からして、自分がベッドにいることに気づく。


「よう、気がついたか? ここは保健室で、今は昼休みだぜ。」


「実戦授業で気絶したサジを、僕とカインでここまで運んだんだ。君って結構重いんだね。」


「まったく、あんた噂通りの弱さね。 私ならあんな相手瞬殺だったわ。」


サジが声のした方へ振り向くとそこには順にカイン、シンク、ルナが立っていた。 カインは濡れたタオルを絞り、シンクは自信満々なルナの発言に苦笑いをしている。ルナは相変わらず尊大な態度を崩さない。


「お前らが看病してくれたのか。いや〜、最初の魔法をくらったところまでは覚えてるんだけどな〜。 そうか……負けちまったか…………」


そして額のタオルを取ったサジは、そのまま俯いてボソッと呟くように言葉を発した。 それを見ている3人の顔はなんともいえない表情をしていた。


「俺は昔から攻撃魔法が使えなくてよ、小さい頃から落ちこぼれって言われてたんだ。 でもうちの家系は結構な名家でな。 そのおかげでこの四大学園の一つ、レッドクラウン学園に入れたわけだけど…………やっぱ俺みたいなのがいるのは場違いだったみたいだな。 今日の相手もずっと俺を馬鹿にしてたみたいだし、お前らも俺みたいな落ちこぼれとチームで迷惑だよな。 お前らも俺なんかいなけりゃいいって思ってんだろ? 本当に………俺なんて…………」


だんだんと消え入りそうな声で話していくサジ。 その目にはうっすらと涙が見える。







バシィィイ!!


そんな重い空気の中、カインが思いっきりサジの頭をひっぱたく。 カインの奇抜な行動にルナとシンクは思わず目を丸くする。


「いってぇぇえ!! 何すんだよ、カイン!!」


バシッ!!


そしてさらにカインはサジの頬に平手打ちをいれる。 サジは叩かれた頬を抑えながらカインを睨む。 しかしカインはそれ以上の鋭い目つきでサジを睨んでいる。 そしてカインはピッと人差し指を立てた。


「一発目はお前のせいでマリア先生に殴られた分だ。」


続けて中指を立てる。


「そして二発目はお前に信頼されてなかったという俺の悲しみの分だ。 俺はお前が落ちこぼれって言われてるのをさっき知ったが、お前のことをいなけりゃいいなんてこれっぽっちも思わなかった。」


カインの話に、そこにいる三人は聞き入っている。 サジも睨むのを止めて、意外という表情をしながらカインを見ている。


「まだ期間は短いけど。俺たちは同じチームの仲間だろ? なのにお前は俺たちのことを全然信頼してねえ。それに迷惑と思うなら強くなればいいじゃねえか。」


「だ、だから俺は攻撃魔法が使えねえんだよ。」


カインの言葉に、サジは少し焦ったように答える。しかしカインはそんなことは気にせずに次の言葉をかける。


「だったら体術を極めろ。」


「はっ? そんなんで強くなるわけが―――」


「決めつけてんじゃねえ!! まだ努力もしてないのに何ふざけたこと言ってんだ!! そういう台詞は精一杯の努力してから言え!!」


またまた否定しようとしたサジに、カインはサジの胸倉を掴みながら怒鳴る。 そしてカインはそのまま胸倉を掴みながら急に優しい口調で話し出す。


「お前が強くなるように俺たちも手伝うからよ、俺たちのことを信用してくれ。 俺たちは仲間だろ?」


そう言われてサジはカインの後ろにいるルナとシンクを見る。


「まっ、同じチームなんだから弱いままじゃ困るわ。 この私が直々に鍛えてあげてもいいわよ。」


目線をそらしながらルナが言う。


「困った時は助け合う、仲間ってそういうもんじゃないか。」


ニッコリと微笑みながらシンクが言う。


「みんな…………ありがとう。」


みんなの優しい心に触れたサジは、深く頭を下げた。 ベッドの布団にはポタポタと数滴の雫がこぼれる。 この4人の信頼感が少し高まった瞬間だった。

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