第六話
自分では長ったらしくて、無駄が多いかなって思うのだけれども、皆様の意見が聞きたいです。
よければ教えてください。
「――――――であるからして、――――――なわけだ、わかったな?」
ここはカインたちのいる1年10組の教室。 教室の中は先生であるコニルの声と、生徒たちがペンで文字を書いている音が響く。
「ん?」
するとコニルは何かに気づき、授業を一時中断させる。 そして人差し指の先に圧縮した風の玉をつくると、それを投げた。
「いてっ!?」
そしてその風の玉が当たって声を上げたのはカインだった。 カインは何が起きたかわからず周りをキョロキョロと見る。
「一時間目の俺の授業をいきなり居眠りとは余裕だな、カイン?」
「!? いや、これは……」
拳の骨をポキポキと鳴らしているコニルにそう言われて、カインは急にタラタラと汗をかきだした。なんとか説得しようとカインは一生懸命に知恵を巡らす。
「ホ、ホラ!!歴史って退屈だしよ!!それに昨日の夜色々あってあんまり寝むれなかブフッ!?」
精一杯に頭を絞ったのにも関わらずまともな言い訳が思いつかなかったカインに、コニルはお構いなしに先ほどよりも少し強く風の玉をカインにぶつける。 そしてさっきよりも痛がっているカインを横目に、コニルは盛大な溜め息をついた。
「はぁぁぁ。仕方ない、ルナ、コイツのために俺が言ったことをもう一度説明してくれ。」
「はい。」
コニルにそう言われてルナは席から立ち上がった。教室の生徒、特に男子生徒の大半はそんなルナの美しく、キチッとした姿勢に思わず心を奪われる。
「この世界は大まかに言って、北の大陸、南の大陸、西の大陸、東の大陸の四つ分かれています。 北にはアンビシン国、南にはリポーズ国、西にはピースレスト国、東にはディブロマテル国があり、昔は四つの国が協定を結んでいましたが、北のアンビシン国が約100年前に協定を破棄しました。 そして現在ではアンビシン国と他の国とが敵対しており、この100年で何度か戦争が起こっています。」
「よし、完璧だ。 カインも次からはちゃんと話を聞けよ。コッチも面倒くさいのに授業してやってんだからな。」
「はい…………」
返事をしたカインは、コニルの言葉に何か釈然としないながらも、真面目に授業に耳を傾けた。コニルはそんなカインの様子を見ると授業を再開せる。
「さて、何故アンビシン国が協定を破棄したかというと、昔からアンビシン国の初代国王であり、四大英雄の一人でもあるレイ・エニローの血筋の者たちは協調性が無く、暴力的な思考をしている者が多かった。 そしてついに100年前、その時のアンビシンの国王は自分の領土だけでは満足できずに、他の国の領土も支配しようとしたんだ。」
コニルは結構な早口でこの世界の歴史を説明していく。生徒たちは遅れないように必死でペンを動かしていく。
「まずはこのディブロマテル国を支配しようとし、その時のディブロマテル国の国王とその王紀、そしてその王子を何かの理由で自分の国へと招待した。そうして暗殺を試みたアンビシン国だったが、殺せたのは王紀だけで、王様と王子はケガをおいながらもなんとかディブロマテル国に帰国した。 国王はすぐに他の国へとその過程を伝え、アンビシン国は協定を破棄されたんだ。そして現在もそのせいでアンビシン国との戦争が続いているという事だ。」
コニルが一気に話したことを生徒たちは真剣にペンで書いていく。そんな中カインだけは手を頭に置き、顔をしかめていた。
「(ふっ、こんな話も覚えられないなんて、やっぱり単なるバカね。)」
ルナは心の中でそっと言った。 口に出さないのはコニルの授業中だからである。 ルナはまだ昨日怒られたことが脳裏に焼き付いていた。ルナがそんなことを思っていると、授業をしているコニルは急に真剣さを増した顔をする。普段不真面目なコニルとは別人のように見えた。
「いいか、そんな時代に生まれたお前らに言っておくことがある。この学園では主に魔法や戦闘、看護のことなどを学ぶのは知っているな?昔は対魔族として教えていたわけだが、コレが今では人間の戦争にも利用されている。だから自分たちの学ぶことが人の命を奪ってしまうかもしれないということだけを忘れるな。」
真剣なコニルの言葉に教室の生徒たちは思わず固唾を呑む。あの普段はだらけているコニルが真剣に言うということは、それほど真面目に考えなければいけないことなのだろう。もし自分たちがこの国の軍に入り、アンビシン国との戦争の時、はたして自分は人を殺す事ができるのか?生徒たちはそのことを考えると恐怖によって少し身震いする。
「よし、今日は早いが授業終了。 あとは寝てても喋ってても何してもいいぞ。」
「「「早っ!!!!!?」」」
しかしコニルは真剣な顔で喋っていたかと思うと、最後にはいつものだらけた感じになり授業を20分も早く終わらせた。 それに対して心の中で一斉にツッコミをいれる生徒たち。先ほどの緊張感はどこかへと消えていった。
そしてそのまま教室を出ようとしたコニルはドアに手をかけた瞬間、ピタリと動きを止めた。
「おっと、忘れるとこだった。 カインとルナ。」
コニルのこの声に、授業が終わったと同時に机に突っ伏して寝ていたカインと、授業が終わったにもかかわらず教科書をみながら紙に何かを書き込んでいるルナは同時に顔を上げた。
「それとサジにシンク、お前らちょっと来い。」
そしてまさか呼ばれると思わなかったサジとシンクは疑問符を頭に浮かべる。すぐに四人はドアの所にいるコニルの周りに集まった。 そして全員揃ったのを見てコニルは口を開いた。
「よしっ、今日からお前らでチームを組め。」
「「「はっ??」」」
コニルのいきなりの発言に驚いて四人は素っ頓狂な声をあげる。 そんな中、サジが手を上げて真っ先に口を開いた。
「はいっ、コニル先生。 チームってどういうこと?」
サジの発言にコニルは面倒くさそうに説明しだす。
「この学園では集団訓練や、連携プレーなどをしやすいように四〜六人のチームを作ることになっている。 普通は誰とチームを組むかは自由だが、お前らはこのメンバーでチームを組め。以上だ。」
「「ちょっと待った!!」」
コニルが言い終わったと同時にカインとルナの二人が声を上げる。コニルはまだ何かあるのかと眉間にしわをよせてカインとルナの二人を見る。
「こんな暴力的女と、」
「こんな非常識男と、」
「「一緒のチームになりたくない!!」」
そして見事にハモった二人は互いに睨み合う。 いまにも喧嘩になりそうな二人を見て、シンクはため息をつく。
「はあ〜〜。 先生、僕もこの二人が同じチームになるのはどうかと思うんですが……。」
「同じく。」
サジもシンクの言ったことに同意の声をあげる。 コニルは腕を組みながら頷き、俺もそう思った、だが!!と言ってシンクとサジに顔を向けた。
「俺は昨日考えた。 このままだとこの二人がまた喧嘩して問題が起きてしまうんじゃないかとな。 そうなったら責任は俺にあり、俺が罰を受けてしまうかもしれん。 今更クラス替えなんかできるはずもない、かといってこのまま普通に同じクラスで過ごしていくなら絶対に問題を起こしてしまう。 そして俺は思いついた、同じチームにして無理矢理仲良くなるような状況にすればいいんじゃねってな。」
自信満々に胸を張るコニルだったが、その幼稚で安易な考えにサジとシンクは開いた口が塞がらない。
「でもこのままだと喧嘩する機会が増えるだけだと思いますが?」
「だからお前たちも一緒のチームにしたんだよ。 サジはカインと仲が良いようだし、シンクはルナと幼なじみだからな。 もしもの場合はお前らが止めろ。 そしてなるべくあの二人が仲良くなるように仕向けろ。 わかったな?」
あまりの理不尽さにサジとシンクの二人はがっくりと肩を落とす。そしてゆっくりとカインとルナへと視線を向けた。
「はぁ、そんなことできんのかねぇ〜。」
サジはまだ睨み合ってるカインとルナの二人を見ると、コニルに言われたことがいかに不可能なミッションかということに気づく。
「これは賭だ。お前ら、任したぞ。 …………ところで次の授業に行かなくていいのか?」
「「「えっ!!!?」」」
辺りを見渡すと、賑わっていた教室は静まり返っており、大勢いた生徒たちが全員いなくなっていた。どうやら次の授業は教室移動だったようで、生徒たちは既に皆移動してしまっていたようだ。
「もうこんなに時間過ぎてたのかよ!? 次は魔法学の授業で教室移動だ! 早く行かねえと遅刻しちまうぞ!!」
そう言ってサジは早くも教室をでて走り出した。
「二人とも、いつまでも見つめ合ってないで行くよ。」
続いてシンクも一言残して教室を出た。
「「見つめ合ってなんか無い!!」」
そして最後に息ぴったりな所を見せつけたカインとルナが教室から出ていった。 教室にはコニルだけが残った。 コニルは嵐のような四人が去ったのを見ると、ふぅっと息をついて教室を出た。
「はぁ〜い、じゃあ今から魔法学の授業を始めますよ〜。 私はこの魔法学の担当、スキャッタ・キャレスと言います。 よろしくね〜。」
カインたちの教室より広い魔法学専用の教室で、間延びした声で自己紹介をしているのは魔法学担当のスキャッタ・キャレスである。 彼女は大きなリボンをしていて、クリッとした大きな瞳は可愛らしさを感じさせる。 そしてさらに可愛らしさをより感じさせるのは…………
「えっ、子供じゃなブルァ!?」
「うふふ、ちなみに私は26歳の大人ですからね〜。 次に子供とか言ったら殺しちゃいますよ〜?」
そう、スキャッタはかなり身長が小さく、幼児体型なので、見た目だと少女にしか見えないのである。そしてこの教室にいる皆が思っていたことを真っ先に口に出して言ったのはサジだった。
「ふぁ、ふぁい……。」
その幼児体型のスキャッタに絶対言ってはいけない禁句の一つを言ってしまったサジは間髪を容れずに吹っ飛ばされた。 スキャッタに注意されたサジは腫れた頬を押さえながら何とか返事をする。
「ところでスキャッタ先生、今のは魔法か何かですか!?」
突然生徒の一人が声を上げて興味津々な様子で質問した。さっきの場面には不可解な所があったのだ。スキャッタとサジの距離はかなり離れており、スキャッタはただ拳を突き出しただけだった。 手からは何もでておらず、魔法を放った感じでもなかった。それにもかかわらずサジは勢いよい吹っ飛んだ。疑問を持つのは当然である。
「ん〜〜、それも説明するためにこのまま授業を始めましょうか〜。 それじゃあシンクくん、魔法の属性はいくつあるか言ってみて〜。」
生徒の名簿を見ながらいきなり授業を始めだしたスキャッタ。そして名前を呼ばれたシンクは席から立ち上がる。そのシンクの容貌にスキャッタは今年は当たり年ね、と子供の姿らしからぬ事を小さく呟いた。
「一般には火、水、風、雷の四つです。」
「あら? 一般にはってことは、シンクくんは他の事も知ってるようね〜。 とりあえず知ってること全部言ってみて〜。」
「はい。 さっき述べた四つの属性以外を稀にですが持っている人がいます。 それらは特殊属性と呼ばれ、効果も様々です。 特殊属性は、回復、木、土、空間、時間、重力など他にもたくさんあります。 その中の空間、時間、重力は特に稀少で、現在では一人ずつしか確認されていなく、特殊属性のほとんどは回復、木、土属性と言われています。 そしてその空間の特殊属性を持つ、たった一人の人間がスキャッタ先生というわけです。」
「流石ね、百点満点よ〜。 先生の言うことなくなっちゃった〜。 そう、シンクくんが言ってくれたように私は特殊属性『空間』の使い手よ〜。 さっきサジくんを吹っ飛ばしたのは、空間に穴をあけて私の前方と、サジくんの目の前の空間とを繋げたわけ〜。 こんなふうにね。」
スキャッタが腕を前に出すと、腕が消えて、サジの目の前に現れた。 驚いたサジはうおっ!?っと叫んでイスごと後ろに倒れた。 教室に笑いの声が広がる。
「さて、おふざけはここまでにして真面目に授業に取りかかりましょうか〜。」
「「「はーーい。」」」
みんなが一斉に返事をする中、サジだけは自分の不幸を嘆きながらイスをもとに戻していた。
サジがスキャッタに吹っ飛ばされている頃、コニルは生徒の書類を見ていた。 とりあえずあのカインとルナの事だけは調べておこうと思ったのだ。
「ルナ・バンラルク、入学試験を2位で合格。 筆記試験は2位、実戦試験は3位か。 キールがいなければトップだったな。 さてと、カインは…………あった、これだ。 入学試験の結果は…………な、なんだこれは!? …………この結果、ふふっ、面白いぞカイン・エルリック。 こりゃ注目しがいがあるな。」
資料室でコニルは不敵に笑みをこぼした。