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第五話

「ああ〜〜疲れた。 あれから30分も説教だぜ? 向こうから仕掛けてきたってのによ。」


「いや、どっちかっていうとあんな挑発したお前が悪い。ていうかどんな理由があろうと全面的にお前が悪い。」


そんなことを言いながら歩いているのはカインとサジ。 カインは説教された事に悪態をつき、サジはそれは当然の結果というように話す。


「なっ!? お前はルナってやつの味方なのか!?」


「もちろん!!俺はいつでも女の子の味方へぶしっ!?」


サジが言い終わる瞬間に、カインの右ストレートがサジの左頬に直撃した。 それによってサジは変な声を上げる。 そしてサジは左頬を手で押さえながらカインに怒鳴る。


「いきなりなにすんだお前は!?」


「裏切り者め。 そんなお前には俺からの右ストレートをプレゼントだ。 そんなことより、俺たちが住む寮はどこにあるんだ?」


「俺を殴った事をそんなことで片付けるのかよ!!」


「いいから早く寮の場所を教えろよ。」


「まったく……覚えてろよ……ブツブツ。っと、いつの間にか着いてたみたいだぜ。 ここが俺たちの住む寮だ。」


カインの対応に納得がいかないサジはふてくされて何やら呟いていたが、目の前にある建物を見て足を止める。それに伴いカインも足を止めて目の前にある建物を見上げる。


「これが寮だったのか!? でけ〜〜!!」


カインたちの目に映ったのは、首が痛くなるほど見上げてしまうほどの大きい寮だった。 それを見てカインは感嘆の声をあげる。


「ここレッドクラウン学園には、お前みたいな遠くから来ているやつも大勢いるからな。 まっ、それだけ四大学園に入ることは価値があるってことだ。 さぁ中に入ろうぜ。」


サジがカインに説明した後、二人は寮の中に入った。寮の大きさに合わせて普通の扉よりも少し大きくしてある扉を開いた先には、一人の美しい女性が立っていた。 そしてその女性は口を開く。


「ようこそ、レッドクラウン学園の寮へ。 新入生の方ですね。 私はここの寮長のフラシス・ベージュです。 私のことは寮長と呼んでくださいね。」


フラシスは優しい口調でそういうと、最後にニッコリと微笑んだ。 サラサラとした長い金髪と、その笑った清楚な顔にカインとサジはしばらくのあいだ心を奪われた。 そして二人はハッと気付くと自分達の紹介を始めた。


「カイン・エルリックだ。」


「サジ・カーネイルです!!今日からお世話になります!!ちなみに現在彼女募集中です!! 」


「あらあら、今年の新入生は元気がいいですね。 ちょっと待ってくださいね……。 はいっ、カイン君は201号室、サジ君は202号室です。 場所は三階です。 では私は他の新入生の方もみなければならないのでこれで。」


フラシスは名簿を確認してカインとサジの部屋の鍵を渡すと、新たに入ってきた生徒の対応を するためにその場を後にした。そしてそれを見送ったあとカインとサジはボーっとフラシスの去っていった方向を見ながら呟いた。


「「綺麗だ…………」」










その後カインとサジの二人は階段を上って三階まで来ていた。 自分たちの部屋を目指して長い廊下を会話しながら歩いている。


「それにしてもフラシス寮長美人だったなぁ〜。」


「そうだな。 ルナってやつよりフラシス寮長の方がよっぽど女神だぜ。」


サジが言ったことに相槌をうったカインが、遠まわしにルナのことを馬鹿にする。そんなカインの言葉を聞いたサジは急にニヤニヤしながらカインへと顔を向ける。


「おいおい、まだ言ってんのかよ。 カイン、お前実はルナちゃんに気があんのか?」


バシッ!!


「いてっ!?」


カインはサジの言葉に対してムカついたのか、いきなりサジの頭を叩いた。結構な威力にサジは頭を抑えながら少し涙目になっている。


「そんなわけ無いだろ。次に変なこと言ったらぶん殴るからな。 ん……?」


カインはサジへ拳を突き出して二度と言わせないように念を押した。そしてそのまま廊下の角を曲がろうとしたとき、カインが急に足を止めた。


「痛てて。おい、どうしたんだよカイン。」


それにつられて足を止めたサジが、先ほど叩かれた頭を抑えながらカインに訊いた。カインは立ち止まったままその場から一歩も動こうとしない。すると角の向こうから聞いたことがあるような声がしてきた。


「まったく、あれほど問題を起こさないようにいったじゃないか。それなのに初日から説教されるなんて…………」


「だ〜か〜ら〜、あれは向こうから突っかかってきたのよ…………あっ。」


すると二人の男女が角の向こう側から出てきて、カインとサジとの鉢合わせの形になった。カインは現れたその二人をずっと睨んでいる。言っても、睨んでいるのは二人のうちの一人だけなのだが。


「あっ、ルナちゃん!! ルナちゃんも寮なんだね。」


そしてサジは男女のうちの女の方であるルナに声をかけた。しかしルナはサジに気づかないのか、それともわざと無視をしているのか、まったくサジの方を見ない。その代わりにルナはカインの方をずっと睨んでいる。そしてルナはゆっくりと口を開いた。


「あんたのせいで30分も説教させられたじゃない。どうしてくれるのよ。」


ルナが放った言葉はカインに向けてのものだった。


「あぁ? それはこっちの台詞だ。お前が騒ぎを大きくしたから説教させられるハメになったんじゃねえか。」


喧嘩腰のルナに負けじとカインも睨みながら言葉を返す。二人の間を険悪なムードが包む。



スパーーーン!!



「いつっ!?」


そこにスリッパで叩いたような気持ちの良い音が響く。その音の発生源はルナの頭から。ルナが叩かれた痛みを我慢しながら振り向くと、そこには二人のうちの残りの一人であるシンクが腕を組んで立っていた。


「さっき言ったばっかりなのになんで約束を守れないかな?また喧嘩なんかして、止める僕の身にもなってくれないかな?」


「いや、だから、えっと……」


「あ〜〜、誰かに吹っ飛ばされたせいで背中が痛いな〜〜。大体ルナはいつもいつも――――」


シンクは笑顔でルナに話しているが、そこにいるシンク以外の三人にはシンクが体の周りに黒いオーラを纏っているのが見えていた。 それに畏縮しているルナはシンクの前で正座をしながら説教を聞き、カインも何故かその横で正座をし、さらにはまったく関係ないと思われるサジも正座をして説教を聞いていた。















「―――なんだよ。 だからこれからは気をつけてね、わかった?」


「………はい。」


そしてシンクが説教をし終えて、ルナがいつもの態度からは考えられないほど体を縮こまらしながら力無く返事をする。 反対にシンクは満足そうに微笑み、先ほどまでの黒いオーラはいつのまにか消えていた。 するとシンクはルナと同じように正座しているカインとサジに気づいた。


「あれ、たしかカイン・エルリックさんとサジ・カーネイルさんですよね? どうしたんですか?二人とも正座なんかして。」


「「…………いや、なんとなく。」」


シンクの雰囲気に飲まれてしまっていたカインとサジが同時に言う。そして正座していた三人は立ち上がって制服についた埃をはらう。その様子を見てシンクはクスクスと笑う。


「二人とも面白いですね。 僕はシンク・ハート。 シンクとよんでください。」


「俺はカイン・エルリック。 カインでいいぜ。 あと、さん付けとか敬語とか無しでいいから。」


「俺はサジ・カーネイル。 サジってよんでくれ。 俺もさん付けとかいらないからな。」


シンクとカインとサジの三人が自己紹介をして握手する。 そんな和やかなムードの中、ルナは腕を組んでブスッとしながらふてくされている。それを見かねてシンクはルナに声をかける。


「いつまでも拗ねてないで、ルナもちゃんと自己紹介しなよ。」


シンクに言われてルナは目を合わせないままゆっくりと口を開く。


「……ルナ・バンラルク。」


ルナはぶっきらぼうにそれだけ言う。 シンクはそれをみて苦笑し、カインとサジに小さく呟く。


「ちょっと拗ねてるだけだから、根は良い子なんだよ。」


それを聞いてサジはメモ帳を取り出して何か書き込み、カインはフンッと興味無さそうに鼻を鳴らす。 そしてメモを書き終えたサジがシンクに言う。


「ところで二人は部屋はどこなんだ?」


「僕が199号室、ルナが200号室だよ。そっちは?」


「げっ!?」


シンクの言葉を聞いて、カインは顔をしかめながら声をあげる。


「へぇ〜〜、んじゃ俺たちお隣同士だな。 俺が202号室、そんでカインが201だ。 よろしくな。」


「げっ……。」


サジの言葉を聞いて、今度はルナが顔をしかめる。 そしてカインとルナがゆっくりと視線を合わせる。 それを見たシンクはまた何か起きてはかなわないと思い、二人の間に割って入った。


「それじゃみんなで部屋に行こうか。」


その言葉にカインとルナは視線をはずした。 そして四人はおしゃべりをしながら自分たちの部屋へと歩いていった。 …………話していたのはほとんどシンクとサジだけだったが。













そして四人はそれぞれの部屋の前についた。ここに来る間もカインとルナは一言も言葉を発することはなかった。


「それじゃ今日はもうダルいし部屋で寝るわ。 明日からもよろしくな。」


大方の会話も終わり、サジはそう言ってすぐに部屋の中に入ってしまった。 それをみた三人もそれぞれドアに手をかける。


「…………ところでシンク、背中は大丈夫なのか?」


すると突然カインがシンクへと声をかけた。多分カインはシンクに対する罪悪感があったのだろう、カインは気まずそうにそう訊いた。扉を開いたまま意外そうな顔をしていたシンクは、少し間を空けてからニコリと微笑んだ。


「大丈夫だよ、気にしないで。心配してくれてありがとう。それじゃまた明日。」


「あぁ、またな。」


そしてシンクは自分は大丈夫という旨を伝えて自分の部屋へと入っていった。その言葉を聞いたカインはホッと胸を撫で下ろして挨拶をした。するとカインはそのやりとりをルナがジッと見ていたことに気付く。


「なんだよ?」


ずっと見られているのも気持ち悪いので、カインは思い切ってルナに話しかけた。ルナは未だにカインを睨むように見ている。


「…………覗きにとか来ないでよね。」


「なっ!!!?」


ルナはカインの予想外なことを言ってすぐに部屋に入っていった。 一人残されたカインはこのどうすることもできない怒りを全て舌打ちに込めて、そしてすぐに部屋へとに入っていった。












「……アイツ、ああ見えても他人の心配なんかするんだ。もっと自己中心的で最低な男だと思ってた…………でも絶対に許さないんだから。私のこと馬鹿にして…………」


ベッドで布団をかぶりながらルナは小さくそう呟き、そして深い眠りへと落ちていった。

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