第四話
ガヤガヤガヤ
ここは1年10組の教室。 大半の生徒は、隣や周りの人と自己紹介やたわいもない話をしている。 カインとサジも例外ではなかった。
「席も隣だな、カイン。 これからも色々頼むぜ。 」
「ああ、こちらこそな。 ところでサジ、先生はまだ来ないのか?」
「さあな。 でも教室にいったらすぐにホームルームが始まるって言ってたから多分もうすぐ来るだろ。」
ガラガラ
サジがそう言うと同時に教室のドアが開く。 生徒たちは話しを止めてドアのほうを見る。 すると入ってきたのは予想通りコニルだった。
「よし、お前ら席に着いてるな。 あぁ〜俺がこのクラスの担任のコニル・アネティブだ。よろしくな。」
コニル先生は頭をボリボリと掻きながら言う。 格好と同じようにだらしないコニル先生を見て生徒たちは早くも不安になっていた。
「とりあえず今日はホームルームをして終了だが、明日からは授業が始まる。 今まで独自に学んだり、学園傘下所に行ったりしてたやつもいると思うが、最初は基本から学んでいく。 その辺を忘れないように、以上 。 あぁ〜面倒くせ。」
最後に言った事はとりあえず無視して、生徒達は話を聞いていた。ちなみに学園傘下所というのは学園に入る前に魔法について学んだりしたい者のために作られた施設である。この学園に入るには試験があるので大体の者は傘下所に通っていた。
「んじゃ自己紹介をして終わりにするぞ。 とりあえず一番右の一番前のやつからだ。 俺は寝るから終わったら起こせよ。」
そういってコニル先生は自分のイスに座り、腕を組みながら顔を下に向けて寝てしまった。生徒達はなぜこんな人が先生になれたのかと不思議に思った。 しかしそんな事を思っていても仕方ないので生徒達は自己紹介を始めた。名前、魔法の属性、出身、その他色々を言っていく。
そして自己紹介が半分くらい終わって、次の人が自己紹介をするときだった。 カインがあることに気付いた。
「んっ、アイツは………」
「どうした? 何か気になるやつでもいたのか?」
カインはある一人に視線を固定する。 それはさっき戦いを申し込んだあの女の子だった。 サジの言う事を無視してカインは呟く。
「あの女……一緒のクラスだったのか……」
そしてちょうどその女の子が席を立って自己紹介を始めた。その女の子の声にカインは耳をすます。
「ルナ・バンラルク、属性は火。 学園傘下所『サン』出身。 趣味は特にないわ、以上。」
ルナは淡々と喋る。その間周りからはあの子可愛いな〜、というような声が上がっていた。 たしかにキリッとした目をしている綺麗な顔立ちで、茶髪のツインテールがとてもよく似合っていた。
すると男の生徒の一人が手を上げてルナに質問をした。
「ルナさんは彼氏いるんですか!?」
その言葉に対して他の男の生徒たちも頷く。どうやらみんなもそれが気になるようだった。生徒たちはある一つの答えを期待している。
「いないわよ。」
ウォーーー!!
ルナがそう言うと男の生徒たちは歓声を上げる。期待通りの言葉に男子生徒たちのテンションは最高潮に達する。
(じゃあ俺告白しちゃおうかな〜)
(おい待てよ俺が先だぜ)
(でも相手はあの女神だしな〜)
というような事を言ったりして男子生徒たちは騒ぎ始める。それでもコニルが目を開けることはなかった。
「ただし!!」
ルナが声を張り上げる。 それに伴いクラス中が静まり返る。
「私は私より弱い男には興味無いから。それと…………口だけの奴とか、私を馬鹿にしたりする人とかね。」
ルナはカインのほうを見て目を合わせる。 少し睨み合いが続いた後、ルナは目を背けてゆっくりと席に座った。 教室の中はザワザワとまた騒ぎ出した。
「なあ、カイン。 お前ってルナちゃんと知り合いなのか?」
「ん? サジはあの女を知ってるのか?」
「ああ。 なんたって学園傘下所『サン』では女神様、って呼ばれていた女の子だからな。 ちょっとツンツンしているところと、あの美貌でみんなの人気を集め、そういう呼び名ができたんだ。 それに魔法の実力なんかハンパなく強いって噂だぜ。」
「ふぅん。てかあのツンツンはちょっとじゃない気もするが……まぁ魔法の強さは認めるけど。」
「そんなことはいいからお前とルナちゃんの関係を教えろよ。」
「あぁ、それはな…………ん? ちょっと待ってくれ。」
サジがカインとルナとの関係を聞こうとした。 しかしカインがサジの目の前にパーの形で手を出して会話を中断させる。 そしてカインの目には、ルナの魔法を解除し、親切に遅刻しそうだという事を教えてくれた男が映った。 そして男はにっこりと微笑むと自己紹介を始めた。
「シンク・ハートです。 属性は水です。 学園傘下所『サン』出身で、そこにいるルナとは昔からの知り合いです。 趣味は読書などですかね。 以上です。」
(ねえ、あの人ちょっと良くない?)
(私のタイプかも〜)
というような今度は女子生徒から黄色い声が聞こえる。 シンクはそんなに身長はないももの、サラサラとした薄い紫色の髪、整った顔立ち、優しそうにずっとニッコリしたままの目。モテる要素は豊富だった。
「あの野郎……よくも俺の戦いを邪魔しやがったな……。」
男子生徒は女子生徒の注目を集めているシンクに嫉妬して睨んでいたが、カインはそれとは違う意味でシンクを睨んでいた。 シンクはカインが睨んでいるのに気付かずに席に座る。
「おいおい、そんな怖い顔をしてどうしたんだよ。 しかもお前目つきが悪いから余計に怖い。」
「うるせえ。目つきが悪いのは生まれつきだ。てか今日で目つき悪いって言われるの何回目だよチクチョウ。」
サジに指摘され、カインは睨むのを止めた。そして自分の目つきの悪さに少し自暴自棄になるカインだった。
「なんの事だ? そんなことよりルナちゃんとの関係を教えろよ。」
サジはそんなのを気にせずにカインとルナとの関係を訊ねた。 そしてカインはシンプルに答える。
「今朝あいつに戦いを申し込んだ。」
「ほへ?」
予想外のカインの言葉にサジは間抜けな声を出す。 それを気にせずにカインは話しを続ける。
「あの女が不良たちを倒してるのを見て、こいつは強いと思って決闘を申し込んだんだ。 でも途中であのシンクってやつが邪魔したんだよ。 まったく……」
「ちょっと待て。 お前あの女神様と呼ばれているルナちゃんと戦おうとしたのか?」
「そうだ。」
カインは自信満々に言う。 サジはやれやれといった感じで首を振り、ため息をついた後口を開く。
「さっきも言ったがルナちゃんは本当に強いんだぜ? 多分1年生の中でもトップクラスだ。 お前がどれほどの実力か知らねえけどよ、勝てるわけがないだろ。 それに既にファンクラブもあるって話だから、そんなことソイツらに知られたら何されるかわかったもんじゃねえぞ?」
サジは諭すようにカインに言う。 しかしカインはそんな事を気にしていないように言う。
「大丈夫だ。 なんたって俺はこの学園トップになる天才だからな。ルナも、そのファンクラブの奴らも俺の相手じゃねえよ。」
シーーーーーン
カインがそう言うと、カインとサジの間に沈黙の時間が流れる。 そしてサジが駄目だコイツ、早く何とかしないと、とでも訴えているかのような目をしながらして口を開く。
「お前馬鹿だろ?」
「なに!? 馬鹿って言うな!! 俺はいつか学園トップになる天才なんだぞ!!」
サジの言った事に憤慨するカイン。 しかしサジはあきれた感じで言う。
「無理に決まってんだろ。 もし万が一に、いや、億が一にお前がルナちゃんに勝ったとしても、俺たちの学年にはあのレッダム家の子孫がいるんだからな。 学園トップになれるわけなんかないぜ。 おっ、ちょうどソイツの番みたいだぜ。」
サジが促すように親指を一人の男に向ける。 それを追うようにカインは目線を向けた。 そしてさっきまで少し騒がしかった教室が静かになっていた事に気付く。 みんながカインと同じように、一人の男の生徒に注目していた。
「キール・レッダムだ。 属性は火。傘下所には行っていない。」
それだけ言うとキールは席に座る。 周りからはあれがあのレッダム家の子孫か、すっごくカッコイイ〜〜、というような声があがる。 キールという男は、身長は170くらいで、容姿端麗、真っ赤な色の長髪で、イケメンと呼ばれる部類の人間であることに間違い無かった。 そんなキールを見てカインは愚痴を漏らす。
「アイツなんか気にくわねえな。」
「なんだ? 嫉妬かよ。」
カインを茶化すようにサジが言葉をかける。そのサジの言葉にカインはムッとする。
「そうじゃねえよ。 なんか雰囲気っていうか、態度っていうか……とにかく俺の嫌いなタイプだな。」
「はいはい、そういうことにしといてやるよ。 おっと、次は俺の番だな。」
そう言ってサジは椅子から立つ。 そしてチャラけた感じで自己紹介を始めた。
「サジ・カーネイルでーす。 属性は雷。学園傘下所『ヴァーゴ』出身。 趣味っていうか、特技は情報集め。 教えて欲しい情報があったら俺のところに来てくれ。 今なら1000フィンにまけとくぜ。あと、ちなみに彼女募集中でーす。 よろしく☆」
一気に話すサジに、周りはポカーンとなる。そしてサジは最後にウィンクをして席についた。 ちなみに100フィンでジュースが1本買えるくらいの価値である。
「…………何キャラ?」
と思わずカインは小さくツッコんでしまった。 そしていくらかの沈黙が過ぎた後、生徒達は騒ぎ始める。
(あいつ……アホなのか?)
(でもちょっとカッコよくない!?)
(……後でルナって子の情報教えてもらお)
というような声がカインの耳に入ってくる。てか最後の奴はアホかそれともかなりの命知らずだな、とカインは思った。
(でもアイツは例の……)
「……………?(何のことだ?)。」
誰かが小さくいった言葉が、カインの耳に届いた。 それを聞いてカインは疑念を抱く。 しかし、サジが何かやり遂げたように満足な顔をしてこちらへと顔を向けたので、カインはどうでもいいかと思いすぐにその念を消し去った。 そして早速サジに話しかける。
「おい、なんなんだよ、今の自己紹介は。」
「普通の自己紹介と、情報屋としての商売の宣伝や、ついでに彼女を募集しただけだ!!」
「………」
どうだと言わんばかりにサジは胸をはる。 カインは呆れて物が言えなかった。そんな会話をしていると、カインはもうすぐ自分の番ということに気づいた。 カインは何を言おうかと頭の中に考えを巡らす。
「(さて……どうするかな? とりあえず名前と、属性と、好きなものと、それと……………あっ!!コレだ!!)」
そして良い考えを思いついたのか、カインはニヤリと笑う。 サジはそんなカインを見て不思議に思うが、さして気にしなかった。カインの前の席の生徒が自己紹介を終え、そしてついにカインに順番がまわってきた。 カインは勢いよく席から立って口を開く。
「俺の名前はカイン・エルリック。 属性は火で、ここよりもっと東の山奥の学園傘下所にいた。 好きなものは戦闘。これからよろしく。」
意外にも普通の自己紹介をしたカインにサジは少し拍子抜けした。そして生徒たちはカインの自己紹介が終わりだと思い、拍手をしようとする。
「あともう一つ!!」
するとカインは人差し指を上に突き上げて大声で言った。生徒達の動きがピタリと止まる。そしてカインが何を言うのかを生徒たちは何も言わずに待っている。
「…………俺はこの学園最強になる男だ!!」
「「「「!!!?」」」」
いきなりカインがそう言うとみんなポカーンとなって口を開く。 おそらくサジのときよりも生徒たちの頭の中は混乱しているだろう。 そんなことお構いなしにカインは言葉を紡いでいく。
「だからまず、そこのルナってやつ!! そして次にレッダム家の子孫のキール!!」
カインの言葉にルナとキールの二人が反応し、カインのほうを見る。 ルナは見るというより睨んでいるという感じだが。 そしてカインはその二人が自分に注目したのを確認し、最後の言葉を放った。
「お前らを………ぶっ倒す!!」
カインは言うと同時に、両手の親指を下に向け、両手を上から下におろした。 それを見てクラス中の空気が凍りつく。 そしてキールはそれを見ても顔色一つ変えなかったが、ルナは違った。 拳を握りしめて震わせながら、顔を真っ赤にしてカインを睨む。 そしてガタン!! とイスが倒れる音とともに、ルナが席を立った。
「アンタが望むなら、今ここで勝負してあげるわよ!!」
「「「「うわーーー!!!」」」」
ルナがそう言うと、ルナの体から大量の魔力が放出される。 生徒たちはその魔力にしりごみし、教室の隅に逃げる。キールだけは自分の席から動こうとしなかったが。 ルナはカインにどんどん近づいている。 そしてその状況の中、逃げなかったシンクはルナを止めようとする。
「ち、ちょっとルナ!! 落ち着きなよ!!」
「うるさいわね!! はあ!!」
ビュン!! ボンッ!! バァン!!
「うぐっ…………。」
ルナは自分を止めようとしたシンクを手から出した魔力の衝撃波で吹っ飛ばす。 突然の出来事に回避できなかったシンクはその衝撃波を受け、壁に背中からぶち当たる。 そして座り込みそのまま気絶してしまった。 ルナは吹っ飛んだシンクを見届けた後、再びカインのほうを睨む。
「次はアンタよ!!」
「カハハ!! おもしれぇ、やってみろよ!!」
ルナとカインの空間を静寂が包み込む。 その様子をクラスの生徒たちは固唾を呑んで見守る。もはや暴走したルナを止める手段はなかった。 しかしそこに――――
「こら、お前たちは何をやってるんだ。」
ボカッ!!
「「いてっ(いたっ)!!」」
いつの間にかカインとルナの後ろにいたコニルが二人の頭を殴る。 二人は突然の衝撃に言葉を漏らした。 結構な衝撃だったのか、カインとルナは二人とも頭をさすっている。
「お前ら、なんでこんなことになってるんだ。」
コニルが辺りを見渡して二人に聞く。 それに対しカインとルナは顔を俯かせる。
「まったく、お前ら二人はあとで説教だ。 あとで職員室に来い。 俺はそこで気絶しているヤツを保健室に運ぶから、お前たちは残りの自己紹介をやって、終わったら帰っていいぞ。」
そう言ってコニルはシンクを背中に担ぎながら教室を出て行った。 教室は一時静かになっていたが、少ししてから前の雰囲気に戻り自己紹介を再開した。コニルが去った後は何もせずに元の席に戻ったカインとルナはブスーっとした顔で座っていた。
「はあ、早速やらかしやがったな。 カインってヤツには朝から嫌な予感がしてたんだ。」
そう漏らしたのはシンクを背負っているコニルだった。 コニルは保健室に向けて足を運ばせていた。
「多分このままいったらいつかとんでもないことをやらかすんじゃねえかなあ……。仕方ない、めんどくさいが今のうちに手を打っておくか……。 はあ、本当にどうなるんだろうな。」
何回もため息を漏らしたコニルは、先の未来を不安に思いながら保健室を目指すため廊下を歩いていった。