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第三話

「あんた何言ってんの? なんで私があんたと戦わなくちゃいけないのよ」


あまりの出来事にさっきまでの怒りが消え去り、そして女の子はその場を去ろうとする。その表情はカインに対して呆れているようだった。











「逃げんのかよ……」


「はっ?」


しかしカインはギリギリ聞こえるくらいの声でそう呟いた。その挑発的な言葉に再び怒りを露にした女の子が、元の位置よりもカインに近づいて言った。


「あんた今なんて言ったの? 私が逃げる? そんなのありえるはずないじゃない。 いいわ、やってあげる。 たださっきみたいに手加減しないから、死んでも怨まないでね。」


女の子は背負っていた大きな杖を持って構える。その様子を見たカインは不敵に笑い始める。


「カハハ!! やっとその気になったな。本気で結構、さあ!! 楽しもうぜ!!」


カインは笑みを浮かべながら、拳を口の近くにもっていき、ステップを踏みながら構える。


「(どうやら格闘主体タイプのようだけど、もしかしたらってこともあるし、最初は様子見ね……)」


「(でっかい杖を持ってるってことは完全な魔法タイプだな。 それにしてもこいつの本気、どれほどなんだろうな〜。 カハハハハハ!!)」


お互いにどんな戦い方をしてくるのかを予測する。しかしカインの方は女の子に比べて少々雑ではあるが。


「(それにしてもこの男、なかなかの威圧感だわ。 結構な実力者なのかしら……)」


まだ女の子のほうは冷静にカインのことを分析する。先ほどまでの態度や言動からは考えられないほど女の子は冷静である。カインからただならぬ雰囲気を感じたからであろうか。


するとそんな女の子を見てカインは口を開いた。


「おいおい、どうしたんだよ。まさかおじけついたのか?」


ブチッ


「さっきまでの威勢はどこにいっちまったんだよ?それとも本当に俺が怖いのか?カハハ!!」


ブチブチッ


その言葉に女の子の何かが切れた。女の子はカインの言葉で簡単にさっきまでの冷静さを失ってしまう。


「アンタ……私をなめるのもいいかげんにしなさいよ!!」


そういって女の子は杖に向かって呟きはじめる。その言葉には怒りが込められているようにも思える。


「我が魔力を糧とし 渦巻く炎と成せ…………!!」


女の子の杖に魔力が集中しだして淡く光る。しかしカインはまったく動じずにそれを笑いながら見ている。 そして女の子が杖を力強く前に突き出した。


「フレイム――「『魔法解除(マジックキャンセル)』」」



「「!!!?」」



しかし女の子の魔法が発動しようとした刹那、いきなり男が現れて自分の手を女の子の杖にかぶせた。すると女の子の杖からは光が消えて魔法が発動しなかった。カインは突然のことに何が何やら分からないといった顔をしている。


「ダメだよ、こんなところでそんな魔法使ったら。」


ニコッ


そして男は女の子の方を向いてそう言うとニッコリと微笑んだ。そして今度はカインの方を見て微笑む。


「すみませんでした。 この子は限度ってものをしらないんですよ。後できつく言っておきますから。」


「いや、あの…………」


カインは驚きによって未だに言葉を発せない。 そんなカインの様子を見て男はフフッと笑うと、もう一度女の子の方を向く。


「ほらほら、早く行かないと入学式が始まるよ。こんな所で喧嘩なんかして、学園側にバレたらどうするつもりだよ。」


「わかってるわよ。でも変な奴らがからんできたんだから仕方ないじゃない。」


そう言って女の子は倒れている男たちを指差し、その後カインを指差した。カインを指さしたときは若干睨んでいたが。


「はいはい、わかったよ。とにかく体育館に行こう。あなたも早く体育館に行ったほうがいいですよ。」


男はカインに対してそう言うと、体育館に向かって走っていった。女の子はカインを一度睨むと、すぐに男の後についていった。


「…………えっ? 勝負は?そして体育館の場所は……?」















ガヤガヤ


ここは体育館。ここで入学式が行われるのであり、そしてあと二分で入学式が始まるところである。辺りを見ると生徒たちが話し合ったり、静かにイスに座ったりしている。そこにはさっきの男と女の子の姿もあった。しかしカインの姿はそこにはなかった。


カチッ


時計の針が一つ進む。入学式まであと一分になり、さっきまで喋っていた人も口を閉じだした。静まり返った体育館に緊張感かひろがる。


バターンッ!!


そこに勢いよく扉の開く音が聞こえる。集まっていた生徒たちは一斉に音をした方をみる。だれもがこの学園の学園長であり、今の時代最強の男、『ロベルト・レッダム』が入学式の開会のために入ってきたと思った。















「あぁ〜疲れた……。 あの二人が行った方向に向かって、適当に走りまわってようやく着いたぞ。ん…………何?この空気?」


しかし生徒達の予想を裏切って入ってきたのは今の今まで体育館を捜し求めていたカインだった。予想とは違った展開に、生徒たちはポカーンとしている。それに気付いたカインは慌てて空いているイスに座った。それと同時に時計の針が進み、扉がゆっくりと開いていく。


ギギィーー


今度こそと思いながら生徒たちは扉の方を見た。そこに入ってきたのは髭を長く伸ばした老人。しかしその後ろから教員と思われる人たちがぞろぞろとついてきている。その光景に生徒たちは思わずゴクリと唾を飲む。


そう、この教員たちを引き連れている老人こそが学園長であり、今の時代最強の男、そして四大英雄の一人であるカルロス・レッダムの血を受け継ぐもの、『ロベルト・レッダム』である。学園長はゆっくりと教壇にあがり、そして口を開いた。


「ようこそ、我がレッドクラウン学園へ。 儂は学園長のロベルト・レッダムじゃ。」


学園長は威厳のある口調でそういった。しかし顔の方はニッコリと微笑んでいる。どうやら生徒達が思っているほど厳格な人物ではないようだ。


「君たちも15歳になり本格的に魔法や戦闘を学んでもらうわけじゃが、ここにいる一年生500人、全校生徒合わせて1500人全員をライバルと思って励んでくれ。さて、長い話は好かんと思うから儂からは以上じゃ。」


パチパチパチ


学園長が簡単な挨拶をして体育館に拍手の音が響く。その後メガネをかけている六十代くらいの男性が教壇にあがる。それと同時に拍手の音が鳴り止む。


「私はこの学園の教頭です。 皆さんは校庭にあったクラス表はもう見ましたよね。 今からクラスの担任を発表していきます。」


「えっ!? そんなのがあったのか!? 知らなかった……」


教頭の言葉を聞いてカインは初めてそれを知った。そんなカインを余所に教頭はクラス担任を言っていく。


「おい。おい、お前だよ。」


突如、後ろから男の声がした。 カインは自分のことかと思い振り向く。そこには茶髪で、髪をツンツンに立たせ、ピアスをいくつかしている男がいた。チャラ男という表現がぴったりだが、客観的に見ればイケメンの部類であろう。


「俺に言ってるのか?」


カインは自分を指さした。男はウンウンと頭を頷かせる。


「そうだ。入学式に遅刻ギリギリで来るなんて、お前なかなかの大物だな。」


男はニヤニヤしながらカインに話しかけてくる。恐らくこの男は社交性に優れているのだろうとカインは思った。


「おっと、自己紹介がまだだったな。 俺はサジ・カーネイル。サジって呼んでくれ。」


「俺はカイン・エルリックだ。 カインでいいぜ。」


「ん?ちょっと待てよ。」


サジはそう言うとメモ帳を取り出してペラペラとページをめくり始める。そしてあるページを見ると口を開いた。


「あった。 カイン・エルリック、1年10組。なんだ、一緒のクラスじゃないか。」


「そうなのか? つかそのメモ帳は何だ?」


自分のクラスが分かったのは嬉しき事なのだが、それよりもサジの持っているメモ帳が気になったカインは直接サジに訊いてみた。


「ああ、これは今まで俺が集めた情報が書いてあるんだ。一応全クラスの奴らの名前も書いてある。今朝早く来て全部調べたんだ。」


サジは笑って、どうだと言わんばかりに親指をグッとした。カインはそんなサジに感心の念を抱いた。


「へえ、凄いな!! ちょっと見せてくれよ。」


そしてカインはそう言ってメモ帳に手を伸ばす。しかしサジはメモ帳をサッとカインの手から避けると、さっさと自分の胸ポケットにしまいこんだ。


「コレを簡単には見せられねえな。なんてったって他にも色々な情報が書いてあるからな。 教えてほしかったらそれなりの報酬を出しな。」


「チッ、せこいやつだな。」


「ハハハッ、商売上手といってくれ。俺はコレで儲けてるんだ。それにしてもお前どこの出身だ?ここら辺の出身じゃないだろ。」


サジは笑うのをやめてカインにそう訊いた。サジは椅子から少し前に乗り出している。


「なんでそう思うんだ?」


カインは質問に質問で返した。どうやら何故自分がこの辺りの出身ではないことを知っているのか気になったらしい。


「もしここら辺のやつなら、お前みたいな奴が俺の耳に入らないわけないぜ。さっきの皆の期待を裏切ったところなんて最高だったしな。まさかお前が登場してくるとわな。」


「…………アレは忘れてくれ。まぁ俺は極東の山奥にある村の出身だから知らなくても無理はねえよ。」


ちなみにレッドクラウン学園は東の大陸の真ん中くらいにある。


「へえ、わざわざそんなところからここに来るなんて大変だな。そっちに学園とかは無かったのか?」


「いや、あるにはある。けど四大学園のほうが強い奴が集まりそうだしな。カハハ。」


カインは楽しそうに話す。その声は少し大きく、不味いと思ったときには遅かった。


「コラ!! そこの生徒、静かにしないか!!」


「あっ、はい。すんません。」


教頭に注意されたカインは萎縮して言う。 周りの生徒は一瞬だけカインのほうを見たが、すぐに前を向いて再び教頭が担任発表するのを聞きはじめた。


「それでは最後に10組の担任はコニル・アネティブ先生。」


ザワザワザワ


教頭が言ったその先生の名前を聞いて生徒達は騒ぎ始める。それを不思議に思ったカインはサジに訊いた。


「なあ、何でみんなこんな騒いでるんだ?」


「お前コニル・アネティブを知らないのか!?二年前まで軍人だったかなりの使い手だよ。多分この学園の中じゃ三本の指に入るくらい強いだろうな。」


「ふぅん…………。(それなら一度くらい戦ってみてえな〜、カハハ。)」


サジの説明を聞いてカインは相槌をうっていたが、心の中では戦いたくてうずうずしていた。カインはコニルという人物が誰なのか教師陣を見渡していく。


「へ〜い。」


そこにやる気の無いような返事が聞こえてきた。カインや生徒たちは一斉に声のした方へと顔を向ける。そしてそこには校門の所でカインと話していた男がいた。


髪は少し長く銀色で、前髪で右目が隠れている。 顔はカッコよく、女の子に人気がありそうである。 身長は見た目180センチくらいで、体系はスラッとしている。しかし……


「…………なぁ、サジ。あの先生が本当に強いのか?」


カインは呟いた。 最初会ったときは特に気にも留めてなかったが、よくよく見ると髪はボサボサで、服もシワだらけ。他の教師はキチンと立っているのにコニルだけは片方の足に重心をかけてだらしなく立っていた。


「……多分な。だけど軍にいたときのコニル先生は凄かったぜ〜。『戦場の炎風(フェーンソルジャー)』っていう二つ名があったくらいだからな。」


「戦場の炎風?二つ名?なんだそれ?」


「あぁ、二つ名ってのはな――――」


「それではコレで入学式を終わります。 生徒たちは速やかに自分たちの教室に移動してください。 場所は掲示板に地図を貼っているので、それを見るように。」


サジが説明しようとすると、教頭がそれを遮って言葉を発した。


「それでは解散。」


ガヤガヤガヤ


そして教頭の解散宣言が終わると同時に生徒たちは少し騒ぎながら自分たちの教室に移動しだした。


「おい、俺たちも行こうぜ。」


それはカインたちも例外ではなく、サジがカインに教室行くように促した。カインは二つ名についてまた今度聞けるだろうと思い、特に追求しようとは思わなかった。それよりも今は新しく始まる学園生活が楽しみで仕方がなかった。


「そうだな。それにしても学園での生活、楽しみだぜ!!どうせなら強いやつと同じクラスになりたいもんだな!!」


カインは返事をして椅子から立つ。いつの間にか友達になっていた二人は一緒に体育館からでていった。希望と夢を胸に抱きながら…………

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