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第二話

空気が死んだ。そう言っていいほどこの場の雰囲気は凍りついていた。


「…………は?」


「聞こえなかったのか? それじゃもう一回言おう。俺は――」


「いや、いい。十分聞こえてた。」


男性は咄嗟の事に、素っ頓狂な声をあげてしまった。それを見たカインがもう一度口を開こうとするが、男性が冷静にそれを止める。


「それじゃいいや。んじゃ体育館を目指すとするか。」


そういうとカインは壁に貼ってあった学園内地図を見ると、スタスタと体育館のある場所へと歩いていった。そしてグラウンドにいるまだ体育館に行っていない生徒たちがガヤガヤと喋り始めた。


(なんだあいつは? つか目つき悪かったなー。きっと不良ってやつだぜ。)


(何か学園一になる男だー、とか言ってなかった?相当強いのかしら?)


(あんなやつこの辺じゃ見たことないぜ。どこから来たんだろうな?)


ザワザワザワ


カインの会話を聞いていた生徒達は一斉に騒ぎ始める。中にはあいつアホだろ、というような笑いも聞こえてきた。その状況を見かねた男性は生徒達に叫ぶ。


「おい、お前らも早く体育館に行け!! もうそろそろ入学式がはじまるぞ!!」


その声を聞いた生徒達は一斉に体育館に移動しはじめる。大半はカインのことについて喋りながら。そして生徒達全員が体育館の方へ行ったのをみると、先生らしき人はゆっくりと口を開いた。


「ふぅ、やっと行ったか。それにしてもあのカインとかいうやつ、かなり面倒くさそうなやつだったな。あいつの担任にだけはなりたくねぇな……」


そうつぶやいた後、何やらぶつぶつと喋ると、男の体が空に浮いて体育館の方へ飛んでいった。












「迷った……」


カインはそう呟くとため息をついた。あの後まっすぐに体育館を目指していたはずのカインだったのだが、何故か道に迷ってしまったのである。


「はぁ……くそっ、なんでこの俺がこんな所で迷わなくちゃいけないんだ……。いきなり遅刻とか洒落になんねえぞ……」


そんな事を言いながらカインは体育館を目指すために歩く。ちなみに後十分もしたら入学式は始まってしまう。


「くっそーー!! この学園広すぎだろ!! やっぱ都会は怖いな…………ん?」


するとカインは動かしていた足を急に止める。耳を澄ますとすぐ近くから声が聞こえてきた。


「しめた!!体育館の場所を聞こう!!」


カインは声のするほうへ走り、建物の角を曲がった。すると目に映ったのは大きな杖を背負った一人の女の子と三人の男。カインは足をとめてその様子を観察する。どうやら女の子が男達に言い寄られているようだ。


「ようようカノジョ〜、入学式なんかサボって今から俺達とお茶でもしない?」


「うわぁ…………」


カインの口から思わず声が漏れる。カインは思った、今時こんなことを言うこの人たちはある意味貴重な人類だと。そして男達は女の子へと近づいていっている。


「嫌よ。なんで私があんたたちなんかとお茶しなきゃいけないのよ、この死滅人類野郎。」


すると女の子は男達へ鋭い口調で言った。その態度は男達に囲まれながらもまったく恐れていないように感じさせる。そんな中、ナイスツッコミ!!と場違いな事をカインは心で叫んでいた。


「なんだとこの野郎!! ちょっと可愛いからって調子に乗ってるんじゃねぇぞ!!」


そして男の一人が怒りを露にして言う。それでも女の子は悠然として男たちを見てる。


「まぁ待て。」


しかし三人の男の中でいかにもリーダーという男が手を前に出して口をはさんできた。その男は見るからにプライドが高そうな貴族らしきお坊ちゃんだった。


「お嬢さん、僕を誰かご存知ですか? まぁ知っているならそんな態度をとれないでしょうけど。僕はあの有名な――――」


「バリテック家の長男でしょ? あの伝説の四戦士の一人、カルロスの隊で副隊長を務めていたタリス・バリテックの子孫の。」


男が自慢気に話そうとするのを、女の子が遮って代わりに説明した。さっきまで薄ら笑いを浮かべていた男の顔がいっきに怪訝な顔へと変わる。


「……知っているならなんでそんな態度を?」


「私そういう家柄とかに興味ないの。それにどうせならレッダム家ぐらいじゃないと興味もてないわ。」


女の子は淡々と答える。そんな女の子の態度にバリテック家の男は拳を震わせる。


「フフフ、腹が立つ女だ……。おい、お前ら!!この俺をなめるとどうなるか、この女に思い知らせてやれ!!」


「「はい!!」」


リーダーの命令により、二人の男が女の子にジリジリと歩み寄る。女の子はそれに合わせてゆっくりと下がっていく。


「おいおい、ヤバいんじゃねえの? 体育館の場所を聞かないといけないし、仕方ない、助けにいくか。」


そんな状況をマズいと思ったのか、カインはそう言って一歩を踏み出す。しかしその瞬間、女の子が素早くバックステップをした。二人の男との距離が十分に開く。


「「!?」」


「私にケンカ売ったこと、逆に後悔させてあげるわ!! 『ファイヤー』!!」


ボンッ!!


「「ぐあぁぁあ!!」」


そして女の子が右手を前に出して呪文を唱えると、火が女の子の手から飛び出して二人の男を直撃した。


ピクッ


一瞬、カインの眉と手が動いた。カインは踏み出した足を止めて状況を見守ることにした。女の子は笑顔を作りながらリーダーの男を見る。


「あんたの部下弱いわね〜。初級魔法一発で倒れちゃった。」


地面には二人の男が寝そべっている。多分気絶したのであろう。そしてリーダーの男は一瞬のことに焦りを隠せない。


「ま、まさかコイツらが初級魔法一発で倒れるなんて……。有り得ない!!それにその杖も使わずに…………お前の魔力はいったいどれくらいなんだ!?」


「うるさいわねえ。アンタたちなんかにこの杖を使うなんて勿体無いわ。それに私の魔力なんてどうでもいいじゃない。とにかく後はあんた一人だけよ。」


今度は逆に女の子がジリジリと男に近づく。男は一歩、また一歩と下がっていく。


「くっ、こうなったら……………………逃げる!!」


「!?」


シュッ、タッタッタッ


リーダーの男はそう言うと女の子に背を向けて、女の子とは反対の方向に走り出した。その行動に傍から見ていたカインまでもが呆気に取られる。


「ハッハッハッ、俺の凄いところはプライドなど捨てて逃げれることだ!!」


「自分で凄いって言ってるんじゃないわよ!!『ファイヤー』!!」


我に返った女の子がさっきと同じ呪文を唱えると、手から火が出て遠くにいる男の背中に命中した。男は前のめりになり吹っ飛び、そのまま地面に激突する。


「ぐふっ!!コントロールもいいのか……」


ガクッ


そしてリーダーの男も地面にうつ伏せになって気絶した。その様子を見た女の子はどうよ、といった感じでフンッと鼻を鳴らした。










ザッ


そしてこの場から去ろうとした女の子の前に、突然カインが立ちふさがった。女の子は一度ため息をつくと、呆れた感じで言った。


「アンタもこいつらの仲間? やめときなさい。私の実力わかったでしょ?絶対に私には勝てないから。」


「いや、違う。俺はコイツらの仲間じゃねえ。」


カインはハッキリと答える。思わぬ返答に女の子は一瞬だけ目を丸くした。


「じゃあ助けようとしてくれたの? それならまったく必要なかったわね。」


「それも違う。最初はそうしようと思ってたけどな。」


「じゃあ何なの?また新しいナンパってわけ?あっ、もしかしたらカツアゲかしら?アンタ目つき悪いし、どう見ても不良ね。それでも私は素直にお金なんか出さないけど。」


カインの返答に、女の子は少しイライラしだす。その様子は今にも魔法を放ちそうな感じである。しかもカインに対してかなり失礼な事を言っているが、カインはまったく動じずに女の子を見る。そしてビシッと女の子に人差し指を向けてこう言った。


「この俺と………勝負しろ!!!!」


「はっ?」

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