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第十六話


それはまだ昼下がりの頃、太陽が地を照らし続けている中、第一練習場で十数名ほどの生徒全員が自分達の鍛錬も忘れて、ある一点を眺めている。そこにはお互いに戦闘態勢で向き合っている二人の男女の姿があった。


一人は眩しいほどに太陽の光を反射させている金髪で、まるで獲物を狩る寸前の獣のように目をぎらつかせている、恐らく学園最弱の男、『カイン・エルリック』。そしてもう一人はサラサラとした茶色のツインテールを風になびかせながら、美しい顔立ちでキリッとした大きい目をしている、学年でトップクラスの実績を誇る、『ルナ・バンラルク』。


そんな二人は皆が注目する中、何やら大きな声で話し合っていた。









「ぷ、ぷぷっ、あははははっ!これからがアンタの本気ですって!?可笑しすぎてお腹がよじれそうよ!あははは!」


「てめぇ、何が可笑しいんだ!」


カインの言葉を聞いてお腹を押さえながら大声で笑うルナ。そんなルナにカインは怒りを露わにして怒鳴っていた。そしてルナは笑いすぎて目に少し涙をためながらも、やっと笑うのを止めてゆっくりと口を開く。


「アンタね、散々今まで必死こいてきたくせに、今更本気も何もないでしょ。アンタが魔法を使うからって、この私の勝利が揺るぐことは決してないわ!だからさっさと負けを認めてギブアップしなさいよ!」


ルナはカインに指を差しながらそう豪語した。そんなことを言われたカインが黙っているわけもなく、すぐさまルナへ指を差し返す。


「そんなことを言ってられるのも今の内だぜ!俺が本当の魔法の使い方ってのを教えてやるよ!」


そんなカインの言葉を聞いてルナはふんっと鼻を鳴らすと、キッとした鋭い目でカインを見据えた。


「それなら見せてもらおうかしら……本当の魔法の使い方ってやつ、を!!」


ルナはそう言うと同時に強く地面を蹴る。そして簡単にカインの懐へと潜り込むと、右足を軸にして廻し蹴りをカインの左わき腹へと狙いを定めて放つ。カインは咄嗟にバックステップをしてそれを避けようとする。


「甘いわね!!」


しかしルナは空振った左足の反動を利用し、今度は右足でカインの顔めがけてハイキックを繰り出した。カインは防御しようと反射的に両手を顔の横へと持ち上げる。


ピタッ  シュッ!


「何!?がぁっ!!?」


しかしそのルナのハイキックはカインの顔へ当たる寸前にピタリと止まり、滑らかな動きで軌道を変えてそのままカインのわき腹へと打ち込まれた。見事にルナのフェイントにひっかかったカインは、わき腹に走った激痛に思わず呻き声をあげてしまう。


「く、くそがぁぁぁあ!!」


その痛みを我慢してカインは反撃といわんばかりに右拳をルナへと突き出す。


「そんな大振りの攻撃、私に当たるわけないでしょ!シッ!」


「ぐっ!!?」


しかしカインの拳をいとも簡単に避けたルナは、息を吐き出しながら連続してカインへと拳を繰り出す。今はかろうじて防御しているカインだったが、徐々にルナの拳がカインの体を掠めていく。そして


「隙あり!!」


バキィ!


「ぐはぁ!?」


ついにルナの拳がカインのガードが甘くなった顔面へと直撃する。カインはその衝撃で背中から地面へと激突し、そのまま仰向けになって倒れこんだ。辺りには少量の血が飛び散る。


「悪いけど、今回は待つなんて手ぬるいことはしないから!」


さらにルナは追撃といわんばかりにカインへと大きくジャンプし、踵からカインの腹部目掛けて着地しようとする。


ドスン!


しかしカインは体を回転させることによってなんとかそれを避け、すぐに立ち上がる。カインが元いた場所には大きな窪みができていた。


「ペッ!カハハ、やるじゃねぇか!……やっぱりこのままだと勝てないかもしれねぇな。」


カインは口から血を吐き出して笑みを浮かべた。他の人から見ればそんなカインの姿は少し異常に見えるだろう。しかしカインは根っからの戦い好き、こんな状況でもカインはこの戦いを楽しんでいた。


「このままとかじゃなくて、アンタはどうやっても私には勝てないわよ。ていうか出し惜しみはいいからとっとと魔法を使いなさい。じゃないと後で言い訳されても困るし。」


そんなカインを見てルナは呆れたように言葉を漏らした。カインはそれを聞いて手の骨をポキポキと鳴らす。


「言われなくても使ってやるぜ。後で吠え面かくなよ……『フレイムショット』!!」


そしてついにカインは今日始めての魔法を放った。炎の弾丸はルナ目掛けてまっすぐ飛んでいく。


「はっ!コレがアンタの本気なの?ちゃんちゃら可笑しいわ!!」


しかしルナは体を横に反らすことで簡単にそれを避けると、カインに向かって地面を蹴った。


「まだまだこれからだぜ。俺が本当の魔法の使い方ってやつを教えてやるよ!『ファイヤーボール』!!」


そう言ってカインは手の平の上に小さな火の玉を出現させた。ルナはそれを見て即座に身構える。しかし次にカインの取った行動はルナの想定外のものだった。


「おらよ!!」


「えっ!?」


カインは大きく振りかぶると、そのまま火の玉を空へと大きく放り投げた。ルナは短く声をあげて、反射的にそれを見上げた。


「アンタ何やってんの!?もしかして頭が――――」


「『フレイムショット』!!」


「っ!?」


おかしくなっちゃたの?と言葉を続けようとしたルナは、カインの声が聞こえた瞬間に目線を元に戻した。目の前からは炎の弾丸が迫ってきている。


ルナは咄嗟に横っ飛びすることによってそれを避けた。しかし安心するにはまだ早い、転がった先には既にカインが待ち構えていた。カインは足を後ろへと振り上げると、ルナの顔目掛けて思いっきり蹴り降ろした。


バシィ!


大きな音が響く。ルナはギリギリのところでそれを両手で受け止めると、反動で後ろに下がりながらバック転をして起き上がった。


「ふぅ~、今のは危なかったわね。まさかアンタが私の動きを予想してたとは思わなかったわ。」


ルナは少し痺れる両手を横に振ると、少し落ち着いた様子でカインを見据えた。しかしそんなルナの目に映ったのは、何故かニヤニヤと顔を綻ばせているカインの姿だった。


「おいおい、なに安心しちまってんだ?もう一つ何かお忘れじゃないのかい?女神様よ?」


嫌味ったらしくそう言ったカインは、おもむろに人差し指を空へと向けた。ルナはまさかと思って咄嗟に顔を上空へと向ける。


ドゴッ!


「きゃっ!?」


その瞬間、ルナの真横へと火の球が落ちてくる。それは先ほどカインが空へと放り投げた『ファイヤーボール』だった。ルナはいきなりのことに思わず女性らしい悲鳴をあげてしまった。


「フレイムショットは直線的で、しかも上へ撃ったら落ちてくることなくそのまま消滅しちまうからな。だから原型を留めたままでいるファイヤーボールを放ったんだけどよ、もう少し右だったかな?カハハ!」


カインは説明するようにそう言って豪快に笑い出した。しかし周りにいる者は皆カインのしたことに目を見開いて驚いていた。


カインは簡単に言うが、実際カインがやったことは相手がどのように動き、どんなタイミングで動くのかをあらかじめ予測していなければならない。だが当然相手は相手の意思で動くのであり、そんな予想通りの動きをするハズがない。しかしカインはルナの動きをすべて予測し、うまくルナを誘導して、あともう少しで直撃を喰らわせるという所まで追い詰めたのだ。


ルナは最初のファイヤーボールは視線を逸らすための囮だと思っていた。だが結局はそれも自分へと向けられた攻撃。


「(ま、まさかそんなことを計算してできるなんて……。それにさっきの攻撃も今までのより若干威力が上がってたような……ああ!もう意味がわかんないわ!本当にコイツは何なの!?)」


ルナはカインの戦術に関する才能に感心するとともに、評判とは違うカインの実力に混乱していた。学園最弱という評判が余計にルナを惑わしている。


「それにしても『きゃっ』なんて戦いの最中に言う言葉じゃねぇぜ。一応お前も女の子だったんだな、カハハ!」


「な、なんですって!!」


そんな多くの考えを頭の中で巡らしていたルナに、カインは馬鹿にしたような言葉をかける。その一言にルナは意識をカインへと戻し、そして顔を真っ赤にしながら叫んだ。


「さっきのは少し意表を突かれてビックリしただけよ!それに私はいつだって女の子よ!」


「わりぃわりぃ、てっきり口の悪い乱暴な男かと思ってたぜ、カハハ!」


「……コロス!!」


ダッ!


ルナは怒りでこめかみに青筋を浮かべながら地面を強く蹴った。そしてカインへと向かって拳を大きく振り上げる。まるで先ほどのカインのように。


「おいおい、そんな大振りな攻撃じゃ簡単に避けられちまうぜ?こんな風によ!!」


「っ!?」


カインは冷静に体制を低くしてそれを避けると、そのままルナへと足払いをかける。ルナは攻撃のモーションが大きかったせいか、空振りをした後、体勢を少し崩していた。


「何よこれくらい!」


だがルナはその足払いに合わせてカインへと回し蹴りを放った。やはり基本的なスペックに差があるのか、カインの足よりもルナの足の方が早く相手の体へと到達する。


「ぐっ!!」


カインは丁度顔の側面へと向かってきた足を片手で受け止めたが、そのあまりの威力に体ごと後ろへと吹き飛んでしまう。しかしカインはその足を受け止めて痺れている方の腕をあえてルナへと向けた。


「『フレイムショット』!」


バンッ


炎の弾丸がルナの顔目掛けて飛んでいく。だがその魔法には威力がなく、ルナは首を捻っただけで簡単にそれを避けた。


「もう一丁!『フレイムショット』!!」


バンッ!


しかしカインは間髪いれずに今度は逆の腕で魔法を放つ。今度は腕ごと前へ突き出して撃ったからなのか、先ほどのものよりも威力が上がっているようだった。恐らく先ほどのは囮で、本番はコチラなのだろう。


だが一発目の攻撃はルナの体勢を崩すという役目を果たしておらず、ルンは二発目の魔法も体を横に反らして軽々と避けた。そしてすぐに地面を蹴ってカインとの距離を詰めていく。


「くそっ!だらぁ!!」


ビュッ!


すっかり思惑の外れた様子のカインは苦し紛れにルナの顔目掛けて蹴りを繰り出す。


「ふんっ!」


しかしルナはそれをも簡単に避けると、ついにカインの懐へと入り込んだ。そしてルナはそのままカインの鳩尾に狙いを定めて拳を繰り出した。


「おっと!危ね……っ!?」


カインはルナのボディーブローを間一髪のところで避けた。だが安心したのも束の間、カインが後ろに下がったと同時にルナも更に地面を蹴って前へと出た。カインの顔に焦りの色が浮かぶ。


「くらいなさい!!」


バキィィ!!


そしてルナの右ストレートがカインの顔面へと直撃する。カインはその勢いで後ろに吹き飛びながら地面を何度も転がっていた。カインの動きが止まって地面に伏すこと数秒間、誰一人物音を立てず、ただ沈黙が辺りを包み込んでいた。


「……これでやっと終わりのようね。ザコのくせに中々頑張ったじゃない。」


そう言ってルナはシンクへと踵を返した。


「シンク、これでもう試合終了でしょ。私は部屋に戻ってシャワーを浴びるから。まったく、あの雑魚のせいで髪に土が絡まっちゃったじゃない。」


ルナはシンクにそう言うと、扉に向かって足を進めだした。


「……ルナ、ちょっと待って。まだ勝負は終わってないみたいだよ。」


「えっ?ま、まさか……!?」


シンクはいつもの微笑んだ細い目ではなく、目を見開いてルナの背後にいる人物を見据えていた。ルナはそんなシンクの言葉に信じられないといった様子で後ろへと振り返る。


「カ、カハハ……おい、ルナ、テメェいったいどこに行くつもりだ。や、やっと最高に楽しくなってきたのによぉ……」


そこには足をガクガクを震わしながら、やっとの状態で立っているカインの姿があった。そんな状態でもカインは不敵に笑っているのだが、カインの右目蓋は大きく腫れていて、既に右目では何も見えていないだろう。だがカインは再びファイティングポーズをとってまだ戦うという意思を示した。


「……アンタ、まだやるつもりなの?いくらここで負う傷は軽減されるからって、それ以上やったら大怪我するわよ。」


ルナはカインへと体を向きなおして言葉をかける。だがルナはカインが言う返事を何となく予想できたので、自分もカインと同じように拳を構えた。


「カ、カハハ!俺の心配するよりも、自分の心配をしたらどうだ!これくらいの怪我じゃ俺は倒せねぇぜ!!」


「はぁ、やっぱりね。それじゃさっさとかかって来なさいよ、完膚なきまでに叩き潰してあげるわ。」


「そりゃこっちの台詞だろ!!」


そしてカインは一度自分の足を叩いて気合を入れると、ルナに向かって一直線に走り出した。


「いくぜ!『フレイムショット』!」


ドゴォ!


するとカインはいきなり地面へ向かって魔法を放つ。その炎の弾丸が地面にぶつかると、周りに土や小石が飛び散った。そのいくつかがルナ目掛けて飛んでいく。


「もうそれは見飽きたわよ。」


ドンッ!!


しかしルナは冷静に手でそれを防ぐと、自分の背後へと後ろ蹴りを放つ。そこにはルナの足が腹部へとめり込んで、手を振り上げたままの状態で立っているカインがいた。そして攻撃を喰らったカインはその場にゆっくりと崩れ落ちる。


「コレで本当に最後よ。ハァ!!」


バキィィィ!!


ルナはそんな地面へと倒れこんでいくカインに向かって追撃の蹴りを繰り出した。カインは横に大きく吹き飛んで凄い勢いで地面へと激突する。


「ル、ルナ!それはやりすぎだよ!」


流石にマズイと思ったシンクが焦った様子でルナの下へと駆け寄る。しかしルナはまったく反省の色を見せず、そっぽを向いて鼻をならした。


「だってカインのやつがしつこいんだもの。これくらいしないと倒れないんだから仕方ないじゃない。」


「それにしたって限度ってものがあるだろ!それに最後の一撃は絶対に余計だったよ!それに――――」







「おい……」


「「「っ!!?」」」


シンクがルナを説教しようとした瞬間、低くドスの聞いた声が微かながらに聞こえてきた。驚いたのはルナとシンクだけではなく、傍から見ていたサジとミランも目を見開いて声の発生源であるカインを見る。


「シンク……お前、なに勝手に試合中に割り込んできてるんだ?いくらお前でも俺の邪魔をしたら……殺すぞ。」


ブワッ


この場を包み込んだのはカインから感じられる在り得ないほどの殺気。シンクたちは一瞬背中に寒気を覚えながらカインを見た。


カインの服はまるでボロ雑巾のように傷み、カイン自身の体も土で大分汚れていた。そしてカインの顔は先ほどとは比べられないほど痛々しく腫れ上がり、口からは血が流れ出ている。更に腕もどこか痛めたのか、だらーんと下げたままの腕をもう片方の腕で押さえていた。


「もう止めとけよカイン!お前はよくやったよ!ルナちゃん相手にここまでやれただけで十分じゃねぇか!!」


そんな見るに耐えない姿のカインを見て、サジは懇願するような様子でカインに叫んだ。だがカインから返ってきた言葉はまったく予期せぬものだった。


「うるせぇ……サジ、お前はそんなんだから皆に落ちこぼれだと馬鹿にされるんだよ。」


「えっ!?」


予想に反したカインの言葉にサジは思わず声をあげた。


「『よくやった』、『ここまでやれただけで十分』、そんな志の低い奴が強くなれるわけねぇだろ!!勝負ってのは何としても勝たなきゃダメなんだよ!!」


おそらくカインの心からの叫びに、サジたちは皆耳を傾けている。


「戦場ではそれまでの過程なんざ関係ねぇ!敗者は死ぬ、それだけだ!だからお前のさっきみたいな甘っちょろい言葉を聞いただけ反吐がでる!そんなんじゃお前は一生落ちこぼれだぜ!!」


「カイン!それは言いすぎだ!すぐに訂正するんだ!!」


カインの暴言に我慢できなくなったシンクがカインへと叫んだ。しかしカインはシンクに対してもそのギラギラとした鋭い目で睨む。


「あぁ?シンク、お前もいつまでそこにいるつもりだよ?こっちはまだ試合中なんだ、とっととどかねぇとお前もルナごとぶっ殺すぞ。」


重苦しい雰囲気が辺りに流れる。


カインはルナとシンクの二人を睨みながらゆっくりと拳を構え、シンクはそんなカインへと睨み返しながら怒りの目を向けている。そしてサジは俯いたまま拳を強く握りこんで黙っていた。


「……シンク、どきなさい。こういう奴は口で言っても一生わからないのよ。だから私が直接その体に覚えさせてあげるわ。」


するとシンクを手でどかしたルナがカインと対峙した。シンクは何も言わずに二人から離れる。


「カハハ、ずいぶんと頭に血が上ってるみたいじゃねぇか。どうする?ハンデのことなんか無しにして魔法を使うか?」


「そんなボロボロな身体して何言ってるのよ。魔法は使わない、というか逆に今からでもハンデをあげたいくらいだわ。でも魔法は使わない代わりに、アンタにはいっぺん死ぬような思いをさせてやるけどね。」


そう言ってルナは一度首の骨をポキリと鳴らした。


「カハハ!それでいいんだ、俺を殺す気でかかってこい!これでこそ本当の勝負ってもんだぜ!……でもその前に、こっちは一工夫させてもらう。」


突然、カインは怪我してない右腕を空へと大きく掲げた。右手にはめている銀の指輪がキラリと光る。ルナはその意味が分からずに首をかしげた。


「アンタ何してんの?まさか天にお祈りとかじゃないでしょうね。」


「まさか!お前がその気で来るなら、俺もそれなりの準備をしとかなきゃと思ってな。」


「……?」


カインの言葉を聞いても未だに意味が分からないルナ。そしてカインはゆっくりと自分の指輪に手をかけた。


「ルナ、なんで俺がこの指輪をずっとハメているか分かるか?」


「はぁ?アンタのことだから、どうせ格好つけたいからとかでしょ?」


カインの突拍子も無い質問にルナは深く考えずに答える。するとカインは肩を震わせて笑い出した。


「ククッ、カハハッ!分かってねぇ、お前分かってねぇよ!カハハッ!!」


「なによ!それじゃ何か他に理由があるっていうの!!」


いつまで経っても結論に至らないことに業を煮やしたルナは、声を荒げながらカインを睨みつける。そしてカインは一通り笑うと、真剣な表情でルナをみつめた。その鋭い眼差しにルナ一瞬身じろいでしまう。


「理由ならある。それを今から見せてやるよ。」


そう言ってカインは指輪にかけていた手に力を込める。すると突然、周りの雰囲気が一気に重く変わった気がした。カインと対峙しているルナはそのことに驚きを隠せない。そしてルナはある一つの結論に至った。


「(ど、どいうこと!?まさかあの指輪は……!?)」


「カハハ!気づいたみたいだな!俺の魔力が何で学園最弱と呼ばれるほど弱いのか、それはこの指輪が俺の力を抑えてくれてるんだよ!!」


そんなルナの様子に気づいたカインは笑みを浮かべながら指輪をはずそうとする。より一層空気が重くなったようにルナは感じた。


「本当に力を隠していたとでもいうの!?そんなわけあるはずないわ!!」


「真実かどうかはこれから自分の目で確かめるんだな!今からが本当の戦いだ……」


そしてついにカインの指輪が外れるまで後一歩のところとなった。ルナと、他に周りにいる野次馬の生徒たちも一斉にゴクリと唾を飲み込む。全員の目がカインの指輪へと集中した。














「キール!!お前こんな所に何しに来たんだ!!」


「えっ!?」


刹那、サジのはっきりとした声が辺りに響いた。その声は当然ルナの元へも届いている。ルナは思わずサジのいる方へと振り向いた。


つい最近、自分の誇りと自信を打ち砕いた人物の名前、振り向いてしまうのも無理はないだろう。


だがルナの振り向いた先には、先ほどまで落ち込んでいたはずのサジが苦笑いをし、そんなサジを少し驚いた表情で見ているミランが立っているだけだった。


「はっ?どういう……!?」


何故だかは分からない。ただルナはこのままではマズイと本能的に感じ取った。何故そんな事を思ったのか、何がマズイのか、ルナはそれらを理解できないまま、回避せよという信号を脳から体へと瞬時に送った。だが


「おせぇよ。」


バキャァッ!!


「ガハッ!!!?」


時すでに遅し。静かに言い放ったカインの拳がルナの顔面を綺麗に捉えた。ルナの口からは思わず苦痛の声が漏れる。そしてルナは数メートルほど吹きとんで地面へと倒れこんだ。


カインはそんなルナに追撃をするでもなく、ただ悠然と地面のルナを見下ろしていた。そのカインの手にはしっかりと指輪がはめられている。


周りの者たちは一瞬何が起きたのか分からずに、ただ呆然と突っ立っていた。そんな中、最初に口を開いたのはこの雰囲気を作りだした当事者であるカインだった。


「カーッハハハハ!!ルナのやつ、まんまと引っかかりやがったぜ!!サジ、ナイス誘導だ!!」


カインはそう言ってサジへと親指をむける。サジはただただ苦笑いを浮かべるしかなかった。


「えっ?引っかかった?誘導?カイン!いったいどういうことなんだい!?」


いきなりのことに動揺を隠せないシンクがうろたえながらカインへ問い詰める。カインはニヤリと笑ってシンクへと振り返った。


「お前やサジにキレたこと、指輪のこと、全部嘘なんだよ。」


「えっ!?」


「つまるところ全てが演技だったってことだな、カハハ!!」


呆気に取られて目をパチクリさせているシンク。事の成り行きをいまいち理解できていないシンクに、サジは後ろから声をかける。


「この試合が始まる前にカインが俺に掴みかかってきただろ?実はその時にこの作戦の事を聞かされたんだ。」


「そう、あの時俺はサジにこう呟いた。『俺が指輪に手を掛けたらキールが来たかのように声をあげろ』ってな。そしたらルナのやつ、見事に俺の策にはまりやがった、カハハ!」


サジの言葉の続きを説明するカイン。その説明を聞いてやっと状況を把握したシンクは、感心するというよりもあきれ果てた表情をする。


「つまり僕たちはカインの演技にまんまと騙されたわけか。」


「その通りだ。さぁ、わかったらとっとと試合終了の合図を――――」


「ま、待ちなさいよ……」


カインがシンクへ試合終了を促そうとした瞬間、小さいが力強さを感じさせる声が響く。


「アンタなんかに私が負けるわけないでしょ……さぁ、試合再開よ。」


そこには美しい顔を腫らしたルナが鋭い眼差しでカインを睨んでいた。そんなルナをシンクが慌てて止めに入る。


「もう止めときなよ!たかが練習にそんな本気になることないだろ!?」


「うるさいわね!今更引き分けなんて結果で終われるわけ無いでしょ!!」


だがそんなシンクの言葉を聞かずに、ルナは再び戦う構えをとる。


傘下所に居た頃から常にナンバーワンだったルナは、この学園で既にキールに一度負けている。その上、最弱とも噂されているカインに負けたとあれば、恐らく二度と立ち直る事はできないだろう。


だからこの試合には死んでも勝たなければならない、そんな想いがルナを奮い立たせていた。


「いいじゃねぇか、シンク。ソイツがやるって言ってるんだから好きにやらせろよ。それに、俺だってこのまま引き分けで終わるつもりなんてないぜ。」


「何言ってんだよ!そういうカインだってもうボロボロじゃないか!」


カインは強気に言ってみたものの、その姿はルナと比べても格段に傷ついているのが分かる。右目の視界は腫れた目蓋で遮られ、左腕も先ほど指輪を触った時に限界が来たのか、ほとんど機能していない。こんな状態で戦おうとするなど、もはや狂人としか思えなかった。


「カハハ!構わねぇよ、こんな怪我全然大したことねぇ!」


だがカインはそんなシンクの心配を余所に、右腕だけでファイティンポーズをとる。


「そういうことよ。だからシンク、アンタはもう退きなさい。」


「…………」


お互いに戦闘態勢のカインとルナを見たシンクは、何も言わずに渋々と後ろへと下がる。これ以上何を言っても、この二人が戦うのを止めないことが分かったから。


だがこの時、シンクがこの後に起こる出来事を知っていたら、こんな簡単には引き下がらなかっただろう。


「カハハ!これでやっとハンデ無しで戦えるな!それにしてもまさか魔法無しでここまで追い詰められるとは思わなかったぜ…………“女”にしてはやるじゃねぇか。」


刹那、シンクは時が止まったように感じられた。カインの言葉を聞いた瞬間、背筋が凍るような感覚に襲われる。すぐさまカインとルナがいる後ろへと振り向いたが、間に合わなかった。


バンッ!!


「……ハッ?」


カインは不思議な感覚を味わっていた。気づいた時には自分の左腕を火の弾丸が撃ち抜いていた。だが何故か痛みを感じない。そんな奇妙な感覚にカインは思わず間抜けな声を漏らした。


「ぐ、ぐうぅぁぁあ!!!?」


しかしそんな冷静に事を考えていたカインの左腕に、激痛が遅れて走ってきた。時間にすればコンマ一秒も経たなかっただろう。ルナの攻撃があまりにも速すぎて、カインの脳に錯覚を起こしのだ。


あまりの痛さにカインは左腕を抑えながらその場に倒れこむ。


バンッ! バンッ! バンッ!


しかしルナはそんなカインに休むことなく無詠唱で魔法を放ち続ける。最初の一、二発目の時はカインから痛々しい叫び声も上がっていたが、今では何の声も聞こえない。


「ルナ!それ以上したらいくらなんでも危険だ!!サジとミランさんも手伝って!!」


咄嗟にシンクがルナを止めに入った。サジとミランも続いてルナを抑えにかかる。


バンッ! バンッ!


しかしルナは無表情のまま魔法を撃つことを止めようとしない。当たろうが外れようがお構い無しに、ルナは魔法を撃ち続ける。


「我が魔力を糧とし、渦巻く炎と成せ……」


そしてついには中級魔法の詠唱まで始めてしまった。シンクは急いで『魔法解除』を発動させようとしたが、その瞬間ルナに回し蹴りを喰らって数メートル先へと吹き飛んでしまう。


サジとミランが必死でルナを止めようとしたが、どうやってもルナは魔力を溜めるのを止めようとしない。そしてルナが両腕を前へと突き出した。


「『フレイムウォール』!!」


ゴォォォオ!!


炎の渦がカインを包み込んだ。そのあまりの威力に周りの生徒たちはこの場から一斉に離れる。


「カイン!!!!」


そんな中、サジがカインを助けようと炎の渦へと近づく。だが魔法を使えないサジが行ったところで、そこにカインを助ける術は無かった。


「なら……私が!!」


すると今度はミランが一歩前へと出る。そして未だにすさまじい勢いで燃えている炎に風の魔法を放った。


「くっ……!!」


しかしその炎は強力で、ミラン程度の魔法ではどうにもならず、むしろ酸素が送り込まれてより強力な炎へと変化した。


未だに数メートル先で倒れこんでいるシンク、勢いよく燃え盛る炎、あまりに絶望的な状況にサジはがっくりと膝を落とした。







大変遅くなりましたがあけましておめでとうございます!!

そしてゴメンなさい!!!!


今回はかなりの期間が空いての投稿になってしまいました...


しかも話が長くなったのでもう一つ話を分ける事に...


できる限り早く執筆していきたいと思いますので、コレからもGERYOの作品をよろしくお願いします!!

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