第十五話
ここはいつも実戦の授業を行うために使われる第一練習場。
学園が休みの日は自主的に生徒達が訓練をするためにここを訪れるのだが、今日はそんな生徒達が体をピクリとも動かさずに、ある二人の生徒に注目していた。その目は何か気の毒だと言っているようにも感じる。
「ホラッ!チンタラ走ってないで必死に走りなさい!あとたったの五往復じゃないのよ!」
「クソがぁぁぁあ!!この鬼ぃぃぃい!!!!」
そしてその視線の先には練習場の端から端までを苦痛の表情を浮かべながら走っているカインと、そんなカインを余裕な表情で追いかけるルナの姿があった。
ルナはたったの五往復と言ったが、この練習場の端から端までは優に三百メートルはある。合わせて三千メートルという距離を体の鍛えていないカインがルナと同じ速度で走れるわけも無く、段々とカインの走る速度が落ちていく。
「ゼェ、ゼェ……も、もう無理だ、これ以上走れねえ……」
「『ファイヤー』。」
ボンッ
「ッッチィィアァァァァ!!!?」
「なによ、まだ走れるじゃない。これぐらいで弱音吐いてるんじゃないわよ。」
そしてついにカインが走るのを止めてしまった瞬間、ルナが手のひらから小さな火の玉をカインのお尻へと放り投げる。カインは火が付いたように、いや実際に火が付いているのだが、物凄い速さで前方へと走っていく。
「さて、今日も張り切って特訓するか!おっ?今日は本当にカインが来てるじゃないか!」
するとカインが走り出したと同時に、練習場の扉が勢いよく開いた。
そこにいたのはいつもの制服姿ではなく、動きやすい格好をしたサジ。そしてその後ろから同じく動きやすい服装をしたシンクとミランが入ってきた。と言っても、ミランはいつものブカブカな服を着ているのだが。
「そりゃそうだよ。僕がルナに無理やりでもいいからカインを連れてくるように頼んどいたんだからね。まぁもし来てなかったら僕が直々にカインを引きずってくるつもりだったけど。」
「……シンク、お前ってその笑顔でよくそんな怖いことをサラッと言えるよな。」
「フフッ、それほどでも。」
額に汗を浮かばせながら顔をひきつらせるサジに、シンクは軽く微笑みながら返事した。
「……カインとルナがあんなに仲良さそうに走ってる。」
「「いや、それは違うと思う(よ)。」」
そして一人だけまるで見当違いなことを呟いたミランに対して二人は同時にツッコミを入れる。
「あっ!?アンタたち、やっと来たわね!遅かったじゃない!」
そんなやりとりをしていた三人に気づいたルナが大きな声を出して三人へと近づいていく。さらにその後ろから大量の汗を滴らせながらカインがヨロヨロとついていった。
「ゴメンゴメン、ちょっと用事があってね。それにしてもよくカインを連れ出せたね。」
「シンクが何してもいいから連れて来いって言ったんじゃない。来ないとアンタの髪の毛を燃やし尽くす、って杖を向けたらすんなり付いてきたわよ。」
シンクの問いにルナは自信満々表情で答え、どうだと言わんばかりに胸を張る。
「(……幼なじみだからだろうか?考え方が悪い意味で似てるような……)と、ところでルナちゃん!何でカインはこんな疲れてんの?もしかしてもう何十キロも走ったとか?」
サジは話題を逸らすように、手を膝について息を切らしているカインを見てそう言った。カインは三人の下に着いた後もまったく喋らずに、ただ苦しそうな表情で呼吸を繰り返している。
そしてそんなサジの問いにルナは大きく首を振った。
「全っ!然っ!多分距離にしたら一キロも走ってないわね。」
「なっ!?一キロっておまっ、そんだけでこんな状態なのか!?」
「ゼェ……ゼェ……お、俺は天才だから、お前らみたいに訓練なんかしなくてもいいんだよ……」
「……そんな今にも死にそうな表情で言われてもなぁ。とりあえずそんな状態でも虚勢を張るところだけは褒めてやるよ。」
疲労困憊の色をみせながらも、カインはいつもの自信に満ち溢れた言葉を息も切れ切れに発する。そんなカインにサジたちはヤレヤレと大きくため息をついた。
「まぁまぁカイン、そんなこと言わないで。それに天才の人ほど日々の鍛錬は欠かさないものだよ。」
「んなこと言ってもよぉ……」
シンクに諭されるように言われたカインだったが、カインは口を尖らせたままシンクから目線を逸らす。その姿はまるで拗ねてばかりいる子供のようだった。
そしてそんなカインを見たシンクはわざとらしくため息をついた。
「そう、それじゃ仕方ないね。今日は準備運動が終わったら皆で組み手をしようと思ってたのに。」
ピクッ
シンクの言葉を聞いたカインの耳がわずかに反応した。
「そしたらカインだって堂々とルナと戦えるのになぁ。」
ピクッ、ピクッ
「僕は二人の戦いを参考にしようと、今日という日をずっと楽しみにしてたのに……ハァ、それもかなわない夢か。あ~見たかったな~、『天才』カインが戦うところ。」
ピクッ、ピクッ、ピクゥ!
「…………クク、カハハハハ!!さすがはシンク、見る目があるじゃねえか!まぁルナごときが相手じゃすぐに終わっちまって参考にならないかもしれねぇけどよ、俺の動きを見てしっかりと学んでくれや!よし、それじゃ早速準備運動を再開するか!」
そう言ってカインはもの凄い勢いで再び練習場の端から端を走り出す。そしてカインに背を向けてサジたちの方へと振り向いたシンクは、ニッコリとしながら指でVサインを作った。
「……シンク、もう俺にはお前が腹の底で何考えてるのかわからねぇよ。」
「ていうか何で私がカインなんかと戦わなくちゃいけないの!?それに生徒同士の勝手な戦闘は禁止されてるハズでしょ!?」
サジはシンクの巧みな話術に顔を引きつらせ、ルナは勝手に決められた試合について不平を言った。特にルナは凄い勢いでシンクへ問いただしている。
「……それなら大丈夫。さっきその許可をマリア先生にもらってきたから。」
すると突然ミランが懐から一枚の紙を取り出してそれをルナへと差し出す。その紙には生徒同士の試合を許可するという内容が書かれており、その下の方にマリアのサインが記されてあった。
「マリア先生に許可をもらうよりも前に、まず私の許可をもらいなさいよ!!普通に考えて順序おかしくない!?」
勝手に決められていたことに、ルナは的確なツッコミを入れる。
「だって最初にルナに言ってたら絶対に拒否するだろ?」
「そりゃそうよ!あんな弱い奴なんかと戦っても私が得るものなんて一つもないじゃない!第一、私は口だけの奴とか、私のことをバカにする奴が大ッッッ嫌いなのよ!そんな奴と同じチームってだけでも最悪なのに、ましてソイツと拳を交えるなんて真っ平御免よ!」
「うるせぇなぁ、ごちゃごちゃ言ってないでさっさと戦う準備しろよ。こっちはもう準備万端だぜ、カハハ!」
「っ!?アンタいつからそこにいたの!?」
ルナが声を荒げながらシンクへ抗議していたところに、背後からいきなりカインがルナへと声をかけてきた。そのことにルナは焦った様子で目を丸くしている。
「ていうか準備運動はどうしたのよ!それを終わらせない限り、アンタと組み手なんてしないわよ!」
「はぁ?何言ってんだ?それならついさっき終わらしてきたばかりだぜ。」
「えっ!?」
カインの発言に驚いたルナは確認を取るためにサジたちへと目線を向ける。するとサジは首を大きく頷かせた。
「さっきまで死にそうな顔をしてたとは思えないくらいの勢いで走って、すぐに五往復してきたよ。まったく、コイツの体は何でできてんだか。」
「ま、まさか本当に……!?」
そのサジの言葉を聞いて先ほどよりも更に目を大きく見開いているルナに、カインはニヤリと笑いかけた。
「さっ、これで文句は無ぇだろ?さっさとおっぱじめようぜ。こっちは入学式の時からお前と戦いたくてウズウズしてたんだ、カハハ!」
そう言ったカインの顔は心底楽しそうに笑っている。そんなカインの表情を見たルナはしばらく黙り込んだ後、大きくため息をついた。
「……仕様が無いわね。そんなに私と戦いたいなら戦ってあげるわよ。」
「カハハ!やっとその気になったか!んじゃさっさと構えな!」
ルナの言葉を聞いたカインは拳にグローブをはめる。そして一度だけ拳と拳同士をガンッとぶつけ合わせた。
「ちょっと待ちなさい!」
しかしそんなやる気満々のカインを尻目に、ルナは前方へ右手を大きく開いて制止の構えをとった。
「なんだよ、まだ他に何かあるのか?まさかここまできて逃げるんじゃねぇよな?」
「そんなわけ無いでしょ。戦う前に少し言っておきたい事があるのよ。」
出端をくじかれて不満そうな表情をしているカインに、ルナは右手の人差し指、中指、そして薬指の三本の指を立てた。その行動の意味がわからないカインは大きく首をかしげる。
そしてそんなカインを見たルナは再び口を開いた。
「魔法の使用禁止、利き手の使用禁止、足技の使用禁止、それじゃこの三つの中から好きなのを選んでちょうだい。別に全部選んだっていいわよ。」
「何だそれ?もしかして条件をつけてお互い戦うってことか?そんな面倒くさいことしねぇで普通に戦おうぜ、カハハ!」
ルナの言葉を聞いてカインはそんなものどうでもいいといった様子で豪快に笑う。しかしルナは否定の意味を込めて首を横に振った。
「違うわよ。条件をつけるのは私だけ、つまりコレは私のアンタに対するハンデってわけ。」
「ハハ……は?おい、お前、いま何て?」
「だからアンタと私じゃ実力に差がありすぎるから手加減してあげるって言ってるのよ。コレくらいのハンデが無かったらアンタ如き、ものの五秒で地面にひれ伏さすことができもの。」
笑うのを止めたカインが顔を固まらせたままルナへと問いかけた。そしてルナはそんなカインに淡々と言葉を返していく。
その言葉を聞いたカインの顔からは最早さきほどまでの笑顔は消え去っていた。
そしてカインは普段から鋭い目つきを大きく見開いて、相手は女性であるにも関わらず、ルナの胸倉をグッと掴んでお互いの顔を近づけた。
「お前、俺のことなめてんのか。しまいには……殺すぞ。」
「何?私は本当のことを言っただけじゃない。それにアンタが私を殺す前に、とっくにアンタが死んでるわよ。」
怒りの感情が今までとは比べ物にならないほど高まり、本当にすぐにでもルナに殴りかかりそうな様子のカイン。
しかしルナも負けじと身長の低いカインを冷めた目で見下ろしながら挑発的な言葉を返す。その目は弱者など相手にならないとでも言っているかのようだった。
「ち、ちょっと二人とも!落ち着きなって!」
「あぁ!それにカイン、ルナちゃんの言うことも一理ある!これは俺がルナちゃんびいきだからとかじゃない!」
「……喧嘩はだめ。」
いつもよりも殺伐とした状況を流石にマズく思ったサジたちは、急いでカインとルナの間に割ってはいった。シンクとミランはルナを、サジはカインを、それぞれ身体を掴んで二人を引き離す。
「あん?お前らまで何だ?なんならサジ、お前らからやってやろうか?」
すると感情が高ぶった様子のカインは今度はサジの胸倉を掴んだ。シンクたちの脳裏に最悪の事態が浮かぶ。
ボソボソッ
「えっ?」
しかしカインはそのままサジの耳元へと顔を近づけたかと思うと、誰にも聞こえない声で何やら小さく呟いた。周りからは二人が何をしているのかさえ分からず、当のサジはポカーンとした顔をしている。
「やめなよ!僕たちは同じチーム同士、仲間だろ!こんなことして何になるんだよ!」
すると先ほどまでルナをなだめていたシンクが、すかさずカインとサジを引き離した。シンクに抑えられているカインはチッと舌打ちをした。
「いくら怒ってるからって他の人に当たるのはダメだろ!それに最近はカインとルナの仲が良くなってきたと思ったのに、どうして二人はすぐに喧嘩ばかりするんだ!」
「ケッ、誰がこんなやつと仲良くしてたんだよ。シンク、お前の勘違いだろ。」
「そうよ、私はチビで弱い男になんて興味無いもの。こんな奴と仲良くするなんて虫唾が走るわ。」
カインとルナの二人はシンクの忠告にもまったく耳を貸さず、お互いに挑発的な言葉を発して睨み合っていた。
「また言ってるそばから!サジからも何か言ってやりなよ!」
そう言ってシンクはサジへと顔を向けた。
「え?あ、あぁ、二人ともいい加減落ち着いたらどうだ?こうしてる間にも時間がどんどん過ぎてるんだからよ。」
するとサジは何故か少し動揺した様子でシンクへと返事する。
「??サジ、少し様子がおかしいみたいだけど、どうかしたの?」
その挙動不審な様子を不思議に思ったシンクがサジへと問いかける。
「い、いや、別に何でもないぜ。」
「……そう、ならいいけど。」
明らかに何かあるような様子で返事をしたサジを不審に思ったシンクだったが、今はカインとルナのいざこざを優先して深く考えないことにした。
「俺は今すぐにでも戦っていいんだぜ。その自慢の顔、グチャグチャにしてやるよ。」
「じゃあ私はアンタが二度と大口をたたけないように、その口の中に炎でも突っ込んであげましょうか?」
しかしそんなシンクの思いを無視して、カインとルナは再び挑発的な言葉の応酬を繰り返す。先ほどよりも若干口の悪さがエスカレートしていた。
ビュン!
「「っ!!!?」」
すると突然、二人の間を風の刃が通り過ぎる。二人は動かしていた口を止めて、その刃の飛んできた方向を見やる。
「……このままじゃ本当に話が進まない。」
そこにはルナの服を片手で掴んでいるミランが、もう片方の手をカインとルナの間辺りへと向けていた。
「だから組み手のルールは私が決める。まずルナのハンデは三つ全部から始める。そしてカインが攻撃を当てる毎にそのハンデを一つずつ解除していく。ちなみにルナがハンデに反した事をした場合もまた然り。」
「はっ!?ちょっと待て!だから俺は――――」
「最後まで話を聞いて。」
「うぐっ……」
瞬時に反論しようとしたカインだったが、ミランに冷めた目で睨まれると、発しようとした言葉をとっさに飲み込んだ。
「二位と最下位じゃこの位のハンデは当たり前。それにそんなに自分の実力に自信があるなら、口じゃなくて戦って示せばいい。」
ミランはそう言って魔法を放った方の手を下ろし、もう片方のルナを掴んでいた手も離した。
その後数秒間、カインとルナはお互い無言で睨み合う。そして突然カインが鼻をフンッと鳴らした。
「まぁいい。ハンデがあるのは気に入らねぇが、どうせすぐにそんなもの無くなるんだ。俺はミランの提案に賛成だぜ。口じゃなくて戦って示せ、いいこと言うじゃねえか。」
いまいち納得のいかない様子のカインだが、最後には賛同の声をあげた。
「せめて一発ぐらいは私に攻撃を入れてみせなさいよね。まぁ口だけのアンタには無理だろうけど。女神とまで言われた実力、見せてあげるわ。」
そしてルナも一言多いながらも、ミランの意見に賛成した。
「ふぅ、それじゃ二人とも、組み手にはあの辺りの場所を使わしてもらおう。」
ようやく事態の収拾がついたことに安心したシンクは一息ついて辺りを見渡すと、適当に空いている場所を見つけてそこに移動するようにカインたちへ促した。
カインとルナが先頭を切って歩いていき、その後ろからサジたちがついて行く。移動する間も、カインとルナは殺気のようなオーラを放ちながらお互いに睨み合っていた。
「それじゃ戦う前にルール確認をしておこうか。」
シンクが対峙しているカインとルナをそれぞれ見て口を開いた。シンクは二人のちょうど中間あたりに立ち、サジとミランの二人は少し離れたところでそれを見ている。
「ハンデのことはさっきミランさんが言ってたからもういいよね。最初は左手しか使っちゃダメなんだよ、ルナ。勝敗の決定だけど、どちらかが気絶、またはギブアップをした方の負け。あともう一つ、必要以上の攻撃は絶対にしないこと。いくらこの場所では大怪我しないからってやりすぎはダメだよ、わかったね?」
「あぁ、わかった。必要以上の攻撃をしなきゃいいんだな…………ぶっつぶす。」
「私がそんな大人気ないことするわけないでしょ…………吊るし上げてやるわ。」
「……はぁ、もういいよ。この調子じゃいつまで経っても言うことを聞きそうにないし。でもやりすぎだと感じたらすぐに止めるからね。」
そう溜め息混じりに言ったシンクは一歩だけその場から下がる。それはもうすぐ試合開始ということを物語っていた。カインは拳を顎の近くへと持っていき、ルナは左の手首をブラブラと動かしている。
するとシンクはゆっくりと左手を空へと掲げた。その場に張り詰めた空気漂う。そして少し間を置いてから、シンクが思いっきり左手を振り下ろした。
「始めっ!!」
「オラァ!」
ザッ!
「っ!?」
そして開始合図と同時にカインが地面を掘り返すように蹴り上げる。そのカインが蹴った土がルナの顔、詳しく言えば目へと飛んでいく。ルナは咄嗟に顔を背けることによってそれを避けた。
「おいおい、戦いの途中で相手から目を逸らしてんじゃねえよ!カハハ!」
その大きな隙をついたカインが一気にルナとの距離を縮める。そしてそのまま豪快に右手を振り上げた。
ガシィ!
「チッ!」
その振り上げた右手を思いっきりルナへと振り下ろしたカインだったが、ルナは利き腕ではない左腕でそれを受け止める。カインは一度舌打ちをすると地面を蹴って後ろに下がり、ルナと距離をとった。
「中々卑怯なマネしてくれるじゃない。あんだけ大口を叩いてた割にはやることがせこいわね。」
「汚かろうが結局は勝てばいいんだよ!俺を本か何かの主人公だとでも思ってんのか!?それにお前はその油断のせいでどこかの英雄の子孫なんぞに負けたんじゃなかったか?ん?」
「……絶対にコロス!!」
カインの挑発的な言葉を聞いて、ルナは額に青筋を浮かべながら怒りの形相を露にする。そして今度はルナのほうから地面を蹴ってカインへと近づく。
「もう私は誰にも負けやしないわ!ダァァァア!」
カインとの距離を一気に縮めたルナは自分の左腕を何度も突き出す。流石は日ごろから鍛錬を怠らないルナ、普段は魔法主体の戦闘スタイルにも関わらず、左腕一本でカインへと怒濤の如き攻撃を繰り出す。その攻撃はカインのとは比べ物にならないほど速く、そして重い。
ズンッ!
「うぐっ!?」
そしてそんな攻撃を防ぎきれなくなったカインの土手っ腹に、ルナのボディーブローが炸裂する。そのあまりの衝撃にカインは思わず苦痛の声を漏らした。
「はっ!こんなにハンデをあげてるのにこの様とはね!弱い奴はただ強い者に黙ってついていればいいのよ!」
「カ、カハハ!今のうちにほざいてろよ。最初はハンデがあるってことで気が乗らなかったけどよ、段々モチベーションが上がってきたぜ……俺は気分が乗れば乗るほど強くなるんだよ!」
お腹の痛みを堪えながらそう言ったカインは、お返しと言わんばかりにルナの右わき腹目掛けて蹴りを繰り出した。
「何言ってるんだか、そんなことで強くなるなら苦労は…………っ!?」
ガンッ!
「……まずは一つ目だ、カハハ。」
カインはそう言って目をぎらつかせながら舌をベロンと出した。そんなカインの繰り出した蹴りはルナの利き腕である右手によって防がれている。今度はルナがチッと舌打ちをしてカインと距離をとった。
「アンタ……さっきまで手でも抜いてたの?何か急に動きが速くなった気がするんだけど。」
しかめっ面をしたルナが先ほど蹴りを受け止めた右手を見ながらそう言った。
ルナはあの時後ろへ下がってカインの攻撃を避けようとしていたのだが、何故か急に加速したカインの蹴りに驚き、思わず使用禁止であるはずの右手を使ってしまった。そのことを不思議に思ったルナはカインへと問いただす。
「だから言っただろ?俺は気分によって強さが上がるってよ。」
「まさか!?そんなこと、普通に考えてあるハズが…………いや、あり得るわ。極限状態に追い込まれた人間がごく稀に、何かスイッチが入ったように自分の限界以上の力を見せるときがある。俗に言う火事場の馬鹿力っていうやつね。そしてカインの場合、そのスイッチが気持ちの高ぶりによってオンになっているのかも……」
ルナは戦いの最中にも関わらず、手を顎に当てて自分の考えにふける。しかしカインはそんなルナをポカ~ンとした表情で見ていた。
「おい、さっきからお前、何をボソボソと呟いてんだよ。もしかして俺の言ったことを本当だと思ってるのか?……そんなの、嘘に決まってるだろ。」
「へっ?」
そんなすばやく考えを巡らせていたルナに、カインは衝撃とも言える言葉をかける。そのことにルナは思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。そしてその様子を見たカインはプッと口の中を膨らますと、次の瞬間口を大きく開けて大声で笑い出した。
「カハハ!!気分で強さが変わってたら世話ないぜ!冗談で言っただけなのにまさか信じるとは、女神様ってのも大分変わってるな、カハハハハ!!」
いつまで経っても笑うことを止めないカイン。いつもなら激怒すると思われたルナだったが、今回は何やら様子が違う。
「(さっきの話は嘘?じゃあなんでいきなりカインの攻撃が速くなったの?私の気のせい?……ううん、それは絶対に違う。だって現に私は必死で右手を使っちゃったんだもの…………)」
再び深い思考に入り込んでしまうルナ。しかしいくら考えても答えにたどり着くことはなかった。
「ハハ――――おい、」
そしてやっと笑うのを止めたカインはルナへと声をかける。ルナはハッとなって自分の世界から現実の世界へと意識を戻した。
「でももしおまえの話が本当なら、今の俺は最強だろうな…………だってこんなに最高な気分は初めてなんだからよぉ!!」
ダンッ!
カインはそう言うと同時に地面を強く蹴る。そして体を回転させて後ろ回し蹴りをルナの右側のこめかみを狙って放つ。
「ふんっ、それじゃ一つ目のハンデ、利き腕の使用禁止を解除するわ!!」
ガシッ!
しかしルナは鼻を鳴らしてカインの蹴り足を両手でがっちりと掴むと、そのまま掴んだ足を外側へと捻って、カインの身体ごと回転させる。
「私に右腕を使わせたからって、調子に乗ってんじゃないわよ!」
そしてルナは勢いよくカインを地面へと叩きつける。しかしカインは地面に接触しようとした瞬間、自ら自分の身体を捻って、地面に激突する時の衝撃を和らげた。それと同時に右足を掴んでいたルナの手を振りほどく。
「護るのだけは中々上手じゃない。ならこれはどうかし、ら!」
しかしルナは最後の言葉と同時にカインの顔面へと右ストレートを繰り出す。やはり利き腕とあってか、左腕の攻撃よりも速度とキレがあるように感じられた。ルナの拳がカインの顔を目掛けて飛んでいく。
するとカインは予めその攻撃を予想していたのか、体勢を低くしてそれをよける。
「甘いわ!」
バキィ!
「ぐあっ!?」
しかしルナはカインの一枚上をいく。カインが頭を下げた瞬間、空振りをした右腕をそのまま振り下ろしてカインの後頭部へと肘打ちをした。
その肘打ちがクリーンヒットし、カインは短く声をあげながら地面へと倒れる。
「あれだけ言っておいてもう終わりなの?あっけないわね。」
ルナはそう言うとカインを見下ろしながら鼻で笑った。
「だ、誰が終わるかよ……、お前の攻撃なんかこれっぽっちも効いてないぜ。」
するとカインは顔についた土を拭いながら、なんとか立ち上がる。虚勢を張っているものの、カインの足はガクガクと震えていた。どうやらルナの肘打ちがまだダメージとして残っているらしい。
「あら?完璧に入ったと思ってたのに、少し外してたみたいね。そのしぶとさだけは褒めてあげるわ。」
「カハハ!今度は俺がお前をぶん殴る番だぜ!(……とは言ってもまだ体にダメージが残ってやがる。どうにかして時間をかせがねぇと……)」
「そんな状態でよく言えたものね。殴れるものなら殴ってみなさいよ!ハァ!」
カインの思いとは裏腹に、ルナは未だにうまく体を動かせないでいるカインへとつっこんでいく。そして今度はカインのお腹目掛けて右拳を繰り出す。カインは横に転がる事によってそれをなんとか避ける。
しかしルナは間髪入れずに地面を転がっているカインを上から殴りつけて追撃する。カインは止まることなく転がってそれを避けていく。
「チッ!蹴りが使えないってのも中々不便ね……」
カインに何度も何度も攻撃を避けられているルナは、小さく呟くように不満をもらした。
ハンデが一つなくなったといえども、まだ使えるのは両腕のみ。蹴りや魔法を使わなくてもルナはそこそこに強いのだが、いかんせん相手が低い場所にいるので攻撃を当てにくいし、攻撃のパターンも限られてくる。窮屈な戦いを強いられているルナが不満を言うのも無理はない。
そしてそんなルナの呟きが聞こえたのか、カインは攻撃を避け続けながらあることを考え付いた。ルナの七、八発目となる攻撃の瞬間、カインは急にガバッと立ち上がった。そのカインの表情は笑顔、そんなカインが笑っていることを不審に思ったルナは動きを止める。
「急に笑っちゃってどうしたのよ?もしかして転がりすぎて頭がおかしくなったとか?」
「カハハ!そんなことを言ってられるのも今のうちだ!俺は今凄い作戦を思いついたんだからよ!さっきのダメージも抜けたし、ここからが本番だぜ!」
ルナの挑発にも乗らず、自信満々の表情でそう言うと、カインはルナへと目掛けて猛ダッシュする。
「何よ!やっぱりさっきの攻撃は効いてたんじゃない!」
ルナはそう言って自分に向かって来るカインを待ち構える。そしてカインが目の前に来た瞬間、渾身のの力で右拳を突き出した。
シュッ
「ッ!?」
しかしルナがその拳を突き出した瞬間、カインがルナの視界から消え去る。ルナはすぐに自分の目線を下へと向けると、そこには凄い勢いでスライディングをしてくるカインの姿があった。
「オラァァァア!もらったぜぇぇぇえ!」
「くっ!」
カインの足がルナの足を捉えようとするが、ルナはそれを跳躍する事によってなんとか避ける。しかしカインはさらにその足で空中にいるルナへと蹴りを放った。息もつかぬ攻撃にルナの顔には少し焦りの色が見える。
ガッ!
しかしそこは学年ナンバー2のルナ、両手でカインの蹴りを防ぐと、その反動で大きく宙へと舞い上がり、そして見事に地面へと着地した。
「ふぅ、今のは少し危なかったわね。学園最弱のくせしてやるじゃな……ってアンタ、何してるの?」
学園最弱とは思えないほどの動きを見せたカインに少し驚いていたルナが話の途中で言葉を止める。そんなルナの目線の先には地面に座り込んだままいっこうに立ち上がる気配のないカインがいた。
「何って……普通に座ってるんだよ。」
「アンタふざてるの?さっさと立ちなさいよ。」
「嫌だね。なんたってコレが俺の考え付いた勝利への戦法なんだからな!」
そんなカインの言葉を聞いたルナは大きく目を見開かせる。
「はぁ!?そんな体勢で戦えるわけがないでしょ!いいから立ちなさいよ!」
「戦えないかどうか試してみろよ。それとも、怖くて俺に攻撃する事もできないのか?カハハ!」
ブチッ
カインの挑発的な言葉にルナの何かが切れた。ルナは拳をワナワナと震わせながら怒りの形相でカインを睨みつける。
「アンタってどこまで人を怒らすのが上手なの……いいわ、試してあげる。その顔面に拳を叩き込んでやるんだから!!」
ダッ!
そう言ってルナは強く地面を蹴った。そしてそのまま大きく跳躍して一直線にカインへと向かっていく。しかしカインは何をするでもなく、ただ空から降りてくるルナを待ち構えているだけだった。
「ハァァ!!」
ダァン!!
そしてルナがカイン目掛けて拳を強く振り下ろした。カインはそれを体を捻って避けたが、横を見るとルナの右拳が地面に大きくめり込んでいる。それはルナのパンチがとてつもない威力だという事を物語っていた。
「カハハ!こりゃ当たったら死ぬかもしれねぇな!まぁ、当たればの話だけどよ!オラァ!」
すると今度はカインが反撃といわんばかりに右足をルナの顔目掛けて繰り出す。ルナはすぐさま左拳でそれを防御すると、めり込んでいた右拳を引き抜いて立ち上がる。
「まだまだぁ!」
しかしすぐにカインはルナの足元へと足払いをかける。ルナはそれを跳躍して避けるが、その後着地したと同時に再びカインが足払いをする。ルナは小さく舌打ちをすると、今度はバックステップをしてそれを避けた。
「カハハ!くらいやがれぇ!!」
カインは四つん這いの状態から低い位置で跳躍をする。そして再度ルナの足元へと攻撃をしかける。ルナは再びバックステップでそれを避けたが、カインは何度も足元を狙った攻撃を繰り出していく。そんな足元へのしつこい攻撃に、ルナはしかめっ面をしながら後ろに下がってそれを避けていく。
「……カインのやつ、本当に凄いじゃねえか。ハンデありといっても、あのルナちゃんと五分五分、いや、どちらかと言えばカインのほうが優勢だしよ。アイツ、本当に学園最弱なのか?」
カインとルナが緊迫した攻防を繰り広げているのを見て、サジは思わず感嘆の言葉をもらした。傍から見ていてもカインの動きが学年順位にそぐわないのは明らか。まったく訓練をしていなかったカインがこれほどの体捌きができるとは想像し得ないことだった。
「カインの身体的能力は学園最弱に相応しい。でも何故それで学年二位であるルナの動きについてこれるのか、それは恐らくカインの戦いのセンスがずば抜けているから。」
「戦いのセンス?それってどういうことなんだ?」
サジの呟きに返事をするようにミランは口を開いた。しかしサジにはその言葉の意味がいまいち分からず、ミランへとそれについての説明を求めた。
「つまりカインは戦術などの戦闘にのみ必要な能力に長けているという事。最初の土をルナへと蹴ったのもそうだし、今はあの構えによってルナを追い詰めている。」
サジはそう言われてカインたちへと目線を移した。ルナは未だしかめっ面でカインの足元への攻撃を避け続けていた。
「あっ、本当だ。確かに前までの余裕の表情じゃなくて、何か嫌がってるような表情に……でも何でルナちゃんはあのワンパターンな攻撃を嫌がってるんだ?」
「その答えはルナのハンデにある。」
サジは数秒ほど考える素振りを見せると、何か閃いたように手のひらをポンッと叩いた。
「……そうか!足技の使用禁止ってことは防御するにも足を使ったら駄目ってことなんだな!しかもあんな低い姿勢の相手を攻撃しようとおもったら、腕だけの攻撃じゃ窮屈すぎる。カインはそこまで考えてあんな構えをしてるのか。」
「そう。しかもルナはこれ以上ハンデを解除する事を嫌がって、何が何でも攻撃をくらわないつもりでいる。でもそうしている内はカインに攻撃は当てられないし、一つでもミスをしたらカインの攻撃をくらってしまう。均衡が崩れるのも時間の問題。」
ミランはそういうと冷静な表情でカインたちの戦いを見つめる。サジもそれにつられて再びそちらへと目線を移した。
「いつまでその体勢でいるつもりよ!いい加減立ち上がりなさい!」
「ハッ!攻撃が当てられないからって八つ当たりすんじゃねぇよ!そういう台詞は一発でも俺に攻撃を当ててからいうんだな!」
カインがルナの足元を蹴って、それをルナが後ろに下がって避ける。この攻防が何回も繰り返され、ついにルナが我慢できずにカインへと怒鳴る。まったく進展のない戦いにルナは怒りを感じながら、同時に足技と魔法が使えないというハンデにも苛立ちを感じていた。
「もう!足技が使えればすぐにでもアンタをぶっつぶせるのに!」
「カハハ!使えねぇから俺をぶっつぶせてねぇんだろ!それによ…………進展があるかもしれねぇぜ?」
「えっ?」
トンッ
「はっ!?壁!?」
カインの言葉に反応した瞬間、ルナは背に何か硬いものが当たる感触を覚えた。そしてそれが壁だという事に気づくと、ルナの頭の中に危険信号が発せられる。
「ついに追い詰めたぜぇ!おらよっ!」
「チィ!!」
そして壁に背中をつけていたルナに、カインはここぞとばかりに足払いを放つ。しかしルナは咄嗟に反応し、横へとステップをしてそれをなんとか避ける。
「その行動も予測済みだ!くらいやがれ!!」
バサァ
「ッ!?またアンタ!!」
しかしカインはルナのその行動を既に予想していたのか、いつの間にか手に握っていた土をルナの顔面目掛けて振り払った。
あまりの意外な出来事にルナは、今度ばかりは避ける事ができずに土をかぶってしまった。急いでその目に入った土をルナは拭いでいく。そして薄目ながらもルナはカインがいたはずである前方を見た。
「バーカ、こっちだよ。カハハハァ!!」
ズンッ!
「うっ!?」
しかしルナが目を開いた所にカインはおらず、カインの声が聞こえたときには既にルナのわき腹に痛みが走っていた。ルナはその衝撃に思わず呻き声をあげてしまったが、すぐにその場から遠ざかる。
そして自分がいた場所へと目線を移すと、そこには立ち上がって大声で笑っているカインの姿があった。カインは笑いながら高らかに二本の指を立てている右腕を上げる。
「カハハハハ!!これで二つ目だ!!そろそろヤバイんじゃねぇのか、女神さんよぉ!?」
「……やってくれるじゃない、正直ここまでやるなんて予想外よ。」
ルナは殴られたわき腹を押さえながらカインを睨みつけた。そんなルナとは対照的に、カインはいまだに大声で笑い続けている。
「(……凄いなカインは。いくらルナがハンデを負っているからといって、ここまでルナを追い詰めるなんて本当にたいしたものだよ。でも恐らくそれも……)」
審判という立場にいるシンクはカインの戦いぶりに心底感心していた。しかしそれと同時にカイン敗北を確信する。
なぜなら相手はあのルナ・バンラルク、生半可な力では彼女は倒せない。シンクはそう思っているから。
この言葉を傘下所や学園からの知り合いが言うのと、幼い頃から共に過ごしてきたシンクが言うのとでは天と地ほどの差がある。ルナが今の力を手に入れるのに血のにじむような鍛錬をしてきたことを知っているシンクは、カインがルナに勝つとは到底思えない、否、認めない。
思えばカインは幾度となくルナのことを馬鹿にしてきたが、シンクはそれを聞いて何も思っていないわけではなかった。カインがルナのことを弱いなどという度にシンクは自分の拳を強く握り締めていた。何度そんなことない!と叫びそうになったことか。それほどシンクはルナがどれほど苦しい想いで訓練してきたかを知っているから。
しかしシンクはそれを口に出す事は恐らくこれからもない。それはルナとあの時に約束したから。けれどもこの話が明らかになるのはまだまだ先の話。
「けどアンタもこれで終わりよ。二つ目ハンデ、足技の使用禁止を解除!」
ダッ!
シンクの脳裏にカインの敗北がよぎったと同時に、ルナは強く地面を蹴ってカインへと走り出した。もう小細工が効かないとわかったカインは真っ向からルナを向かいいれる。
「ハッ!!」
ビュ!
そしてルナの鋭い右ストレートがカインの顔面スレスレを通り抜けていく。カインは首を曲げてそれを避けていたが、耳に風を切るような音が聞こえて冷や汗を流す。するとルナは続けざまに後ろ回し蹴りを放った。
ドガァ!
「~~ッ!!」
ルナの回し蹴りはカインの腹部を的確に狙ってくる。カインは両腕を交差することによってそれを防御したが、防御した腕からでも伝わるジーンとした痛みにカインは歯をくいしばった。そしてそんな隙をルナは見逃さない。
「甘いわね、隙だらけよ。」
バキィィィ!!
「ぐあっ!?」
ルナの拳が顔面にヒットしたカインはそのまま後ろへと吹っ飛んでいく。そしてドサッという音とともに地面へと倒れこんだ。ルナはさらに倒れこんだカインへと追撃しようと走り出す。今までなら余裕の表情でそれを見下ろしていただろうが、先ほどカインに攻撃をくらったことでプライドが傷ついたのであろう、ここからは今できる条件で全力を出そうと決めていた。
そしてカインの元へと来たルナはそのままの勢いで大きく飛び上がり一回転して、カインのお腹へ踵落としを繰り出す。
ズンッ!!
「ぐぁぁぁぁあ!!!!」
そのままの勢いで見事にルナの踵がカインのお腹へとめり込む。これまでにないほどの痛みにカインは目を見開いて大声で叫ぶ。しかしカインはその痛みを堪えてルナの足を掴むと、どかすように横に放り投げた。
「うぅ……ゲボッ、ゲボッ!い、いまのは効いたぜぇ……。やっぱ学年二位となるとハンパねぇ力だな……」
「コレでも気絶しないの?アンタ本当にしぶといわね。あと今思ったんだけど、アンタ全然魔法を使ってこないじゃない。なんで?」
咳き込みながら何とか立ち上がったカインに、ルナは今まで魔法を使ってこなかったことに関しての疑問をぶつける。そしてカインは何度か咳き込んでペッと地面に唾を吐いた後、ゆっくりと口を開いた。
「なんで?そんなの決まってんだろ。お前が魔法を使ってないのに、俺が魔法を使うなんて不公平じゃねぇか。」
「はぁ?」
そんなカインの発言を聞いてルナは思わず間抜けな声をもらしてしまう。
「アンタ何言ってんの?最初からハンデがあるのに不公平も何もないじゃない。」
そしてルナはごく当たり前のことをカインへ哀れみの目を向けながら言った。
「だからせめて魔法だけは使わないでいようと思ってたんだけどよ、やっぱりそれも止めるわ。だってさっきの蹴りをくらっちまったらよ、コッチも全力出さなきゃ勝てる気がしねぇからな。」
「あら?ということは魔法を使えば私に勝てるとでも?」
ルナの問いにカインは少しの間俯いて、そしていきなり顔を上げた。そのカインの表情には自信が満ち溢れており、カインの特徴の一つとも言える鋭い目が漆黒の色を放ちながらぎらついていた。
「あぁ、もちろんだ…………ここからがこの俺様の本気だ!覚悟するんだな、カハハハハ!!」
またまた期間が開いてしまってどうもスミマセンでした!!
最近意欲がわかずにあまり執筆できないでいたんです……
(;・ω・)
次はもっと早く投稿できるように頑張りたいと思います!!
これからもGERYOの小説をよろしくお願いします!!