第十話
カインたちがギルドに初めて行った日から三日後、あの暴行をしていた男子生徒たちは厳しい処罰を受け、暴行されていた男子生徒はちゃんとした友達を作って楽しく過ごしているらしい。そんなことは知らないカインたちは一緒に校舎へ向かっていた。
「フッ、ついに…………ついにキタァァアアア!!!!」
「「うるさい!!」」
登校路にカインの叫び声と、それに対してツッコミを入れるルナとサジの声が響く。他の登校中の生徒達は何だ何だ、とカインたちに注目する。しかしそれも少しの間だけで、すぐに興味がなくなったのか再び校舎を目指して生徒達は歩き出す。
「俺がこの時をどれほど待ちわびたか、叫ばずにはいられないぜ!!カハハハ!!」
「だからうるさいって言ってるでしょ!!」
「でも今日でやっとマリア先生の禁止令が解けるんだから、カインが喜ぶのも無理はないよ。」
「その通り!!しかも今日は1時限目から実戦の授業!!やっとこの俺様の実力を見せるときがきたようだな!!相手は誰だ!?ルナか?シンクか?それともキールか!?誰でもかかって来い!!」
カインは周りの目も気にせずに大声で喋る。そんなカインを見てため息を吐いて他の三人はそれを無視して校舎へ向かう。しかしサジだけはなんで俺の名前は言わないんだ……、と落ち込んでいた。
場面は第一練習場に移り、生徒達の前でマリアが話をしていた。
「今日もいつものように模擬戦をしてもらうわけだが…………カイン!!」
ビシッ!!っとマリアがカインに向けて指を指す。そんなことをされるとは思っていなかったカインはウェ!?っと驚いて奇妙な声をあげる。
「お前にとって実質これが初めての模擬戦になるわけだが、もしまた問題を起こしてみろ、その時はもう二度と模擬戦ができない体にしてやるからな…………」
マリアは体から魔力というよりもオーラを発しながら、ドスの効いた声で言う。カインは反論しようと思っていたが、マリアのその様子を見てもう何か生まれてきてゴメンさい、と体をプルプルと震わしながら答え、他の生徒達も汗をダラダラと流しながらその様子を見ていた。
「よし、それではいつものように準備をしてくれ。そのうち名前を言うから呼ばれたやつは前に集まれ。以上!!」
マリアがそう言うと生徒達はバラバラに散らばって、準備運動や武器の手入れなどをし始めた。そしてカインたちもお喋りなどをしながら準備運動をしていた。
「それにしてもマリア先生、カインには特に厳しいね。」
シンクがいつものニコニコとした表情で喋りだす。
「まぁそれも当然だ。なんてったってカインはルナちゃんをバカにして、他の生徒と喧嘩しだしたんだからな。」
サジが頷きながら言う。
「俺は本当の事を言っただけだ。なんでこんな女と組みたいのかよくわかんねえぜ…………っていうかお前のせいで俺は殴られたんだぞ!!」
カインは最後に思いだしたように叫ぶ。
「ねえ、やっぱあんた私のことバカにしてるわよね?よし、そのケンカ買ってあげるわ。」
ルナは拳を握りながら額に青筋を作る。
「いや〜それにしてもお前ら四人も仲良くなったもんだな。」
「「「!!?」」」
そんなワイワイしてる中、不意に背後の方からそこにいる四人の誰とも当てはまらない声がした。四人は急いで後ろへと振り返る。
「コ、コニル先生!?」
「こんなところで何してんだ!?」
そこにはいつものダラダラとした感じのコニルがいた。コニルは煙草を吸いながら地面に座っている。
「よっ。今日はカインが試合するんだろ?それをちょっと見にきたんだよ。」
「「「へっ?」」」
コニルが手を上げながら答える。その言葉を聞いてカイン以外の三人は間の抜けた声をあげて、目を点にしている。そしてカインだけは今日一番の笑顔になっていた。
「やはりコニル先生でさえ俺のことが気になるようだな。まあ天才である俺に固執するのも無理はないな。カハハハ!!」
カインは自分の世界に入り込みながらそのまま大声で笑う。しかしそこにゆっくりと近づいてくる影があった。
「…………カイン。」
「カハハはうっ!!?マ、マリア先生?」
カインが振り向くと、そこには先ほどと同じようにオーラを纏ったマリアが立っていた。マリアは拳をポキポキと鳴らしながら、鋭い目でカインを見下ろしている。
「お前は何をやってるんだ?私は準備をしろと言ったんだ。それなのにお前は大声を出して笑って…………。私はな、授業中いつも寝てたり、問題を起こすような不真面目な生徒が大ッ嫌いなんだ。ということで今からお前を滅殺す…………ん?」
カインの首に手をかけようとしたマリアは、何かに気付いたように声をあげて動きを止める。そしてその目線の先にはコニルがいた。ちなみにカインはあまりの恐怖に何もできずに、足をガクガクと震わしていた。
「コニル…………たしかこの時間はお前も授業があったはずだ。それはどうした?」
マリアはカインの首にかけようとした手を戻し、コニルに近寄って問い詰める。しかしそんなマリアに対して少しも動じていないコニルは、フゥーっと煙草の煙を吐くと簡潔にこう言った。
「自習にしてきた。」
その瞬間マリアの目がピキーンっと光る。
「貴様ぁぁぁああ!!教師のくせしていつもいつもその体たらく、今日という今日は許さん!!」
マリアの話を聞くと、どうやらコニルがサボるのは今日が初めてでは無いらしい。おそらくマリアとコニルの間でこのようなやり取りが起こったのは数回だけではないようだ。そしてマリアは怒鳴ると、そのまま拳を振りあげた。
ビュン!! バシィィイ!!
「「「!!?」」」
しかし風を切る音がしたと思うと、マリアの拳が凄い音をたててコニルに受け止められていた。その間にもコニルは煙草の煙をプカプカと吐いている。そのことに周りの四人は驚きを隠せない。
「さ、さすがコニル先生だ……。マリア先生もランクAのはずなのにあんなに軽々と…………」
「俺はあのパンチで死にかけたのに…………」
サジが呟くように言葉をもらし、カインは自分の体験からマリアの力を知っているので、あのいつもだらしないコニルが簡単にその拳を止めたことが信じられなかった。そして四人は未だに目を見開いてコニルとマリアを見ている。
「まぁまぁ、落ち着いてくださいよマリア先生。そんなに怒ると美人の顔が台無しですよ。」
「誰のせいで私が怒ってると思ってるんだ!! …………ハァ、もういい。とりあえず貴様は邪魔にならないように端っこで見ていろ。」
いつまでたっても態度を変えないコニルに、マリアは諦めて場所を移すように促す。コニルはあんがとさん、とだらしなく返事をして歩いていった。
「くそっ、あいつめ……いつかその面を一発ぶん殴ってやる。さて、つまらんことに時間を取ってしまったな。もう皆も準備はできただろう、それでは最初の試合を始める。まずは――――」
マリアはそう言いながら練習場の中央へと戻っていく。名前が呼ばれなかった四人は一度息を吐くとその場に座り込む。
「それにしてもコニル先生とマリア先生、凄く仲が悪そうだね?」
「コニル先生はあの通りだらしないし、マリア先生にしたら一番嫌いなタイプだからじゃないの?」
ルナが両手を挙げながらヤレヤレといった感じでシンクの言葉に答えた。
「しかしあのまま決闘でもすればよかったのに。そこへ俺が参戦して勝てば――――」
「「「それは無理」」」
「なんだとお前ら!!ていうかシンクまでそんな事言うなよ!!」
「「「あはははは!!」」」
カインの言葉に他の三人が声を合わせて言う。その雰囲気にカイン以外の三人は笑い、カインだけはなんだよチクショウ、とふてくされていた。
「――――よし、次の試合だ!!」
そこにマリアの声が響く。どうやらいつの間にか最初の試合は終わっていたみたいだ。そして四人は自分の名前が呼ばれるかどうか、マリアの言葉に耳を傾ける。特にカインはウキウキしながら自分の名前が呼ばれるのを待っていた。
「次の試合は……………『ルナ・バンラルク』と『キール・レッダム』!!!」