身代わり地蔵堂
夜は、昼間と違って少し風が出てきました。
京都滞在も二日目の今日は、“お願いするとなんでも叶う”と評判の身代わり地蔵堂に来た。
「凄い人ね···」
京都は、四季を問わず観光名所になっているから、至る所でも列がある。
「どこかなぁ?」
余程叶えたい願いがあるのか、彩奈は朝からテンションが高かった。
「観音堂、観音堂···」
旅行雑誌を片手に、歩く彩奈の後を珍しく私が追う。
「ちょっと、あまりそう急がなくても···」
なんとかして彩奈を捕まえ、列の最後尾に並ぶ。
雑誌荷よると、健康、病気、恋愛、進学、金運と一通りの事が書かれ、ここでお願いをし叶った人達のコメントも添えられていた。
「彩奈は、何をお願いするの?」
「私?私は···」
笑いながら、私を見て···
「恋愛···かな?ほら、高地さんのアドバイスで···」
最近の彩奈は、性格も明るくなったし、メイクもちゃんとするようになって、周りからも評判が良かった。ただ、ひとつを除いては···
長かった列も段々と短くなり、やっと自分達の番になった。
「「······。」」
チラッと横目で彩奈を見ると、真剣に何かをお願いしていた。
「ね、あれやろ!あれ!」
彩奈は、縦看板の前に人だかりが出来ている場所を指差し、手を引っ張っていく。
「なぁに、ここ···。人形池?」
「なんかね、白紙に描かれた人形の真ん中に十円を乗せて、お願いすると早く沈む時間で···」
(時間で、願う期間がわかるのね。面白そう···)
少し疲れはあったものの、周りが全員やってるのにジブンだけやらないのも気が引けて、やることにした···
「「······。」」
同じタイミングで水面に浮かべた二枚の紙。一番に沈んだのは、
「やった!!」
「······。」
彩奈だったが、私のも数秒遅れて沈んだ。
(彼と結婚出来るといいけど···。難しいよね。やっぱ···)
門前にある茶屋で、足湯を楽しみながらも草餅を食べ、抹茶を味わった。
※ ※ ※
「そうだ!彩奈、舞妓さんやろっ!!」
「舞妓?いいわね!!いこ!どこでやってるのかな?」
市内を走る循環バスに乗り、祇園まで行く。
祇園に降り立つと、本物の舞妓さんやら自分達みたいな観光客の出来たて舞妓が、街を賑やかせていた。
「お店もいろいろとありそうね···」
「うん」
雑誌を見ながら、中を覗き、
「「お願いしまぁす!!」」
ふたり元気よく頭を下げて、別々の部屋へ···
「どう···かな?」
髪は鬘だが、お互い何故か着せられた着物が色違いのものだった。
「可愛い···」
「ほんまに、おふたかた可愛い···」
ふたり一緒の所を写真に撮って貰い、30分舞妓の気分で擬音を歩いた。
「足、痛かったね···」
「うん。でも···」
「「可愛かったぁーーーっ!!」」
明日になったら、京都をあとにしなきゃいけないけど···
(いつか、彼と···ふふっ)
「高地さん、電車きたよ···」
再び、ホテルに戻る都同じようにベッドにダイブ!
「高地さんは、いいなぁ!いっぱいいろんな所に行けて···」
「そう?でも、殆ど一人だったからね。さぁて、お風呂に入ったら明日帰る準備をしないとね」
「そうだね···。この旅行、ほんと楽しかったわ」
彩奈は、寝ながら私を見て笑った。
「お風呂、入れてくるね···」
彩奈は、そう言うとバスルームへ向かい、私は彼にラインを送る。
»»どうした?帰るの明日?
»うん。ね、明日の夜、会えないかな?
»»OK!帰ったら連絡して。すぐ迎えに行くからさ!!お前に早く会いたいよ。
「ふふっ···。可愛い」
「高地さん。お風呂···」
「うん。ありがと。先に入らせて貰うね」
「うん···。私も荷物まとめておかないと!」
着替えを手にし、バスルームに向かった私は、脱衣場で大きく伸びをした。
(明日になったら、彼に会える。そしたら、思いっきり抱いてもらおう···)
京都最後の晩は、いつもより長めに入り、身体を洗った。
入れ替わりに彩奈も入ったが、やはり彩奈も昨日より長く、逆に私が心配したぐらい···
※ ※ ※
京都旅行最終日は、太秦映画村に行き、ふたりで町娘の格好をしながら、撮影風景を楽しんだ。
「いやぁ、楽しかったぁ!!」
「ほんとっ!!」
キャリーから、洗濯物やお土産を出し、届いた郵便物に目を通す。
「あ、ねぇ。彩奈宛に不在者票が届いてるわ」
「んぅー?あぁ、あれかな?」
彩奈は、心当たりがあるのか、笑いながら謝ってきた。
「でも、珍しいね。彩奈が、通販するのは···」
私がいくら薦めても、顔を縦に振らなかった彩奈が···
通販?
しかも、またキャリーケースって!
「もしかして、好きな人が出来たの?」
そう聞いても、彩奈は笑っていた···
「ん?高地さん、出掛けるの?さっき帰ってきたばっかなのに?」
「ふふっ···。ちょっとね···」
「あーっ、デートね!!だから、ネクタイなんて買ったんだ···」
「まぁねっ!じゃ、行ってくるね。先、寝てていいからね!」
彼が迎えに来る時間に合わせて、マンションのエントランスのソファで待つ。
ヴィーーンッ···
「おかえり」
軽く手を上げた彼に抱きつき、
「ただいま。会いたかった···」
(彼の発する声も、匂いも今だけは私のもの)
───
「ふっ。私が、何も知らないと思ってるの?バカね···。許さないんだから。絶対に···」
そう呟きながら、私はふたり寄り添うように写っている写真に針をゆっくりと刺していった···