58話 指示を出す側の、無くなりも終わりもしない苦労と苦悩 3
「これで開拓地の確保は出来たのかな」
「ドラゴンみたいな脅威を排除出来たから、まずは大丈夫なはずだ」
「本番はこれからだけどな」
一井物産の企画を担当する部門で、そんな話しが持ち上がっていた。
「まだ場所を確保しただけ。
それもほとんどまっさらな更地のままだし。
人が住めるようにするまではまだ時間がかかる」
「一年で中心となる場所を確保して、そこを拠点にして拡大をしていかないとな」
「何にしても人が足りない。
材料や原料も足りないし」
「採掘地にも増員はしてるけど、確保出来る資源が増えるのは先の事だな」
「それまでに、作業員の住居だけは確保しておかなきゃならないけど。
いつもの事だが、簡単にはいかんな」
まずは場所を作る人を送り込む。
その為の居住地を作らなくてはならない。
しかし、人だけ送り込んでもどうしようもないし、そこに何かを作る為の資源も必要になる。
まずは様々な分野における増産が必要になる。
それは、新たな開拓地を作る上でどうしても必要になる事だった。
今まで様々な場所に作ってきた開拓地でも同じ問題が出てきている。
「何もかもが足りないか」
それもまたいつもの事だった。
「頭数は新社会人を当てるにしても、それが使いものになるまで時間がかかるし」
「研修で教育をしてもそれだけじゃどうしようもない」
「専門学校卒業してる者を引っ張ってきてるけど、すぐに使えるわけでもない」
「しばらくは、先に仕事に従事してる連中につけて教育させるしかないな」
「やっぱり、2年3年先になるな」
今年入った者達が使えるようになるまで。
まともに作業が進められるようになるまでの時間である。
「ただ、必要な施設だけは先に作らないと」
「それも整地が終わってからになると思うが」
「いや、物資搬入の道路などはそちらを優先して作っていこう。
浄水場に下水処理場、ゴミ処理施設。
それと発電所は真っ先に作らないと」
「もちろんそのつもりだが、それでも時間がかかるぞ」
「それでも優先して作らないと。
これらがなければ始まらない」
人が生きていくために必要な部分となる。
なければまともな活動も出来なくなる。
「建造に時間もかかるし、今すぐにでも始めないと」
いずれも完成まで数年くらいの時間はかかるものばかりだ。
ものによっては10年に及ぶものもある。
本当にすぐにでも始めないと間に合わなくなる。
「分かっちゃいるけど、どうしたらいいのか悩むな」
「人を集めて物を集めて、物を作って運んで。
大がかりになるぞ」
「工場を増やさないといけなくなるな。
それだけの土地が余ってるといいが」
「そっちももう限界だろ。
あちこちの開拓地に分散させないと効率が落ちる」
「かといって、あちこちに分散させても、それはそれで効率が落ちる」
「新しい開拓地に作るのが理想なんだが」
「先の話だな。
社会基盤にあたる部分が出来上がってないとどうしようもない」
「当面は、今ある工場に頑張ってもらわないといけないわけか」
「問題は、どこに何をどれくらい発注するかだな」
新地道にある工場では、様々な物品が生産されている。
それらへの受注は多岐にわたり、更に数も多い。
注文しても出来上がるのが1年先や2年先なのは良くある事だった。
今から新規開拓地向けの製品を注文しても、それらが手に入るまで何年も待つ事になる。
在庫を求めようにも、その在庫すらない状態である。
絶える事のない拡大拡張のために、常に物品は品薄状態だった。
作るそばから売れていくからだ。
それを見越して、開拓地の確保は数年単位の準備をしていく事になる。
土地は確保したが、手を入れる事もなく遊ばせておくわけにはいかない。
確保した場所を即座に開発していくだけの準備をしてはいた。
だが、どれだけ計画をしても足りないものは出て来る。
予定の量が確保出来ないことなど珍しくもない。
今回、新たに確保した開拓地においても同じだった。
やはり何もかもが足りない状態だった。
だったら生産設備を増強すれば良い。
ただそれだけの話しである。
しかし、それもまた簡単にはできない。
工場を増やすにしても、場所がなかなか見つからなくなってる。
いわゆる工場が密集してる工業地帯はあるのだが、そこも手狭になっていた。
そして、拡がっていこうにも、既に周囲には住宅値などがあったりする。
それらの買収となると、どうしても金と時間がかかる。
人が集まってない場所に建設しようとすると、今度はモンスターがまだ出没する地域だったりする。
モンスターが入ってこれないようにして敷地を確保するには、相応の手間がかかる。
土地自体は余ってるが、それらを使えるようにするのが大変だった。
そして、新たな工業地帯を作れば、その周辺には人が集まってくる。
ある程度余裕をもって工業地帯を設定したとしても、それもすぐに埋め尽くされていく。
未使用地域が数多く存在する異世界だが、人が集まってるところの利用にはこうした制限が発生していた。
また、用地を確保してもそこに工場を建てるための材料などを手に入れるのが難しい。
工場に持ち込む作業機械も同様だ。
これらを作る為には工場で生産製造しなくてはならない。
その為に、他の物品の生産製造が出来なくなる。
長い目で見れば、まずは作業機械・工作機械を作っていった方が良い。
そうやって新しい生産設備を作って、必要な物品の生産を行っていけば、いずれは大量生産が可能になる。
しかし、今すぐ欲しい物品を制限する事にもなる。
何をどれくらい作るのかは、常に頭を悩ます問題だった。
それでも、今は工場を、生産施設を拡大する必要がある。
今後更に需要が増大するのは目に見えている。
それらに対応するためにも、まずは工場の建設が必要だった。
同じ事は採掘などにも言える。
こちらも増やしていかないと、原材料の確保が出来なくなる。
ただ、工場の建設ほど簡単にはいかない。
物資が埋まってる場所の調査が難しいからだ。
それでもあちこち探し回り、試験的な採掘なども行い、少しずつ進められている。
だが、必要な資源を確保出来るかどうかはなやましい。
実際に何がどこに埋まっているかは掘り出すまで分からない。
現在の科学力でも、採掘は博打のようなところがある。
簡単に見つける事が出来ないので、こちらの方はなかなかすすまない事もあった。
「まあ、まともに入植が出来るまで5年や10年はかかる。
焦っても仕方ない」
「だが、少しでも早く進めない事には」
「人口の増加は待ってくれない」
「それも分かってる。
だからこその入植地だ。
増えた人間を放り込む場所として作ってるのだし」
「今少し落ち着いてくれればいいんだがな」
「無理だろうな。
まだまだ出生率は下がってくれないよ」
日本全体の出生率はまだ低い水準であるが、新地道は例外的に増大の一途をたどっている。
それだけの余地があるのが大きかった。
政治の制度などの違いも大きい。
何にせよ、増え続ける人がおさまる気配はなかった。
何より、それだけの人手が求められているので、この流れを止めるという選択肢はない。
しかし、それが今は負担にもなりつつあった。
「まあ、出来るだけ頑張ろう」
増え続ける人を吸収する場所を作る為にも、今は拡大政策をとるしかない。
それはこの場にいる者達ならば誰もが理解していた。
「ただなあ」
悩ましい問題に向き合うと、必要な事と分かっていても抑えてくれと言いたくなる。
「あちこちの部署で管理職がなあ」
「足りないよなあ」
「素質や見込みがありそうなのはどんどん出世させてるんだが」
それでもまだ足りなかった。
出世を早め、とにかく役職者を増やしているが、増大する新入社員に対応仕切れてない。
こちらは工業製品などと違い、すぐに作れるわけではないから余計に大変だった。
「入社三年で自動的に主任にするってのも、本気で考えなくちゃならないかも」
「いや、さすがにそれは。
最低限、研修は受けさせないと」
「けど、一ヶ月だけの研修じゃ付け焼き刃にもならん」
「出来れば三ヶ月、良くを言えば半年は研修を受けさせたいな」
「それでも駄目な奴は駄目だけど」
「何も知らないよりはいい。
知ってても駄目な奴は、もうどうしようもないから切り捨てるしかないだろ」
「どうしても数の確保出来ないよ」
今後も会社が組織だって動くために必要な管理職。
それが絶対的に足りない現状に彼等も頭を痛めていた。
一人の管理職に大勢の部下をつけねばならない状態になっている。
「まあ、がんばってもらうしかないな、今の管理職には」
それらが指してるのは、作業現場にいる係長や主任あたりである。
促成培養が最も多いそこでは様々な混乱と面倒が起こってるとは聞いている。
それでもどうにか現場で上手くまとめてもらえるよう願うしかなかった。
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