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異世界開拓記 ~トンネルの先は異世界だった~  作者: よぎそーと
第三章

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55/67

55話 その時、二人の心は通い合ったかもしれない

「あれ?」

「あら」

 仕事が終わってからの食堂。

 お互い意外そうな声を出して見つめ合う。

「おつかれさま」

「おつかれさまです」

 そう言いながらヒロキは相手の前に座る。

「今日はもうあがりですか?」

「いえ、これから報告書を書かく事に」

「そういえばそうでしたね」

 相手が主任という立場である事を思い出す。

 まがりなりにも部下をまとめてるので、様々な報告や申し送りなどがある。

 それをまとめるのは、だいたい夜になってからだった。

「毎度毎度ごくろうさまです」

 そういって労う。

 その言葉を聞いたハルミは、「ありがとうございます」と返した。

「立橋さんはもうあがりですか?」

「ええ。

 気楽な平に戻ったんで、このまま部屋に戻るだけですよ」

 北川と別々の時はそうでもないが、それでも以前のような体制に戻りはした。

 一時的な主任待遇ではないので、業務もそれなりになっている。

「正直、ほっとしてますよ。

 報告書とか上手くまとめられなかったから」

「羨ましいですね。

 こっちは毎日ずっと書き続けてるんですよ」

「ご愁傷様です」

「まったくです」

 そこで二人は笑っていった。

「でも、忙しい時期はすぎたんじゃ?」

「前に比べればそうですね。

 でも、仕事が無くなるわけじゃないですから」

 そのせいでこれから報告書作りである。

「書かなきゃいけない事は減りましたけど」

 それでも、少しは残って仕事をせねばならない。

 作業自体は三十分もしないで終わるが、その分残業になる。

「がんばってください」

 そう言うしかなかった。



(しかし……)

 語り合いながら日中の事を思い出す。

 多少は言われた事を意識してしまう。

(結婚ねえ)

 その相手として……などという考えが頭の中で展開される。

 悪い人ではないのは何となく感じられるが、そういう相手として見れるかどうかはよく分からない。

 そもそもとして、相手がヒロキの事をどう思ってるのかが不明である。

(いや、それ以前に)

 とっくに相手がいるかもしれない。

 恋人がいても、あるいは結婚しててもおかしくはない。

 結婚指輪などはしてないから後者である可能性は無いかもしれないが、前者については未確認である。

 そこまで考えて、

(いやいやいや)

とそんな思考そのものがどうかしてると気づく。

(なにを意識してるんだ)

 言われたから仕方ないとはいえ、影響され過ぎに思えた。

 相手は同僚、ただの仕事仲間と自分と相手の関係を思い出す。

 確定している事実はそれなのだと。



「しかし、落ち着いて飯も食えないですね」

 つとめて平常心を意識しながら他愛のない事を口にしていく。

「忙しいのが終わって、少しは楽が出来ると思ったのに」

「そうなんですよねえ」

 ヒロキの思惑を知らないハルミは、言われた事に相づちをうっていく。

「人が減って楽になったと思ったんですけどね」

「そうでもないですか?」

「なんだかんだで暇がないですね。

 前よりは楽になってるはずなんですけど」

「こっちもですよ」

 苦笑しながら話しにのっていく。

「モンスターを倒しにいかなくても良くなって、いつもの護衛をやってるはずなんですけどね。

 輸送便の本数が増えたせいか、あっちこっち飛びまくりです」

「こっちも同じですよ。

 増えた本数に合わせて仕事が出て来ましたから」

「ままならないもんですね」

 何かが終われば新しい何かが始まっていく。

 新規の開拓地だからなおさら、というのもあるだろう。

「家に帰る暇もないですよ」

「私も」

 お互い、陥ってる状況は変わらない。

「まあ、寮なんですけど、家っていっても」

「あ、私もです。

 狭い部屋なんですけどね。

 でも、こっちに寝泊まりしてると無性に恋しくなるんです」

「ですなあ……」

 いい加減、行った先での宿泊は勘弁してもらいたいものだった。

「これじゃ、家を建てても空き家にするしかないですよ」

 手に入れた土地に戻る余裕すらないだろうと思った。

 それを聞いたハルミが驚いた顔をする。

「家?

 家を買ったんですか?!」

 常になく驚いた様子に、ヒロキの方が驚いた。



「ええ、まあ」

「凄いですね。

 家の倍率って高くなかったですか?」

「え……ああ……。

 いや、違う違う。

 そうじゃないんですよ」

 相手が少し勘違いしてるのを感じ取り、ヒロキは事情を話していった。

「開発予定地を買いましてね。

 まあ、まだ住めるような状態じゃないんですが。

 そこにそのうち家でも建てようかと」

「じゃあ、家を建てるって、本当に建てるんですか?」

「先の話ですけどね」

「それでも凄いじゃないですか」

 ハルミは素直に賞賛していく。

「凄くがんばったんですね」

「まあ、それなりに」

 命がけで稼いではいる。

「でも、こう忙しいと戻ってる暇もないだろうけど」

「そう思うと、少しもったいないですね」

「ええ。

 それに、うちの大将とかからからかわれるし」

「家を買う事でですか?」

「そうなんですよ。

 独り身で広い家を持っても寂しいだろって」

 冗談めかして口にしていく。

「さっさと相手を見つけろなんて言われましたよ。

 そんな相手がいたら苦労しないってのに」

「それは、まあ、確かに」

「ま、それでも自分の家は手に入れておきたいですけどね。

 寮は結局会社のものだし」

「自宅はちゃんと欲しいんですね」

「そういう事です」

 落ち着いてくつろげる場所というのが大事なのである。

「でもまあ、帰ったら誰かがいるってのは憧れますね」

 そう言って飯を口に入れていく。

「こういう食べるものを作って待ってくれる人がいれば、と思う事はありますし」

「やっぱり、独身でいるのは終わりにしたいんですか?」

「好きでやってるわけじゃないですからね。

 相手がいれば今すぐにでも」

 冗談である。

 割と本気に近いくらいの戯言である。

 だが、結構切実な願いであった。

「こんなオッサンじゃ望みは薄いですが」

「そんな事ないですよ」

 やんわりと、しかしどこか鬼気迫る調子でヒロキは否定された。

「それを言ったら私なんてどうなるんですか。

 嫁き遅れ確定のお局候補なんですよ」

「まさか」

 ヒロキはそれこそ冗談だろと言わんばかりに否定した。

「まだそんなトシじゃないじゃないですか」

「もうこんなトシですよ」

 そう言ってため息が一つ。

「20代も終わりが近づくと色々とおしまいになるんですね。

 よく言われる事ですけど、25を超えてみてその意味が嫌と言う程分かりました」

 いやいやおかしいだろ、とヒロキは胸の中で呟いた。

 いったい何歳なのか分からないが、まだ20代ならヒロキより10歳ほどは年下である。

 あくまでヒロキから見てではあるが、充分に若い。

 加えて、その年齢ならそれここれから結婚というのも珍しくない。

 少なくともヒロキの感覚からするとそんなものである。

 これが、異世界と本土の常識の違いなのだろう。

(本土なら、まだまだ余裕だろうに)

 そんな事を考えながら、ヒロキはハルミとの四方山話を続けていった。

 主に年齢とこれからについて、お互いいい年齢に到達した者同士の、切ない胸の内を少しずつ吐き出していく。

 妙に親身になり、しんみりしながら二人は話しを続けていった。

「大変なんですね、本当に」

「ええ、お互いに」

 食事が終わる頃には、似たような苦悩を抱える同志のような状態になっていった。

 あまりにも不毛な協調・同盟関係である。

 しかし、わかり合える相手がいるという事を知り、二人は何となく安堵をおぼえた。

 そこに安住して現状に居続ける事が駄目なのだと気づきもしなかった。



 それでも二人の心理的な距離が縮まったのは、おそらく良い事なのだろう。

 色気も恋心もなく、ただ相手に自分の駄目な部分を重ねて見てしまうものであったとしても。

 そんな二人の今の状態を言い表すならこうなるだろう。

 苦労を分かち合う。

 同病相憐れむよりは良いであろうが、悪い部分で共感をおぼえてるだけではあった。

 もっとも、こういう苦労話が取り持つ縁もあるだろう。

 これらがよりよい方向に進んでいけば良いが、ただの愚痴と不満の言い合いになる可能性もあった。

 さすがにそうならないように二人は注意はしていたが、現状が変わらなければ、悪い方向にいくかもしれない。

 そして、現状が改善されるのはまだまだずっと先、開拓地が本当に落ち着いた頃になるだろう。

20:00に続きを

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続編はこちら。
『異世界開拓記 ~トンネルの先は異世界だった~』
https://ncode.syosetu.com/n8924fg//

ブログのほうでも幾つかは掲載している。
『よぎそーとのブログ』
http://rnowhj2anwpq4wa.seesaa.net/
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