49話 開拓地争奪戦 5
「ドラゴン、撃退を確認」
「巨大鳥、撃墜を確認」
「地竜、撃退を確認」
戦果報告が次々と入ってくる。
読み上げられるそれらを聞いて、司令部の者達は緊張を解いていった。
「戦力をかき集めて正解だったな」
「全くです。
あちこちの部署からは恨まれるでしょうが、それでも集めたかいがありました」
「航空機やヘリコプター、装甲車がなかったらと思うと……ぞっとします」
「他の業務に支障が出るだろうが、こればかりは無茶を通して正解だったな」
あちこちからもたらされる巨大モンスター発見の報告。
それらへの対処として航空機による攻撃。
それでも追いつかない場合に備えての、重火器を備えた部隊の布陣。
どれもこれも、あちこちから引き抜いてきた結果である。
今後の各部署との付き合いを考えると憂鬱になるが、それも今をしのげるから考えられる事だ。
もし、これだけの兵力がなかったら、考えるのも恐ろしい結果になっていただろう。
「しかし、こうなると本格的に欲しくなりますね。
戦闘機や攻撃ヘリが」
「軍用のか?」
「ええ。
改造したものですらこれだけの威力があるのですから。
戦闘用に作られたものなら、より大きな効果があるでしょう」
「確かに、それはそうだろうな」
「だが、維持が大変だと思うぞ」
「政府も何と言うか」
必要性と現実を見据えた意見が出てくる。
だが、保有に否定的な者は一人もいない。
開拓地である新地道においては、これらの存在が死活問題になるからだ。
実際、開拓地確保の戦闘において存在意義をしっかりと示している。
不要という意見が入る余地は無い。
問題になってるのは、あくまで維持する為の手間と、保有に難色を示す政府のあり方についてだった。
「企業の武装に反対するのは分かるのだが……」
「だったら自衛隊をもっと動かしてもらいたいもんだよ」
「今も道知事の防衛出動要請で動かしてるくらいだからな」
「あとは、大規模なモンスターの群の駆除くらいだし」
「本土よりは自由に動けてるとはいえ、これだけじゃあなあ」
知事による防衛出動要請で動かせる範囲は小さい。
それだけでモンスターをどうにか出来るものではない。
自衛隊が必要に応じて行ってるモンスター駆除も、地元の要望を満たすほど開催されてるわけでもない。
まずもって、動くとなると相当な負担がかかるからだ。
自衛隊の出動には金がかかる。
そのため、企業からも費用の一部を負担している。
だが、より大きな問題として、出動にかけられてる制限の方が大きい。
なんだかんだ言っても軍事組織である。
簡単に出動させるわけにはいかない。
異世界におけるモンスターという存在が、この制限を幾分緩和はしている。
それでもやはり出動するにあたって、様々な問題が発生する。
誤解の無いように付記しておくならば、自衛隊はそれでも立派に活動している。
モンスターとの接触面に駐留し、接近するモンスターの撃退を随時行っている。
これによって新地道にある居住地の大半が守られている。
出動に制限があるとはいえ、襲いかかってくるモンスターが通過するのを見逃してるわけではない。
ただ、あくまで防衛のためという名目になるので、積極的にモンスターの巣などを探して破壊しにいくという事は難しい。
普段の戦闘も、基地を中心とした一定の範囲内での行動が原則として定められている。
この制限が、企業が求める活動を阻んでいた。
自衛隊のこういった制限があるから、企業は独自の戦力を保有しようとしていた。
自分達で自由に運用できる戦闘集団。
必要な時に必要な戦力を投入できる利便性。
この世界で生きて活動していく為に必要になる武力。
自衛隊ではどうしても出来ない事であった。
そのために、民間用の軽飛行機やヘリコプターを改造して用いていた。
一般的に販売されてる自動車に機関銃を搭載していた。
かなり無理して自衛隊でも使用してるような装甲車を手にいれもした。
これらには、新地道の自治体や新地道選出の国会議員達も関わっている。
現地で生まれ育った、現地の事情を充分に理解している彼等は、平和ボケしてる本土の者達相手に必死な活動を続けている。
それは駐留する自衛隊の増強であったり、自衛の為の武器保有の承認であったりと様々だ。
だが、自衛隊の増強は政府予算の兼ね合いもあるので簡単にはいかない。
そもそもとして、憲法や各種法律などが相変わらず戦力の保有と運用を著しく阻害している。
特に一部の政治家や政党や市民団体などが、戦力強化と運用における制限の緩和を阻んでいる。
加えて、国民の武装化が引き起こしかねない治安の悪化を懸念して、猟銃免許取得の緩和以上の事はなかなかなされていない。
なお、企業が武装してはいるが、これは正式に政府の承認を得ているわけではない。
自衛の為という理由で押し通し、無理矢理武装してるのが事実である。
本来ならば刑罰の対象になるような行為であるが、それを阻んでいるのが異世界の現実である。
モンスターが跋扈する危険地帯に、非武装でいたら命に関わる。
だからこそ、新地道に限ってという条件で見逃されてるだけでしかない。
その気になれば政府が取り締まる事も出来るのだ。
ただ、1万キロ先の遠い世界の事であり、簡単に手が出せないでもいる。
加えて、様々な資源の供給源であるので、機嫌を損ねるわけにもいかない。
新地道が資源の供給を停止すれば、それだけで日本経済どころか日本の社会そのものが崩壊しかねない。
また、現地で生活し活動してる者達を危険にさらすわけにもいかなかった。
人道的な理由や観点からの判断ではない。
現状にそぐわない法令や規制を持ち出して、現地の人間の離反を避けたいからである。
新地道の者達は、自分達がこの異世界を開拓しているという気概がある。
また、現地の実情を知らないで、あれこれと制限をしてくる本土への不信感を抱いてもいる。
これ以上不必要に不満をためると、本当に独立・自立しかねない。
げんに、そういう意見が出てもいる。
まだネット内における意見のやりとりで終わっているが、それが具体的な行動に移行してもおかしくないくらいだ。
だからこそ、本土の者達も慎重にならざるえなくなっている。
技術はあっても資源のない日本にとって、異世界は絶対に確保しておかねばならない場所なのだから。
そこにいる者達が離反してしまっては意味がない。
法令を変更はせずに黙認という状態をとっているのは、こういった事態へのその場しのぎの対処であった。
「だが、これで動きも活発になるだろう」
司令部での話しでそんな言葉が出てくる。
「でしょうな。
これだけ利点を示してるんですから」
「反対してる者達も強くは言えないでしょう」
「それでもあの連中なら、武装に反対というんでしょうが。
そろそろ退場になるでしょうね」
「今の地位や立場、場合によってはこの世から……ですね」
「ああ。
とにかく反対派の連中はやりすぎた。
自分の立ち位置が見えてないとしか思えん」
脅威がそこらに存在する異世界であるが、それでも必要な武装などを否定する者達がいる。
そういった者達はそれなりの影響力を持っていたりした。
だが、時間が経つにつれ、それらは勢いと力を失っていっている。
この異世界で生まれ育ち、理想論という出鱈目をつぎはぎした妄想が無駄を通り越した害悪と実感してる者達が増えたからだ。
襲ってくるモンスターに話し合いは通じない。
逃げようと思っても逃げ切れない事が多い。
ならば、見つけた瞬間に殺してしまうしかない。
そんな日々を生まれた時から強いられてる世代にとって、非武装・丸腰というのは害悪でしかない。
平和とは、襲ってくる敵を殲滅しなければ手に入らないのだという事を、骨身に染みて知っているからだ。
開拓におけるモンスターとの衝突の事もあり、武装の必要性は高まる一方でもある。
それでもしぶとく頑張ってる非武装論者であるが、それらも今回の一件で力を更に失うと予想されていた。
下手に続けるなら、本当にこの世から消える事もありえる。
実際、何故か行方不明になった者達もいる。
モンスターに襲われる事も珍しくないこの世界では、そういった事も珍しくはない。
捜査らしい捜査もされずに永遠に行方不明として処理されていく。
「いっその事、全員消えてくれるとありがたいがなあ……」
この世界に生きてる大半の者達の本音であった。
「これで少しは話しが進むだろうさ」
誰かの言葉に居合わせた者達が頷く。
どういった事についてなのかははっきりとはしない。
だが、言わずとも誰もがそれを理解していた。
「けど、そんな先の事より目先のモンスターをどうにかしないとな」
その声で彼等は現実に戻っていく。
まだ開拓地確保の戦いは続いている。
これを成功させないと、いま話した事も無駄に終わってしまう。
莫大な投資と資源と技術と人員が投入されている。
失敗させるわけにはいかなかった。
ここを切り抜けて、新たな開拓地を切り開く。
その為に行われてる戦闘に勝利せねばならなかった。
続きは22:00




