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31話 給料日、そして大きな買い物へ

「さて……」

 受け取った紙を開いて中身を確かめる。

 様々な数字が並んだそれの最後を見て、少し顔がほころぶ。

 色々なものが加えられて減らされて最後に残った数値。

 それがヒロキの受け取るものとなる。

「40万か」

 これからまだ上がるだろうが、それでも手取りはそれだけある。

 ここに来るより以前には考えられなかった金額だ。



 元々高い金額だったところに加え、研修によって査定が上昇し、更に危険地帯勤務である。

 30万円だったのが今や40万円。

 更に勤務期間が長くなればそれも査定対象となる。

 研修を受けていればこの勤務期間による査定にも更に増加が加わる。

 あと半年もしない内に、手取りが数万円は増加するはずであった。

 とはいえ使い道があるかというとそうでもない。

 最前線の一ノ関にいると、何かを購入しようとしても簡単にはいかない。

 日用品はともかく、ちょっと高い物を注文したりすると到着まで時間がかかる。

 全てがこの町にあるわけではない。

 無い物は当然ながら注文して届くのを待つ事になる。

 この異世界で、新地道で生産されてるものならそれでも一週間か二週間で届く。

 しかし、そうでなければ日本本土から取り寄せる事になり、到着は遅れる。

 海外で販売されてるようなものになると、それこそ何ヶ月か待たねばならない。

 このため、金がどれだけ振り込まれようと使い道があまりない。

 浪費をしないという点では良い事だが、欲しい物がなかなか手に入らないのは少しばかり不便であった。



(とはいえ……)

 ヒロキの場合それ以前にどうにかしなければならないものがある。

(そろそろ、どうにかしないと)

 部屋の中でネットの情報をあさる。

 社内ネットワークから印刷した情報も含めて考えていく。

 選べる選択肢は少なく、条件も良いとは言えない。

 だが、さすがにこれ以上このままというのも考えるものがある。

「いいの、ないかなあ……」

 呟きながらヒロキは、集めたものに目を通していく。

 ほとんど全てが新築の物件────住宅情報に。



 社員寮暮らしが大分長くなってきていたヒロキだが、それもさすがに嫌気がさしていた。

 嫌悪感とは違う、ただ飽きてきただけではあったが。

 それでも、さすがにいつまでも社員寮暮らしというのは気が引けるものがある。

 それなりの稼ぎもあるのだし、そろそろ自分の住処は自分で持つか、とも考えていた。

 幸いにも、かなりの金が手に入ってる。

 買おうと思えば頭金くらいは簡単に捻出できる。

 あとは物件をどうするかである。

 だが、ここにこの世界の住宅事情が立ちはだかる。



「やっぱり、簡単にはいかないよなあ……」

 物件は出来上がったそばから売れるというい状態で、簡単には手に入らない。

 一井物産がおさえているものは、社員に優先的に回されるが、それでも競争率が高く簡単には手に入らない。

 どうしても社員の中で抽選になり、それに当たらなければ家が回ってくる事はない。

 出来上がったものはまず手に入らないと考えておいた方が良い状態だった。



 ならば、先に土地だけでもおさえておくか、とも考える。

 いまだ造成すらもされてない土地も、一応販売に出ている。

 こちらは比較的簡単に買う事ができた。

 しかも値段も安い。

 1平方メートルあたり1万円もしない値段で売られているほどだ。

 さすがに開拓地近くの最前線だと土地に値段がつかない。

 値段のほとんどが、『ここはこの者の土地である』と登記する為の費用であると言われている。

 逆に言えば、数百平方メートルの土地を一気におさえる事も出来る。

 だが、仮に購入したとしても、そこを使えるようになるのは何年先になるのか、という事になっていく。

 売りに出されてる、登記が可能な土地というのは、いずれは開発する予定の場所である。

 しかし、すぐにそこに着手するかというとそうではない。

 整備しなければならない場所は他にも多い。

 電気がガス、水道が引かれてない地域も一ノ関内にはまだまだある。

 一応、壁や堀を立ててモンスターが侵入出来ないようにした場所であっても、こういった生活基盤・社会資本というものがととのってない場所は多い。

 そこに必要な設備を導入することがどうしても優先される。

 周囲の、開発予定地への着手はその後だ。

 なので、土地を購入してもすぐには利用出来ない。

 何年か先を見越して購入するのも手ではあるが、時間がどうしてもかかる。

 開発されてる、一応は壁や堀で仕切られてる場所も、やはり住宅と同じで抽選状態なので、すぐに手に入るというわけではない。



 また、開発されてる土地を手にいれたとしても、そこに住宅を建てるまでに時間がかかる。

 建設ラッシュであるが人手が足りず、注文しても実際に着手するまで何ヶ月も何年も待つのはザラだ。

 建築会社が手を抜いてるわけではなく、需要があまりにも大きすぎる為、さばこうにも捌ききれないのである。

 誰が悪いという事ではなかった。



「どうしたもんだか」

 出来上がってるものは簡単に手に入らない。

 土地だけ手に入れても結局は時間がかかる。

 ではどうするか、と悩んでしまう。

「このままってのもなあ……」

 どうしたって当分は今のままという事にはなる。

 だが、さすがに本当に何もしないでいるというわけにもいかない。

 競争率の高い抽選に挑戦するか、時間がかかるのを覚悟で周辺の土地を買うか。

 この際、賃貸という選択肢はほとんどない。

 そこま競争率が高く、簡単には手に入らないのだ。

 だったら、自分の家を購入した方が良い、とも考えてしまう。

「うーん」

 悩む。

 何をどうしたものかと。

 預金残高がどれだけ積み重なっても、それで解決出来る事ばかりではない。

 世の中金であるが、金だけでは解決しない事も実感する。

 それでも、あれこれ考えて、結論を出していく。



「では、こちらで?」

「はい、そのつもりです」

 出向いた一井物産不動産部門。

 そこでヒロキは、土地の購入を切り出していった。

「しかし、こちらは開発開拓が指定されたばかりでして、使えるようになるまで何年かかるか分かりませんよ」

 まだしも良心的な人物らしく、ヒロキの前に出て来た営業はそう言う。

 単に契約が欲しいだけの人間ならこんな事は言わないだろう。

 後々になって苦情になるのを嫌ってるだけかもしれないが、正直に問題を話すのは好感が持てた。

 だが、ヒロキもそれは覚悟している。

「分かってます。

 でも、時間が経てばこのあたりも切り開かれるんですよね」

「まあ、計画通りにいけば。

 ただ、計画が本当に上手くいくかは何とも言えません。

 変更された計画も中にはありますから」

「その場合、支払った金額は戻ってくるんですよね?」

「ええ、まあ。

 計画変更した開発予定地であれば、既に土地を購入していた方には、支払った分の補填がなされます。

 ですが、全額保障というわけではありません。

 今までの例ですと、だいたい7割から8割が戻ってきて終わりです」

 ある程度の目減りはするという事である。

 だが、ヒロキはそれでも構わなかった。

「全部を無くすよりはいいですよ。

 それよりも、先に土地だけでもおさえておきたいので」

 時間がかかっても、いずれは切り開かれるならば、先んじて手にいれておくのも悪い話しではない。

 抽選に当たるのを待つよりは確実性がある。

 開発が始まるまでに死んでしまったら利用は出来なくなるが、それならそれでも良かった。

 どうせ死ねばこの世で何かする事も出来なくなる。

 死んだ後の事まで考えてるわけにはいかなかった。

 生きて、生き残ったら何がどうなってるかを考えておいた方が良い。

 そう考えての土地購入である。



「それに、買った土地に家を建てるための金も稼いでこないといけないですから。

 何年かあればその金も貯まってるでしょうし」

「なるほど」

 不動産の営業も納得する。

 土地を購入してもそれだけでは終わらない。

 当たり前だが、家を建てたりしなければならない。

 その費用をすぐに捻出出来る者はそう多くはない。

 ヒロキの預金残高も、さすがに家をすぐに建てられるほどはない。

 その為の時間はどうしても必要だった。

 だったら、数年という待ち時間は悪いものではなかった。

「それまで気長に待ちますよ」

「分かりました。

 では、ご契約でよろしいでしょうか?」

「お願いします」

「それで、場所はどのあたりを?

 広さはいかほどで?」

「そうですね、だいたいこのあたりを、これくらい」

「……は?」

 示された場所はともかく、その広さに営業は驚いた。



 立橋ヒロキ、開発予定地の土地を400平方メートル購入。

 まだ開発計画段階であり、土地代が1万円を更に下回る価格だった事もあり、一気にこれだけ手にいれた。

 支払った費用、諸経費込みで200万円余り。

 これだけを一気に支払ったが、預金残高にそれなりの余裕を残す事が出来た。

 借金はしないで済ます事が出来た。



「あとは、金を貯めないと」

 不動産部門で契約を終えたヒロキは、そこを出てからあれこれと考える。

 開発が始まるまで、早くても3年から5年はかかる。

 その間に金を貯めておかねばならない。

 幸いにも、今なら毎月20万円以内で生活が出来る。

 それでもお釣りが出る程だ。

 まるまる20万円は毎月残る。

 3年なら700万円は貯まるだろう。

 小さな家ならそれだけで建てる事が出来る。

 5年先ならもっと貯める事も出来るだろう。

 それまでに開発計画が潰れるかもしれなかったが、それならそれでも構わなかった。

 多少は金が戻ってくるなら十分である。

「頑張って生き残らないと……」

 気持ちを新たに、明日からの仕事に乗り出そうと思った。

 思った瞬間にため息が出てきたが。

 これからも、まだまだしんどい仕事を続けねばならないのだと思って。

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続編はこちら。
『異世界開拓記 ~トンネルの先は異世界だった~』
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